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二話目「放課後、始まる」

案の定、主人公達の出番はほとんどありません。

「あー食った食った。もしかしたら飯まで無物質でできてるかと心配したけど、さすがにそういうことはなかったな」

「さすがにそれはないだろ…」

「いや、わかってはいるけどさ」

「あの人たちいなかったね」

「確かに」

「まあそのかわりファンタジーな妖精みたいな連中が料理作っていたけどな」

ごつい岩の妖精とか、半透明な風の妖精みたいのとか。

「このあと2人はどうするの?」

「どうすっかな、寮に行ってもいいけどなあ。まだ時間あるしもったいないよな」

「だったら校庭に行ってみないか?さっきのコンテナが何だったのか気になる」

「なにそれ?」

「お前が轟先生にカッコよく死亡フラグを言ってた時だよ。あの時校庭に帝国輸送が大きな荷物、しかも校長の荷物を届けてたんだよ」

「何それ!面白そうじゃん」

ということで食堂を出て校庭に向かうことにした。



校庭にはすでに人だかりができていて、まだ輸送戦艦が上空に留まっていた。

3人も人だかりに加わると、荷物の正体がわかった。

「校長の荷物ってNoM's War(ノムズウォー)のコートかよ!」


NoM's War。

それはNoMスーツを着用しての対戦型ゲームだ。NoMの技術が発展しているのに対戦ゲーム、かと思われるが、このゲームの一番の売りはオリジナル性。姿、武器、能力、バトルスタイルなど自分で決めたオリジナルを使って戦える、ということだ。自由なスタイル、というのが倫理観に引っかかるのか、ネックなのか、一応対象年齢は10歳以上。だけど、一番の理由は他にあるといわれている。それは、単純にNoMシステムを扱うのが難しいこと。特にこれでは自分のイメージをはっきりと創造し、しかも戦闘中、だーめー時を受けても維持しなければならないので10歳になったとしてもまずオリジナルは使えない。

そこでどうするかというと、最初はゲームで用意されているデフォルトキャラを使って練習する。デフォキャラは2億パターン用意されているといわれその中から自分の好きなもので操作方法などを体で覚える。デフォキャラだと見た目、武器、バトルスタイルが制限されるが、その代わり自分で姿を維持する必要がない。

そうしてデフォキャラで操作に慣れたきて2か月、早くて1か月半くらいでやっとオリジナルを使えるようになる。


そんな機械を女性作業員がボルトで固定している。髪は長さが背中まであり、動きやすいようにか体にぴったりとつくシャツ一枚とスパッツだけで、あとはゴツい安全靴と手にはグローブをつけていた。

