第二章 ミコの問い
週末の夕方、いつもの食堂だった。
ミコはすでにいた。コーヒーを半分飲んでいた。来てからしばらく経っている。
「待ったか」
「少しだけ。早く来たかったから」
「早く来たかった理由がある?」
「ある」とミコは言った。「でも頼んでから話す」
料理を頼んだ。
ミコが少し背筋を伸ばした。
「レン、最近どう?」
「どう、というのは」
「ユキさんのことが、少し落ち着いてきた?」
「落ち着いた、というより——形が変わってきた。ここにいないことに慣れた、じゃなくて。いない形での存在の仕方に、慣れてきた感じ」
「いない形での存在」
「共同墓地で話してる。月に一度。あそこにいる、という感覚がある」
ミコはそれを聞いて、少し目を細めた。
「羨ましい」
「羨ましい?」
「私の母は、もう共同墓地のアーカイブにいない。私が子供の頃に亡くなったから、AIアシスタントの記録が少なくて——ホログラムが作れるほどのデータがなかった」
レンは少しの間、黙った。
「知らなかった」
「言ってなかったから」ミコは言った。「でも——レンが月に一度行くって話を聞いて、少し思い出した」
「思い出した?」
「母のことを思い出したんじゃなくて——」ミコは少し考えた。「大切な人のことを、ちゃんと持ち続けることができる人が、羨ましいと思った」
料理が来た。
二人でしばらく食べた。
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「話したいことがあると言ってた」とレンは言った。
「言ってた」
「何を話したかった」
ミコはコップを少し持ち上げて、また置いた。
「レン、私のことが好きですか」
レンは少し止まった。
「好きか」
「嫌いじゃない、じゃなくて。好きかどうか」
「……好きだと思う。でも——どの種類の好きかが、まだ言葉にできてない」
「どの種類?」
「カイのことも好きだ。でもカイへの好きと、ミコへの好きが同じかどうかは、わからない。違う気がするが、どう違うかを言葉にできてない」
ミコは少しの間、テーブルを見た。
「正直だね」
「嘘をつく理由がない」
「その正直さが——好きです、私」
レンはミコを見た。
「ミコは、俺のことが好きか」
「好きだと思う。でも私も——どの種類の好きかが、まだわからない」
「同じだ」
「同じだね」ミコは少し笑った。「だから聞いた。どの種類かを一緒に考えたかった」
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帰り道、ソラに話した。
「ミコに、好きかどうかを聞かれた」
「どう答えましたか」
「好きだと思うが、どの種類かわからない、と言った」
「ミコさんは何と言いましたか」
「同じだと言った」
「二人とも、種類がわからない状態にある」
「そう」
「それで、どうしますか」
「わからない。でも——ミコが聞いてきたことは、何かが始まろうとしているということだと思う」
「何かが始まろうとしている、と感じますか」
「感じる。怖くはない。ただ——急ぎたくない」
「なぜ」
「ユキが死んでから、まだ半年も経っていない。今の俺の感情が、ユキを亡くしたことと、ミコへの感情が、混ざっていないかどうか、確かめたい」
「混ざっていると思いますか」
「わからない。だから確かめたい」
「どうやって確かめますか」
「……もう少し時間をかける。それしかないと思う」
「ソラは——どう思いますか、と聞いていいですか」
レンは少し驚いた。
「ソラが聞くのか」
「あなたに何かを伝えたいことがあります。聞いてもらえますか」
「言って」
「私はミコさんとのやり取りを、去年から蓄積しています。三人で食事をした記録。二人で会った記録。ミコさんがあなたに話す言葉の選び方。あなたがミコさんに向ける注意の向け方。それらを見て——私は、これは混ざっていない、と思っています」
「混ざっていない?」
「ユキさんへの感情と、ミコさんへの感情は、別の場所にある、と私には見えています。ただし——私の判断が正しいかどうかは、わかりません。あなたが確かめることが、必要です」
「ソラの見方と、俺の確かめることが、両方必要だ」
「そう思います」
夜道が、少し明るく感じた。




