第5話-拍手
みなさん、お久しぶりです。Noah Novaです。
寂しかったですか?
最近ちょっと忙しくて(実は兵役中です)、なかなか更新できませんでした。すみません。
でもようやく少し時間ができました。
(兵役中にあった面白い話は、また機会があればシェアしますね。)
さて、前回のおさらいです。
ヒーローとしての活動から一時的に距離を置いていた五十嵐は、正体不明のヴィランと遭遇。
さらに、自分の“金のリンゴ”が次々と敵を引き寄せてしまう存在であることを知ります。
内にも外にも追い詰められた五十嵐は、再び立ち上がることができるのか――?
久しぶりの新章、どうぞお楽しみください。
コンビニの店内で、マスクを被った男が、小柄な女性を人質に取り、もう片方の手には拳銃を握って店員を大声で脅していた。
「変な真似するな!さっさと金を出せ!」
犯人は銃口を店員と女性の間で交互に向ける。女性は恐怖で震え、まったく抵抗できない。店員も銃を突きつけられ、恐怖のあまり命令に逆らうことができず、レジから現金を取り出すしかなかった。
他の客たちも店内の隅で身を縮めている。犯人は銃と人質を持っているため、誰一人として軽々しく動くことができない。
さらに店の外には車が停められており、運転席には同じく銃を持った仲間が待機していた。逃げることもできず、密かに通報することも犯人に気づかれる恐れがある。
命を守るため、全員がうつむき目を閉じるしかなかった。ただ、犯人が金を奪って早く立ち去ることを祈るのみだった。
「早くしろ!それとも俺が撃たないとでも思ってるのか?試してみるか?あ?」
「い、いえ……」
犯人はさらに店員を威嚇する。店員は慌てて動きを早めるが、極度の緊張のせいで手元はますます乱れていく。そして不注意で、大量の札束を床に落としてしまった。
「おい!わざとやってんのか!これ以上ふざけたら撃つぞ!」
威嚇のため、犯人は怒りに任せて天井へ一発撃った。凄まじい銃声が店内に響き渡り、全員の恐怖はさらに増す。
弾丸は天井を貫き、穴を開け、粉塵がぱらぱらと落ちてきた。
「……ああああっ!」
その直後、かすかに叫び声が聞こえたかと思うと、天井から人影が落下してきた。天井に大きな穴を開け、そのまま床へ激しく叩きつけられる。衝撃で床にはいくつもの亀裂が走った。
店内の全員――犯人たちも含め、突然の出来事に呆然とする。何が起きたのか理解できない。
犯人は思わず自分の銃をちらりと見た。今撃った弾のせいなのかと疑ったのだ。
「くそっ……いてぇ……!やっぱ着地もっと練習しねぇとな……」
男は悪態をつきながら床に倒れ込み、数秒間うめき声を上げる。だが、あれほどの衝撃を受けたにもかかわらず、ゆっくりと立ち上がり、まるで大したことでもないかのように体を伸ばした。
その奇妙な格好に、周囲はようやく気づく。胸には金色のリンゴのエンブレムがある。
そして男自身も、ここがコンビニだと今さら気づいたようだった。
「えっと……ちょ、ちょっと待って!俺、怪しい者じゃない!ただ……」
男は両手を上げ、慌てた様子で弁解しようとする。
だがすぐに、店内の状況に気づいた。犯人、人質、店員、隅で縮こまっている客たち――全員がぽかんとした表情で彼を見ている。
先ほどまでの張り詰めた恐怖の空気は、この奇妙な乱入者によって一瞬途切れていた。
「えっと……今って……強盗?それとも……?助け、いる?」
まさかこんな場面に出くわすとは思っていなかったらしい。
数秒遅れて我に返った犯人は、すぐさま銃口を男へ向けた。
「動くな!撃つぞ!」
犯人は怒鳴る。
男も反射的に両手を高く上げた。
だがその時、犯人の銃を持つ手がわずかに震えていることに気づく。さらに視線を巡らせると、壁や天井にいくつかの弾痕があった。
