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第6話-マッチ売りの少女

みなさん、こんにちは。今回は新しい一話です。

今回は少しボリューム多めかもしれませんが、いつも通り中身はぎっしり詰め込んであります。


できれば時間に余裕のあるときに、ゆっくり一気に読んでいただくのがおすすめです。その方がより良い読書体験になると思います。


前回までのあらすじですが――

アップルマンは努力を重ね、ようやく少しずつ状況が好転してきました。支持率や知名度も、ようやくわずかながら上昇し始めています。


しかし、その裏ではさらに大きな危機が静かに近づいていました。


果たして彼は、この先に待ち受ける数々の試練を乗り越えることができるのでしょうか。


五十嵐は、必死に走っていた。

そこは迷宮のように入り組んだ、薄暗く曖昧な空間だった。

至る所に設置された監視カメラが、まるで彼を見張るかのようにこちらを向いている。しかも周囲では、あちこちで火の手が上がっていた。

だが、五十嵐にはそんなことを気にしている余裕はない。

何が起きたのかも分からない。ただ気づいた時には、すでに逃げていた。

背後には、何か得体の知れない存在が迫っている。

機械なのか、怪物なのか――それすら分からない。

だが振り返る勇気も余裕も、彼にはなかった。

冷や汗が止まらない。

頭の中は真っ白で、手足はいつもより重く感じる。

心臓だけが、胸を破りそうなほど激しく打ち鳴っていた。

視界も感覚もぼやけていた。

出口がどこにあるのかも分からなかった。

この場所がどこまで続いているのかも分からなかった。

それでも五十嵐は、ただ本能だけを頼りに、

足を止めることなく前へ前へと走り続けていた。

どれほど走り続けただろうか。

やがて、前方にかすかな金色の光が見えた。

五十嵐の本能が、それを目指して進めと命じている。

しかし、光へ近づくにつれて――

体が、思うように動かなくなっていった。

足は次第に重くなり、まるで地面に縫い付けられているかのようだ。

走っているはずなのに、ほとんど前へ進んでいないような感覚さえある。

周囲の炎はさらに激しさを増し、

立ち込める煙と熱気が、五十嵐の呼吸を奪っていく。

それでも背後の「何か」は止まらない。

むしろ確実に距離を詰めてきていた。

五十嵐は、重い脚を無理やり前へと運びながら、

必死に腕を伸ばす。

あと少し――

もう少しで、その光に届く。

その時――

=============================================

「がんばれー!アップルマン!」

「任せろ!見てろよ!」

――ドンッ!

鈍い音とともに、アップルマンは最後の一人だったスクールバスのハイジャック犯を軽々と叩きのめした。

そしてアップルファイバーを放ち、犯人たちをまとめてぐるぐる巻きに縛り上げる。

「ふぅ~、危なかったな~。みんな大丈夫?けが人はいないか?」

「やったー!勝ったー!」

「すごーい!」

アップルマンが振り返ると、

数分前まで怖がって震えながら泣いていた子どもたちは、今ではすっかり元気を取り戻し、彼に向かって歓声を上げていた。

アップルマンは子どもたち一人ひとりとハイタッチを交わし、写真を撮り、

さらには筋肉を見せつけるポーズまで取って大げさに叫び、場の空気をさらに盛り上げる。

それからしばらくして。

五十嵐は街を歩きながら、DSAと通話をしていた。

「アップルマン、今朝のスクールバスの件よかったじゃん。

子どもたちにけが人出なかったの大きいよ。

下手したら保護者からクレームすごかったと思うし」通信の向こうから、事務的な声が続く。

「それとさ、戦闘もかなり手際よく終わらせたらしいね。

バスの中って監視カメラなかったみたいだけど、どうやって対応したの?」「まあ……やったことは三つだけっすよ。

血を出さない、えげつない技を使わない、あと汚い言葉を言わない」

五十嵐は肩をすくめながら答える。

「一応、子どもが見ても大丈夫な感じにはしておきました。

正直ちょっと手加減しすぎて動きにくかったですけど……まあ、子どもたちの支持率も上げときたいんで」

「結果的にはいい感じだったと思うよ。

その調子でいけるんじゃない?」

「了解っす。これも若いママさんたちを――」

五十嵐がそこまで言いかけたところで、

スマートフォンに新たな事件通知が表示された。

「ママさんの話はまた今度ってことで。

とりあえず、世界を救いに行ってきます」

そう言って通話を切ると、五十嵐は金のリンゴを一口かじり、

次の現場へと向かって駆け出した。

「……最近では、アップルマンの支持率が徐々に上昇しており、関連グッズの売上も増加。オンライン・オフラインを問わずファンの数も増えていると見られます。これは最近、数々の事件に参加し、従来よりも高い効率で解決していることが要因と考えられ――」

ニュースアプリの記事を読みながら、五十嵐は小さくあくびをした。

少し疲れた顔でスマートフォンの画面を眺めつつ、

自分を褒めているSNSのコメントに「いいね」を押し、

さらにはアップルマンのコスプレをしている女の子の写真をこっそり保存する。

「へへへ……」

思わずニヤニヤと笑ってしまう五十嵐。

だがその様子を、近くにいた同僚に見られてしまった。

「おーい五十嵐くん、なんか機嫌よさそうじゃん」

「まあまあっすよ。

てかさ、今夜飲みに行く人いない?今日は俺が奢るよ」

「お?お前が奢るとか珍しいじゃん。本当か?

