一話目「学校の始まり」
はじめましての方ははじめまして、「N.P.S」を読んでくれていた方はどうも、樹純我純です!(やった、正しく使えた!)
ということで、「N.P.S」の方も書き始めたばかりだというのに新しいシリーズ始めてしまいます。
こっちの方が長いのかな?いつまで書き続けられるか分りませんが、どうか気に入っていただけたら幸いです。(「N.P.S」もよろしくです)
暗い―暗い―暗い―
真っ暗な視界が突如、真っ白に蹂躙された。
なんのことはない、いつも通りの見慣れた場所。
東京ドーム一個分、とほぼ同じ広さの場所。ドーム型で壁一面が病院のような、研究所のような白さだ。観客席はない。いや、実際には観客席はあるのだ。このすぐ隣に…
「No.01123、入ってください」
自分の正面、一見、何もない壁が開き、そこから人が一人入ってきた。再び、壁が閉じ出てきたそいつがきょろきょろと見回す。そいつは、全身を覆うグレーのダイビングスーツなようなものを着、ヘルメットをかぶり、背中にはランドセルサイズくらいの機械を背負っている。
自分もここに入る前までは同じような格好をしていたが、今では全身を覆うのは黒い影。手、足、頭は丸みを帯び、しっぽがついていて、唯一色があるのはおでこと思われる部分に赤い宝石のようなものがついているだけ。他にもいろんな格好になってはみたが、やはりこの恰好が一番しっくりくる。
その時、興奮した叫び声が聞こえた。
これもやはり、聞き慣れた、それでいて同じようなものだった。
叫び声をあげた本人はちょうど自分と反対側にいた。見た目はバイキング、とでもいうのか、背は二メートルは越え、角のついたヘルムに眼帯。腕、腰、足を覆うのは赤い毛皮。そしてなにより、柄も含め本人の三倍はある巨大なハンマーを持っていた。試し振りをしていたらしく、豪快に、しかし見た目からは想像もつかないほど速く、軽々しくハンマーを扱っていた。
そのバイキングは先程ここへ入ってきたやつだった。相手もこちらに気づき、ようやく本来のすべきことを思い出したのか、こちらにハンマーを突きつけ何かを言っている。
こちらに気づいたのならいいだろう、とほぼ一瞬で相手に近づきそして――
「んあ……」
また夢落ち。
どうやら椅子に座ったまま寝てたらしい。
「このイスふっかふかで寝やすいなぁ。ソファは固いくせに」
とつぶやきつつ時間を確認。約四日ぶりの睡眠時間はちょうど五分。それでも十時間くらい寝ていた感覚なのだから不思議だ。
「いや、もういつもの事だから気にしないけど。って独り言は控えろ、て言われてたっけな。確かにー生徒の前でーぶつぶつ言ってたら危ねえもんな〜っと」
そこで椅子から立ち、鏡の前に移動する。今日はどんな格好でいこうか。
「よし、今日から学校、始めますか」
「だからごめん、って言ってるじゃねえかよぉ」
「絶っ!対っ!許さない!今度という今度は絶対許さないから」
「不可抗力とはいえ確かに俺が悪かったけど。けれどさぁ…」
「けれども何も隼人が起こしてくれって頼んだんじゃない!」
そこで俺は、う、と言葉につまった。たしかにそうだが…
「ったく、朝っぱらから何をケンカしてんだお前ら。しかも二人揃って遅れてきやがって。俺だけ行くとこだったぞ」
と通りかかった家の前から声をかけられる。
「全部この痴漢魔が悪い」
「痴漢魔ってなんだよ…」
「また何かやらかしたのか」
「まぁそうだが…」
事の顛末はこう。朝起きれるか不安だった俺は花見華美に朝起こしてくれるよう頼んだ。案の定、爆睡だった俺を家まで起こしに来てくれた。ここまでは良かったんだけどはなぜか俺のベッドの横にしゃがんで起こそうとしたらしい。そしてタイミング悪く俺が寝返りを打つ、ベッドから落ちる、と押し倒すという流れが完成。
それで俺が目を開けると涙目で怒り全開のの顔があるわけで。
「やっべ……」
その一言が引き金となり俺はボッコボコにされた。
と、そこまでを腕を組んで聞いていた芹沢機核に説明した。