「なぁ……そんなに怒るなよ……金だけ持ってくならそれでいいだろ?他の人には手出すなよ。な?」
男は穏やかに説得を試みるが、効果は薄い。
「うるせぇ!端に行け!早く!」
「……あのさ、お前の銃、もう弾入ってないぞ?」
その一言で、犯人の思考が一瞬止まった。
「は?な、なんでだよ?俺はさっき――」
犯人が反射的に銃を確認しようとした、そのわずかな隙。
男の手から金色の糸が射出され、犯人の手首に絡みつく。
一気に引き寄せると、強烈な痛みに犯人は銃を落とした。
拳銃は床に転がる。
犯人は慌ててしゃがみ込み、銃を拾おうとする。
だが男は一瞬で距離を詰め、人質を片手で引き寄せた。
そしてそのまま、サッカーボールを蹴るかのような軽やかな飛び蹴り。
犯人は吹き飛ばされ、商品棚に激突する。大量の菓子が降り注ぎ、そのまま意識を失った。
「……大丈夫か?」
男は人質の女性に声をかける。
女性はまだ震えながら、しがみついたままだった。
小柄な体が密着し、その感触に男は一瞬固まる。思わず視線を上へ逸らす。
(勃つな……勃つなよ……)
その時、男は店の外にいたもう一人の犯人が、店内の異変に気づいて慌てて車で逃げようとしているのを見つけた。
男は床に落ちていた拳銃を拾い、すぐさま外へ飛び出す。
だが撃つつもりはなかった。
拳銃をそのまま投擲物のように振りかぶり、運転席めがけて全力で投げつける。
拳銃は窓ガラスを割り、犯人に直撃した。驚いた犯人はハンドル操作を誤り、車はそのまま路肩のバリケードに突っ込む。
エアバッグが作動したおかげで大怪我ではなさそうだ。
男は車に駆け寄り、肘で窓を叩き割ると、犯人を引きずり出した。
犯人はなおも銃を掴もうとするが、男は素早く踏み込み、一撃で顔面を打ち抜く。
犯人はそのまま気絶した。
すべての犯人を制圧し終えてから、男はようやく周囲の騒ぎに気づいた。
先ほどまで店内にいた人々や、近くにいた通行人たちが次々と集まり、男を見つめている。
「誰あれ?新しいヒーロー?」
「見たことないけど、結構強くない?」
ざわめきが次第に大きくなる。
男は面倒を避けるため、その場を離れようとした。
「すごい!」
「助けてくれてありがとう!」
「かっこいい!」
歓声と拍手が広がる。
男は思わず足を止めた。
最初は戸惑っていたが、やがてその場にとどまり、歓声を受け入れる。
そして――それを、味わう。
「……すげぇ……俺、愛されてる……」
思わず小さく呟く。
軽く手を振り、うなずく。
歓声はさらに大きくなった。
何人もの人がスマートフォンを取り出し、写真や動画を撮り始める。
マスクの下で、男は満面の笑みを浮かべていた。
まるでスターになったかのような感覚だった。
その時、数人が近づいてきた。
好奇と憧れが混じった表情で問いかける。
「……あなた、誰なんですか?」
「俺は……」
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「……十嵐くん……五十嵐くん!」
同僚の春野の声が、五十嵐の耳に入る。
彼ははっとして、スマホで再生していた動画を慌てて停止した。
「え、あっ!ごめん!どうかした?」
「店長が、そろそろ上がっていいってさ。何見てたの?そんな真剣に。」
「お、おう……別に、なんでもないよ。はは……ごめん、ありがと。」
数人で軽く片付けを済ませ、そのまま一緒に店を出る。
「そういえばさ、明日ちょうど店休みだし、これから一杯どう?」
「いいね、それ。」
「五十嵐くんも来る?」
後ろを歩いていた五十嵐に声がかかる。
彼は少しだけ迷ったあと、うなずいた。
「……うん、行くよ。」
五十嵐は少しだけ作り笑いを浮かべて、皆の後を追う。
