第76話 ソフィアの決意、そして18階の変容
日が明けたばかりの街外れの草原。
ジャン、ルナ、フィリーネは、エヴァン、エレオス、リディア、ソフィアと別れるため、地上に降り立った。
「フィリーネ、飛行魔法って、やっぱり難しいわ」
リディアが、少しだけ疲れた様子で言うと、フィリーネは優しく微笑んだ。
「飛行魔法は、上下の移動さえマスターできれば、あとは簡単に身につけられますよ。頑張ってください」
フィリーネの言葉に、ソフィアたちは頷き、3人を見送った。
ジャン、ルナ、フィリーネは、東の塔へ向かった。
塔に到着すると、ジャンは転移装置を操作し、18階のフロアに降り立った。
「なんで、24階に行かないの?」
ルナが不思議そうに尋ねる。
「南の塔と同じことが起こるのか、検証したいんだ」
ジャンの言葉に、ルナは首を傾げた。
そうすると、ジャンは静かに呪文を唱え始めた。
「全ステータスアップ」
ここでルナは、ジャンの言った、南の塔と同じことが起こるのか?の意味が分かり、頷いた。
次に、ジャンは回復魔法を唱えた。
「ヒール」
ジャンは、違和感を感じ、南の塔と同じだと感じた。
「やっぱり・・・・・」
「これ、いつもの違和感だね。南の塔と同じで、クリブンが来るのかな?」
ルナが尋ねる。
「わからない。同じとは限らない」
ジャンは答える。
その時、3人の背後から、転移の光が現れた。
振り返ると、そこに立っていたのは、ソフィアだった。
「ソフィア!?どうしたの?」
ルナが驚いて声をかけると、ソフィアは恥ずかしそうにモジモジしている。
フィリーネは、そんなソフィアの様子を見て、ルナに尋ねた。
「ルナに、用事があるんじゃない?」
フィリーネの言葉に、ソフィアは横に首を振る。
そして、意を決したように頷き、小さな声で言った。
「あの・・・・・みんなに・・・・・ついて行きたい・・・・・です」
ソフィアの言葉に、ジャンとルナ、フィリーネは驚きを隠せないでいた。
ソフィアは、そんな3人の様子に、さらに深く頭を下げる。
「ほんの少しの間でいいんです。みんなと、一緒に・・・・・。ジャンと、ルナと、フィリーネの戦い方を、間近で見てみたいんです」
ルナは慌ててソフィアの顔を上げさせた。
「ソフィア、顔を上げて!・・・・・ねぇ、ジャン、どうする?」
ソフィアの真剣な言葉に、ルナがジャンに尋ねた。
その時、再び転移の光が3人の背後から現れた。
そこに立っていたのは、エヴァン、エレオス、リディアの3人だった。
「ソフィア、急にどうしたんだ。オレたちは邪魔になるから、帰るぞ」
エヴァンが冷静に言うと、ソフィアは申し訳なさそうにうつむいた。
しかし、ジャンが口を開いた。
「いや、大丈夫だ。ソフィアはオレたちについて行きたいと言うから、一緒に行こうと思っていたところだ」
ジャンの言葉に、ソフィアは顔を上げ、驚きと喜びの入り混じった表情でジャンを見つめた。
「え・・・・・いいんですか!?」
ソフィアは、感激したようにジャンに礼を言った。
その様子に、エヴァン、エレオス、リディアの3人は、驚きで目を丸くしている。
「まじかよ!?」
エレオスが、信じられないという顔で呟いた。
その時、エヴァンが、静かに周囲を見渡した。
「このフロア、いつもと違うな。魔力の濃度が、異常に高い」
エヴァンの一言に、エレオスとリディアも、周囲の異変に気づいた。
「言われてみれば・・・・・。何か、嫌な感じがする」
「そうだよ。いつもの18階じゃないんだよ」
ルナは、そんな4人の様子を見て、真剣な表情で言った。
「南の塔と同じことが、この塔でも起こるか、検証してるんだ。そしたら実際に同じことが起こっているんだよ。この先、Cクラスでは歯が立たないほど、モンスターが強くなっているよ」
ルナの言葉に、4人は息をのんだ。