固定方法はボルトを足で踏みつけるだけで工具を一切使わず固定してる。大きく足をあげ降り下ろす時に驚きの声が上がる。中にはシャッターを押すものも…

「………ちょっとどこ見てんの」

「そりゃ足を降り下ろす度に大きく揺れ」

「天誅!!」

「ごあ!痛ってなにすんだよ!?」

「全っ然!反省してないじゃない!」

「不可抗力だろ、あれだけ揺れてたら俺だってつい見ただけで、大体周りの奴らだって似たり寄ったりだろ!なぁ機核って哲学モードになってやがる!」

隼人と華美が騒いでいると、すべてのボルトを固定し終えたのか、

「そっちは終わった?」

「はい、こっちも終わりました!」

作業員同士で確認を行っていた。見学して一部生徒からため息が出る。そこへ、

「作業は進んでいるかね、え?ぁはっはっはっ」

入学式で見た成金親父、もとい変装した校長が現れた。その見た目に似合わない跳躍力を見せ、生徒の群れを飛び越え女性作業員の目の前に着地する。

「……誰?」

「あいかわらずな怪力だね?そんな力で作業してわしの荷物を壊してないだろうな?」

「なんだ、あんたか。てかその格好は?また新たなバトルスタイル?」

「いや、これは入学式で使ってなぁ。思ったよりウケたから当分はこの姿でいようかと」

再び大声で笑う。そんな校長の姿を女性作業員は気持ち悪そうな目で見て、

「やめた方がいいんじゃない。なんか汗もかいてるし、見た目気持ち悪いよ」

「ぐっ、まさかそこまではっきり言われるとは………それはそうと作業は順調かね」

「これで全部固定し終わったわよ。あとは電源が入るかテストすればオッケー」

「そうかそうか。そうだ!どうせならテストついでに戦ってはいかないかね?」

「あなたと?だったら嫌よ。勝てないし」

「いや俺とではないよ。ここにいる生徒とでもいいし相手は好きに選んでいい」

そういわれ生徒の方をみる。この会話を聞いていた生徒達が一斉に手を上げた。

「誰でも?じゃあ……ちょっと降りてきてー!」と戦艦に向けて叫ぶ。

すると、ワイヤーが垂れてきて人が降りてきた。上で作業してたのかこちらもNoMスーツを着用していた。見た目は体を守るように迷彩カラーのアーマーがついていて、顔以外の肌は黒色に覆われていた。

そしてその手にはスナイパーライフルが握られていた。

「なんだ」

スナイパーの男は無機質な声で呼ばれた理由を聞く。

「電源のテストとして模擬戦しろってさ」

「…あいつとすればいいだろ。なんで俺なんだ」

「あなた、最初の時だけ私が合図するまえにワイヤー撃ったでしょ」

腕を組み、にこやかな笑みで器用に怒りマークが浮かび上がる。

「………………さあな」

「やるわよ!」

こうして、女性作業員とスナイパーの対決が決まった。




生徒達が巨大な機械を囲む。その機械の横にはNoM’s Warと書かれている。

中には女性作業員とスナイパーが向かい合って立っている。

「ん?なんだ?何が起きた?」

「やっと哲学の世界から戻ってきたか」

「哲学じゃない。ちょっと考え事をしていただけだ。で、この大騒ぎは」

「それが、あのコンテナを片手で運んでた作業員とワイヤーを狙撃していたスナイパーで対戦だってよ!」

「HRの後のあれか」

「どっちが勝つと思う!」

「それは、女の方が片手で持ち上げてた方か?まあ見た感じ武器を持ってなさそうだし、攻撃は必然、接近戦だろう。それに対してスナイパーは遠距離。従来のゲームとかなら銃の威力は低く設定される場合があるがこれに限っては現実のように一撃必殺(ファーストキル)がありえる」

「でも女の人の方から対戦を申し込んだんだよ?それって勝つ自信があるからじゃない?」

「だとしたら、銃弾くらいかわせる位速く動けるか、だが見た感じあのスナイパーも相当の実力だった。ただ速く動く標的相手に外すとも思えない」

「じゃあフィールドはこちらで決めるぞ」

と校長が中に叫ぶ。

ちなみにフィールドとは実際に戦うステージの事で、まだステージの決まっていない機械の中はコートと呼ばれている。

「フィールドは『仙人の巣』。サドンデスなしの時間制限は30もあれば十分だろう」

「!仙人の巣!」

「これは決まったな」

『仙人の巣』とは簡単に言えば山頂のステージで狭い真ん中に平らな場所があってその周りには剣山のような山ばかり。

更にこのフィールドには落下判定があって落ちたらそれだけで負け。普通はランダムでこのフィールドが当たるくらいでわざわざ選ばない。

「どう考えてもスナイパーが有利だ。一度剣山に逃げ込めれれば一方的に狙撃できる。接近戦、しかも飛べるようなオプションがなければ攻撃は届かない」

「けど、跳び移りながらすれ違い様に攻撃するとか」

「その前に撃たれるか、運良く避けても近づく前にスナイパーは逃げるだろ。そうなればイタチごっこだ」

そうこう言ってるうちにフィールドが変わっていく。雰囲気のためか、いかにも仙人が乗っていそうな雲も浮かんでいる。(ちなみにあの雲には乗れない。前に試そうとしたプレイヤーはそのまま落下。以来、このフィールドでは落下ネタに走るプレイヤーが増えた)

カウントダウンが始まった時、心なしか、スナイパーの方がどこか嫌そうな、苦虫を噛み潰したような顔の気がする。

対して女性作業員の方は不利なフィールドであるにも関わらずどこか涼しげである。

「おい、あのネーム、おかしくね?」

「あ、ほんとだ。文字化けしてんのかな?」


隣の二人組の声が聞こえ確認すると、


Player:-----

personality:EXPLOSION

Player:bfミ:jnゲ

personality:狙撃主


Playerと表示されているのが自分で登録したプレイヤーネーム。その下のpersonality、これはNoM's Warの機械側が勝手に与えるもので通称“称号”又は“通り名”と呼ばれている。なぜかというと最初の頃はrookieや新兵などありきたりなものだけど(中には未熟者、ふつつか者などもあるが)、そのうちに世界で一つの自分だけのpersonalityの表示が与えられるからだ。ちなみにpersonalityは非表示にすることもできる。

