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パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外  作者: つるぴかつるちゃん
第三章 トルナージュの出来事、そして“ルナ”

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第82話  首輪

ジャンは、ソフィアの首輪に触れたまま、冷静に言った。

「発動の仕組みは、微細な魔力反応を感知するタイプか」


不意に放たれた言葉に、神官もリディアも思わず顔を上げた。

ジャンの指先に触れる金属は、ただの枷ではない。


冷たい輝きの奥に、確かな殺意が潜んでいる。

「魔力を流し込まなければ作動しない・・・・・そういう理解で、合っているか?」


ジャンの問いに、神官は言葉を選びながら答えた。


「はい。完全に保証はできませんが、仕組みからすれば、その可能性が高いと思われます」


ジャンはわずかに頷くと、振り返ってルナを見た。

「ルナ、これは魔力感知の応用だ」


ルナは、はっと目を丸くする。

「ソフィアを探した時の、あれ?」


「ああ。魔力の歪みや残滓をたどった要領だ」

ジャンは短く返す。


その声音には、確信と慎重さが混ざっていた。


ルナは胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、神官へと向き直った。

「魔力を流し込まなければ・・・・・大丈夫なんですよね?」


「おそらくは」

神官の答えは曖昧だったが、それでもルナは決意を固めたように頷いた。


「ジャン、やろうよ!」




仲間たちはまだ2人の狙いを理解できていなかった。

けれど、その真剣な眼差しだけで、止めることはできなかった。

ルナはソフィアの首輪に手を添え、深く息を吸った。


魔力を流すのではなく、感じ取る。

触れるか触れないかの繊細な感覚で、首輪の内部を探っていく。


同時に、ジャンは彼女の感覚を視覚化するサーチ魔法を展開した。

光の線が首輪をなぞり、複雑に絡み合う魔術式が浮かび上がっていく。


「見えてきた」

ルナの声は小さく、けれど確かなものだった。


ジャンはその視覚情報を分析し、罠の「死角」を探る。

首輪には発動回路が複数組み込まれていたが、その一つひとつに微細な「揺らぎ」がある。


2人の連携でなら、その隙を突ける。

時間だけが静かに流れていった。


外の喧騒も祈りの声も届かない、張り詰めた空間。

フィリーネでさえ、手を胸の前で組んだまま一言も発さなかった。


やがて一時間が過ぎ、さらにもう一時間。

ソフィアの呼吸は浅く弱い。残された時間が少ないことを、皆が理解していた。


「あと少しだ」

ジャンが呟く。




だがその瞬間、ルナの指先が大きく震え、魔力感知の流れがぷつりと途切れる。


ルナは、目の焦点を失ったまま、ガクッと力なくベッドに倒れ込んだ。


「ルナ!」

ジャンは慌てて彼女を抱きとめる。


細い身体はぐったりと力を失い、彼の腕の中で冷たさを帯びていく。

「しっかりしろ、ルナ!」


必死に呼びかけるジャンの耳に、場違いな響きが届いた。


「ふふ、ふふふ・・・・・」

ルナの唇がゆっくりと歪む。


笑っている。

だが、それはジャンの知るルナの笑顔ではなかった。


「ルナ?」

ジャンの胸にざらりとした嫌な感覚が広がる。



ルナの口から出た言葉に、ジャンは驚愕した。

「面倒くさいこと、やってるのね」


その声音は、普段のルナの明るさとも幼さとも違っていた。

柔らかい響きなのに、どこか冷めていて、ぞくりとする異質さを帯びている。


仲間たちもすぐにそれを察し、視線を交わし合った。

もはや目の前にいるのは、彼らの知るルナではない。


ジャンは息を吸い込み、戦闘態勢を取る。


魔力がわずかに空気を震わせ、周囲の神官や兵士たちが緊張で身を固くした。


「あら、怖い顔。今のルナ、大丈夫よ」

ルナの姿をした存在は、頬杖をつくような軽い調子で微笑む。


その目の奥に、ルナには決して宿らぬ艶やかな光があった。


「まあ、言葉にするなら・・・・・憑依・・・・・、みたいなものかしら?でも安心して。敵じゃないのは確かよ」


「ルナを媒介にして・・・・・何を企んでいる」

ジャンの声は低く鋭く、疑念を隠さない。


「目的?」

存在は少し首をかしげ、唇に笑みを浮かべた。


「そうねぇ・・・・・ただ教えてあげようと思っただけよ。今のやり方じゃ、ソフィアは救えない。あと一時間もすれば、行き詰まって3人揃って命を落とすわ」


「なっ!」

神官たちがざわめき、フィリーネは目を見開いて息を呑む。


ジャンも一瞬言葉を失った。

存在は楽しげに続ける。


「着眼点は悪くなかったわ。でも首輪の中は、もっと深い迷宮になっているの。あなたとルナが潜り込んでいけばいくほど、絡みつく罠に囚われる。そうなったら3人一緒に、永遠に閉じ込められて死ぬしかない」


