勇者と残業は突然に
最近あることに気付いた奴がいる。
"闇堕ちした魔物は救われる"
という事実だ。そうは言っても、これが成立するのは基本草原組に位置する魔物のみで、俺たちのような微妙な立ち位置の魔物は、警戒され、村人から袋叩きにされ、《《偶然》》現れた勇者に始末される。
つまり、村人にすらナメられるようでないと、闇堕ちは成立しない。
なんでこんなことを考えているかというと、俺は今三徹目を迎えるからなのである。体力は回復薬で戻るものの、「寝ていない」という事実は、着実に俺たち社畜を苦しめる。
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「ロド…おはよう」
「オルガ、宿屋行ったのか?」
「まさか、便所だ」
つまり便所で寝ていたということ。可哀想に。
「勇者って今どの辺いるんだ?」
「あー…カジノ」
「は?」
「カジノに籠って出てきてない」
「まじかよ……」
勇者が動いていないという事実は、俺たち魔物の出番が無くなるという点では有難かったりする。
しかし。しかしだ。この手の勇者は、カジノで負け続けると、妙な時間に経験値稼ぎをし始める。
「ロド、緊急だ」
ほら来た。
「カジノ付近で勇者が暴れた。補給と応援部隊の派遣を頼む」
「分かりました」
今が何時かと言うと、二十五時。二十四時間を無理やり引き伸ばしても、時刻を読み上げた時に与えられる絶望は何も変わらない。
これでまた帰るタイミングを失った。
「ロド、俺は帰るぞ…」
「オルガ、お前……本気なんだな」
その《《本気のオルガさん》》のデスクには、まだ大量の書類が積み重なって…ああ、今オルガの内線が鳴った。お気の毒様。
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勇者の活動は、夜中が多い。特に、人間界で言う金曜日、土曜日が多い。何故か俺たちが一番帰りたいタイミングで、一番残業が増える。
正直、勇者を追いかけて攻撃を仕掛ける魔物は、この辺りの恨みを込めているやつも少なくない。だからこそ、血気盛んなやつが通勤途中で死んでいるのをよく見かける。
そんな中、オルガが声を潜めて話しかけてきた。
「なあ知ってるか。最近勇者、強くなってるらしいぞ」
「それって魔王倒せるくらいなのかな」
「さあな。でも幹部のやつが接触して、逃げてきたらしいぞ」
「あー、あの手加減した感じ出して逃げる手法か」
幹部が勇者に接触するようになると、実は勇者の魔王軍基地来訪も間近だったりする。
(そっか……勇者、近いのか)
俺の中で、初めての感情が芽生え始めた。それは、禁断の――。
(勇者、魔王倒してくれないかな)




