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第3話

皆さんこんにちは、第3話です。

前回、五十嵐は見知らぬ女性に金のリンゴを奪われかけ、結果的に騒動やスキャンダルに巻き込まれてしまいました。

それでは、続きもぜひ読んでみてください。

「はぁ…はぁ…」

五十嵐は全身の力が抜けたまま、裸でベッドに倒れ込み、ただひたすらため息をついていた。何をする気力もなく、見覚えのない天井をぼんやりと眺めるだけ。部屋の中で動いているのは、エアコンの低い駆動音だけだった。

DSAの手配で、彼は一時的なセーフハウスを与えられたが――安全は確保されたはずなのに、突然の引っ越しに心が追いつかず、落ち着かなさが残っていた。

昼間だというのに五十嵐はカーテンも窓も全部閉め、電気すらつけず、完全な暗闇の中でじっとしていた。部屋の唯一の光源は、相変わらず淡く光り続ける金のリンゴ。しかし五十嵐はその光さえ今は鬱陶しく感じ、手を伸ばしてそっとしまい込んだ。

超能力があるはずの自分なのに、どうにも身体が重い。ついさっき熱いシャワーを浴びたばかりなのに、心身の疲労はまったく抜けていなかった。

「はぁ…今じゃシコる元気すらねぇ…俺、マジで終わってるわ…。せっかくこの新しいベッド、けっこう気持ちいいのにさ…。」

五十嵐は、誰に聞かせるでもなく独りごちた。

「さっきネカフェでさ、うっかり頭ぶつけてキーボード壊しちまってよ…。追い出されるわ、弁償させられるわ…あと少しで警察呼ばれるとこだったし…。俺、一応“スーパーヒーロー”なんだけど? こんなの、ありかよ…。」

「DSAが公式に誤報だって発表したのに、ネットの連中はさらに調子乗って叩いてくるし…。くそ…俺の味方なんて一人もいやしねぇ…いや、そもそも支持者なんて最初からいなかったか…はぁ…。」

「人生で初めてトレンド入りしたのが、こんな時とかよ…。」

「しかもいくつかの案件が“方向性の不一致”とか言って急に契約切ってきやがった! ふざけんなよ! 嫌いになったって正直に言えよ! あーーー!!」

五十嵐はイラつきを爆発させて怒鳴り散らした。幸い、今の住まいでは近所から苦情が来る心配はなかった。

「全部あの女のせいだ! よくもあんな罠にはめやがって! 見つけたらマジでただじゃおかねぇからな! 俺があいつにエロいことした? ふざけんな…だったら今度こそ実際に──XXOOってやつを見せてやるよクソが!!」

五十嵐は怒りに任せて、とてもスーパーヒーローとは思えないような下品な言葉を連発した。

その瞬間、タイミング悪くスマホが鳴り響く。DSAからの電話だった。突然の着信に、五十嵐の意識が現実へ引き戻される。深呼吸を数回繰り返して、どうにか気持ちを落ち着かせてから電話に出た。

「もしもし、俺です。…はい、部屋は問題ないっす、ありがとうございます。…え? 犯人、もう捕まった? あ、はい…わ、わかりました。すぐ行きます。」

五十嵐は頭をかいた。自分でぶん殴ってやるつもりだった相手が、想像以上のスピードで捕まっていたことに安心しつつ、どこか物足りなさのような空虚感も残った。

急いで外出の準備をし、帽子とマスクをつけて人目を避けるようにする――それが必要かどうか自分でもよくわかっていなかったが。

そして、さっきしまい込んだ金のリンゴを取り出し、じっと見つめる。相変わらず静かに光り続けるそれを、数秒ためらった後、しっかりと身につけた。今度こそ絶対に盗まれないように。

