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スープ01

「ルゥーリ特製リンガステーキ」は、大将や女将さんの思った通り好評だった。ただ、瑠璃の予想も当たっており、瑠璃特製のメニューだけを注文する人はいない。必ず他の料理を一緒に注文している。

 言った通りでしょう、と女将さんを見ると、女将さんは照れ臭そうに笑った。


 今日も今日とてゼンマイ草と砂からヘドロを、刻んだ果物と粉からコンクリートを、たまに肉と黒い液体から海藻の塊を作り出す。

 そんなある日、女将さんがお客さんから一つの意見をもらった。それは冒険者のエルフのような姿の女性から「子どもたちがカルザートを食べてくれないので、良い料理はないか」というものだ。

 カルザートとは、非常に栄養価が高い野菜だが、苦みが強く、子どもから絶不評らしい。女将さんや大将も幼い頃は苦手だったが、大人になった今は食べられるそうだ。


「女将さんや大将が幼い頃食べなくても大丈夫だったように、その方のお子様も無理に食べる必要はないのでは?」

「それがねえ……最近病が流行っててね」


 どうやら、ここ数年幼い子どもがよく罹る病気があり、それに対して効くと言われているのが「カルザート」ということだ。免疫力を高めるビタミンが豊富な野菜なのかもしれない。


「子どもが辛そうなのは、見ていられませんわ。女将さん、わたくしも協力いたします」

「ああ、ありがとうルゥーリ! 味見や材料の確保は、私たちに任せておくれよ!」


 まず瑠璃はカルザートがどんなものなのか確認することにした。大将が張り切って大量のカルザートを用意してきた時、目がおかしくなった。

 カルザートは丸いオレンジのような形の野菜だ。特徴的なのはピンクと緑のマーブル模様の表面だ。

 それが箱にぎっしり入っている様子を見つめると、目が回りそうになる。


「中身はどうなっているんですの?」


 大将に頼むと、大将は包丁でパッカーンとカルザートを真っ二つにした。中の果肉は赤く、まるでスイカのようだ。なんてトロピカルな野菜だろう。


「煮ると美味いんだがなぁ」

「煮る……そうですわ!」


 瑠璃は小さい頃ニンジンが苦手だった。バターソテーとして付け合わせでよく出てきたため、両親に怒られたことがある。

 確かその時は、細かく刻んでハンバーグに混ぜてもらったり、スープにして独特の風味が分からないようにしてもらった。

 そんなわけで、カルザートはスープにしようと提案すると、大将は。


「カルザートをスープに? 相変わらず突拍子もないことを考えつくなぁ、ルゥーリは」

「え、そんなにスープに向いていないんですの……?」




 ***




 気合の入った、カルザートスープの試作が始まった。

 とりあえず包丁を使いたくない瑠璃は、カルザートをすり鉢のような道具で擦り潰した。もちろん皮ごと。

 ピンクと緑と赤を躊躇なくぐちゃぐちゃにしていくと、水分でドロドロに変化していく。その3色が混ざり合うと、沼のようにくすんだ濃い緑色になった。緑色素が強かったらしい。


「味がまろやかになりそうなものはあるかしら?」


 独り言のつもりだったが、偶然、寝起きの大将が通りかかり、「ニフィオの乳」という白い液体について教えてくれた。説明するまでもないが、ニフィオという生物の乳だ。

 瑠璃はニフィオを「牛乳」と呼ぶことにした。ニフィオがどういう生き物なのかは深く考えない。


「牛乳を……これくらいかしら?」


 身構えながらドロドロになったカルザートに牛乳を混ぜると、なんと薄緑のドロドロになった。普通だ。化学変化は起こらず、瑠璃はほっと息をついた。

 さて、スープと言えばコンソメやブイヨン、濃厚なタイプだとクリームスープやポタージュ、チャウダー、ビスク、ピューレスープなどが挙げられる。種類によって具材をどうするか迷うところだ。

 今のスープの素は牛乳が混ざっているので、濃厚なスープになるはず。


「王道に、ポタージュがいい気がしますわ」


 バターも欲しいところだが、瑠璃はバターの風味を感じることはできても、いざ作る時にその発想は出てこない。

 ポタージュの作り方は分からないが、とりあえず水を少量入れた鍋に、先ほどのスープの素を入れて煮込んでみる。

 ぐつぐつという音が大きくなるにつれ、草の匂いも強くなってきた。色だけでなく、匂いも草に近しい。

 煮込んでいる最中、瑠璃は考えていた。ポタージュであるなら、具はどうなるだろう。クルトンが入っているものが好みだが、ここにそれらしきものはなさそうだった。


「大きめの具を入れてみるのも有りな気がしますわね……」


 大きい具であれば食べ応えがでる。もしスープのみを楽しみたければ、具は盛り付けなければいい。

 思い立ったが吉日、瑠璃は一旦鍋を火から外し、具材を探し始める。


野菜(カルザート)牛乳(ニフィオ)……とくれば、やはりお肉を入れるのが良いではないかしら。油も出ますし、スープのお味も良くなるはずですわ」


 瑠璃は、まだ寝ぼけまなこでリビングに転がっていた大将を捕まえ、使っていい肉を聞き出す。朝に弱いらしい大将は、むにゃむにゃしながら答えた。冷蔵室の木の箱に入っている肉は、使っていいらしい。

 冷蔵室の木の箱には、いくつかの肉の塊が保管されていた。大将が切っているのを見たことがある肉から、そうでないものまで、たくさんある。

 スープにするのだから、あまり油が多いものは避けた方がいい気がする――そう思った瑠璃は、肉の塊の中で、白っぽい部分が少なめの物を選んだ。

 さて、ここからが本番だ。

 瑠璃は、包丁を取り出す。肉を切るのは、生まれて初めてだ。


「案ずるより産むが易しとは、今この瞬間のためにある言葉ですわ!」


 瑠璃は勢いよく肉に包丁を突き刺した。


「ぬ、抜けませんわ?!」


 大将の目が完全に覚めるまで、瑠璃の格闘は続いた。




 ***




 大将が切ってくれた大きめの肉を前に、瑠璃は再び首を傾げた。

 ――このお肉、このまま鍋に入れてもいいのかしら?

 肉のサイズはかなり大きい。果たして、火が通るのだろうか。もちろん、下味という概念はまだ存在しない。


「一度焼きましょう。レアが許されるのは牛ステーキだけですものね」


 そういう次元の話ではないが、残念ながら瑠璃に訂正を入れる者はいなかった。

 瑠璃は空いていたかまどにフライパンを乗せ、そのまま肉を焼いた。

 瑠璃は成長していた――ここで焦がしたら、また意味不明な物体を生成してしまうということを理解(わか)っていた。

 そう、ここはシビアな世界。瑠璃は肉の様子を見ながら、焦げないタイミングを見計らった。


「今ですわっ!!――……一部しか焼けていない、ですわね」


 当たり前だった。




 無事、肉の全面を焼き終えることが出来た瑠璃は、いたく感動していた。

 なんと、肉の色が普通なのだ。今までだったら変色したり増えたりと予想外のことばかり起きていたが、今回は違う。きちんと焼いた肉の色をしていた。こんなに感動的なことはあるだろうか。いや、ない。


「これをスープに入れて煮込めば、完成ですわ!」


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