なんかいいことでもあったの?」

「この前買った宝くじがちょっと当たってさ。

まあ高い店は無理だけど、軽く一杯くらいならいける」

「タダなら行くに決まってるだろ!」

「今日は五十嵐が一番カッコいいな〜」

五十嵐が奢ると聞き、周囲の同僚たちは大いに盛り上がる。

店の空気も一気に賑やかになった。

その時――

五十嵐のスマートフォンに、再び事件通知が届いた。

「ちょっと電話してくるわ」

そう言って五十嵐はエナジードリンクを一気に飲み干し、

それを口実に店の外へ出た。

その後も一日中事件対応に追われ、

夜の飲み会も終わった頃には、五十嵐はすっかり疲れ切っていた。

家に戻ると、そのままソファにうつ伏せに倒れ込む。

彼は再びスマートフォンを取り出し、

SNSに流れている自分に関する話題を眺めて、満足そうに口元を緩めた。

もっとも――

評価が上がってきたとはいえ、まだ大スターになったわけではない。

「アップルマン最近ちょっとバズってね?

普通に強くて草」

「今日のやつ見た?

あれ一人で止めたの普通にエグい」

「なんか地味だけど堅実タイプよな

嫌いじゃないわ」

「でもさ

ちょっと突っ込みすぎじゃね…?

見ててヒヤヒヤする」

「今は勢いあるけど

ヒーローってすぐ消えるよな〜」

「なんか必死感すごいよな

余裕なくね?」

「まあ半年後も覚えてるかって言われたら

うーんって感じ」

五十嵐は、そんな賛否入り混じったコメントを

少し虚ろな目で眺めていた。

そして小さくつぶやく。

「……まだ足りない……

もっと強くならないと……

もっと、みんなに……」

言葉は途中で途切れた。

重くなったまぶたがゆっくりと閉じ、

五十嵐はそのまま眠りに落ちていった。

数日後。

仕事の合間の短い休憩時間に、五十嵐は人目を避けるようにして

DSAの担当者と通話していた。

「……アップルマン、この前話してたフェイスケア商品の広告の件なんだけどさ。

あれ、受ける方向で考えてる?」

「うーん……まあ受けても別にいいかなって。

短い動画一本撮るだけで、ちょっと報酬も出るらしいし、PR商品とかももらえるみたいだし。

正直まだ細かいところはよく分かんないんですけど」

「こっちとしては別に問題ないんだけどさ。

ただ広報の人たちが『アップルマンとスキンケアってちょっとイメージ合わなくない?』って言ってて」

担当者は軽く笑う。

「ていうかさ、お前ずっとマスクしてるじゃん。

顔見えないヒーローがフェイスケアの広告って、どう撮るつもりなんだろうな」

「そこはまあ……なんとかなるんじゃないですか?

代役使うとか、CGで加工するとか……今どきいくらでもやりようあるでしょ」

「まあ確かに。

その時はうちのスタッフも一応現場には行く予定だし、そんな大きな問題にはならないと思うよ」

「ありがとうございます。

最近やっと調子も上向いてきたし、今のうちに知名度とか注目度をもう少し上げたくて。

ほかにも何か案件あります?」

「ちょっと待ってな……ああ、一つあるわ」

「マッチちゃんっていうインフルエンサーなんだけどさ。

若い女の子で、配信とかで雑談とか占いとかやってるタイプ」

「えぇ……ああいうのって正直めちゃくちゃくだらなくないですか?

その人そんなに再生数あるんですか?」

「まあ数字だけ見れば悪くないよ。

なんでか若い視聴者結構集まってるみたいでさ」

担当者は少し笑う。

「内容のおかげなのか……

それとも童顔巨乳だからなのか。まあ冗談だけど」

「彼女の……何だって?」

アップルマンは平静を装いながら、

こっそりスマートフォンでマッチちゃんのSNSを検索する。

そしてすぐに、彼女が投稿している刺激的な写真に目を奪われた。

「まあ、占いとか興味ないって言うなら

こっちから断っておくけど――」

「ちょ、ちょっと待ってください。

別に興味あるわけじゃないんですけど、念のため聞くだけで……」

アップルマンは慌てて言葉を挟む。

「その人って、ヒーローとコラボして再生数稼ぎたいとか、そういう感じなんですか?」

「まあ、そういうのもあるだろうね。

ただ……今回はちょっと違う」

担当者は少し間を置く。

「アップルマン。

そのマッチちゃん、お前を名指しで指名してる」

「え?」

「アップルマンとコラボしたいってさ。

しかも報酬も結構出すって話」

「お、俺を……?

な、なんで……?