「はぁ……お前ら、今日が何の日かわかってるのか」
「…………」
「…………」
となぜか被害者の華美まで一緒にのお説教を受けている。やばい、このままだとマジで遅刻する。
「わかった!俺が全部悪かった!」
「当たり前だ!そもそも入学式当日くらい自分で起きろ!」
そう、今日は俺たちの高校の入学式なのだ。
あれから機核が赦してくれた事により|(と言っても嫌々だが)説教が終了し、俺たちは急いで学校へ向かう。
俺たちの通うことになった学校、それは、とある研究施設の一部だ。といっても生徒たちの超能力開発をする学園都市とかではない。
高校とはいったが正式には無物質創造研究所付属学園、通称想像学園と呼ばれるところだ。
無物質。学式名称はNothing Matter(略してノーマター)。そのままではただの石よりも役に立たない何でもない物質だが、人の想像力に反応し、その形や性質までを変える事ができる物質らしい。
無物質のこの信じがたい特徴を世界で初めて発見し、研究、実用段階まで開発したのが、他ならぬ日本の研究機関、無物質創造研究所だった。そして10年前から、無物質を利用した技術、NoMシステムは軍事、医療、サブカルチャーなど様々な分野に転用され、新たな技術革新を起こしたのである。
その無物質、NoMシステムを世界初、専門で学べるのが想像学園だ。
もちろん、外国はおろか国内でもこの研究所以外ではほとんど研究されていない最先端技術であるため、無物質を学生の頃から学べるとあって受験はもはや日本だけで競われるものではなく、留学を含めた世界クラスでの受験戦争となった。
しかし、研究所はこの混乱に微動だもせず、留学も含め独自の基準をもってこれに対応した。ちなみにどのような基準だったのかは公開されていない。
隼人、華美、機核、特に変わったところのない普通の日本人三人が入学できたのは、本当に奇跡に近い。それなのに、入学式当日から遅刻しては受からなかった世界中の人に申し訳無さすぎる。
無事、入学式に間に合い、新入生の集団に混ざる。
変わったことにまだクラスの発表がされておらず、学年別にそれぞれの集団に分かれているだけである。
「しかも私服でいいなんて」
というかまだ制服が用意されてない。
「先に配られた生徒手帳の校則欄には制服についての記述があったからあるにはあるんだろ」
「えっ、校則まさか全部読んだの?」
「いつものことじゃん」
「俺的には校則も知らずに学校生活できるお前らの方が不思議だ」
さすが、と隼人と華美の声がハモった時、
『あ、あーマイクテス、マイクテス』
と、スピーカーから女性の声が聞こえてきた。
『んん、マイクテスマイクテス、おや、どうぞ〜』
ドアの開く音をマイクが拾う。
『まださい…じゃなかった校長が見つからないみたい。けどいつでも始められるよう準備だけはしといてね』
また別の女性の声からとんでもないことが聞こえた。
なに校長行方不明?おいおい大丈夫かよ、など生徒たちが喋り声が一層増した。
『それは大丈夫。今もマイクのテストもしてるところだし』
『マイクのテストってちょっとこれマイク入ってるんですか!?』
『まぁ、入っちゃってるよね〜。さっきの声と一緒に』
『!!…………えーと』
「…………」
会場が静まった。
『……ただ今より第一回無物質創造研究所付属学園の入学式を始めます』
『始めるのかよ!!』
こうして新たな学園生活が始まりを告げた。
『えーと、ではまず、校長より挨拶………』
「…………」
『いや、校長はいないですよ』
『(しーっ!言っちゃダメ!けどいきなりこれじゃ、どうしよ…)』
スピーカーから明らかに困った声が聞こえていると、壇上に一人の男性が出てきた。
スキンヘッドに茶色のスーツがはちきれんばかりに太った腹、そして趣味の悪い金の蝶ネクタイ、と嫌みな金持ちを想像したらこんな姿になるだろう姿だった。
そいつは壇上のマイクを取り、
「あー、新入生諸君、入学おめでとう!私がこの学園の校長の佐藤浩一郎です」
え、と聞き間違いがなければ今、校長って言った?