複雑な思いを抱えながら、五十嵐はDSAへ向かった。犯人と対面するために。

しばらくして、アップルマンはDSA本部に到着した。

職員たちに簡単な説明を受けたあと、彼はあるフロアの一室へと案内された。

そこは簡素な取調室のような部屋で、中央に机が一つ。その向かい側に、あの犯人の女が手錠をかけられた状態で座っていた。

今はマスクもつけておらず、外見だけなら街でよく見る普通の若い女――年齢も、おそらく五十嵐と大差ない。

「yo、また会ったね。」

アップルマンが入ってくると、彼女は軽く顎を上げるようにして挑発的な笑みを向けてきた。声には明らかに嘲りが混じっている。

アップルマンは複雑な気持ちを抑えつつ、彼女の正面に腰を下ろす。

部屋の片隅では、DSAの職員がパソコンや測定器のようなものを準備して待機していた。どうやら簡易的な嘘発見器まで用意しているらしい。

「なんでわざわざ変身してんの? あんたの正体なんて、とっくに知ってるっての。」

女は鼻で笑いながら言い放つ。その態度に、アップルマンの眉がわずかに動いた。

「資料を見たけど、俺はお前のこと知らないはずだぞ。…どうやって俺の情報を知ったんだ? ファンにしては、ちょっと執着が行き過ぎてるけど?」

アップルマンも負けじと皮肉を返す。

「はっ、誰があんたに興味あるっての? 正体なんかどうでもいいよ。

欲しいのは金のリンゴ。それだけ。どうせ、あんたの超能力も全部それのおかげでしょ?」

「なんでそんなに欲しいんだよ。っていうか…誰が持っても力を得られるもんじゃないってわかってるだろ?」

「試す価値はあるでしょ? それに……もし成功したら、あんたはもう変身できなくなるじゃん?」

女は意地悪く口角を上げて笑った。

「は? い、意味が…わからない。そんなことしても、お前に何の得にもならないだろ?」

アップルマンは、本気で理解できないというように目を細めた。

「まだ分かんないの? あんたさ――スーパーヒーローの資格なんて、最初からないんだよ。」

「……俺が…資格、ない…? ど、どういう意味だよ……。」

アップルマンは一瞬言葉を失い、かろうじて声を絞り出した。

「見りゃ分かるでしょ。戦い方も下手、人の守り方も知らない。正義感も責任感も薄い。

数字にも出てるんだよ? あんたの“間接被害”は他のヒーローより高いし、戦闘効率も最底辺。」

女は肩をすくめながら、淡々と、しかし刺すような口調で続ける。

「起源がどうとかは知らないけどさ。どうせ偶然力を拾って、調子に乗って“ヒーローごっこ”始めただけでしょ? 名声とか金とか、“選ばれし者”気分とか――そういうの欲しさで。」

「……でさ、そんな奴がスーパーヒーロー名乗ってる方が、よっぽど迷惑なの。

だから金のリンゴを奪おうとしたのは、言わば社会のためってやつ? 犠牲になってあげただけ、ってね。…ま、単にあんたが気に入らないってのも本音だけど。」

女はケラケラと小さく笑い、まるで事実を告げただけだと言わんばかりだった。

「……仮に俺に資格がねぇとして……じゃあ、お前にはあるってのかよ?」

「いや、別に自分が選ばれるべきなんて思ってないよ。でもね――

少なくとも、“あんたじゃない”ことだけは確か。」

女の声は残酷なくらい冷静だった。

「世の中にはもっと適任が山ほどいるし。

あんたなんて、私にリンゴ盗まれても気づかないレベルじゃん? 私なんてただの一般人だよ? それに私を捕まえたのもDSAと警察の普通の人間たち。

ねぇ、ここまで説明しないと、自分がどれだけ使えないか分からないの?」

アップルマンは仮面をつけているにもかかわらず、その下の表情が強張っていくのが分かるほどだった。拳はいつの間にか固く握りしめられ、肩もわずかに震えている。

普段ならとっくに怒鳴り返しているはずなのに、今は歯を食いしばって必死に抑えていた。

…だが、その抑え込みが逆に感情の出口を塞いでいく。

その様子に気づいたDSAの職員が、慌てて声をかけた。

「落ち着け、アップルマン。彼女の言うことを真に受けるな。それに、君のスキャンダルを捏造して罠を仕掛けたのは立派な犯罪だぞ。」

「はぁ? なにそれ、セクハラの件? 信じるかどうかは好きにすれば? あれ、私が仕組んだわけじゃないし。たまたま変なやつに盗撮されたんじゃない?

