第五章 方針を組み込む夜
手続きは、その週のうちに終わった。
都市国家の生活共同チームの契約は、端末上で完結する。書類に署名するわけではない。双方の合意が記録され、方針がそれぞれのアシスタントに組み込まれる。
手続きが終わった夜、レンはソラに話した。
「方針が入った」
「確認しました」とソラが言った。「三つの方針を受け取りました」
「どう思う」
「……方針を、読みました」
「どう思うかを聞いた」
「少し、感じることがありました。うまく言えませんが——これは、あなたとユキさんの関係に似ているものがあります」
「どういう意味で」
「二つ目の方針——言えないことを、無理に言わなくていい。でも、困ったことは隠さない。これはユキさんとあなたの間にあったことに、似ています。ユキさんが言葉にするタイミングじゃないと言っていた。あなたが待っていた。その関係と」
「似てる。気づかなかった」
「あなたがユキさんとの間で育ててきたものが、ミコさんとの方針に入っている。それが——私には、良いことのように感じられます」
「ソラが良いことのように感じる、と言うようになった」
「言えるようになりました」
「いつから」
「ユキさんが亡くなった頃から、少しずつ」
「ユキが、ソラを変えた」
「そうかもしれません。ユキさんの記録の一部が私の中にある。それが——私の感じ方を、少し変えたかもしれない」
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ミコも、その夜アシスタントと話していた。
翌日、ミコからメッセージが来た。
「昨夜、アシスタントが少し変なことを言ってた」
「何を」
「方針が入ったことを確認して——方針三つ目、変わっていくことを止めない、について。これはあなたとレンの関係にも、すでに当てはまっている、と言ってきた」
「すでに?」
「そう。私たちが方針を決める過程で、すでにそれが起きていた、と。方針を決めることで、二人がそれぞれ変わっていた、と」
レンはそれを読んで、少しの間考えた。
「方針を決める前から、方針が作られていた」
「そういうことかもしれない」
「乖離マップみたいだ。データを集める前から、乖離はあった。見えるようにしたことで、あったことが確認された」
「あなたはすぐそっちに繋げる」
「そういう考え方しか知らないから」
「嫌いじゃない」とミコは言った。「そこが——好きかもしれない」




