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白馬の勇者様

今日も魔王軍は忙しい。勇者の状況報告が上がってこないからだ。


疑問に思った人もいると思う。何故勇者が動いていないのに、魔王軍は慌ただしいのか。


この時期に勇者の状況が分からないというのは、俺たち魔物の目が届かないところにいるということになる。つまり、精霊やエルフの類たぐいだ。


つまり、勇者の冒険が限りなく順調であるという証拠になる。


またカジノに籠っているんじゃないかという声も出ているが、少なくとも上層部はそう思っていないらしい。じゃないと、メタルボディ班に出陣命令が出るはずがない。


「なんか、嵐の前の静けさって感じするよな」


「オルガもそう思う?」


「思う思う。こりゃドーンっと忙しいの来るぞ」


「うーわ、やめろよ。考えたくない」


「俺も考えたくない」


 俺たちは、二人でしばらく黙って書類を処理した。警備のスケルトンが遠くを歩く足音だけが聞こえる。忙しいはずなのに、魔王城はやけに静かだった。



―――――――――――――――――――――


 通達が来たのは、翌朝だった。


 差出人は「魔王直轄・情報戦略部」。ここが動くのは、よっぽどのことがあったということだ。


 石板の表示を読んだ瞬間、俺は目が覚めた。四徹目の眠気が、一気に吹き飛んだ。


「緊急通達:全部署即時共有事項。勇者アレスが、伝説の聖剣ヴァルハルトを入手したことが確認された」


「…………」


 執務室が、一瞬だけ完全に静止する。


 次の瞬間、全員が喋り出した。


「嘘だろ」「マジか」「ヴァルハルトって何」「魔族特攻の剣だろ知らないの」「魔族特攻ってどのくらい効くの」「俺たち全員効く」「全員!?」「死にたくなーい」


 俺は、黙って通達の続きを読んだ。


「各部署は速やかに対応方針を検討し、本日中に報告書を提出せよ。なお幹部会議を本日十三時より開催する」


「今日中に報告書……」


目眩がした。


通常、報告書は

①部署内上層部での会議

②一次結論を部署内報告

③再度部署内上層部での会議

この順番での会議で決まる。


現在は昼の十二時。①の会議ですら二時間はかかるが、今回は緊急事態。二時間で終わったら、ラッキー嬉しいね! といった具合だ。


これを今日中、今日中だ。……今日中。何度脳内で繰り返しても地獄の響きだ。


とは言っても、俺のような末端の人間には会議など関係ない。今忙しくするのは、上司や幹部の連中だけだ。



そう思っていた。


―――――――――――――――――――――


 十三時の幹部会議には、何故か俺も呼ばれた。


「手が空いてるだろ。資料作成を頼む」


 ダリウス副長様のご命令。


冗談じゃない。手も目もあいてない四徹目の俺が暇だと仰る。前節でフラグを立てた俺が悪かったのか……?



「ヴァルハルト入手後の勇者の動向分析、城内防衛の弱点整理、各部隊の損耗状況まとめ、幹部の戦力評価。三日以内だ」


「今の案件と並行して、三日で、ですか」


「お前ならなんとかなるだろ」


 これが魔王軍の「信頼」だ。信頼と搾取の区別がつかない。俺は頭が熱くなるのを感じた。これは闘志を燃やしている訳ではない。命の灯火が燃え散らかしているのだ。


「残業代は」


「……頑張ってくれ」


俺の目から光が消えた。魔物の目に光があるというのも変な話だが、とにかく消えた。


 会議室から出て、廊下を歩きながら、俺は頭の中で整理した。


 ヴァルハルト。

伝説の聖剣。

魔族特攻。


 資料を作るということは、勇者の強さを改めて正確に把握するということだ。どこが弱点か、どう攻略するか。


 前線で勇者と戦う訳でもない俺が、勇者について一番詳しくならなくてはならない。


皮肉なもんだ。


―――――――――――――――――――――


 資料作りは二日かかった。


 勇者アレスの戦歴を全部読み返した。突破した前線の数。倒した幹部の数。立ち寄った場所。カジノの回数。……ついでに、カジノで負けた額。


 データを並べると、一人の人間が見えてくる。強くて、ルーズで、でも戦いのときはちゃんとしている。この勇者はよく逃げている。よく言えば引き際を心得ている。悪く言うと、計画性がない。


俺は、誰もいなくなった執務室で五徹目の朝を迎える。


(俺の帰宅に)


一人で乾杯のポーズを取り、回復薬を一気に飲み干す。この味も慣れたとはいえ、無理に回復する感覚は吐きそうになる。


なんで今一人で残業をしているんだろう。


「俺は帰る」と言う暇のなかったオルガは、今日まさに帰宅をした。「今日は空いてますね」と言うと一気に混み出す道具屋と同じ原理だろうか。


じゃあ、何故帰ると言ってない俺は残業をしているのか。


ここまで来ると、食い倒れ上等で「職場よ、吹き飛びたまえ」と思うようになってしまう。







……本当に吹き飛ぶかもしれない。




俺は、さっきまでまとめていた資料に再び目を向ける。


勇者は、まさに今伝説の武器を手に入れた。レベルもまあまあ高い。メタルボディ班の出動により、ここから一気にレベルが上がる可能性がある。





……勝てるんじゃないか?


今まで、勇者もどきはたくさん現れてきた。


それでも、伝説の武器まで辿り着いた者は一人もいなかった。




―――なら、今の勇者は?



俺は、目に光が戻るのを感じた。


今の勇者なら、アレスならやってくれるかもしれない。


俺なんか、きっと勇者が現れたら一瞬で消し炭だろう。



でも、それでも……。


悠久の時を生きる俺たち魔物にとって、生き続けることに目標なんてものはなかった。人生に期限が無いのだから、好きな時に好きなことをすればいい。そう思っていた。


俺は、人生に目標ってやつを持ってみてもいいのかもしれない。


俺は……



俺は、最期まで勇者を応援するぞ。

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