「なぁあれって」
「絶対違う。そんなわけがない」
に確認してみるが、信じられないという風に首を振っている。
「ちなみに学園なのに校長かよという類いの突っ込みはなしで」
と、その間にもつまらないことを言って自称校長は下品に笑っている。
『ちょっ、さい、佐藤校長!悪ふざけもいい加減にしてください!』
『ついでにそのジョークはハイセンスすぎて生徒一人もついてきてないですよ』
スピーカーから二つの声が校長にかけられる。
会場の生徒、俺たち含め全員が頭に?を浮かべていた。
「うーん、個人的にはいつばれるか冷や冷やしていたんだがね」
そう言うと、自称校長の体が溶け、一瞬だけ歪み別の人物に変わった。
同時に、生徒全員の?が!に変わった。
「まさか、」
「まさか、校長は姿を自在に変える事ができるのか!と思った人はいるかな」
姿が変わった校長の姿は白髪が目立ち先ほどとは違い細身で初老の紳士のような姿。
俺たちが知っているパンフレットの写真で見た校長の姿だった。
「正解ではないが、概ね正しい。私が先程、デッブデブの成金の姿をしていたのも今君たちが知っている私の姿も私自身が忍者や吸血鬼だからではない。
全ては君たちがこれから学ぶNoMシステムの一つが作り出した姿だ。君たちがこれから学ぶものがどういったものなのか、それを今感じ取ってもらえたら私から言うことは何一つ残っていない。一年生、二年生、三年生。それぞれ将来どのように活用するかはまだ決めていないものもいるだろうけど、ここで学ぶ間はNoMについて、ひいては無物質の根源について、存分に学ばしてあげよう」
そう言い切った後、再びマイクに向かって一言。
「そうそう、最後に私の年齢についてだが」
俺たちが見た校長の写真、学園のパンフだったけど、それには、
佐藤浩一郎(36)
「そっちは本当だよ」
ウィンクをし、壇上から去っていった。
それから教職員の紹介などがされ、入学式は終了。クラス分けのため各教室へ移動となったが、その間生徒は全て先程の『校長の挨拶』ばかり話していた。
「あんなことができるのか」
「全然気づかなかった。本当に人間に見えたぜ」
「てことは、あの校長の姿も偽物ってこと?」
俺たち三人も校長の話ばっかりしていた。
「なあ、あれが」
「間違いない。あれが謎多き救世主、万物の顔を持つ男と言われた張本人だ」
「けどこうなると男の人っていうのも怪しくない?あれだけ完璧ならどんな人にもなれるでしょ」
「確かにな。けどなんでわざわざあんな真似したんだろうな。もっとすごいことだってできるはずなのに」
「それは、本人の言った通り俺たちを騙しきることでどれだけのものをこれから学ばせるのかを理解させたかったんだろ」
「なーる」
「しかも、あれだけ精密な変装を簡単に…。校長としては、あのレベルでも見せる程度、なんだろ」
互いの感想を言い合っているうちに教室の前についた。
この学園は校舎が十字型になっていてホールなど特別棟が二つ、校舎とは別にある。
上からみると、※の上と下の点がない図形に見える、変わった造りだった。
変わっているのは建物だけでなく、
「あたしだけはBクラスか。でもなんで女子と男子が別なんだろ?」
「なんでなんだろうな」
そう、共学なのになぜかクラスはクラスが交互に男子女子と分かれている。
「二人は同じクラスかー。いいなぁ。休み時間になったら遊びにきてね」
「いや、そっちが来いよ、一人なんだし」
「えー、男子だけのクラスに女子一人で行くのはなー」
「平気で男子の部屋にずかずか入り込んでいく奴が何言ってるんだか。おい、行くぞ」
「おう、じゃまたあとでな」