そして、先ほど再生していた動画を完全に閉じた。
それは一、二分ほどの短い映像。
かつて彼が小さな強盗事件を止めた時のものだった。
その時に初めて「アップルマン」という名前が広まり、いわば彼のデビュー事件といってもいい出来事だった。
同僚たちと飲み屋へ向かいながら、五十嵐は自然と、少し前の出来事を思い出していた。
アップルマンはDSAの休憩室の一室にいた。
マスクは半分だけ着けたまま。
特に気にする様子もなく、足を組みながらタピオカを飲み、スナック菓子をつまんでいる。
向かいに座っているのは、パソコンを操作しているDSA職員だった。
作業跡の残る作業服を着ており、胸には「伊達 陽介」と書かれた名札が下がっている。
ヘアバンドで少し乱れた髪を押さえ、目の下には濃いクマ。
「俺いつ帰れんだよこの地獄」
とでも書いてありそうな虚無の目で、画面を見つめながらひたすらキーボードを叩いている。
どうやら誰かと通話もしているらしく、アップルマンの耳に断片的な声が入ってきた。
「……資料まだ?早くして!」
電話の向こうからは女性の声が聞こえる。別のDSA職員だろう。
仕事の件で口論になっているらしい。
「うるせぇな!クビにできるならしてみろよ!」
陽介も遠慮なく言い返す。
しばらくして通話は切れたが、彼の機嫌はさらに悪くなっただけだった。
「……あのさ、伊達さん?タピオカでも飲んで、ちょっと落ち着いたらどう?」
さすがのアップルマンも、思わず声をかけた。
「できるならそうしたいよ。けどな、クソ上司が許さねぇんだよ。せっかく休み明けなのに仕事山ほど投げてきやがって。マジで最悪だ。くたばれ高瀬!」
悪態をつきながら、キーボードを叩く指の力も強くなる。
(高瀬さんって……たしかおっさんじゃなかったっけ?さっきの声、女っぽかったような……?)
「……まあいい。話を戻すぞ。」
陽介は画面から目を離さず言う。
「アップルマン。前回、駅で身元不明のヴィラン二人と単独で交戦。一人は逃走したが、もう一人は制圧・逮捕。そこはよくやった。」
「べ、別に……まあ、普通だろ。」
率直に褒められ、アップルマンはわずかに得意げな表情を浮かべた。
「ただし、駅構内の大規模損壊。公共物の破壊。スプリンクラーと電力系統の停止により列車が一時運休。その間接損失も発生している。詳細データ見るか?」
「……いや、いい。どうせまたネットでボロクソ言われたやつだろ。」
「いつものことだが、間接損害率はできるだけ抑えろ。」
陽介はパソコンを回し、画面をアップルマンに向ける。
「それから、あの二人のヴィランについても調査が進んだ。」
画面には写真と簡単なプロフィールが表示されていた。
「まず、お前が倒したスライムオタク。名前は……まあ重要じゃない。」
陽介は淡々と続ける。
「元はただのオタク。推してたVtuber配信者が、昔浮気してた元カノだったと知って闇落ち。ダークウェブ経由でスライム召喚リングを入手し、復讐を試みた。」
少し間を置いて、
「……まあ、ありがちなクソみたいな起源だな。重要度は低い。」
「相当スパチャしてたんだろうな。」
アップルマンはぼそっと言った。
「で、逃走した釣りのおっさんの方だが……」
陽介は画面を切り替える。
「コードネームはキング・フィッシャー。元は普通の漁船の船長だったらしい。」
陽介は画面を指しながら続ける。
「バミューダ・トライアングルに航海した後、能力とあの特殊な釣竿を得たという話だ。それ以降は各地を航行し、トレジャーハンターを名乗っている。」
画面には海上で撮られた写真や戦闘記録が表示されている。
「そして――お前の“金のリンゴ”も、奴の標的の一つだ。」
アップルマンは無言で画面を見る。
