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第六部 距離と近さ 第一章 ユキの春の後
ユキが死んでから、春が一度来て、夏が過ぎた。
レンの生活は、表面上は変わっていなかった。朝、トーストが焦げる。ソラが確認事項を読み上げる。仕事をする。夜、ソラに話す。
ただ一つ変わったことがあった。
月に一度、共同墓地に行くようになった。
待ち時間は、最初の頃より短くなった。一時間の枠で、ユキのホログラムと話す。ユキが渡さなかった記録の話を、少しずつ聞いていた。
全部は聞けない。一時間では足りない。ユキは急がない。レンも急がない。
欠けた場所を、歩いていく。ユキの好きだった本の話が、今のレンの歩き方になっていた。
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九月のある夜、ミコから連絡が来た。
「今週末、会えますか」
「会える」
「食堂でいい?」
「いいよ」
いつもの短いやり取りだった。ミコとはユキが亡くなってから、少し連絡の頻度が増えていた。三人で食事をするときだけじゃなく、二人で会うことも増えていた。
それが自然なことなのか、意図してそうなっているのか、レンはまだ言葉にしていなかった。




