表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外  作者: つるぴかつるちゃん
第三章 トルナージュの出来事、そして“ルナ”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/145

第81話  ソフィアの容体

ジャンはようやく緊張を解き、自分の足にもヒールをかける。

裂けた皮膚が閉じると、ルナがふらりと立ち上がり、そのままジャンの胸に飛び込んだ。


「うわぁぁんっ! すっごく痛かったんだからっ! もう、ほんとに・・・・・ダメかと思ったよぉ!」

ルナは子どものように声をあげ、涙を溢れさせながらしがみつく。


震える肩がジャンの胸を打ち、すすり泣きが途切れることなく続いた。

ジャンは、その小さな体をしっかりと抱きしめた。


大きな手のひらでルナの頭を撫で、静かに言葉を落とす。

「オレが守るって、言っただろ?」


その声は決して大きくはなかったが、不思議と強さを帯びていた。

「うん、うんっ!」


ルナはしゃくり上げながら必死に頷き、再びジャンの胸に顔を埋めた。

涙で濡れた頬が彼の服を濡らしていく。


フィリーネは、そんな2人の姿を少し離れた場所から見つめていた。

張り詰めていた空気がようやく緩み、彼女の瞳も静かに細められる。


(今くらいは、2人の世界に浸らせてあげてもいいわね)