「・・・・・っ」

ジャンは唇を噛む。冷たい汗が背筋を伝った。


「ふふ、驚かないで。手伝いに来ただけなの。私ができるのはほんの一瞬。だからよく覚えて」


存在は目を細め、軽く指を弾くような仕草をした。

「まずは、サーチ魔法を展開しなさい」


「本当に信用していいのか」


「信じなくてもいいわ。ただ、今のままじゃ、あなたは大切な子を救えない。それだけ」

挑発的でありながらも、どこか真実味を帯びた声音。


ジャンは迷ったが、最後には意を決した。

「分かった」


彼は深く息を吸い込み、サーチ魔法を展開する。

魔力の波が広がり、周囲の空間が淡く揺らめいた。


普段のルナの感覚とは違うが、確かに近しい反応が感知できる。

「準備できたみたいね。じゃあ、行くわよ」


存在の言葉とともに、世界が一瞬暗転した。

わずか一秒にも満たない、ほんの一瞬。


だがその間に、ジャンの脳裏へ奔流のように情報が流れ込んでくる。


ソフィアの首輪の構造、幾重にも重なった術式の罠、隠された経路、すべての仕組みが一気に焼き付けられた。


「――っ!」

ジャンは頭を押さえ、膝をつきかける。


視界の端で、神官たちが声を上げ、フィリーネが駆け寄ろうとするのが見えた。


「動かないで!」

存在が制止する。


その声には、先ほどまでの戯れめいた色が消えていた。

ジャンは必死に呼吸を整え、脳裏に刻み込まれた膨大な情報を解析する。


(確かに。あと1時間潜り続けていたら、オレたちは首輪の内部に絡め取られ、2度と戻れなくなっていた・・・・・)