そ、それに報酬って……?」

「まだ細かい条件は分かってないんだけどさ。

……まあここまで聞いて、お前ちょっと乗り気になってるだろ」

担当者の声が少しだけ真面目になる。

「ただ正直、ちょっと怪しい」

「まず一つ。

収録中は第三者入れたくないらしい。

つまり、こっちのスタッフは同行できない。お前一人で行くことになる」

「まあ、こういう条件の企画自体は今までもなくはないんだけどさ」

担当者は少し声を落とした。

「問題はそこじゃなくて――

調べてみた感じ、そのマッチちゃん……能力者の可能性がある」

「え……?

ほ、本当ですか……?」

「まだ確証はないけどね。

もし本当に能力者だった場合、わざわざお前と二人きりで会おうとしてる理由はかなり怪しい」

「まあ、普通にお前のファンで

会いたいだけって可能性もあるけど」

「とりあえず、可能性は全部伝えた。

行くかどうかはアップルマン次第かな」

(もし本当に能力者だったら……

俺を名指しで呼んだ目的は、たぶん金のリンゴを奪うためだよな……)

(どうする……?

でも確証はないし……)

(もし普通の配信者だった場合、

ここで断ったらせっかくの知名度のチャンス逃すことになるし……)

(それに「一人で来てほしい」って条件も、

確かにちょっと怪しいけど……ヒーローが単独でイベント行くこと自体は今までにも普通にあった)

(今までだって何も起きてないし……

そんな都合よく今になって問題が起きるか……?)

(しかもDSAに事前連絡までしてるんだぞ。

本気で奪うつもりなら、普通いきなり襲ってくるんじゃないか……?)

(……それに、仮に能力者だったとしても)

(俺がまったく対処できないって決まったわけでもない)

(最近は調子も上がってきてるし……

ただのインフルエンサー一人くらい、普通に勝てるだろ)

(それにこっちは事前に情報もある。

準備だってできる)

(もし相手が本当に敵だったら……

逆に俺が倒してニュースになれば、知名度だって一気に上がる)

(どっちに転んでも……

悪い話じゃない気がするんだよな……)

(むしろ、これはチャンスなんじゃないか……?)

(……さて、どうするか)

「で、どうする?

アップルマン、決めた?」

「五十嵐くーん、そろそろ時間だよ〜。

サボって逃げようとしてもダメだからね〜」

春野と他の同僚たちが声をかけてくる。

五十嵐は慌ててスマートフォンを少し隠す。

「お、おう。ごめん、もうちょいで終わる!

……そういえばさ、マッチちゃんってインフルエンサー知ってる?」

「おー、知ってる知ってる!結構有名じゃん」

「この前ストリートで何かやっててさ、

めちゃくちゃ人集まってたよ」

「そうなんだ……」

五十嵐は少し考え込み、

やがてDSAへ答えを返した。

「ようこそ、アップルマン! 今日はわざわざ来てくれて本当にありがとうございます! お会いできて光栄です!」

「いえいえ、こちらこそお招きいただけて嬉しいです。」

市内にある、ごく普通の商業ビル。

その一室に設けられた小さなプライベート撮影スタジオで、マッチちゃんはアップルマンを見るなり、まるで小動物のようにぴょんぴょん跳ねながら駆け寄ってきた。

満面の笑みで距離をぐっと詰め、まずは顔を寄せてツーショットの自撮り。

さらに「これ、プレゼントです!」と言って小さな包みまで手渡してくる。

アップルマンは表面上こそ自然に振る舞っていたが、内心ではまだどこか落ち着かず、神経を張りつめていた。

相手が敵である可能性も一応想定してきた。

だがそれでも――

マッチちゃんの甘い笑顔。

揺れる豊かな胸元。

そして、マスク越しでもかすかに漂ってくる香水の匂い。

それらに、どうしても意識を乱されてしまう。

(マスクがあって助かった……。

 じゃなかったら、ずっと胸見てるのバレてたな……)

「それではアップルマン、そろそろ始めましょうか。こちらにどうぞ、座ってください。」

マッチちゃんはふかふかのソファチェアにアップルマンを案内すると、そのままマイクやカメラのセッティングを始めた。

その様子を見ながら、アップルマンはふと気づく。

広い撮影スタジオなのに――

最初から今まで、スタッフの姿が一人も見当たらない。

やがてすべての準備が整い、マッチちゃんはカメラの前で軽く姿勢を正した。

そして、番組の収録が始まる。

「みなさんこんにちは~!マッチちゃんです!」

「なんと今日は!

あの有名なスーパーヒーローご本人に来ていただきました!」

「アップルマンさんです!どうぞ~!」

「は、はじめまして。

アップルマンです……」

アップルマンはぎこちなく手を振り、カメラに向かって挨拶した。

観客もいない。

しかもライブ配信ですらない。

それでも、この妙に静かな収録環境にアップルマンは慣れておらず、動きはどこかぎこちない。

「はは、そんなに緊張しないでください。もっとリラックスで大丈夫ですよ~」

「それでは最初の質問です。

アップルマンさん、昨日の晩ごはんは何を食べましたか?」

アップルマンは、こんなにも拍子抜けするほど普通の質問が来るとは思っていなかった。

「うーん……普通にカレーを食べましたね。」

「へえ、自炊ですか?」

「まあ、そんな感じです。

レトルトなので、そこまで大変でもないですけど。」

「なるほど~。

そういえば、カレーにリンゴって入れたりします?