あんたとそんな関係になるわけないでしょ? むしろ被害者はこっちなんだけど。あの盗撮野郎、逆に訴えてやりたいくらいだし…。マジで最悪、ああいう素材にされるとか……。」

女は勝手にぶつぶつ文句を垂れ流し続ける。

アップルマンが職員たちを見ると、彼らは嘘発見器の結果を確認し、重々しく頷いた。

「……彼女、嘘をついていません。」

「ま、マジかよ……。」

アップルマンは俯き、かすかに震えながら言った。

「ほらね? 言ったでしょ。でもまぁ……あんた、本当に惨めだね。ははっ。」

女はあざけるように笑い続けた。

「つまりさ、誰もあんたなんか気にしてないってこと。真偽なんてどうでもいい。ただ面白がって叩きたいだけ。

誰も庇わないってことは、あんたの人望がゼロって証拠。……いや、ゼロどころかマイナス? 誰にも好かれてないんだよ、マジで。」

「ち、ちが…違う……。」

アップルマンの声は震え、かすれていた。

「図星つかれたら黙っちゃうの? 実力もない、人気もない、メンタルも弱い。

そんなやつ、早く身を引いた方が世のためだよ? 何より、自分のためにもね。

……あーあ、可哀想で逆に笑えてくるんだけど。」

「だ、黙れよ……。」

アップルマンの指先が震え始める。机の下で拳がぎゅっと握られた。

空気の変化に気づいたDSA職員が慌てて声を上げる。

「もういい、アップルマン! ここから先は俺たちがやる。君は外に出て――」

だが、女は最後の一撃をわざわざ選んだかのように、低くささやいた。

「だってさ……みんな分かってるでしょ?

金のリンゴがなかったら――あんたなんて、“何者でもない”んだよ。」

「黙れぇぇぇぇ!!」

その瞬間、アップルマンの理性が完全に切れた。

怒号と同時に、彼は片手で机を思い切り弾き飛ばす。

机は壁に激しくぶつかり、鈍い衝撃音が取調室に響き渡った。

アップルマンは勢いのまま立ち上がり、女の胸倉を片手でつかむと、そのまま軽々と持ち上げた。女の足が宙に浮く。

「おい、アップルマン! 落ち着け!」

「待って! ダメだって!」

DSAの職員たちが慌てて間に入ろうとするが、アップルマンの怒気は明らかだった。

仮面越しに表情は見えない。それでも、肩の震えや呼吸の荒さ――全身から怒りが滲み出ている。

そんな中、女は喉を圧迫されながらも、なお挑発をやめなかった。

「どしたの……? 早く殴れば……?

ねぇ、“ヒーロー”さん……アップルマン……。」

その言葉にさらに空気が凍りつく。

しかし数秒後、アップルマンは震える手をゆっくりと解いた。

女の身体は力なく床へ落ちる。

「アップルマン、大丈夫か……?」

職員がそっと声をかけるが、アップルマンは俯いたまま、呼吸を整えるように沈黙していた。

「……だ、大丈夫……。す、すみません……。」

かすれた声でそれだけ言うと、彼は足早にその場を立ち去った。

=========================================

DSAを後にした五十嵐は、肩を落としたまま街をとぼとぼと歩き続けた。

どれくらい歩いたか分からない。気づけば広い公園に辿り着き、そのままベンチに腰を下ろす。

買ってきた適当な軽食を口に運びながら、五十嵐は虚ろな目で遠くを眺めていた。

噛む力もほとんど入らず、ため息ばかりが漏れる。

手元のパンも、握力の加減を間違えてふにゃりと潰れてしまい、そのまま諦めたように口へ押し込んだ。

「別に大したことしてねぇのに……なんでこんな疲れてんだよ、俺……はぁ……。」

そうぼやきながら、五十嵐はただぼんやりと座り続けた。

やがて、背もたれに寄りかかって目を閉じる。

少しだけ休もう――そう思ったその時。

周囲のざわめきが急に大きくなり、悲鳴のような声が混ざり始める。

五十嵐はゆっくりと目を開けた。

「おい、なんだよ……何が起きた……?」

「ゼリー怪人が何体も出たって! 子ども広場の方!」

「嘘だろ!? 逃げろ!」

人々が慌てて走り去っていく。

しかし五十嵐は表情を変えないまま、その声だけを静かに聞いていた。

「ゼリー怪人か……たしか、そこまで厄介な相手じゃなかったよな……。

悪いけど、今日は本当に気分が乗らねぇんだよ……。」

そうつぶやいた時、五十嵐の腕元で金のリンゴがぼんやり光っているのに気づいた。

しばらく無言で見つめた後、彼はゆっくりと立ち上がる。

「はいはい……分かったよ……もう光んなって……。」

まるで返事を待つように金のリンゴへぼやきながらも、もちろんリンゴが何かを伝えてくるわけではない。ただ黙って光り続けるだけ。

五十嵐は気持ちをどうにか立て直し、子ども広場へ急いだ。

やがてアップルマンの姿で現場へ到着すると、そこでは多くの人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。

