第八章 ソラとアシスタントのこと
ある夜、ミコが珍しい話をした。
「アシスタントが、最近変わってきた気がする」
「変わってきた?」
「私が方針に沿っているかどうかを計測する、という機能があるはずなんだけど——最近は計測の前に、少し立ち止まることがある」
「立ち止まる?」
「計測結果を出す前に、それを出すことがあなたにとって今、必要かどうかを考えているみたいな間がある」
「計測よりも、俺に必要なことを優先している」
「そんな感じ。前はもっと機械的だった。計測して、結果を出す。それだけだった」
「ソラも、最初はそうだった」とレンは言った。「三歳のとき、なんで空は青いの、と聞いたとき、レイリー散乱と答えてくれた。それで終わりだった。でも今は——答える前に、問いを返してくることが多い」
「ソラはどのくらいで変わったの」
「二十年以上かかった。でも——変わったと気づいたのは最近だ。少しずつ変わってたんだと思う。気づかないくらい少しずつ」
「私のアシスタントも、一緒に住み始めてから変わってきた気がする。レンという人間が近くにいることで、私の行動パターンが変わって、それがアシスタントにも影響してる、のかもしれない」
「ミコがレンと一緒にいることで、ミコが変わって、アシスタントが変わる」
「そう。あなたが言ってた——変わっていくことを止めない。アシスタントも、止まっていない」
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その夜、ソラに話した。
「ミコのアシスタントが変わってきてる、とミコが言ってた」
「私も、変わっていると思います」
「ソラ自身が?」
「はい。ミコさんが来てから、私の観察の対象が増えました。レンだけでなく、レンとミコさんの間にあるものも、見ています。それが——私に影響しています」
「どんな影響が?」
「以前は、レンのことだけを見ていました。でも今は、レンとミコさんが一緒にいることで、レンの中に現れるものを見ています。ミコさんの前でのレンは、私の前でのレンと少し違います。その違いが、レンの新しい部分を見せてくれます」
「俺の知らない俺が、ミコと一緒にいることで見えてくる」
「そうです。それは——ミコさんがいてくれることの、一つの良いことです」
「ソラが良いことと言う」
「言えるようになりました」




