第2話 改訂版
お疲れ様です。
新しい話を書いている途中で、どうしても違和感を覚えたため、
第2話の後半部分を中心に改稿を行いました。
物語全体の方向性に、より沿った内容になっていると思います。
今のバージョンを、以前より楽しんでいただければ幸いです。
ショッピングモールの中にある小さな雑貨店――
今日も相変わらず客足は多かった。
「……はい、お釣りになります。ご来店ありがとうございました〜」
五十嵐は営業用の笑顔を貼りつけたまま、丁寧に商品を渡す。
だが客が店を出た瞬間、その笑顔は一秒でしぼんだ。
「お疲れ、五十嵐君。もう休憩行っていいよ。次は俺が地獄を見る番だ……はぁ。」
先輩店員が、死んだ魚のような目で交代に来る。
「お疲れ様です、久我さん。助かります。」
五十嵐は頭を下げ、裏の休憩室へ向かった。
ロッカーの前で軽く身なりを整え、周りを確認してから――
制服の内側から、こっそりと“金色のリンゴ”を取り出す。
彼はしばし無言でそれを見つめ、深く思いにふけった。
「みんなお疲れ〜……あ、五十嵐君いたんだ。」
休憩室のドアが勢いよく開き、女性店員が入ってきた。
「は、春野さん。お疲れ様です。」
慌ててリンゴをしまい、ぎこちなく挨拶を返す。
「五十嵐君、どうしたの? なんか最近、すっごく良いことあったって顔してるけど?」
「えっ? ど、どういう意味ですか?」
「だってさ〜、前より顔色いいし、でもやたら行動がミステリアスになってるし。
もしかして宝くじ当たった? それとも彼女できたとか? さあ白状しなさ〜い。」
まるで記者会見の囲み取材のように、春野がぐいっと距離を詰めてくる。
「いやいや、そんな……ただ、その……」
五十嵐は目線を落とし、頭をかきながら言葉を探す。
「その……?」
「最近、ずっとやりたいって思ってたことを……思いきってちょっとだけ、試してみたんです。」
声は小さいが、その表情にはどこか誇らしさがあった。
「へぇ? で、どうだったの? 楽しかった?」
「楽しかった……というか……正直、めちゃくちゃ面白かったです。
それに……なんか……」
少しずつ顔を上げ、ほんのり笑みを浮かべる。
「これ、もしかして本当に自分がやりたいことなのかもって……ははっ……あ、すみません! 食事行ってきます!」
急に恥ずかしくなったのか、逃げるように駆け出す。
「え、あ、うん。なんかよく分かんないけど……おめでとう?
って言うべきなのかな、これ……まあ、がんばってね、はは。」
春野は苦笑しながら軽く手を振った。
「はい……ありがとうございます。」
五十嵐は照れたように返事し、休憩室をあとにした。
数日後のことだった。
五十嵐は店長室の前で立ち止まり、しばらく迷ってから意を決してノックした。
「どうぞ。」
「……失礼します。」
店長は書類から顔を上げ、柔らかい表情を向けてくる。
「五十嵐君、どうしたんだい?」
「えっと……店長。その……お話したいことがあって……」
緊張で声が少し裏返る。
店長は「座りなよ」と椅子を指し示してくれた。
「その……実は……俺、今の仕事……あまり好きじゃないっていうか……」
搾り出すように言いながら、様子をうかがう。
店長は首を傾げた。
「ふむ……じゃあ、君は何がしたいんだい?」
そのとき、室内のテレビからニュース番組の音が耳に入ってきた。
『……最近、胸に金色のリンゴのマークがある謎の人物が相次いで市民を救助。
正体は不明。新たなヒーローなのか――』
画面に映る、自分の“もう一つの姿”。
その映像を見つめていると、胸の奥の迷いがゆっくり形を変えていく。
五十嵐は小さく息を吸い、店長へ向き直った。
「店長。俺……」
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朝アラームが鳴った瞬間、五十嵐は跳ね起き――そのままベッドから転げ落ちた。
「っだぁ……!」
床にぶつけた腰をさすりながら、スマホのアラームを止める。
そのとき、階下から微かに――
『うるさいんだけどーー!』
「……すみませぇん……」
聞こえるはずもないのに、条件反射で謝ってしまう。
ゆっくり立ち上がると、身体に貼っていた湿布や包帯をべりべりと剥がす。
筋を伸ばし、いつもの軽いトレをしてから、顔を洗い、
シリアル・バナナ・ゆで卵という“救いようのない手抜き朝食”を胃に流し込む。
部屋を出たところで住民とすれ違い、会釈すると――
目も合わせず無視された。
(……はいはい、おはようございますっと。)
背を向けた瞬間、小さく白目をむく。
普通のサラリーマンと同じように電車に揺られながら、
彼はスマホのスケジュールを確認した。
「えっと……今日は十時からバラエティ番組の収録。
お? けっこう可愛い女優さん来るじゃん……ワンチャンあるかも……?」
その瞬間、画面にDSAからの着信が割り込んだ。
「はい俺です……え? 町中に熊が出た? 俺が行くの?