「なあ、なんで」

ネームが出てないんだ、と言おうとした瞬間、バトルが始まった。

開始すぐにスナイパーはやはり、剣山の方に跳び、着地する。着地、と言っても先端は針のように細い上に(もろ)い。普通はそっと乗るはずだが、それを勢い良く跳び、更には一番奥に着地した。

しかも着地と同時に降るオート連射!

「さあ、どうする!」

機核が興奮し、叫ぶ。

スナイパーライフルから放たれた弾全てが狂いなくすべて命中した。命中したエフェクトのせいで煙が上がる。


が、


女性、称号をEXPLOSIONともらったその女性は無傷だった。

「なっ!?ばかな全弾命中してたはずだぞ!?しかも当たった時に煙が出るほど高威力を受けたのに怯みすらしていない」

「君は銃が専門のプレイヤーかね」

気がつくと校長が機核に話しかけていた。

「そうです。だからある程度はわかります。スナイパーライフルは創造率にもよりますが、あれだけ精巧に創造されてたら相当威力が高い。しかも当てる場所もほとんど致命傷(クリティカル)。体力のあるプレイヤーだって相当削られるはず」

機核が創造率とは、NoMで自分の想像したものがどのくらい実物に近いか、(実物があるない問わず)それを表すもの。単純に武器だったら攻撃力、防具だったら防御力、が創造率に比例する。

「確かに、リモコンでカチャカチャやっていた戦闘(ゲーム)ならそうかもしれないが、君もこれをやってるなら知ってるだろう?」

「…………」

そう、このNWにはHPがないのだ。NoMスーツがダメージを計算し、本人が気を失うかあるいはそれだけのダメージを受けると負けになる。また、一定時間自分の想像を維持できなければ負けとなる。気を失う、といってもほんの一瞬だけでどちらかというと眠る感覚に近い。

「まあ彼女の場合は無敵属性がついてるしね。ほら、ここからは見ててもわからない試合(チャンバラ)が始まるぞ」

「無敵属性!?」

機核が目線を戻すと、

フィールドが無惨な姿になっていた。ほとんどの剣山が砕かれ、ありとあらゆるところに銃弾の跡があった。

「なにが……」

「見てたあたしにもわかんない……」

「すげえ!すげえ!」

「ちょっと一人で驚いてないで実況してよ!」

「あ、ああ」

華美につつかれ、隼人が興奮しながら解説する。


まず、弾丸の受けきった後、いつのまにか手に破片らしきもの握っていた女性作業員、もといEXPLOIONが顔の左側にピタリとつけた。半分だけの仮面だったらしい。そしてその後がすごかった。

2人が同時に動いた。狙撃主は後方に跳びながら再び連射。今度は顔だけに集中していた。

よく見えないスピードでそれをかわし、更にそのまま剣山を蹴り抜いた。一本だけでなく周り全ての剣山を巻き込んで。

すると、今度ピンチなのは狙撃主。足場も砕かれ、空中では身動きがとれないのに、更には砕けた剣山が無数自分に向かってくる。それを一つずつ正確に撃ち砕き、砕けて低くなった剣山に着地した。が、休む暇なくまた跳びずさる。そしてその間も射撃をやめない。

そこへEXPLOSIONの拳が直接追撃に来た。空振りした拳はそのまま剣山に当たり、このフィールドの命とも呼べる足場が一つ消えた。頭をかばいつつもEXPLOSIONは再び追撃する。ここまでで残り時間は27 。初撃(ファーストアタック)のでカウントが1しか動いてなかったから、この間わずか2カウント分。