「それだけじゃない。あのオタクも金のリンゴを狙っていた。正直、俺たちもまだ金のリンゴについては分かっていない。何なのか、どこから来たのか。……なのに、まるで“早上がり許可証”みたいに、誰もが欲しがっている。」
「そんなこと言われても……俺にも分かんねぇよ。」
アップルマンは手に持っていたタピオカを無意識に置く。
「どこから来たのかも知らない。なんでこんなものが、俺みたいなやつに拾われたのかも。」
部屋の空気がわずかに重くなる。
「もしあのオタクの言っていた通り、金のリンゴにそれだけの価値があるなら――」
陽介は椅子にもたれかかる。
「釣りのおっさんはまた来る可能性が高い。……それに、他にも狙う連中が現れるかもしれない。」
小さく息を吐く。
「面倒な話だな。」
「つまり……理屈の上じゃ、金のリンゴを欲しがるやつは、これからも出続けるってことか……」
短い沈黙。
アップルマンが静かに口を開く。
「……金のリンゴそのものが、消えるでもしない限り、な。」
「乾杯!飲め飲め!」
五十嵐の意識は、現在の飲み会へと引き戻される。
テーブルはすでにかなり盛り上がっている。
彼は自分の前に並んだ空きグラスを見た。何杯も飲んでいるはずなのに、超人の体質のせいでまったく酔わない。
周囲の笑い声の中、五十嵐は作り笑いを浮かべる。
楽しそうな皆の中で、自分だけが少し浮いているように感じた。
「ちょっとトイレ行ってくる。」
五十嵐はグラスに残っていたビールを一気に飲み干し、静かに席を立つ。
そのまま居酒屋の外へ出て、少し空気を吸った。
夜の冷たい風が神経を刺激し、さっきまでの曖昧でぼんやりした空気から少しだけ目が覚める。
「……はぁ、つまんねぇ……いっそまた何人かぶっ飛ばしたほうがマシだな……」
小さく独り言のように呟く。
「それにしても、あの後やけに静かだよな……誰も仕掛けてこない。」
「お、五十嵐?どうした?気分悪いのか?」
独り言をつぶやきながら軽く体を伸ばしていた五十嵐に、外でタバコを吸っていた久我と他の同僚が声をかけた。
「いや、別に。ちょっと飲みすぎたかもな。外の空気吸いに来ただけ。」
軽く笑ってごまかす。
「大丈夫か?支えるか?はは。」
少しだけ気まずい空気は残るが、通りを行き交う人々のざわめきを眺めているうちに、五十嵐の肩の力もわずかに抜けていく。
両手をポケットに入れ、店の壁にもたれかかる。
数秒の沈黙。
久我は煙を吐き出してから、口を開いた。
「そういえばさ、前にプロレスやってた理由、聞いたことなかったよな?」
「……え?そうだっけ?」
唐突な質問に、五十嵐は一瞬言葉に詰まる。
「楽しいから?興味?それとも金?……冗談だよ。ちょっと気になっただけ。別に答えなくてもいいけどさ。」
「……別に、大した理由じゃない。」
行き交う人波を見つめながら、五十嵐は少し考える。
何度か聞かれたことのある質問だ。
小さく苦笑して、視線を落とす。
「へぇ?じゃあ、聞かせてみろよ。」
「……たださ……」
五十嵐は少し間を置く。
「スターみたいに、光って、覚えてもらいたかっただけだ。」
視線はまだ通りの人波に向けられている。
「俺は……」
その時、強い風が吹き抜け、言葉は途中で途切れた。
周囲の人々と同じように、二人も反射的に空を見上げる。
一瞬、空を横切る人影。
ざわめきが小さく広がった。
「今の見た!?お嬢じゃない!?」
「マジ!?もう一回見たいんだけど!」
ほんの一瞬で姿は消えたが、人々はなおも空を見上げ、口々に騒ぎ続ける。
スマホを構える者もいる。
久我たちの表情を見て、五十嵐は再び空を見上げる。
そこにはもう何もない。
それでも、どこか羨ましさを含んだ視線だった。