ほら、だって……アップルマンですし。ふふっ」

「いや……それは特にないですね。

どっちかというと、僕は辛めのカレーが好きなので。」

「へえ~、実は私もなんです~。

じゃあ次は大事な質問です。」

「カレーって、混ぜる派ですか? それとも混ぜない派?」

「それは……絶対に混ぜない派ですね。」

「わかります~!混ぜるのは絶対ダメですよね~」

「それじゃあ、次のコーナーの準備をしましょうか~」

そう言いながらマッチちゃんは、テーブルの上にいくつかの道具を並べ始めた。

カード、奇妙な小物、そして――

どこか安っぽい水晶玉のようなもの。

どうやら占いに使う道具らしい。

「アップルマンさん、ちなみにMBTIって何タイプですか?」

「えっと……確か……」

(出たよ……こういうやつ……)

(まあいいか……

 いきなりナイフで襲われるよりは、よっぽどマシだ……)

その後もしばらく、二人はごく普通の雑談を続けた。

日常の話題。

軽い質問。

たわいない会話。

少なくとも今のところ、マッチちゃんから明確な敵意は感じられない。

雰囲気はむしろ、驚くほど平和だった。

「それでは――

このチャンネル恒例のコーナーにいきましょう!」

「まずは、マッチを一本……火をつけます!」

マッチちゃんはポケットからマッチ箱を取り出した。

しかしアップルマンは、そこで違和感を覚える。

彼女は――

一本ではなく。

数本どころか、一掴みのマッチ棒をまとめて取り出したのだ。

小さな手で束ねたマッチを、そのままマッチ箱の側面に擦る。

次の瞬間――

ボッ!

大量のマッチが一斉に燃え上がり、

まるで小さな松明のような炎が立ち上がった。

マッチちゃんはその炎を掲げ、

静かに目を閉じる。

そして――

祈るように、願い事を口にし始めた。

その瞬間、アップルマンの背筋に寒気が走る。

炎の様子が――

どこかおかしい。

そして思い出す。

(ネットで見た動画では……

 こんな風にマッチを束で燃やしたことなんて……)

ない。

直感が警告していた。

これはおかしい。

アップルマンが手を伸ばそうとした、その時。

――遅かった。

次の瞬間、ソファチェアの内部から金属の拘束具が一斉に飛び出した。

ガシャン、ガシャン、と音を立てながらアップルマンの腕や脚、胴体を瞬時に固定していく。

まるで――

囚人を縛りつける処刑椅子のようだった。

アップルマンは一瞬で完全に拘束され、身動きが取れなくなる。

「金のリンゴの魔法で――」

「っ――!?」

炎の光が、スタジオ全体を一瞬で満たした。

アップルマンは願いの内容を最後まで聞く前に――

突然、

意識がぷつりと途切れた。

まるで電源を切られた機械のように。

次に気づいたとき、

彼は――

奇妙で暗い迷宮の中に立っていた。

ここでは現実の法則がまるで通用しない。

そして背後からは――

得体の知れない怪物のような存在が、

執拗に彼を追いかけてきていた。

五十嵐は気づく。

変身ができない。

能力も使えない。

できることはただ一つ――

逃げることだけ。

本能に従い、ただ前へ走り続ける。

心臓は激しく鼓動するのに、

足は――

どんどん重くなっていく。

やがて、周囲が燃え始めた。

炎はみるみる広がり、

迷宮の壁や天井、

そして至る所に設置された監視カメラさえも飲み込んでいく。

それでも、背後の怪物は止まらない。

迫ってくる。

確実に、距離が縮まっている。

背中に突き刺さるような危機感が、五十嵐を追い立てた。

だが振り返る勇気も、余裕もない。

五十嵐はただ必死に、

自分を追い立てるように前へ走り続けた。

そのとき――

前方に、

金色の光が見えた。

本能が、

あそこへ行け、と叫んでいた。

しかし激しく広がる炎と、背後から迫る怪物の影響なのか、周囲の空間そのものが徐々に崩れ始めた。

天井が砕け、壁が崩れ、

そして床さえも、少しずつ消えていく。

五十嵐が光に近づくほど、空間の崩壊は激しくなっていった。

足場は減り、闇は増え、

身体は次第に思うように動かなくなる。

まるで世界そのものが、彼を拒んでいるかのようだった。

そして――

怪物と炎がついに追いつこうとした、その瞬間。

残されていたわずかな空間も完全に崩れ去り、

世界は一瞬で、何もない闇へと変わった。

しかし五十嵐は、最後に残った小さな足場を踏みしめると、

全身の力を振り絞り、

その光へ向かって跳び出した。

「うああああ!!!」

五十嵐は最後の力を振り絞り叫び声を上げる。

何もない闇の中を飛びながら、

必死に手を伸ばす。

そして――

その指先が金色の光に触れた、その瞬間。

「……っ!」

アップルマンが再び意識を取り戻したとき、

彼は元の撮影スタジオに戻っていた。

しかし異変があった。

変身の一部が、

ゆっくりと解除され始めていた。

そして目の前では、マッチちゃんがまるで魔法を使っているかのような姿勢でこちらを見ていた。

その表情は、

驚きと、困惑と、怒りが混ざっている。

「な、なんで……!