俺とはAクラス。学園のクラスはAからZまでの26クラスでどのクラスも30人。一学年で計780人になる。2年と3年はそれよりは少ないとはいえ、千人を超えるしかも全寮制のマンモス校なのだ。
「あれ?俺の席の前、お前?なんでだ?」
「多分、五十音順じゃなくてID順だろ。俺とお前は受験番号が並んでただろ。やっぱり情報の管理は徹底してるな」
「まあ近くでよかったな。これで授業も安心だぜ」
「言っとくが授業中の助言ならなしだ」
「えっなんで!?」
「当たり前だろ。後ろならともかく俺が前だと教えたのがバレバレだろが」
「ちぇ、早く席替えになんねえかな」
と、話して騒がしい中、教室の扉が開いて教師が一人、教壇の前に立った。
「席につけ。…これからお前たちの担任になる轟斬波だ。担当科目は数学と実践基礎、応用。よろしくな」
ここでまた教室中が騒がしくなった。一人の生徒が緊張気味に手をあげる。
「先生、質問いいですか」
「なんだ」
「先生ってあの“英雄”ですよね」
「まあ、そう呼ばれたことは、ある」
先生は歯切れ悪く答える。
轟斬波、浩一郎校長が救世主と呼ばれていたなら轟先生は第2の英雄、地球を斬った剣豪、一刀千人斬りと呼ばれた実質世界で二番目に強いと言われている漢だ。
その数々の呼ばれは十年前に終わった大戦時に衛星カメラからでも確認できる巨大な剣で千人の敵を地球ごと斬った、という逸話からきている。
先生は咳払いをし、
「他にも色んな呼ばれ方はしたが中には眉唾物もある。だから全部が全部本当だと思わないように」
「でも何個かは本当なんですよね」
「…………否定はしない」
否定はしないんだ、と思わずクラス全員でうなずいた。
そんな俺たちの反応に先生は半ば引きつつも進めていく。
「さ、さて、まずは定番の自己紹介からしていくぞ」
その後は自己紹介、プリント配布、明日以降の予定についての連絡がされた。
「じゃあ初日はこれで終わりだ。このあとは学食に向かうなり寮に行って自分の部屋を確認するなり自由だ。最後に何か質問あるか」
はい、と再び最初に質問した生徒が手をあげる。
「なんだ?」
「サインください」
「先生げっそりしてたな」
「まさかHR終わったと思ったらそのままサイン会になるとは思わなかったんだろうな」
最初に言い出した生徒に引き続き、次々と列ができ、
「おい、なんかAクラスで“千人斬り”のサイン会やってるらしいぞ」
「まじか!まだやってんのか」
「お、ネタはっけーん」
どうやらサイン会は他のクラスまで広まってるらしい。
「でも実際担任が世界で2番目に強い、てどうよ?」
「それが教師としての優秀さとはまた別だ。それに本人はあまり英雄扱いは好きじゃなさそうだしな」
「キビシー。あいかわらず、クール?だな」
「空気を読めると言え。わざわざサインを2人分減らしてあげたんだからな」
お前もサイン欲しかったんだ、と思ってると廊下の向こうから華美が走ってきた。
「よお、そっちも終わったか。なあ聞いてくれよ、こっちの担任だれだと思う?」
「ねえねえすごいようちのクラスの担任の先生!」
よほど興奮してるのか俺の問いかけを無視して話しかけてくる。
「何がすごいんだ?」
「超美人できれいでしかもあの“舞う花”こと苑花鮮花なんだよ」
「苑花鮮花って言えば元祖・戦乙女!世界で三番目に強いっていう…」
「もう、男子はすぐそうやって強いだのなんだのって戦闘物に繋げるんだから。それに元祖、じゃなくて初代!ファースト・ヴァルキリ―!」
「待て待て。この学園、NoMシステムにおけるトップ3がいるのか」
「えっ、それって」