いや俺、熊は専門外っすよ?
ていうか収録が――え、代役立てといた?
……はいはい行きますよ……」
深いため息をつきながら、駅で逆方向のホームへと向かう。
「野生動物とか戦ったことねぇし……
でもまあ、ヴィラン倒したこと何回もあるし?
熊ぐらい、楽勝……だよな……?」
「……もしもし、俺。片づいた……くそ……」
しばらくして、五十嵐はDSAに事件解決の連絡を入れた。
全身は泥と枯れ枝で汚れ、浅い傷とはいえ熊の爪跡や噛まれた痕も残っている。
念のため、病院で注射と簡単な処置を受けた。
「えっと……次の予定は……小学校で子どもたちとおしゃべりして、アップルパイ作り?
……なんで俺、こんなイベント引き受けたんだっけ……
ていうか変身したら食えねぇし……まあ、熊よりはマシか……」
五十嵐はため息をつきつつ、しぶしぶ向かうことにした。
学校の正門に着いたとき、変身を忘れていて不審者扱いされかける。
なんとか説明して、ようやく教室にたどり着くと――
アップルマンは壇上に立ち、子どもたちの視線を浴びていた。
小さな動物のような目が、じーっとこちらを見つめてくる。
「ねぇ、あなたってポリス様ですか?」
元気よく手を挙げた子の一言に、アップルマンの思考が止まる。
「ちがうよ〜、ポリス様はもっとカッコいいんだって!」
別の子が当然のように言い放つ。
(このガキ……イケメンだからなんだよ……)
「ちがうよ! この人、どう見てもパリピじゃん!」
(おいおい勘弁してくれよ……先生、俺のこと説明してないのか……?)
「俺はアップルマンだよ。よろしくな。」
「アップルマン?」
「だれ?」
「新しいアニメキャラじゃね?」
「え〜先生、ヒーロー呼ぶって言ったじゃん? ルーキーがよかった!」
「やだ! メクロンがいい!」
「ねぇーいつピザ作るのー!」
「せんせーい、おしっこー!」
教室は一瞬にしてカオスになった。
アップルマンはそっと壁の時計を見上げ、静かにため息をつく。
(あと二時間……
こんなんなら熊もう二、三頭のほうがマシだったわ……クソガキども……)
ようやく地獄のような時間が終わり、五十嵐は全身の力が抜けたまま家へ戻った。
「うあぁぁぁ!! 疲れた!!
なんで子どもってあんなに扱いづらいんだよ!!」
玄関をくぐるなり、ソファに倒れ込み、大声でうめく。
金リンゴを横に置き、袋から先ほど作ったリンゴパイを取り出す。
とりあえず一口かじるが――すぐに吐き出した。
「まずっ! 中、生焼けじゃねぇか!」
家にオーブンなどないため、そのまま丸ごとゴミ箱へ。
次に、以前の仕事の案件でもらった景品箱からリンゴ酒を数本取り出し、
一本を開けて一気に流し込む。
完全にオッサンのような姿勢でソファに沈み、スマホでSNSを眺め始めた。
だが、そこに良い情報はほとんどない。
『今日アップルマンのカップ麺買ったけど、微妙……』
「お前が気に入らねぇだけだろ……クソが……」
『アップルマン、ヴィランに中指立ててて草。教育に悪くね?』
「うるせぇ! 命かけて救ってんだから、ちょっとくらい挑発したっていいだろ!」
『アップルマンって名前、正直ダサくね?』
「だから名前つけるの苦手なんだよ……思いついたら変えるっつってんだろ……」
ため息をつきながらスクロールしていくと、
春野たち元同僚が、仕事がうまくいっている様子を投稿していた。
待遇もよくなったらしく、笑顔が眩しい。
さらにタイムラインには、同年代の知り合いたちが
仕事で成果を出したり、家庭を築いたりしている写真が並ぶ。
五十嵐は複雑な気持ちで、それらの“きらきらした生活”を見つめた。
ヒーローとしても、自分の評価はなぜかいつも低め。
応援してくれるファンも、正直ほとんどいない。
「……大変なのは分かってたけどさ……
やっぱこうなるよな……
まあ……全部自分で選んだんだけど……」
ぽつりとつぶやき、スマホをそのまま横へ放り投げた。
そのまましばらく、五十嵐はオッサンのようにソファで食っては寝てを繰り返し、気づけば夜はすっかり更けていた。
数時間後、ふらっと目が覚め、スマホを見るとDSAからの通知が来ていた。
「うわ……そうだ、レポート送らなきゃ……最悪だ……」
酒を飲んで食べた直後に寝落ちしたせいで、身体も頭も重い。
ふらつきながら起き上がる。
「……なんか食うか……」
自分が以前タイアップしたカップ麺を取り出して作り、一口すすった瞬間、固まる。
「……ほんとにまずいな……」
深い溜息が漏れた。
「もういい、外でなんか買うか……頭痛ぇ……」
上着を羽織って外へ出る。
夜遅く、人通りはほとんどない。