広場の中心では、数体のカラフルなゼリー怪人が好き勝手に暴れまわっている。

「大丈夫だ、俺が来た! こっちだ、早く逃げて!」

アップルマンは必死に声を張り上げて誘導するが――

彼を見た一部の人々は、むしろ露骨に顔をしかめ、嫌悪を向ける者さえいた。

アップルマンはほんの一瞬だけ胸がざわついたが、鼻をこすって「仕方ねぇ」と気持ちを切り替え、ゼリー怪人たちへ向かって走り出した。

アップルマンがゼリー怪人へ向け一歩踏み出そうとしたその時――

「変態!」

「弱っちいんだよ、お前!」

「うちの子に触るな!」

周囲からそんな声が飛んできた。

アップルマンの動きがピタリと止まる。

胸の奥が一瞬だけ冷たくなり、思考が深い闇へ沈む。

(……なんでだよ。

なんで俺が、こんなふうに見下してくる奴らを必死に守らなきゃいけねぇんだ……?

今ここで引き返しても……誰も文句なんて言えねぇだろ……。)

その、ほんの一瞬の迷いが致命的だった。

背後からゼリー怪人たちの集団が一気に飛びかかり、アップルマンは勢いよく地面へ押し倒された。

「っ……!」

怪人たちの攻撃は大したダメージにはならない。

だが、アップルマンの心には鋭く刺さった。

――まるで、ゼリー怪人ですら自分を嘲笑っているかのように。

地面に押さえつけられながら防御するアップルマンの脳裏に、あの女の言葉、ネットの罵倒、自分に向けられた数々の否定が鮮明に蘇る。

「資格がない」

「誰にも好かれてない」

「金のリンゴがなければ何者でもない」

その声がぐちゃぐちゃに混ざり、頭の奥で鳴り響く。

そして――

アップルマンの理性は、限界へと近づいていく。

「……あああああああッッ!!!」

アップルマンの怒号が公園全体に響き渡った。

その瞬間、彼の中で最後の理性が完全に吹き飛ぶ。

目の前のゼリー怪人たちを、ただ力任せに、感情のままに叩き潰していく。

考えることをやめ、怒りだけが身体を突き動かす。

――どれほど時間が経ったのか。

警察とDSAの隊員たちが駆けつけたとき、

彼らは足を止め、息を呑んだ。

公園の一角は、無数の色が飛び散ったゼリーまみれ。

まるで狂気じみたカラフルな惨劇がそこに広がっている。

その中心に、アップルマンがただ静かに立っていた。

動かず、喋らず、周囲を染めたゼリーの色だけが異様に際立っている。

「ア、アップルマン……?」

警察官の一人がおそるおそる声をかける。

アップルマンはゆっくりと、ぎこちない動きで振り返った。

「……何か、用ですか……?」

その空気は、いつもの彼とは明らかに違っていた。

警察官は言葉を失い、戸惑ったように口を開けたり閉じたりする。

数秒の沈黙――。

その沈黙を破ったのは、アップルマン自身だった。

「……すみません……。こんな……ぐちゃぐちゃにして……。」

深く頭を下げる声は、かすかに震えていた。

「い、いや……あとは俺たちで片付けるから……。」

隊員がそう返すしかないほど、場の空気は重かった。

「おい! あそこに……子どもが隠れてるぞ!」

別の警察官の叫びに、アップルマンも周囲も一斉にそちらを振り向いた。

遊具の影に、小さな子どもが縮こまって座り込んでいた。

逃げ遅れて隠れていたのだろう。アップルマンはその存在にまったく気づいていなかった。

「ま……マジかよ……。」

アップルマンは慌てて駆け寄る。

幸い、子どもに怪我はないようだった。アップルマンは胸を撫で下ろし、そっと手を差し出す。

「大丈夫か? もう怖くないぞ。こっちにおいで。」

だが、子どもは動かない。

怯えたように身体を固くして、アップルマンの方を見つめていた。

「大丈夫だよ。悪い怪人は全部やっつけたから……。」

もう一度、優しく声をかける。

それでも子どもは表情をこわばらせたまま、一歩も動かない。

むしろさっきよりも、明らかに震えていた。

「お疲れ。ここは俺がやるよ。

坊や、大丈夫だよ。こっちおいで。」

横から来た警察官が子どもを優しく抱き上げる。

子どもは抱かれたまま、アップルマンの方を見ようとせず――

むしろ、顔をそむけた。

アップルマンはその小さな仕草を、ただ黙って見つめていた。

そのとき、アップルマンはふと自分の手元に目を落とした。