心の中で小さく微笑み、肩の力を抜く。


しばらくの間、ルナは泣き止む気配を見せなかった。

ジャンは何も言わず、ただ彼女が落ち着くのを待ちながら抱きしめ続ける。


やがて涙の勢いが収まり、嗚咽が小さくなっても、ルナは彼の胸から離れようとはしなかった。

まるでそこだけが安全な居場所であるかのように。



フィリーネは咳払いを一つして、わざとらしく口を開いた。

「あの・・・・・そろそろ私のことも思い出してくれるかしら? 一応、足を怪我しているのだけれど」


その声音は柔らかく、それでいて少し拗ねた響きが混じっていた。

ルナはハッと顔を上げる。


涙でぐしゃぐしゃになった表情のまま、必死に笑顔を作って言った。

「わ、わぁっ! ご、ごめんねフィリーネ! 忘れてたわけじゃないんだよっ!」


「ふふ、ええ、分かっているわ。あなたがジャンにべったりなのも、今さら驚くことじゃないものね」

からかうように肩をすくめるフィリーネに、ルナは耳まで赤くして抗議しようとしたが、言葉にならず口をぱくぱくさせるだけだった。


ジャンはそんな2人のやり取りに苦笑いしつつ、フィリーネへと片手を差し向けた。

「待たせたな。ヒール!」


光が彼女の足元に集まり、切り裂かれていた皮膚を優しく塞いでいく。


痛みが和らぐと同時に、フィリーネは一歩踏み出してみせた。

「ありがとう、ジャン。助かったわ」


「気にするな。オレ1人じゃどうにもならなかったしな」

ジャンの言葉に、フィリーネはわずかに目を細めた。


戦いは終わった。

だが、胸の奥に残る緊張は、簡単には消えそうになかった。


シャドーという存在の恐ろしさを、3人とも身に染みて理解したからだ。

それでも、生き延びた。

互いの存在があったからこそ。


ルナは再びジャンの腕にしがみつき、鼻をすする音を立てていた。

フィリーネはそんな2人を見守りながら、ふと、ほんの少し羨ましそうに唇を結ぶのだった。




ルナはすでに泣き止んではいたが、目の縁は赤く腫れ、涙の光がまだ残っていた。

その瞳が、ぐったりと倒れ込むソフィアに向けられる。


ルナは震える手でそっと近づき、ずれていた目隠しを外した。


「ソフィア」

優しい声で名を呼び、口を塞いでいた布を解く。

ソフィアの頬には、乾ききらぬ涙の跡が筋を作って残っていた。


ルナはそれを指先で触れ、再び瞳から溢れる涙を止める事が出来なかった。

「もう大丈夫だよ・・・・・怖かったよね。痛かったよね」


言葉を紡ぎながら、ルナは縄で締め上げられていたソフィアの手足を、一つひとつ慎重に解いていく。

優しく優しく。


一方ジャンは、気絶したまま動かない男を見下ろし、短く息を吐いた。

「はぁ・・・・・ロックウォール、解除」


石の拘束を解くと同時に、冷たい魔力が迸る。

「アイスバインド」

男の腕は背後で凍り付き、氷の枷が強固に彼を縛りつけた。


「ルナ、フィリーネ、もう1人を拘束してくる」

そう言うと、ジャンは素早く移動し、残っていた男の両手だけを氷で固めて戻ってきた。


ジャンは静かにソフィアを背負い上げる。

彼女の体は羽のように軽く、体温の低さに思わず眉を寄せた。


全員が入口へ向かうと、そこにはなお重苦しい圧が漂っていた。

思わずルナが肩をすくめると、フィリーネが前に進み出る。


「ルーセントハート」

彼女の掌から広がった光が波のように満ち、鈍色の圧迫感を霧のように散らしていく。


やわらかな輝きが全員を包み込んだ瞬間、胸を押し潰していた重さがふっと消えた。

「ありがとう、フィリーネ」


ジャンが小さく礼を言い、3人はそのまま結界の前へと辿り着く。

そこにはエヴァン、エレオス、リディアが待ち構えていた。




護符を使い、一時的に結界を解除して、全員は外へと踏み出す。


「ソフィア!」

リディアが悲鳴に近い声をあげ、駆け寄った。


ソフィアの頬に触れた瞬間、その冷たさに目を見開き、唇が震える。

「ジャン・・・・・ソフィアは、まさか!?」


「大丈夫だ、生きている。ただ、処置は急がないと危うい」

ジャンの声に、リディアの体がかすかに震える。


エヴァンとエレオスも駆け寄り、3人はここまで飛行魔法を使って来たことを告げた。


「ヒールよ!回復魔法を・・・」

そこまでリディアが言うと、言葉を遮るようにルナが悲しそうに言った。


「首輪・・・・・それはね、ソフィア自身の魔力だけじゃなくて、外からの魔力も遮断するんだよ」

みんなは驚愕した。


「教会へ急ごうよ!」

リディアが叫ぶと、ジャンは迷わず頷く。



「飛行速度ならフィリーネが一番速い。ソフィアを頼む。教会まで一気に運んでくれ」


「分かったわ」

フィリーネは短く応じ、ジャンからソフィアを慎重に受け取る。


その表情には迷いも戸惑いもなく、ただ冷静な使命感だけが浮かんでいた。

そして翼のごとき魔力を広げ、無言のまま夜空へ舞い上がる。


残ったジャンは振り返り、2人の男を指差す。

「エヴァン、エレオス、リディア。奴らをギルドまで連行してほしい。まだ吐かせねばならないことが山ほどある」



その言葉を聞いた途端、エヴァンの瞳が鋭く光った。

普段は冷静沈着で知られる彼が、炎のような怒りを浮かべて男たちを睨みつける。


「貴様らが・・・・・ソフィアをっ!」

低く唸るような声のあと、彼は堪えきれず拳を振り下ろした。


乾いた音が響き、拘束された男の頬が大きく歪む。


「エヴァン!」

思わずエレオスが声を上げるが、止まらない。


「貴様らごときがーっ!」

エヴァンが拳を振り上げようとした瞬間、リディアは悟った。


(エヴァンを今止めなければ、2人の男を殴り殺してしまう!)