「……で、さっきからその繰り返し。2人ともほとんど地面に足つけてねえ。追い付くのも拳をかわすのも紙一重。そう言えば、補充(リロード)してないな」

「どうせ無限弾数(ノーリロ)だろ。弾数(そこ)までリアルにするやつはこだわるやつだけだ」

まあ、狙撃手(スナイパー)ならこだわりそうだが、と機核がつぶやく。

「隼人、と言ったっけ」

校長が隼人に声をかける。

「はい」

「今言ったこと、全部見えてたのか」

「いや、見てたって言っても追うだけで精一杯ですよ?」

「そうか、そうか!あっはっはっはっ」

また校長が笑う。けどさっきと違い、どこかすっきりとした笑い方だった。




勝負は引き分けになるかと思ったが、時間が10を切ったところでついに剣山がなくなり、残すところ最初の平らな場所だけになった。

「ふふん、私の勝ちね」

「…そもそもお前に勝てるやつなんてあんたのリーダーかあそこで高笑いしてたあいつだけだろう」

それを聞いた生徒達は、どんだけ校長強いんだよ…と心の中で各自思う。

「だがまあ。どうせなら最後までやるか」

「そうね。じゃあお返しってことで」

それでも狙撃手が構えるが、撃つ前に殴られ、吹っ飛んだ。無論、飛んだ先は奈落の底で。


Winner:-----


勝ったのに名前が表示されない勝者は長い髪を払い、フィールドが消えるまで1人で待った。



「よくよく思えばこれって見世物にされた?」

「よくよくもなにもどう考えても俺が(さら)し者だ」

「いやあ、2人ともごくろう!おかげで問題なく明日からこれを使えるよ。と言いたいところだが、2人ともちゃんとNoM's Warに登録してないね?」

「登録って?」

「俺たちはそもそもこういう遊びはしない」

「まあたまたぁ。まあいいか、ということで先ほどのチェックだと今一正常に動くかどうか、ちと心配だよきみぃ~」

校長が狙撃主を肘でつつく。

「何が言いたい」

「隼人君、といったかな?それと生徒諸君、きみたちと私でぜひ」

と、校長が言いかけた時、校庭が揺れ、盛大な土煙が立ち昇った。

「うえっほ」

「なんだなんだ!?」

「ぐお、目が、目がーー!!!」

しばらくして土煙がやむと、校長の真横に巨大な剣が突き刺さっていた。刃の部分だけでも校長の約二倍

の大きさだった。剣を投げつけたであろう張本人、轟先生が校長の目の前に立っていた。

「避けんな校長」

「いやいや直撃したらシャレになんないから轟先生?」

校長は笑いを顔に張り付けながらも冷や汗を浮かべていた。

「今ので殺せるならあんたは今ここにいないだろうが。それよりあいつはお前の秘書じゃないんだからあんま苑花困らせんな。また探してたぞ」

「あれ、なんかやり残した仕事あったっけ?」

「そもそもなんもしてないだろうが。本当に秘書つけるぞ」

「いやでもまだ動作テストがだね」

校長があがこうとするが、

「もうこれは使えるのか」

「ああ、問題ない」

あっさりと解決されてしまった。

「作業御苦労。ほら、さっさと校長業務に戻れ」

「ぐ。っふっふっふ、仕方がない。生徒諸君また会おう!」

と、笑い声を残し、煙幕のまき、校長が消えた。

「何がしたいんだうちの校長は……」

居合わせた生徒全員の気持ちを轟先生が言った。

「轟先生、ちょっといいですか?」

あきれている轟先生に機核が話しかける。

「なんだ?」

「校長先生はこれをどうするつもりなんですか?」

「……さあな」

轟先生はとぼけたが、

「まあこれでできることはそうないだろ?」

「まあそうですが…」

「俺から言えるのはこれは明日から使うらしい、て事だけだな。そういえばちゃんと届けてくれたか」

「はい。そっちに関してもなんですが」

「ん?なんかあったか?」

「………いえ、やっぱり何でもありません」

「そうか、まあちゃんと渡せてたらいいんだ」

と言って轟先生が校舎に向かって歩き出す。途中、振り返り、

「そうだ、おつかいのご褒美でもう一つアドバイス。校舎と寮の間に商店街みたいな場所があるだろ。そこに学生なら無料でNoM's Warがプレイできるゲーセンがある。明日に備えてそこで練習したらどうだ?」