「うちの担任はあの英雄轟だぜ。すごくね?」
「今どこにいるの。まだ教室?」
「だと思うぜ。なんかサイン会始まってるし」
そう言うと、華美は全速力でAクラスに走っていった。
仕方がないので廊下で華美が帰ってくるまで待つことに。
「知らなかったな。華美までファンだったなんて」
「あいつの部屋に轟先生のポスターみたいのあった気がする」
「あれだろ。苑花先生と写っているやつだろ」
「だったかな?苑花先生の授業だったら絶対寝ないのになあ。…また何考えこんでんだ?」
機核がいつもの癖のしぐさで黙っていた。
「いや、改めてこの学園の規模を思い知った」
「学園の規模?」
「俺たちの担任、轟先生は何を教えるって言ってた?」
「確か、数学だっけ」」
「そっちじゃない。NoMの実践基礎と応用だぞ。実践の授業は実際に無物質をコントロールするためにNoMを使って授業を進める。それを世界で2番目に使いこなしている人に直々に教われるんだぞ。これがどれだけすごい事か」
俺の答えを無視して機核はしゃべりつづけた。機核は滅多にすごいとか曖昧な表現は使わない。こいつがすごいと言うからには本当にすごいんだろう。
「だろうな。俺にはすごすぎてわかんねえけど」
ふと廊下の窓から空を見上げるとまたひとつ、すごいものがあった。
巨大戦艦。
まさにそういうしかないものが空に浮かんでいた。見た目はどちらかというとアニメに出てきそうな感じの戦艦で、艦砲なども付いていた。そしてその戦艦横には大きく文字が書かれていた。
輸送戦艦「帝国輸送」
帝国輸送。これもNoMを利用した世界初の運送業で、その見た目はかつて世界の紛争に参加し、また、一つの国としても主張していた傭兵集団。その傭兵集団の国である戦艦をコピーしたものといわれている。ただこれも、あまりにもリアルなため、一部では本物なのではないのか、本物だとしたらあの砲台は問題なんじゃないのか、といろいろ問題のある輸送機関である。その代り、運ぶもの、場所、時間を選ばず、人から建物まで世界各地に運んでいる。
そして、その問題ある輸送戦艦が校舎に影を落とし、学園の第2校庭上空に停止した。すると、戦艦の下部、ハッチらしき場所が開き、中から巨大なコンテナのような荷物を校庭に降ろしていく。
「なんだ、あれは……」
機核はメガネを親指の関節でクイッとあげる。
「校庭にあんなの置いたら授業できなくね」
「あれは校長が取り寄せた荷物だ」
振り向けば、轟先生が2人の後ろに立っていた。
「轟先生!サイン会はもういいのか?」
「ああ、お前らの二人の分で最後だ」
と、先生はハンカチサイズの色紙を渡してくれた。
「これって」
「あのお節介が」
「いや、あの子がいなけりゃまだサインし続けてたからな。『あたしに任せて先に行ってください。ついでにこれお願いします』て頼まれたしな。そしてこっちは俺から2人に頼みたいことが」
と先生が続ける前に校庭から銃声が響き渡った。そして、校庭を見てた生徒達から悲鳴と驚きの声が続いた。
隼人と機核も見ると、荷物を吊るしていたワイヤーが外れ巨大な荷物をその下で誘導をしている人の上に落ち、潰そうとしていた。
人と荷物の大きさを考えれば逃げられることも出来ない。
だから、
その人は片手で受け止めた。
「は?」
「どうなっている…持ち上げている?」
「しかも、……片手で持って」
「悪いが、あの程度で驚いているようじゃ俺の授業で赤点とるぞ?」
あれもやはり入学式の校長と同じNoMを利用したものなのだ。
その後も同じような荷物を次々と同じく片手で受け止め降ろし運んでいる。さっきの銃声は艦上で作業している人がワイヤーを撃って外していたらしい。