さらに拳を振りかざそうとしたその瞬間、リディアが身体を張って間に飛び込んだ。


「やめて! エヴァンが罪人になるなんて、私、絶対に許さない!」

涙交じりの叫びに、エヴァンの瞳が揺らぐ。


理性の鎖がようやく彼を捕え、拳が宙で止まった。


「っ!・・・・・悪かった」

彼は苦悶の声を漏らし、ゆっくりと拳を下ろした。

その手は小刻みに震え、悔しさに強く握り込まれる。


エレオスもリディアも、今まで見たことのない彼の激情に息を呑み、言葉を失っていた。


怒りを露わにするエヴァンは、彼らにとって初めて目にする姿だったからだ。


ジャンは黙ってその様子を見ていたが、やがて小さく息を吐く。

「気持ちは分かる。だが、奴らをどう裁くかはオレたちじゃない」


その声に、エヴァンは悔しげに唇を噛みしめながらも頷いた。



空を見上げれば、フィリーネの光が遠ざかりながらも確かに輝いている。

ソフィアを抱えたその影が、夜空に溶けていく。


エヴァン、エレオス、リディアが男2人を連れて飛び立った後、静寂が訪れた。

残されたジャンとルナは、互いに顔を見合わせる。


夜気が冷たく肌を刺し、胸の奥まで不安を押し込めてしまいそうだった。


ルナはうつむき、押し殺したような声で言った。

「行こうよ、ジャン」


ジャンは頷いた。

2人は自然に手を取り合い、教会の方向へと飛び立った。



しばらく夜空を進むと、ルナがふいに前方を指さす。

「ここだよ」


指差した場所は、砂地だった。

2人はそこに降り立った。


そこはソフィアが練習に励んだ場所でもある。

ルナの声は震えていて、悲しさを隠しきれなかった。


ジャンは隣のルナを見やり、力強く言い切った。

「ソフィアは絶対に大丈夫だ。あいつは、こんなところで終わる奴じゃない」


その言葉にルナは少しだけ顔を上げたが、瞳の奥に沈む影は消えなかった。



ルナはゆっくりと、思い出を語りはじめる。


「ソフィアはね、ここで・・・・・ファイアーストリームを覚えたんだよ。最初は全然ダメでさ、目を閉じて集中しても上手くできなくて・・・・・」

ルナは語りながら、そっと視線を遠くへ向けた。


目の前の砂地が、あの日の訓練に重なる。


耳の奥で、ソフィアの明るい声が今にも蘇りそうだった。

「でも、ある時・・・・・炎の川みたいなのが、少しだけできかけてね。『今の!見た!?』って私に聞いて・・・・・すぐ消えちゃったんだけど」

懐かしさに胸が熱くなり、ルナは小さく笑う。


その笑顔はほんの一瞬、かつての日常を取り戻したかのようだった。

ジャンは黙ってその横顔を見つめ、ゆっくりとルナの頭に手を置いた。


柔らかく撫でながら、穏やかな声で答える。

「ああ、覚えてる。ルナ、川になったと喜んでいたな」

ルナは小さく頷いた。


瞼の裏に、炎を生み出そうと必死になっていたソフィアの姿が鮮やかによみがえる。


「それから、2人でゆっくりやって・・・・・やっと上手くいった時、ソフィア・・・・・『できた!できたよ!』って、子どもみたいに飛び跳ねて喜んで・・・・・」

そこまで言った途端、声が震え、笑顔が崩れていく。


抑えていた感情が堰を切ったようにあふれ、ルナの頬を熱い涙が伝った。


「うぅ・・・・・ソフィア・・・・・助かるん・・・・・だよね? 絶対・・・・・」


言葉は途切れがちで、最後は嗚咽に飲み込まれてしまった。

ルナは耐えきれず、ジャンの胸に顔を埋める。

小さな肩が震え、涙がジャンの衣服を濡らしていった。


ジャンは強く抱き返した。

ただ、その震えを受け止めるように、静かに背を撫で続ける。

彼の胸の奥にも不安と焦りは渦巻いていた。


だが今は、ルナの心を支えることが何よりも大切だった。

2人の間に、淡く切ない沈黙が流れる。


その沈黙の中で、ソフィアの笑顔と声だけが、痛いほど鮮明に浮かび上がっていた。


震える声に、ジャンは少し目を細めて答えた。

「ああ。ソフィアが死ぬわけない。オレたちが助ける。・・・・・そうだろ?」


ジャンの確信に満ちた声に、ルナは小さく頷き、涙を拭った。

まだ嗚咽は残っていたが、その中には「信じたい」という強い意志も混ざっていた。


2人は再び夜空へ舞い上がる。

目指すは教会。

仲間が待つ場所。


冷たい風が頬を打ち、ルナの手がぎゅっとジャンの手を握る。