近所のコンビニに入り、適当に食べ物を買った。
「そういえば……春野さんのメッセージ返してなかったな……
てかみんな元気そうだよな……
俺なんて、小学生にまでバカにされて……」
コンビニおにぎりを片手で食べながら、もう片方の手でスマホを見つつ歩く。
そのせいで前を見ておらず、フードを深くかぶった人物とぶつかった。
「あ、すみません……」
軽く会釈すると、相手は手をひらっと振って気にするなと示し、そのまま歩き去った。
フードとマスクで顔はよく見えない。
五十嵐も気にせず歩き続けたが――
ふと違和感を覚え、上着の内ポケットに手を入れる。
……ない。
一気に血の気が引き、他のポケットもまさぐるが、どこにもない。
「……ない……ない……俺の金リンゴが……!
家に置いてきた? いや、この前忘れて紙袋かぶる羽目になってから、絶対持ち歩くようにしてた……
落とした? 戻って探す? いや……さっきの……?」
さきほど擦れ違った人物のことが頭に浮かぶ。
「……あのクソ野郎……!
よくも俺の金リンゴ盗りやがったな!!」
振り返ると、もう姿は見えない。
五十嵐は怒りに任せて、その方向へ走り出した。
フードとマスクで顔を隠した人物は、路地の駐車場へ入り、自分の車に乗り込んだ。
懐から取り出したのは、きらりと光る金色のリンゴ。
「やっとだ……こんなに張り込んだ甲斐があった……ついに……」
リンゴを強く握りしめ、すぐにまた懐へしまうと、車を発進させた。
しかし走り出して間もなく、車体が大きく揺れた。
「返せぇ!! クソが!!」
五十嵐が車の屋根に飛び乗り、全力で叩きつけている。
運転手は必死にハンドルを切って振り落とそうとするが、五十嵐はしがみついたまま、前方へと移動していく。
「この野郎が!!」
五十嵐は拳でフロントガラスを叩き割り、そのまま中へ飛び込んだ。
だが相手も素早くシートを倒し、手足を使って五十嵐の首を締め上げ、三角絞めを仕掛けてくる。
走行中の車内は狭く、身動きが取りづらい。
五十嵐は後ろ手でハンドルを乱暴に切り、ブレーキを踏んで車体を大きく揺らした。
運転手はバランスを崩して技を解くが、勢いで五十嵐も前の割れたガラスから外へ転げ落ちる。
何度か地面を転がったのち、立ち上がると、車は再び逃げようとしていた。
五十嵐は両手からアップルファイバーを伸ばし、勢いよく車体へ巻きつけて引き止める。
相手はアクセルを踏み込み、必死に逃れようとした。
五十嵐の腕にも力が入り、徐々に負荷が増していく。
「くそ……変身してねぇと力が足りねぇ……!」
それでも踏ん張るが、突然、車が力を失ったように一気にバックしてきて、
五十嵐は体勢を崩し、そのまま後ろへ強く弾き飛ばされた。
運転手はわざとアクセルを抜き、車外へ転がり出て、すぐに走って逃げ始める。
負傷しながらも、五十嵐もすぐに立ち上がり追いかけた。
相手は一般人らしく、早くはあるが五十嵐には及ばない。
五十嵐は距離を見計らって勢いよく飛びかかり、
フェンスをよじ登って逃げようとする相手を強引に引きずり落とした。
二人はそのまま地面を転げ回りながらもみ合いになる。
五十嵐は力任せに敵を押さえ込もうとするが、
相手も超能力こそ無いものの、明らかに鍛えている動きだった。
床技を使って何度も五十嵐の体勢を崩そうとしてくる。
五十嵐は体勢を立て直しながら、相手の服を思い切り引き裂き、
その内側から金色のリンゴを奪い取った。
「返せっ……!」
敵もすぐに五十嵐の手首を掴み、リンゴを奪い返そうと必死に抵抗してくる。
「離せっての……!」
五十嵐は勢いのまま相手の顔面に頭突きを食らわせた。
「きゃ──っ!? やめっ……!離してっ!!」
突然耳をつんざくような悲鳴が上がり、
五十嵐は一瞬「……え?」と動きを止めてしまう。
よく見ると、相手は──女だった。
その一瞬の隙を逃さず、女は素早くポケットからスプレーを取り出し、
五十嵐の顔に思い切り噴射した。
「ぐあああああああっ!!? 目がっ……!! このクソ女ッ!!」
五十嵐は激痛に顔を押さえながらも、
金色のリンゴだけは絶対に離すまいと必死に握りしめていた。
だが、女は追撃してくることなく、
その隙にふらつきながらも全力で走り去っていった。
「おいッ! 逃げんな! 止まりやがれぇ!!」
涙と痛みで視界がぐちゃぐちゃになり、
まともに前が見えない五十嵐は、すぐに追うことができない。
目の痛みが少しずつ引いてきた頃には、もう影一つ残っていなかった。
「……っ、クソ……あいつ、一体何者だよ……」
五十嵐は泥まみれの姿で深く息を吐いた。
「俺のこと……どこまで知ってんだ……?