「と言ってもあんな技、できるやつなんて国内にもそうそういないがな。
で、2人とも昼は食堂に行くだろう。食堂横に職員用休憩室があるから適当に中にいる人に渡しといてくれ」
よろしく、とファイルくらいの大きさの封筒を機核に渡し、若干疲れながら轟先生が廊下を歩いていった。もう少し校庭の作業を見ていたかったが、華美も来たので3人で食堂に向かった。
「“職員用休憩室”。ここでいいんだよな?」
こちら側は食堂の入り口の反対側なので人気がない。ここは食堂で働く職員用の部屋らしい。先に用事を済ませてしまおうと扉をノックする。
しばらく待っても中から反応がない。
「今お昼時だし忙しくて人いないんじゃない?」
「かなあ?」
意味もなくノブを回してみる。すると、鍵が開いてたのかそのまま扉を開けてしまった。
中はテーブルとテレビ、それからロッカーが並んでいていた。
そのロッカーの前、着替えをしている女性がいた。
その女性はちょうど服を脱いでいるところだったらしく、手をあげ頭に服が引っ掛かけたポーズになっていた。こっちに気づいたのか、背を向けてた体をその無防備の姿のままでこちらに振り向いた。
「…だれ?」
「いや、ちょっ」
「そのままこちらを向かないでください!」
「まぁたあ、しかも、今度は初対面の人の裸を」
「まてまてまてまて!いやこれもどちらかというと不可抗力だろ!」
「言い訳する前にとりあえず後ろ向け」
と、機核にならい、隼人も部屋に背を向ける。
「それと歯も食いしばれ…」
「ずるくね!俺だけみたいな感じは違くね!」
と、いつものの制裁が来る前に、
『こおぉらあー!何しとんじゃー!』
女性とは思えない怒鳴り声が飛んで来た。
言葉通り、3人の来た方から声の主が飛ぶように走ってきた。3人を押し退け部屋の中をみると、
「ちょっ何してんの!」
「きがえてた。そしたらそこのこたちがきた」
「はあ……鍵は持ってんだからちゃんと、せめて着替えるまでは閉めなきゃダメでしょ。ていうか早く着る!そしてそっちは後ろ向く!女の子も!」
はい!と3人とも返事し、今度は3人そろって後ろを向く。すぐに着替えが終わり、よし、と指示が出る。
着替えた女性は頭に星形の帽子とオレンジのローブというとても料理を作るのに適さない変わった格好になっていた。
「とりあえずよし。それであんたら3人、まず先に問う。この子の顔は見てないね?」
こちらもおかしい、というか全体的に黄色い“ボディ”だった。どう見ても見た目がロボチックで指先が平らなかぎ爪がそれぞれ4ずつついていた。
問い詰めてくる目もネコ目みたいで、それが逆に怖い。
「いや、なんていうか不可抗力というか」
「見たのか見てないのか」
「まあどちらかと聞かれれば2つに1つだからどっちかなわけで」
「み、た、の、か」
そうしつこく聞いてくる相手は怒っているというよりは何か違う意味で真剣に聞いているようだった。
「見てません」
そう答えたのは、機核だった。
「ちょっ、さすがに堂々と言い過ぎ」
華美が反論しようとするが、
「こいつも、こっちの女子も顔は見ていません。背中だけです」
それを遮るようにはっきりと言い切る。
「ほんとだな?」
「はい」
と猫目と機核が見つめ合う。それで、機核が意図を察した(?)とわかったらしく、許してくれた。
「よし、それならいいだろ。てそもそも一般生徒が何んの用?」
ここでやっと本来の目的を思いだし、先生にもらった封筒をネコ目のロボに渡した。小さな封筒を渡されたネコ目は軽く振る。それで中身がわかったのか、
「今になってこれを返すってことは……まあいいか。用件はこれだけか」