迷路に見せかけた罠の構造、その正体を理解した瞬間、背筋に冷たいものが走る。

「理解できたみたいね」


存在は満足げに微笑んだ。

「お前は何者だ。なぜルナに憑いた」


「名乗るような者じゃないわ。ただ、ほんの少しだけ、あの子を助けてあげたかっただけ」


「助ける・・・・・だと?」


「そう。あなたたちが本当に彼女を救いたいなら、この先で間違えないこと。道は一つしかないわ」

ルナに憑依した女は続けて言う。


「そろそろ時間だから行くね。近いうちに会えるよ。楽しみにしてる」


ルナの体を借りた存在は、名残惜しげに微笑むと、ふっと視線を逸らした。

「待て、どういう意味だ」


ジャンは反射的にルナの両肩をつかみ、瞳を覗き込む。

声に焦りがにじんでいた。


「アステリアに行くのでしょう?それがヒントよ」

耳元に落とされた囁きとともに、ルナの身体から力が抜ける。


膝が崩れ落ちかけた彼女を、ジャンは慌てて抱き留めた。

「ルナ! しっかりしろ!」




呼びかけに応じるように、彼女のまぶたがわずかに震え、やがてゆっくりと開く。


「ジャン? どうしたの?」

焦点を取り戻した瞳がジャンを映す。


その視線の強さと抱かれている感覚に気づき、ルナは頬をみるみる赤らめ、目を逸らした。


「え、えっと・・・・・ジャン、あの・・・・・こういうのは・・・・・ね? 今は・・・・・その、あとで・・・・・」


言葉を選ぶように口ごもりながらも、小さく続ける。

「まずはソフィアが先だよ」


ジャンははっとして、強張った指をほどいた。

「ああ・・・・・すまん」


フィリーネが静かに歩み寄り、低い声で問いかける。

「ジャン・・・・・今のは誰だったのかしら」


ジャンは短く息を吐き、目を閉じて首を横に振った。

説明しようにも、言葉が見つからない。


ルナは状況がのみ込めず、不思議そうに首をかしげるばかりだった。

しばしの沈黙の後、ジャンはルナの手を取るようにして、真剣な声で告げた。


「ルナ・・・・・ソフィアの首輪を破る方法を一つだけ見つけた」


その言葉に、フィリーネも神官たちも驚き、視線を彼に集中させる。

「オレとルナにしかできないやり方だ。さっきと同じように、魔力感知を頼む」




ルナは迷いも恐れも見せずに、力強く頷いた。

「うん、分かった」


すぐに彼女は両手を首輪に添え、集中して魔力感知を始める。

ジャンはサーチ魔法を重ね、ルナの感覚を視覚的に共有した。


2人の意識が首輪の奥へと沈み込んでいく。


複雑に絡み合った術式の中を慎重に進むと、不意に、光の差し込むような小さな穴が現れた。


「これだ」

ジャンの声が震える。突破口を見つけたのだ。



ジャンがそう言うと、ルナは小首をかしげ、不思議そうに尋ねた。

「なに?これ?」


ジャンは首輪の奥をじっと見据えながら答える。


「外部から魔力が侵入した時、この穴を通じて罠が作動する仕組みだ」


「それが・・・・・どうやって外す方法と関係あるの?」

ルナは首を傾け、問い返す。


「この穴に、波長の近い2人の魔力を同時に流し込む。そうすれば魔力共鳴が起こり、耐久の限界を超えて、首輪が崩壊する」


説明を聞いたルナは、ぽつりと呟いた。

「ある意味・・・・・単純なんだね」


しかしすぐに唇を噛みしめる。

「でも・・・・・少しでもずれたり、波長が合わなかったら・・・・・ソフィアは・・・・・」


その震えを含んだ声に、ジャンは短く答える。

「ああ。だから正確さが必要だ」


「こわいよ」

小さな声が漏れる。


ジャンはその言葉を受け止め、静かに頷いた。

「オレも怖い。失敗すれば、ソフィアは助からない」


ルナは一瞬うつむいたが、やがて顔を上げ、決意の色を宿した瞳で言った。


「でも・・・・・私とジャンにしかできないんだよね?だったら、やろうよ」

そう言うと、彼女はジャンの手をぎゅっと握りしめる。


その力強さに、ジャンは頷き返した。

「よし・・・・・やるぞ」




だがその直後、ルナは思わず「ま、待って!」と声を上げた。


小さな手は震えていた。

「ジャン、もう一回聞くけど、怖くないの?もし失敗したら、ソフィアが・・・・・」


ジャンは目を細め、真剣な声で応じた。

「怖いさ。だが、ルナ・・・・・お前はいつも戦いで、オレと同じ瞬間に魔法を放ってくれるだろう?」


ルナは、ハッとして小さく頷いた。

「オレはその感覚を信じている。ルナとなら、必ず合わせられる。だから・・・・・一緒にソフィアを救おう」


真っ直ぐな言葉に、ルナの胸の奥に温かい光が灯る。


恐怖は静かに消え、強い意志がその瞳に宿った。

「・・・・・うん。やろうよ、ジャン」


2人は並んで立ち、穴の前に手をかざした。

重苦しい緊張が漂う中、互いの鼓動を感じ合いながら、彼らは同時に息を整えた。




ルナは、ジャンに問いかけた。

「飛行魔法で、魔力を放出する、あの感覚でいいの?」


ジャンは真剣な眼差しでうなずいた。

「そうだ。制御は細かく、でも途切れないように」


2人は視線を交わすと、静かに呼吸を整える。


互いの心臓の鼓動が、同じ速さで刻まれるのを感じながら。

「いくよ」


「ああ」

次の瞬間、2人は同時に微細な魔力を首輪の隙間へと送り込んだ。


首輪の金属は、まるで意志を持つかのように抵抗を示す。


しかし、2人の魔力が流れ込むと、魔力共鳴により硬く閉ざされていた内部の機構がわずかに軋みを上げた。


・・・・・パキッ


乾いた音が小さく鳴る。

ジャンは息を止め、額に汗を浮かべた。


ルナも必死に魔力を制御しながら、唇をかみしめている。

「もう少しだね」


「気を抜くな。力じゃない、精度だ」


パキッ・・・・・パキッ・・・・・


やがて連続する細かな破砕音が2人の耳に届く。


首輪の魔法陣が崩壊していくのを、魔力の感覚で確かに捉えた瞬間だった。


「・・・・・っ!」

2人は同時に魔力の流し込みを止める。


直後、甲高いガラスの割れる音が響き、首輪は粉々に砕け散った。


金属の破片が床に散らばり、ソフィアの細い首筋が露わになる。


閉ざされていた束縛が解けた途端、彼女の顔色は少しずつ血の気を取り戻していった。


「やったっ!」

ルナの目に、安堵の涙がにじむ。


窓の外では、ちょうど朝日が昇り始めていた。




冷たい夜の闇を押しのけるように、淡い光が教会の医務室を満たしていく。


神官たちは息をのんだ後、胸を撫で下ろすように言葉を漏らした。

「これで・・・・・ようやく治療が可能になりました」


別の神官が、ジャンとルナに頭を下げる。

「本当に、よくぞここまで・・・・・。あとは我々にお任せください。どうか、お休みを」




これでソフィアは助かる、そう信じ、みんなは安堵していた。



数時間後、ジャン以外の全員が、再び奈落の底へ突き落されるのだった・・・・・



カイラス「今回も読んでくださって、本当にありがとうっ!」


エルミナ「でも最近、私たち本編で全然出てないわよね。」


リリエル「うん・・・・・・こうして少しずつ、忘れられていくのかしら」


ルミア「え、縁起でもないこと言わないでよ!」


カイラス「昨日は更新がなかったな。作者、ちょっと忙しかったらしい。」


ルミア「そうなの。ごめんなさい、だって。」


ライアス「まぁ、そういう日もあるじゃろう。」


エルミナ「それより、ソフィア、大丈夫なの?」


リリエル「“再び奈落の底へ突き落とされる”って・・・・・・何が起こるの?」


ライアス「ソフィア嬢!? この間、あとがきで一緒に出た子じゃねえか!」


カイラス「確かに、そうだったな。」


ルミア「うう、次回と言わず、今すぐ続きが見たいわ!」


エルミナ「でも、きっと明日、分かるわ。」


全員「明日をお楽しみに!」




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