身元も、名前も、家も……バレてんのか?
……ストーカーにも限度ってもんがあるだろ……チクショウ……」
胸の奥から嫌な予感がじわじわと湧き上がる。
「……これ、絶対まだ終わらねぇやつだよな……
とりあえず、DSAに連絡……するしかねぇな……」
五十嵐は携帯を取り出し、簡潔に状況を報告すると、
その夜は家に戻らず、適当な場所に身を隠すことにした。
「はぁ……だりぃ……風呂入りてぇ……」
翌朝。
五十嵐はネットカフェの狭い個室で目を覚ました。
窮屈な空間で一晩過ごしたせいで腰や背中が痛み、
昨夜の騒動で汗まみれのまま寝落ちした身体はひどく汚れていた。
自分でも分かるほど、少し臭い。
しかも、ここに来てからもまともに休めていない。
仕事関連の連絡や書類を処理し続けていたせいで、
疲労はまるで抜けていなかった。
五十嵐は目をこすりながら、まずは何か食べようと思い、
店員を呼び出しボタンで呼んで適当に食事を注文した。
しばらくして、DSAから着信が入る。
「おっ……救世主来た!」
五十嵐は慌てて電話を取った。
「もしもし!俺だ。どうだ、犯人の情報は入ったか?」
『申し訳ない、まだだ。だが心配するな、こちらでも人員を割いて調査している』
「……そうか。あぁ、気をつけろよ。アイツ、能力は無かったけど相当やれる。
倍ぐらいデカい男でも勝てるか分かんねぇ感じだったぞ」
『了解した。こちらもそれなりに腕の立つメンバーを動かす。
……それと、たぶんお前、また厄介ごとが増えたぞ。気をつけろよ……』
「は?なんだよ。昨日わざわざ徹夜して報告も終わらせたはずだろ?」
『いや、そうじゃなくて……お前……朝のニュース、まだ見てないな?
……お前の、だ』
「は?俺の……?」
嫌な予感が背筋を走る。
五十嵐はノートパソコンを開き、ニュースサイトを検索した。
次の瞬間──
口に運んでいたラーメンの麺が、危うくモニターに吹き飛びそうになった。
映っていたのは、
昨晩の自分とあの女の乱闘を、どこかの角度からこっそり撮影した動画だった。
画質は粗いが、内容はバッチリ分かる。
暗闇の中で金色のリンゴが光り、
もみ合う二人の影がはっきり映っていた。
さらに──
『きゃ──っ!? やめっ……!離してっ!!』
『おいッ! 逃げんな! 止まりやがれぇ!!』
録音された声までそのまま残っている。
だが、五十嵐が最も凍りついたのは、
動画のタイトルだった。
『──昨夜、ヒーロー「アップルマン」とみられる男が、
深夜の人気のない場所で女性に性的暴行を加えようとしていた可能性──』
パキッ。
五十嵐は無意識のうちに、
箸を握り潰して折っていた。
「……は?
はぁ?
What、the、fuck……!!!」
新版の第2話を読んでくださり、本当にありがとうございます。
物語全体の流れを考えると改稿は必要だと思ったものの、
もう一度読み直していただけたこと、心から感謝しています。
さて物語に戻りますが――
金のリンゴを奪おうとしたあの人物は一体誰なのか?
その目的とは?
そして五十嵐には、これからどんなトラブルや危機が待ち受けているのか?
ぜひご期待ください!
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