こんなにマッチを使ったのに、

まだ時間が足りないなんて……!」

「てめえ……!」

アップルマンはすぐに拘束具を引きちぎろうと力を込めた。

しかし思うように力が出ない。

どうやら魔法の影響で、変身が不完全になっているらしい。

その様子を見たマッチちゃんは、慌ててさらにマッチを取り出し、再び火をつけた。

そして続けて呪文を唱え始める。

「無駄だよ!

おとなしく眠って、

金のリンゴを渡しなさい!」

その瞬間、アップルマンの視界が再び揺らいだ。

さっきの暗い迷宮の光景が、

現実のスタジオと重なって見える。

まるで催眠にかけられたかのように、

身体の感覚が少しずつ遠のいていく。

だが、アップルマンは簡単には屈しない。

指先をわずかに動かす。

足の指に力を入れる。

さらに唇を強く噛み、

口の中に痛みと血の味を広げる。

どんな方法でもいい。

とにかく、意識をつなぎ止める。

目の前の世界は、

暗い幻の迷宮と、

現実のスタジオとが、

高速で入れ替わるように揺れ続けていた。

「……く、く……」

アップルマンは必死に声を絞り出す。

だがマッチちゃんには、

何を言っているのかよく聞き取れない。

「え? 何て?」

「く……くそ……食らえ……このクソ女……」

そしてアップルマンは、

震える腕を無理やり持ち上げる。

両手の中指を立てて、

かろうじて相手を挑発した。

「くそっ!いい加減あきらめなさい!金のリンゴを渡せ!」

マッチちゃんは苛立ったように叫び、

さらに多くのマッチに火をつける。

炎はさっきよりも大きくなり、

彼女の魔法は明らかに強まっていった。

ここで一気に決めるつもりらしい。

「うあああああ!!!!」

二つの世界の間を行き来するように意識が揺れる中、

アップルマンは叫び声を上げた。

全身に力を込め、

拘束具を引きちぎろうとする。

そのとき――

彼の体から、

かすかに金色の光が漏れ始めた。

次の瞬間、

ドンッ!!