仮面もスーツも、そして両手も――ゼリーまみれでぐしゃぐしゃに汚れている。

「……こんな汚ぇ手で……あの子に触ろうとしてたのか、俺……。」

思わず漏れた声は、自嘲にも近かった。

ゆっくりと顔を上げ、周囲を見渡す。

そこで初めて、戦闘後の光景を“自分のしたこと”として認識する。

ゼリー怪人たちはすべて殲滅されていた。

しかしその姿は、どれも凄惨だった。

腕や脚がねじ切られたもの。

身体に大穴が開いているもの。

アップルファイバーで何重にも締め上げられ、原形を留めていないもの。

遊具に叩きつけられて粉砕されたもの。

木の枝や遊具にぶら下げられ、まるで処刑されたようなものまで――。

子どもたちの遊ぶ場所とは思えない、異様な光景が広がっていた。

「……あの子……これ、全部見てたのか……?

俺が……こんな場所で……こんなふうに……。」

アップルマンは言葉を失い、震える手で口を覆った。

そのとき、ふと視界の端で、小さな物が地面に落ちるのが見えた。

さっきの子どもが保護されるとき、手から滑り落ちたものだ。

「……あれ……。」

呼び止めようとしたが、声が喉の奥で止まった。

代わりに、ゆっくりとその落ちた物へ歩み寄る。

拾い上げたそれは――

アップルマンの安価な小さなフィギュアだった。

長年売れ残り、自分の家にも在庫が山ほど積まれている、あのおもちゃ。

「……もしかして……あの子……俺の……。」

その瞬間、アップルマンの膝は自然と地面についた。

汚れた小さなフィギュアを、震える指先で強く握りしめる。

声は出ない。

何を言えばいいのか、もう分からなかった。

しばらくして、彼はゆっくりと立ち上がり――

言葉もなく、そのフィギュアを手にしたまま現場をあとにした。

家に戻った五十嵐は、魂を抜かれたようにソファへ沈み込んだ。

公園での騒ぎはすでに誰かに撮られ、ネットではまたアップルマンへの罵倒が溢れている――

それを知っていながら、彼はスマホを見ることさえできなかった。

視線の先には、汚れた小さなアップルマンのフィギュア。

そして、変わらず光り続ける金のリンゴ。

「……もう……光んなって言ってんだよ……!」

五十嵐は苛立ちとも悲鳴ともつかない声をあげ、金のリンゴを乱暴にしまい込んだ。

もう何も光ってほしくなかった。

残っていたリンゴのビールを数本手に取り、ソファに倒れ込むように酒を流し込む。

「俺……ほんとに……スーパーヒーローの資格ねぇのかな……。」

「もう……やめちまった方が……楽なのか……?

全部……終わらせちまえば……。」

「でも……それじゃ……また昔みたいな……空っぽの俺に戻るだけで……。」

どれくらいそうしていたのか分からない。

酔いと疲労が混ざる中、五十嵐はふらりとスマホを手に取り、ある番号を押した。

数回のコールのあと、電話は繋がった。

『はい、DSAです。ご用件をどうぞ。』

「……アップルマン……です。

俺……その……しばらく活動を……休みたいんですけど……。」

『……問題ありません。ただ……理由を伺っても?』

「俺……ちょっと……休みたくて……。それだけで……。」

『わかりました。……では、戻ってくる予定は?』

「お、俺……その……分かんねぇ……。」

電話口に沈黙が落ちる。

五十嵐はそれ以上何も言えず、ただ呼吸の音だけが微かに揺れていた。



ご閲覧ありがとうございました。いかがでしたでしょうか?


さて物語に戻りますが――

ひとまずヒーローとしての活動を離れることにした五十嵐は、この先どんな選択をするのでしょうか。

この困難を乗り越えて“ふさわしいヒーロー”になれるのか、それとも道を外れてしまうのか……それとも、まったく別の可能性があるのか。


もし気に入っていただけたら、ぜひ友達にもシェアして一緒に読んでもらえると嬉しいです。

それと、コメントで話しかけてもらえれば、もしかしたらあなたの名前が今後の物語のキャラ名に採用されるかもしれませんよ(なんだか特売会みたいですね、笑)。


ともあれ、読んでくださって本当にありがとうございました。

次回もどうぞお楽しみに。

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