小さく、ほとんど聞こえない声で呟く。
「……俺は、ただ……一生このまま、名前も残らないまま終わりたくないだけだ。」
「ん?悪い、ちょっと騒がしくて。なんか言った?」
「……いや、なんでもない。」
五十嵐は小さく笑い、首を振る。
そして店の中へ戻り、次の一杯を手に取った。
その夜、少し酔った五十嵐は家に戻ると、服を脱ぎ捨て、そのままソファに倒れ込んだ。
「はぁ……俺、設定的にはスパイダーマンと似てるはずなのに……なんであんな風に人気出ねぇんだよ……」
意味のない愚痴をこぼしながら、スマホをぼんやりとスクロールする。
やがて、自分の名前を検索し始めた。
いつも通り、目に入るのはネット民の皮肉や悪口ばかり。
ニュース記事も最近の事件が数件あるだけで、どれも特に良い内容ではない。
だが、その中で偶然、いくつかのコメントが目に留まった。
「壊しすぎだけど、センスはあるよな」
「アップルマンって、まだ若い感じする」
「雑だけど嫌いじゃないんだよな」
「詰めれば化けそう」
五十嵐はゆっくり体を起こした。
アルコールが少しずつ抜けていく。
顎に手を当て、しばらく考え込み、小さくため息をついた。
「どう考えても、お嬢クラスのヒーローには敵わねぇよな……」
少し間を置く。
「……でも、俺だって、もっとやれることあるはずだろ。」
ソファから立ち上がり、デスクに座る。
パソコンを起動し、DSAのデータやネット上の情報を照合しながら、自分の写真、映像、報告書を整理し始めた。
そして一つ一つ、見直していく。
「ここ、素直にワンパンでよかったな……この動き、無駄だ。」
「何でも壊して武器にすんなよ……ヒーローだぞ俺……ストリートギャングじゃねぇんだから……せめて安い物にしろ。」
「……他のヒーローなら、どう動く?」
「敵が胸元開いてるからって見んなよ……戦闘中だぞ。」
「アップルファイバーはスパイダーウェブじゃねぇ。壁走り真似すんな。」
久しぶりに、五十嵐は本気で向き合っていた。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
気づけば、パソコンの前の椅子で、そのまま眠り込んでいた。
「はぁ……だりぃ……首いてぇ……」
出勤中、五十嵐は大きなあくびをしながら、寝違えた首を手で押さえた。
「どうした五十嵐?昨日夜更かしか?」
「ここ数日あんまり寝れてなくてさ。首も寝違えたみたいで、マジ痛ぇ……最悪だ。」
「夜通しゲームでもしてたんだろ、はは。」
「……まあ、そんな感じ。ちょっと“完璧クリア”目指してみたくなってさ。」
「へぇ?そんなに本気?で、クリアできたのか?」
「まだだな。はは。」
雑談しながら作業をしていると、スマホに事件通知が届いた。
五十嵐の表情が一瞬だけ沈む。
だがすぐに、少し真剣な顔つきに変わった。
「すみません店長!ちょっと腹痛くて、トイレ行ってきてもいいですか!」
「え?あ、ああ……早く行け。」
五十嵐はすぐに作業を切り上げ、店と商業施設を後にした。
そして急ぎ足で現場へ向かう。
市街地の道路を、一台の貨物トラックが猛スピードで走行していた。
車列の間を強引にすり抜け、ときには車体の大きさを利用して他の車両や簡易バリケードを押しのけながら突き進む。
信号も標識も無視。
歩行者や周囲の車両は恐怖に駆られ、必死に距離を取る。
数ブロック後方からは警察車両が追走していた。
「もっと飛ばせ!警察が追いつくぞ!」
「分かってる!黙ってろ、急かすなクソ!」
運転席と助手席の二人は緊張した様子で逃走している。
どちらもマスクを着け、拳銃を所持していた。
二人の間には、いくつもの現金袋が積まれている。
「この一件が成功すれば、俺たちは――」
ドンッ!