ジャンもまた握り返した。

月明かりの中を、街明かり目指して2人は進んでいった。




フィリーネがソフィアを抱え、教会の白亜の尖塔へと舞い降りたとき、鐘楼の影は深く夜の帳に沈んでいた。

扉を押し開けると、淡い光に包まれた聖堂には神官たちが待ち構えていた。


祭壇前に敷かれた布の上へソフィアを横たえる。


「ひどい。魔力の流れが完全に断たれている!」

神官の一人が青ざめて呟いた。


ソフィアの首に嵌められた黒鉄の首輪が鈍く光り、淡い紋様を脈打つように浮かび上がっている。


「何とか、彼女の命を繋ぎましょう。結界を張る準備を!」

女性の神官がそう言うと、数人が動き始めた。



ルナとジャン、エヴァンたちも、間もなく駆けつけた。

ルナはソフィアの手を握りしめ、必死に呼びかけた。

「ソフィア! お願い、返事してよ!」


しかしソフィアは微かな息をしているだけで、まぶたを開けることはなかった。


ジャンは神官に向き直り、低い声で問う。

「治療はできるのか?」


「魔力阻害の首輪がある限り、治癒魔法はすべて拒絶されます。しかも・・・・・これは外そうとすれば即座に刃が発動し、首を落とす仕掛けが・・・・・」

言葉を濁した神官の顔に、絶望の影が落ちる。


「そんな・・・・・じゃあ、どうしたら!?」

ルナの声は震えていた。涙がまた目の縁に浮かぶ。


フィリーネが静かに進み出て、ソフィアの首輪を凝視する。


「術式が2重に刻まれているわ。阻害と自動発動の両方。無理に魔力で干渉すれば即座に暴発するわ。解除には術者の鍵が必要・・・・・でも、今ここにはない」


「じゃあ・・・・・」

ルナが顔を上げる。



フィリーネは一拍置いてから、柔らかい声で続けた。

「でも、生きているのは奇跡よ。完全に魔力を吸い尽くされてるにもかかわらず、まだ生きてるんだもの。まだ望みはあるわ」


その言葉に、ジャンが短く頷いた。

「なら・・・・・やれることを全部やるしかない」


神官たちが走り回り、解呪具や聖水を運んでくる。

だが魔力治療は叶わない以上、物理的な処置と生命維持の術しか使えなかった。



リディアがソフィアの髪を撫でながら、唇を噛んだ。

「こんなに冷たい! ソフィア、お願いだから戻ってきて!」



エヴァンは黙って立ち尽くし、握り拳を震わせている。

彼の眼差しは怒りと悔恨で燃えていた。


「オレたちが、もっと早く気づいていれば」


エレオスがその肩を叩き、低く言う。

「今は後悔してる暇なんかねぇだろ。今やるべきことは一つだ、ソフィアを助けることだけだ」



ジャンは神官と共に首輪を調べ続けた。

「この仕掛け、発動には微細な魔力反応を感知する仕組みか」


神官が答える。

「ええ。攻撃的な魔力を触れさせた瞬間に刃が起動します」


ソフィアの呼吸は浅く、今にも途切れそうだった。


ルナが必死に叫ぶ。

「ねぇ、なんとかできないの!? このままじゃ・・・・・」


フィリーネが彼女の肩に手を置き、落ち着かせるように囁く。

「大丈夫。まだ打つ手はあるわ。時間を稼ぎながら、彼女の命を繋ぎましょう」


女性の神官は「物は揃ったわね」

そう言うと術式を展開し、ソフィアの体の周囲に光の膜を張った。


「生命維持の補助結界です。魔力を直接流し込めない代わりに、外部から循環を保ちます。完全な治癒ではないのですが・・・・・」


「今はそれで十分だ」

ジャンは頷く。


神官は、手際よく包帯や薬草を取り、ケガをしていた部位を中心にソフィアの体に施していく。


やがて神官の一人が声を上げた。

「心拍が・・・・・ほんの少し、安定しました!」


ルナはその言葉に泣き笑いの顔をして、ソフィアの手を強く握り直す。

「ソフィア! 大丈夫、大丈夫だからね! 絶対に助けるから!」


フィリーネは静かにソフィアを見下ろした。

(奇跡を信じるしかないのかしら。けれど、この子はきっと・・・・・生き抜くはずよ)


聖堂の光に照らされたソフィアの横顔は、かすかに赤みを取り戻しつつあった。

だが、首輪はなお、冷たく鈍く輝いていた。


それはまるで、次の試練を告げる鎖のように、彼女の命を縛り付けていた。




最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