爆発のような衝撃とともに、

金属が砕ける音が響いた。

強烈な光と衝撃波が、

スタジオ全体に広がる。

その眩しさに、

マッチちゃんは思わず目を覆った。

巻き起こった風圧が、

彼女の髪と服を激しく揺らす。

「な、何が起きたの……?」

マッチちゃんはゆっくりと顔を上げ、

恐る恐る目を開いた。

そして彼女が見たのは――

金色の光をまとった人影。

拘束具をすべて破壊し、

元の姿へと戻ったアップルマンが、

そこに立っていた。

どうやら魔法の効果も、完全に断ち切られている。

「そ、そんな……」

「マッチちゃん。君は……その、えっと……何の罪になるのかは正直よく分からないけど。

とにかく――もう終わりだ。」

アップルマンはそう言いながら、手を伸ばした。

アップルファイバーを放ち、

そばに設置されていたカメラを引き寄せる。

そして――

そのまま握りつぶした。

カメラは鈍い音を立てて、粉々に砕け散る。

「くっ……捕まるもんか!」

「少なくとも、今日はね!」

マッチちゃんは手に持っていた大量のマッチを、

一気に吹き消した。

その瞬間――

不気味な火花が弾け、

まるで炎が移動したかのように、

アップルマンの身体に火が燃え移った。

「なんだこれ!?」

「うわああああ!!!」

それは普通の炎ではなかった。

アップルマンは必死に火を叩き消そうとするが、

まったく消える気配がない。

「ははは!無駄だよ!」

「私を倒さない限り、その炎は絶対に消えない!」

「じゃあね!せいぜい“炎上”してなさい!」

そう言うと、マッチちゃんはそのまま逃げ出そうとした。

アップルマンは追おうとしたが、

身体を焼く炎の痛みで思うように動けない。

「待て!逃げるな!」

アップルマンは手を伸ばし、

アップルファイバーを射出する。

マッチちゃんを捕まえようとした。

しかし――

炎に触れた瞬間、

アップルファイバーの弾力と強度が失われた。

金色の糸は炎の中で崩れ、

まるで力を失ったかのように消えてしまう。

アップルマンは片膝をつきながら、

燃える痛みに耐えた。

そして必死に、

この状況を打開する方法を考える。

スタジオの中を素早く見渡す。

しかし、どうやらこの場所は

マッチちゃんによって事前に細工されていたらしい。

使えそうなものは、ほとんどない。

身体を包む炎は消えるどころか、

じわじわとダメージを与え続けていた。

アップルマンはついに力尽きたように倒れ込み、

そばのテーブルをひっくり返してしまう。

その拍子に、

占い道具が床にばらばらと散らばった。

その中の一つ、

水晶玉が転がり落ちて――

ゴンッ、と彼の頭に当たった。

「いてっ……!」

「……ん?」

アップルマンは床に倒れたまま、

目の前の水晶玉を見つめる。

そして――

何かを思いついた。

アップルマンは遠くを見る。

マッチちゃんは、もうすぐスタジオを出ようとしていた。

しかし身体の炎はまだ消えない。

激しい痛みに耐えながら、

アップルマンはふらつきつつもゆっくり立ち上がる。

残された体力でできる行動は、

おそらくあと一つだけ。

もしここでマッチちゃんを止められなければ、

もう立ち上がれないかもしれない。

視界は徐々にぼやけ、

全身の痛みで力も入らなくなっていく。

アップルマンは目を細め、

マッチちゃんの背中に照準を定めた。

息を止め、集中する。

そして数歩だけ後ろへ下がると、

そのまま助走をつけて――

床に転がっていた水晶玉を、

まるでサッカーボールのように蹴り飛ばした。

水晶玉は勢いよく飛び、

まっすぐマッチちゃんの後頭部に命中した。

「きゃあっ!」

運動神経のないマッチちゃんは避けきれず、

そのまま床に倒れて気を失った。

それと同時に、

アップルマンの身体を包んでいた炎もゆっくりと消えていく。

アップルマンは力尽きたように床に倒れ込み、

荒い息をついた。

危機は去ったが、

受けたダメージは決して軽くない。

「はぁ……はぁ……」

アップルマンは床に仰向けになりながら、

マスクの下のイヤホンに手を伸ばした。

DSAへ救援要請を送ろうとする。

「はぁ……はぁ……DSA……こちらアップルマン……」

「支援を――」

その瞬間。

言葉を言い終える前に――

何かが壁を突き破り、

猛烈な勢いでアップルマンへ向かってきた。

アップルマンは咄嗟に横へ転がり回避する。

しかし傷の影響で動きがわずかに遅れ、

腕をかすめるように切り裂かれた。

五十嵐は片膝をつき、

腕を押さえながら顔を上げる。

よく見ると――

それは巨大な釣り針だった。

そしてその釣り針の持ち主が、

破壊された壁の外からゆっくりと姿を現す。

大きな体躯の男だった。

男は室内へ入り、

床に倒れているマッチちゃんをちらりと一瞥する。

だが特に気にする様子はない。

