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9.元ヤン撫子と○○王子の青春同盟

 文化祭で起こった騒動の一件で、私と四条が付き合っているという噂は再燃した。しかも私が絡まれているのを見た四条が猛ダッシュで走って行ったことにより、信憑性は増している。

 小峰さんからは「付き合ってないって言ってたのに!」とひどく恨まれ、さつきは毎日話を聞き出そうと様子をうかがってきた。

 大変なことになったとは思いつつ、噂を撤回する気はなかった。

 あのとき聞いた四条の気持ち。ようやく気付いた自分の感情。

 そして周りに嘘をつき続ける、私と四条が抱えた願い。

 それら全てを考えて――私は四条に一つの提案をすることにした。


   ***


「四条、ひとつ同盟を結ぼう」

「はい?」

 文化祭が終わった翌週の昼休み、私は四条を屋上へ呼び出していた。

 季節はもうすぐ十二月。寒空の下、ブレザーにオーバーサイズのセーターを着込んだ四条は、なんだか夏の頃より幼く見える。本気で困惑しながら首をかしげている今は尚更だ。

「どういう意味かわからないんだけど?」

「取引相手から同盟関係に昇格しようってこと。互いに助け合うなら、同盟って言葉の方が合ってる気がするし」

「なるほど……具体的には、何をするの?」

「私たち、付き合ってる噂が流れてるだろ? だからまずは、このまま本当に付き合おう」

「へっ?」

 四条の口から頓狂な声が溢れ出した。

 白い肌を耳まで真っ赤に染め上げて、目を白黒させている。

「えっ? ふえっ? それはそのっ、ど、どうして?」

「その方が互いに正体を隠しやすいと思って」

 四条と私は、互いに互いの本性を知っている。そしてその本性を、周囲の人間に明かされたくない。ならばいっそ彼氏彼女と噂されている状況を利用して、互いに協力しあえばいいのではないかと思ったのだ。私を彼女にすれば、四条も告白されたりつきまとわれたりして、無駄なストレスをためなくて済むだろうし。

 それに私はさつきだけでなく――四条とも学校生活を楽しみたい。また二人でカフェやファミレス巡りをして、美味しいものを食べながら素で話し合える時間が欲しかった。

 自分を偽ることは変わりたいという努力の証。けれど時には息抜きも必要なのだと、四条と関わって実感した。

「付き合ってればいくら二人でいたところで、なんの問題もないしさ。二人で協力すれば、三年間上手くやれるだろ」

「う、う~ん。まあ……僕は前に伝えた通りだから、いいんだけどさぁ……」

 四条は目線を左右に彷徨わせながら、複雑そうな顔でこちらを見てくる。

「ひとつ、聞いてもいい?」

「なんだ?」

 四条は口をもごもごさせた後、不安げに視線を揺らめかせながら問うてきた。

「同盟とはいえ、僕と付き合うことにするなんていいの? 前にも言ったけど、僕は王子でもなんでもない、情けない人間だよ。なのに君の彼氏なんて……」

「いいにきまってるだろ」

 私は四条の言葉を遮り、彼の方へ一歩近寄る。その木枯らしで冷えた手を握って、思い切り――彼の心が温まるようにと願いながら微笑んだ。

「だって私も、あんたのことが好きだからな」

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