「あ、ああ」
「ああ、じゃなくて、はい!」
『はい!!!』
3人同時に返事し直す。
「よろしい。それと昼飯まだだったら食堂で食ってけよな。残したら許さねえからな」
そう言って、ドアを閉め鍵をかける音がした。最先端技術を学ぶ学校でもこういうところはなぜか旧式だ。
「ふう……にしてもすげー怖い人だったな」
と額をふく真似をするが、実際に汗をかいていた。
「ほんと、あれって実は中の人、男じゃない」
「まあ明らかにNoMスーツ着てたからな」
「そう言えばなんで嘘ついたんだ?」
「そうよ!あんた達堂々と見てたじゃない!」
「だからあれは不可抗力だって。それに見たのは俺だけじゃないだろ!お前もだろ!」
「私は女の子だからいいの!でも私も見てないことにされなかった?」
「あの顔、どこかで見覚えがなかったか」
「? べつに?」
「俺も…いや、かわいいと言えばかわいかったけど」
「着替えたあとも顔は変わっていなかった」
「そうだっけ?」
「結構変わった姿してたからそっちばっか目にいってたなぁ」
「そうだ!あの格好だ!」
と言って携帯を取り出し、何かを探している。こうなると止まらないのは分かっているから華美も隼人も仕方がなく待つ。やがて、目的のものを見つけたのか、
「あった!二人ともこれを見ろ!」
「それよりおなかすいたー。って動画?」
華美が文句を言いつつも、機核の携帯で再生された動画を見る。
「気持ちワリ」
これは、隼人の感想。なぜなら、動画は、ヘリから撮影されたものだと思われるが、画面のほとんどが赤くふちどられたオレンジ色のヒトデのような生き物で埋め尽くされていた。音声はないが、きっとこれを撮っていた時には、悲鳴が聞こえていたのだろう。
「…で、この見てるだけで食欲のなくなりそうな映像を見せてこれからお昼食べに行くわけ」
華美が怒りを抑えた声で機核に聞く。
「ここだ!」
と、華美の問いかけを無視し、携帯の一部分を指差す。
「人の話聞けやぁ!!」
「ぐお。なにすんだ!」
「それはこっちのセリフじゃあ!いったいこれからご飯ーって時に何見せてくれてんよー!」
「だから、ここ!この映像!さっきのオレンジローブが映ってるんだ!」
「どれどれ、……こんな小さかったらわかんねえよ。他にないのか」
「ない。が、間違いない。同じだ」
「眼鏡かけてんのによくわかんな。で、同じだとなんか嬉しいのか」
「いや………この映像は日本の特殊部隊が撮っていた記録だ。そしてこの時の記録はNoMを利用した犯罪者追跡時の映像だ」
「つまり、さっきの天然そうな着替えていた人が、」
「それ以上は言うな。もしかしたらどこかで聞かれてるかもしれない」
「大げさな」
「でも、だとしたらさっき執拗に顔を見た見てないって聞いてきたのも」
「知られたらまずかったんだろうな。少なくとも素顔は」
「んー………まあ結構怪しいとこも多いけどその方が楽しいそうじゃね?」
「あのなあ…」
「それより飯食いに行こうぜ」
結局、その機核の話には結論を出さずに3人とも食堂へ向かった。
読んでいただいてありがとうございます。
今回はパソコンから投稿したので携帯では見づらかったかと思います。
あとこの物語、実は自分の中ではスピンオフ扱いの作品なので、若干わかりにくい場面が多いと思います。まあそういったこともそのうち進めていく中で盛り込めればと…
キーワードは十年前、それと校長ですね。
次回更新は未定となります。もし気に入っていただければ幸いです。(まえがきでも言った…?)
わざわざここまで読んでくださった方、改めてありがとうございます!