そして視線を、

この場でただ一人の目的へ向けた。

「yo、久しぶりだな。」

「今日はな……」

「俺の宝物を取り返しに来たんだ!」

キング・フィッシャーは巨大な釣り竿を肩に担ぎ、

ゆっくりとアップルマンの方へ向き直った。

そのまま竿を構え、

今にも攻撃を仕掛けようとしている。

=============================================

フロアの中から激しい衝突音が続けて響いた。

次の瞬間――

窓ガラスが砕け散る。

アップルマンの体がそのまま外へ吹き飛び、

真下の道路に停まっていた車の屋根へと落下した。

ドンッ、と鈍い音が響き、

車の屋根は大きくへこんだ。

その光景を見た周囲の人々は、

一斉に悲鳴を上げた。

混乱した様子で、

慌ててその場から逃げ出していく。

アップルマンは苦しそうにうめきながら、

ゆっくりと体を起こした。

全身はすでに傷だらけだ。

それでも、

目の前の敵と向き合わなければならない。

キング・フィッシャーも窓から飛び降りた。

ドンッ、と重い音を立てながら両足で着地し、

衝撃で地面がわずかに揺れる。

しかし本人は、

まるで何事もなかったかのように立っていた。

キング・フィッシャーは慌てる様子もなく、

ゆっくりとアップルマンの方へ歩いてくる。

肩に担いだ巨大な釣り竿を振り回しながら、

次の攻撃のタイミングをうかがっていた。

「知ってるか?」

「金のリンゴを狙ってる奴は、

俺だけじゃない。」

「しかも俺より強い奴なんて、

いくらでもいる。」

「だが――」

「お前がそれを心配する必要はない。」

「アップルマン。」

その瞬間、

キング・フィッシャーの体が一気に加速した。

遠距離から釣り針を振るうと思っていたアップルマンは、

そのフェイントに完全に騙される。

反応が一瞬遅れた。

キング・フィッシャーは一瞬で距離を詰め、

アップルマンの目の前に現れる。

そして――

そのまま強烈な蹴りを叩き込んだ。

アップルマンの体は吹き飛び、

近くの建物の壁へと激突する。

「ぐあああ!!!」

激しい衝撃に、

アップルマンは血を吐いた。

変身スーツもマスクも、

すでにところどころ破損し始めている。

「その心配は――」

「後の俺がすればいいだけだ!」

キング・フィッシャーはそのまま距離を詰め、

アップルマンを壁際へ追い込む。

釣り竿、拳、蹴り。

連続する近接攻撃が容赦なく襲いかかった。

アップルマンは必死に防御するしかない。

しかしキング・フィッシャーの怪力は、

アップルマンの防御を何度も打ち破った。

重い打撃が次々と叩き込まれ、

確実にダメージを与えていく。

アップルマンは体勢を崩しながらも、

反撃を試みる。

だがキング・フィッシャーは、

それをあっさりと受け止めた。

アップルマンは捨て身で前に飛び込んだ。

しかしキング・フィッシャーは一歩下がり、

体をひねって攻撃をかわす。

そのまま下段から蹴りを放った。

アップルマンは攻撃を空振りし、

その勢いのまま足を取られて転倒する。

足首も強くひねってしまった。

アップルマンは地面に倒れ込み、

痛みに顔を歪めながら足首を押さえた。

すぐにアップルファイバーを取り出し、

包帯のように足首へ巻き付ける。

応急処置だった。

「お前の戦い方、少し調べさせてもらったぞ。アップルマン。」

「それにしても、

あのマッチ売りの小娘が」

「ここまでお前にダメージを与えてるとは

思わなかったけどな。」

「まあ、文句は言うな。」

「喧嘩ってのはな――

ルールなんてないんだよ。」

キング・フィッシャーは再び歩み寄る。

アップルマンは明らかに焦り始めていた。

このままでは――

勝てないかもしれない。

そんな考えが頭をよぎる。

(ま、まずい……)

(に、逃げるか……?)

(でも……まだ周りに逃げ遅れてる人がいる……)

(ヒーローの俺が一般人より先に逃げたら……

 もう終わりだ……)

(何か大きな一手を打たないと……)

(でも……それをやったら

 また被害が……)

アップルマンは一瞬迷った。

そのわずかな隙が――

致命的だった。

「おい!」

「よそ見してんじゃねえ!」

巨大な釣り針が振り下ろされ、

アップルマンの背中に突き刺さった。

鋭いフックは深く食い込み、

簡単には外れない。

キング・フィッシャーは竿を思い切り引いた。

アップルマンの体は、

そのまま空中へと引き上げられる。

まるで釣り上げられた魚のように、

アップルマンは空中で必死にもがいた。

やがてキング・フィッシャーは、

アップルマンを空中の最高点まで引き上げると、

そのまま釣り針を外した。

上昇の勢いを失ったアップルマンの体は、

そのまま重力に従って落下を始める。

(何だ……?)

(このまま落として殺すつもりか……?)