「なんで知らなかったんだよ!」

「まさか学校の中にゲーセンがあるなんて思わないだろ!資料にもあそこは学校生活に必要なものとか服屋とかがあるしか知らなかったんだよ!」

「正確には学校の外だけどな!!」

隼人、華美、機核の3人は会話しつつも走って移動していた。

「でも無料でできるなんてもう放課後は直行決定だよね!もしかして、だから普通の学校より午後の授業が短いとか!?」

「それは関係ないだろ。けど、多分もう遅いと思うぞ……」

機核の言う通り、轟先生から聞いたゲーセンについた時には遅かった。

そこのゲームセンターは最新のNoM's WarからレトロなUFOキャッチャーまで様々なジャンルが揃っていた。

ゲーセンにはすでにたくさんの生徒達が来ていて、その中でも、ほとんどが中心の、NoM's Warに集まっていた。機械は三台あり、特に真ん中の一台に人だかりが出来ていた。

「あ〜あ、機核の言った通りじゃん。無料でプレイできるんだもんね。そりゃそうなるか」

その時、人垣から歓声が上がった。

「すげえ、これで16人抜きかよ」

「やっぱ三桁台(スリーナンバー)とはいえ格が違うのかねえ」

三桁台(スリーナンバー)って……そんな上位ランカーが学生にいんのかよ!」

聞こえてきた言葉に隼人が思わず叫ぶ。

三桁台(スリーナンバー)とはNoM's Warにおけるランキングの中でも100〜999位にランクインしてる上位者をそう呼ぶことがある。NoM's Warは世界の主な国に広がっており、ランキングとなると世界規模、つまり三桁台は世界でもトップの強さをほこると言っても過言ではない。ランキングの上位のほとんどはやはり日本人だが、中には外国人プレイヤーも数人いて、やれ元軍人だのやれ日本人以上の廃人オタクだのとプレイヤーの正体はやや適当に噂されている。

コートの中を見ると、すでにフィールドは消え、おそらく今敗れたばかりの挑戦者が倒れており、16人抜きをしたという三桁台が立っていた。挑戦者は激怒のためかヘルメットを脱ぎ捨て、起き上がり叫ぶ。

「くそ、お前俺が誰だかわかってんのか!!」

コートの中の音声がスピーカーを通して伝わってくる。

「…………」

「おい!無視するな!三桁台のダイキ様だぞ!お前ごときが」

「…………」

「なんとか言いやがれ!!」

「なぁ、負けた方が三桁台なのか?」

「そういえばあいつ、なんか見たことないか?っていうかあいつ、同じクラスの戦場大貴(せんばだいき)じゃないか」

「いたっけか?」

「お前の記憶力には期待してないが、自己紹介の時自分が三桁台であることを自慢してたやつがいたんだ。それが戦場大貴だったんだ」

戦場は悪態をつき、コートを降りてでてきた。

一方、16人抜きを達成したプレイヤーは挑戦者を待つ。人垣がざわつくが名乗り出る者はいない。

「どうする隼人、挑戦してみるか」

「せっかくのチャンスだけどさすがになあ」

その時一人の挑戦者が名乗り出た。挑戦者はNoMスーツを着て、コートに入った。それによってバトル開始までのカウントダウンが始まりプレイヤー情報が表示される。


Player:KOUTA

personality:瓦番

Player:kou

personality:機械戦乙女(ギア・ヴァルキリー)


カウントダウンの間にお互いNoMを起動させ姿を変える。挑戦者KOUTA・瓦番は日本の鎧姿だった。ただし、顔の部分はぽっかりあいていて、2つの光が目のようになっている。変わった部分としては腕の外側を覆うように分厚い装甲をまとっていた。特に刀やそれらしい武器は持ってないように見える。

一方こっち16人抜きkou・機械戦乙女は西洋の鎧姿だった。鎧姿、といってもただの鎧ではない。甲冑のようなデザインだが関節部分やその付近に歯車が見え、モータ音も聞えてくる。そして手には巨大な剣を持っていた。轟先生ほどではないが持ち主を超える大きさで、剣も鎧、というよりも機械に覆われより分厚い大剣と化していた。

顔は何も装備がなく凛々しい女性の顔と背丈の半分ほどの金髪をさらしていた。

「って16人抜きしたのって女!?」

隼人が叫ぶと同時にカウントダウンが終わりバトルが始まった。

まず動いたのは16人抜き、機械戦乙女ことkou。その巨大で重厚な剣を構え挑戦者、瓦番ことKOUTAに突撃しようとする。それに対しKOUTAは腕の装甲を一枚はぎ取り、突撃をしようとしたkouに投げつけた。kouは勢いよく回転し飛来する物体に反応し、構えた剣で弾く。弾かれた装甲はカシャン、と軽い音をたて砕け散らばる。