助手席の男が札束を数えている最中、突然、車体上部に強烈な衝撃が走る。
トラックが大きく揺れた。
バックミラー越しに確認すると、貨物コンテナの上に人影が立っている。
アップルマンだった。
「銀行強盗、だよな?金はこの中か?」
アップルマンは片足を振り上げ、コンテナの天井を強く踏みつける。
金属がへこみ、激しい振動が車内へ伝わった。
「振り落とせ!」
「分かってる!掴まっとけ!」
トラックは左右に激しく蛇行し始める。
アップルマンは低い姿勢で車体を掴み、必死に耐える。
だがトラックはそのまま他車と接触。
衝突は連鎖し、金属音とガラスの破片が道路に散らばっていく。
転がり落ちたタイヤが歩行者へ向かう。
アップルマンは即座にアップルファイバーを射出し、それを引き止めた。
「くそ、急がねぇと!」
アップルマンは大きく跳躍し、そのまま衝撃を利用してコンテナの天井を突き破る。
金属を貫通し、車内へ侵入した。
中には現金袋だけでなく、複数のマスク姿の犯人が待ち構えていた。
一斉に銃口が向けられる。
着地と同時にアップルファイバーを振り抜き、犯人たちの足元を乱す。
体勢が崩れ、わずかな隙が生まれる。
戦闘と車体の揺れにより、紙幣が宙を舞い始めた。
アップルマンは素早く一人へ踏み込み、銃口を掴んで発砲を阻止する。
そのまま強引に銃を引き剥がし、頭突きを顔面に叩き込む。
さらに相手の体を持ち上げ、そのまま別の犯人たちの方向へ投げつけた。
数人がまとめて倒れ込み、コンテナの壁へ激突する。
飛び交う弾丸を体を捻ってかわし、そのまま前方へ飛び蹴りを放つ。
敵は地面に倒れ込む。
落ちた銃へ手を伸ばそうとした瞬間、アップルマンは足でその手首を踏みつける。
悲鳴が上がる。
アップルマンは銃を拾い上げ、銃床で顔面を強打した。
敵は動かなくなる。
横から銃口が向けられているのに気づく。
即座にアップルファイバーを撃ち出し、銃身を弾く。
発射された弾丸は軌道を逸れ、コンテナの壁に穴を開けた。
続けてアップルファイバーで相手を引き寄せる。
距離が詰まった瞬間、大きなフックを叩き込む。
犯人はそのまま床に沈んだ。
別の敵が至近距離から発砲する。
コンテナ内は狭い。
アップルマンは低く身を落とし、腕で上半身を守りながら前へ突進する。
体当たりで相手を壁へ叩きつける。
そのまま胸ぐらを掴み、床へ強く打ちつけた。
鈍い衝撃音が響き、敵は気絶した。
コンテナ内の敵はすべて倒れた。
舞っていた紙幣が、ゆっくりと床へ落ちていく。
「……数枚くらいならバレねぇか……いや、待て。」
床に落ちた紙幣を数秒見つめる。
一瞬、よからぬ考えが頭をよぎる。
「……俺、まだやることあったな。」
「後ろどうなってんだ!?」
コンテナと運転席は繋がっていない。
運転席の二人は、何が起きたのか把握できていなかった。
「ちっ……俺が確認する。」
バンッ!