アップルマンは空中で体勢を整える。

この高さからの落下なら、

多少衝撃はあるだろう。

だがうまく受け身を取れば、

致命傷にはならないはずだ。

アップルファイバーで着地を補助しようとした、その時。

キング・フィッシャーの動きが目に入った。

キング・フィッシャーは、

一本の槍のような特殊な武器を取り出す。

そしてそれを、

投げ槍のように空へ向かって投げ放った。

槍は凄まじい速度で空気を裂き、

暗い紫色のエネルギーをまといながら、

一直線にアップルマンへ向かって飛んでくる。

次の瞬間には、

その槍が正面からアップルマンの体を貫こうとしていた。

落下中のアップルマンは、

細かい回避動作が取れない。

咄嗟にアップルファイバーを放ち、

即席の網を作って防ごうとした。

槍はまるでミサイルのように、

アップルファイバーへと激突する。

アップルマンは両手に力を込め、

アップルファイバーで必死に受け止めた。

火花が激しく散る。

数秒の拮抗の後――

槍はアップルファイバーを突き破った。

そしてそのまま、

アップルマンの体へと突き刺さった。

「うあああああ!!!!」

アップルマンは苦痛の叫び声を上げる。

そのまま槍を体に突き刺されたまま、

地面へと叩きつけられた。

衝撃で周囲に強い振動が広がる。

アップルファイバーが衝撃を多少和らげたため、

槍は体を完全には貫通しなかった。

それでも――

傷口は大きく裂け、

血が止まらず流れ出していた。

これまで積み重なってきた傷に加え、

先ほどの落下、そして槍による致命傷。

アップルマンは地面に倒れたまま、

ほとんど動くことができなかった。

全身の力が、少しずつ抜けていく。

意識もぼやけ始め、

視界はだんだん暗くなっていった。

呼吸だけが荒く、速くなる。

「ぁ……あ……」

もうまともに思考することもできない。

言葉さえうまく出ない。

アップルマンはただ地面に横たわり、

苦しそうな声を漏らすことしかできなかった。

それでも、

残されたわずかな力で意識をつなぎ止めようとする。

だが感じられるのは、

ただひたすらに続く痛みだけだった。

キング・フィッシャーはゆっくりと近づいてくる。

まるでアップルマンが、

すでに逃げ場のない獲物であるかのように。

キング・フィッシャーはアップルマンのそばに立ち、

見下ろした。

その目には、

露骨な軽蔑が浮かんでいる。

そして不気味な笑みを浮かべると、

そのままアップルマンの体を踏みつけた。

さらに両手で槍を握り、

そのまま体の奥へ押し込んでいく。

「うあああああ!!!!!」

アップルマンは激痛に叫び声を上げる。

本能的に両手で槍を握り、

それ以上押し込まれるのを必死に止めようとした。

しかしキング・フィッシャーの力は圧倒的だった。

アップルマンの手は震え、

徐々に力を失っていく。

「死ね!死ねよ!」

「これで金のリンゴは

ついに俺のものだ!」

「ははははは!」

キング・フィッシャーは狂ったように笑った。

その目には、

純粋な殺意と歓喜しかない。

一方アップルマンは、

次第に痛みすら感じなくなっていく。

握っていた手も、

ゆっくりと力を失って落ちた。

致命傷が重なり、

視界はさらに暗くなる。

意識が、

遠ざかっていった。

それでもキング・フィッシャーは手を止めない。

あと少しで――

終わる。

その瞬間――

横から一本の矢が飛来した。

キング・フィッシャーに命中し、

小さな爆発を起こす。

「ぐあっ!?」

「な、なんだ今のは!?」

キング・フィッシャーは目の前のアップルマンに意識を集中しすぎていたせいで、不意の奇襲に気づくことができなかった。

その一撃によって、彼の動きがぴたりと止まる。

続いて、さらに数本の矢が立て続けに飛来し、次々とキング・フィッシャーの身体へと襲いかかった。

彼は慌てて巨大な釣り竿を振るって矢を弾き返そうとするが、それでも何本かは防ぎきれず命中する。

「ぐあっ!……誰だ!? 一体どこから――!」

苛立ち混じりに叫んだその瞬間、今度は巨大な銀色の狼犬が現れ、猛然とキング・フィッシャーへ飛びかかった。

鋭い牙と爪をむき出しにして襲いかかるその姿は、まるで野生の獣そのものだった。

キング・フィッシャーはとっさに釣り竿を横に構え、狼犬の口を押し止める。

両手で必死に竿を支えながら、その凄まじい咬合力に耐える。

噛みつきこそ防いだものの、狼犬の前脚による鋭い爪が彼の身体を何度も掠め、いくつもの傷を刻んだ。

その隙を逃さず、再び矢が飛来する。

数発の矢が再びキング・フィッシャーの身体に突き刺さった。

「ちっ……くそっ!」

さすがのキング・フィッシャーも状況の混乱を感じ取り、いったん距離を取って後退する。

そして視線を巡らせた先で、ついにその矢を放っている人物を見つけた。

そこに立っていたのは、緑色のマントを羽織り、クロスボウを構えた女性だった。

しかしその姿はどこか人間離れした雰囲気をまとっている。

女性は静かにクロスボウをキング・フィッシャーへ向け続ける。

その足元では、先ほどの銀色の狼犬が唸り声を上げながら、今にも飛びかかりそうな姿勢で待機していた。

キング・フィッシャーは苛立ちと警戒を隠さず、彼女に向かって問いかける。

「おい、てめえ……誰だ?

まさかお前も金のリンゴを狙って来た連中か?」

女性はわずかに首を振り、落ち着いた声で答えた。

「いいえ、違うわ。

私の名前はレジャイナ。

女王であり、そしてスーパーヒーローよ。」

そう名乗ると、彼女はさらに矢を装填しながら続けた。

「アップルマンからの救援要請を受けてここに来た。

そして、敵は……どうやらあなた一人みたいね。」

言い終わると同時に、再びクロスボウの引き金が引かれる。

矢が鋭い音を立ててキング・フィッシャーへ向かって飛ぶ。

さらに遠くの方から、かすかにパトカーのサイレンが聞こえてきた。

キング・フィッシャーは顔を歪め、舌打ちする。

「スーパーヒーローだと……?

ちっ……よりによってこのタイミングで……!」

そして苛立ちを爆発させるように叫んだ。

「くそおおおお!!」

彼はアップルマンの身体に突き刺さっていた特殊な長槍を乱暴に引き抜くと、これ以上の面倒事を避けるため、そのまま撤退を選ぶ。

「アップルマン! アップルマン!」

レジャイナはキング・フィッシャーを追わず、すぐにアップルマンの元へ駆け寄った。

地面に倒れている彼の身体は、全身傷だらけだった。

そして胸には、長槍によって穿たれた大きな傷口があり、血が止まる気配もなく流れ続けている。

「アップルマン……!」

しかし――

彼は彼女の声に反応しなかった。

すでに意識は完全に失われており、

そして――

呼吸も、止まっていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。いかがでしたでしょうか?


少し突然かもしれませんが、おそらく次回が最終話になると思います。五十嵐の物語も、いよいよ一区切りとなりそうです。


ここまで読んでくださったこと、本当に感謝しています。


次回もぜひ読みに来てくださいね!(とは言いつつ、正直いつ更新できるかは自分でも分からないんですが……笑)


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