「速い」

普通接近戦タイプ、特に巨大な武器を扱うプレイヤーは力を強化し、より強く、より速く動けるように想像する。kouの動きの速さはそれだけでなくどうやら大剣についている機械のアシストも受けているらしい。その証拠に剣の動きは確かに普通のプレイヤーより速かったし、大剣は蒸気を吐き出していた。

とくに脅威を感じなかったのかkouは再び剣を構え突っ込む。一方KOUTAもその動きに対して再び腕の装甲を投げ続ける。今度は突撃の勢いを殺さず弾きそのまま進む。突撃も足首辺りの機械によって強化加速し、わずか4歩で離れていた距離を詰めた。

「おっと」

kouが大剣を振り下ろす瞬間、KOUTAは鎧姿とは思えない素早さで大剣を避け、kouの後ろ側に回り再び距離を取ろうとする。が、機械戦乙女は一度とらえた敵を離そうとはしなかった。

突如、甲高(かんだか)いモーター音が鳴りひびきkouの体の向きが強制的に180度回転した。通常の体の動きではありえない動作だ。

「うっそ、やべ」

と目の前でとんでもない動きをされ、思わず言葉が出るがはたしてkouには聞えていたのかいないのか。

180度回転した勢いでそのまま大剣を横薙()ぎに振るう。KOUTAはとっさに腕の装甲を増やしガードするが当たった瞬間、まるで積んであった大量の食器をいっぺんに落としたような音と共にKOUTAの鎧姿が吹っ飛んだ。フィールドは今回、指定なしの「ノーマル」だったので障害物がなく、漫画でふっ飛ばされたかの(ごと)く飛び、さらに数メートル床を転がった。

「これで17人目!」

「いや、あの動きはもはやチート」

「つうか、なんで挑戦したし?」

周りはもう勝負がついたと思ったが、意外にも瓦番KOUTAはすぐに立ち上がった。

「ふう、助かった。いやあ読み通りだったぜ。瓦って重ねると衝撃を吸収するんだぜ」

その反応に対してkouはあくまで冷静に構え直す。

「あんま気にしてないみたいだな。けどそれが逆に命取りになるとは、ってね」

その言葉にkouは改めて相手の余裕を気になり、若干構えを緩めるが、

「!」

急に何かに気づき後ろに下がろうとするが、

「もう遅い!」

その言葉を合図にフィールドに散らばっていた無数の欠片が下から上へ、それもkouめがけて一斉に飛び散った。

欠片は特に、kouの足元に大量に散っていた。それに気づいたkouは避けようと思ったが、間に合わないと判断し、防御姿勢をとった。それでも無数の欠片は容赦なくぶつかってきて、弾いた方が多いが、それでも多くの欠片がkouの鎧に突き刺さった。

「……顔面はセーフか。今ので決まれば、って思ったけどそうはいかないか」

腕を組み見ていたKOUTAはそう言い唸った。そんな相手にkouは反撃をしかけようとする。が、

「……!?」

その動きはどう見ても(のろ)い。鎧の所々から煙が上がってモーターからは異様な音がした。

「きた!やっぱ見た目通りその機械みたいなのでありえない動きをしていたんだろ。だったらそれさえ壊せば後は重い鎧を来ただけの的!」

KOUTAはkouの大剣に匹敵する大きさの瓦を2枚構え、これから羽ばたこうかのように両手を横に伸ばし、姿勢を低くする。

次の瞬間、

kouから目の前が真っ白になるような爆発的な光が放たれた。光はコート内を埋め尽くすだけでなく、ゲームセンター内全体に届いた。

「本日二度目の目が、目がああああああああ」

「魚!?目の前が真っ白になっていく……」

「くそ、全然見えねえ!」

「何が起きた!!」

観戦者だけでなく、ゲーセン内にいたすべての人間がパニクっていた。光ったのはほんの数瞬だが、それでも隼人たちと他の生徒もしばらくしてやっと目が見えるようになった。

しかし、目が見えるようになった時、コートには倒れたKOUTAと思われる一人と、


WINNER:kou[機械戦乙女]


の表示だけでkouというプレイヤーは17人抜きを果たし消えていた。



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