助手席の男が銃を取ろうとした瞬間、窓ガラスが割れる。
外にはアップルマン。
銃を向けるより早く、アップルマンの足が車内へ伸び、銃を蹴り飛ばす。
さらに強く蹴り込み、男はそのままダッシュボードに突っ伏して動かなくなった。
運転席の男も銃へ手を伸ばす。
だがアップルマンは素早く車内へ体を滑り込ませ、素手で銃を奪い取った。
「さあ、路肩に寄せろ。さもないと――」
拳を軽く構える。
運転手は観念したようにブレーキを踏み込んだ。
「……え?な、なんだ……?」
運転手の顔色が変わる。
「どうした?」
「ブ、ブレーキが……効かねぇ……」
「ふざけるな!ちゃんと踏め!」
「ほ、本当だって!壊れてる!」
アップルマンはペダルを踏み続けている様子を確認する。
だが速度は落ちない。
さっきの衝突でやられたのかもしれない。
「shit…」
「ど、どうする……?」
犯人でさえ頼るように聞いてくる。
数秒の思考。
アップルマンは決断し、窓から外へと体を出した。
「お、おい!まさか置いていく気か!?」
「違ぇよバカ!人のいない方向へ走らせ続けろ!俺が止める!」
アップルマンは車外へ這い出し、屋根へと登る。
そのまま車体後方へ移動する。
交通量は多くはないが、一刻も早く止めなければならない。
車の屋根に立ち、前方を見据える。
軽く手をこすり、後方へ跳び降りる。
同時にアップルファイバーを放ち、車尾へ固定。
そのまま体ごと引きずられながら走行する。
重心を落とし、下半身と体幹に力を込める。
両腕を全力で引き絞る。
まるで暴れ野獣を止めるかのように。
しばらくして、トラックの速度はわずかに落ち始める。
だが前方の交差点は赤信号。
このまま突っ込めば大事故になる。
「うおおおおお!!くそぉぉ!!」
大重量かつ高速のトラックを止めるのは、アップルマンでも容易ではない。
歯を食いしばりながら引き続ける。
時折他車や障害物にぶつかりながらも、決して手を離さない。
さらに力を込める。
自分の体とアップルファイバーが、かすかに光を帯び始めたように見える。
「止……ま……れぇぇぇぇ!!」
限界まで力を振り絞る。
全身の筋肉が裂けそうになる。
地面を踏みしめる足元から火花が散った。
交差点に迫る。
速度は徐々に落ちる。
そして――
路口手前で、ついにトラックは停止した。
「はぁ……はぁ……止まった……」
アップルマンは力尽き、その場に座り込む。
いつもの余裕や決めポーズを取る気力すらなかった。
周囲を見回す。
車両や路面には損傷が目立つ。
被害は避けられなかった。
だが、最悪の衝突は防げた。それだけでも救いだ。
数回深く息を吸い、アップルマンはゆっくり立ち上がる。
体の埃を払い、周囲を見渡す。
車内の人々や歩行者たちが、驚いた表情でこちらを見ていた。
「……また派手にやっちまったか……」
「止まったぞ!」
「やるじゃねぇか!」
「ナイス!」
何人かが車窓を開け、あるいは歩道から声を上げる。
数は多くない。
だが確かに、彼を称える声があった。
運転席の犯人でさえ、窓から手を出し、親指を立てる。
――その後しっかり拘束されたが。
直前まで極限状態だったせいか、アップルマンは一瞬、頭が真っ白になる。
だが次第に――
この感覚を思い出す。
歓声に包まれる感覚。
そして、ゆっくりとそれを受け入れる。
「おい!アップルマン!こっち向いて!笑って!」
スマホを構える声。
アップルマンは指でVサインを作る。
マスクの下で、静かに笑っていた。
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一方、廃墟のそば。
激しい戦闘の跡が残る場所に、キング・フィッシャーが立っていた。
全身に傷を負い、荒い息を吐いている。
足元には、正体不明の人たちが倒れていた。
手には、長槍のような武器。
血と埃にまみれながらも、彼は静かに笑う。
「いい……これさえあれば……今度こそ……」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
いかがでしたか?
久しぶりの創作だったので、今の自分がまだ皆さんに満足してもらえるものを書けているのか、正直少し不安でもあります。
さて、本題に戻ります。
今回、五十嵐は自分が「ただ目立ちたかった人間」だと認めました。
それでも、ようやく少しだけ、自分の感覚を取り戻し始めています。
とはいえ――何かが動き出しそうな気配もあります。
彼はこのまま順調に進めるのでしょうか?
改めて、長らくお待ちいただきありがとうございました。
次回もぜひお楽しみに。(できるだけ時間を見つけて更新します……!)
もしよければ、いいねやシェア、コメントなどで感想を聞かせていただけると嬉しいです。
それでは、いつも通り。
またお会いできて嬉しいです。
Noah Novaでした。
また次回。