「場合によっては、私たちはみんなを守りきれないかもしれないよ?それでも、本当に来る?」
ルナの問いかけに、ソフィアは即答した。
「行きます!」
ソフィアの決意の固さに、リディアが不安そうに言う。
「ソフィア、そんなに危険なんだったら、やめようよ」
しかし、ソフィアはまっすぐリディアを見つめ、静かに言葉を続けた。
「ジャンたちの戦いを見られるのは、今後2度とないかもしれない。だから、命の危険があっても行きたい。命の危険という意味では、AクラスもBクラスもCクラスも、関係ないはず!」
ソフィアの言葉は、強い意志に満ちていた。
ソフィアの強い決意に、ジャンは静かに頷いた。
「わかった。一緒に行こう」
ジャンは微笑むが、すぐに表情を引き締める。
「ただし、ルナが言ったように、この先、お前たちを守りきれない場面が出てくるかもしれない。それでも、ソフィアは、それでも行くって言っているみたいだ」
ソフィアのまっすぐな瞳に、ジャンは言葉を続ける。
「エヴァン、エレオス、リディア、お前たちはどうする?」
ジャンに問いかけられ、エヴァンたちは戸惑っていた。
すると3人ではなく、ソフィアがはっきりとした声で言う。
「みんなは、私の仲間です。私が、みんなを守ります!」
ソフィアの言葉に、ジャンは小さく笑った。
3人は顔を見合わせる。
内気でいつもハッキリものを言えないソフィアがここまで言うのであれば、と3人は頷く。
「じゃあ、いくぞ」
ジャンが短く言い放つと、
ソフィア、エヴァン、エレオス、リディアの4人の身体が、眩い光に包まれた。
次の瞬間、全身の奥から力が湧き上がってくるのを感じる。
前日にジャンからかけてもらったマジックアップなんて、比べものにならない。
「ちょ、ちょっと・・・・・・なにこれ!? 体の中が熱いっていうか、力が溢れて止まんないんだけど!」
リディアが目を丸くして叫ぶ。
ジャンは淡々と答えた。
「さっきオレ自身にパワーアップ、スピードアップ、マジックアップ、ディフェンスアップ、それからマジックダウンをかけて、その状態で今、お前たちに同じ魔法をかけた」
「は?」
あまりの内容に、4人が一斉に絶句する。
ジャンは軽く肩をすくめながら続けた。
「正確な数値までは分からないけど、ステータスはたぶん6倍か7倍くらいだ。これで多少は、自分の身を守れるだろ」
リディアは信じられないという顔で、ジャンに詰め寄った。
「そんなのありえない!自分にかけてから仲間にかけても、上昇率はほとんど変わらないはずじゃない!」
そのやり取りを見ながら、フィリーネがふっと微笑んだ。
「だから言ったでしょ? ジャンが“規格外”って呼ばれる理由が、これなのよ」
「それと、“マジックダウン”って何なのよ? そんな魔法、聞いたこともない!」
リディアの問いに、ジャンはあっさりと答えた。
「オレが自分で開発したんだ。魔力の消費を半分に抑える魔法だ。名前は適当につけただけだけどな」
「魔法を・・・・・・開発って・・・・・・」
リディアは頭を押さえ、今にもひっくり返りそうになった。
ソフィアもエヴァンも、エレオスですら口を開けたまま固まっている。
誰もが、目の前の現実を受け止めきれずにいた。
ジャンは、驚く4人を連れて、いよいよ結界の外へと足を踏み出す。
最初に現れたのは、南の塔で遭遇したのと同様のモンスター、クリブンだった。
即座にジャンとルナがフレアを放ち、2つの炎はクリブンに命中し、一瞬で絶命させた。
「あの・・・・・」
ソフィアが、おそるおそる疑問を口にした。
「クリブンって、3階に出る弱いモンスターですよね?なのに、どうして、2人でフレアを?」
ソフィアの言葉に、ルナは真剣な表情で答えた。
「3階のクリブンは、確かに弱いよ。けど、ここのクリブンは、ジャンのステータスアップがあった上で、フレアを2回放たないと倒せないくらい強いんだよ」
その説明をルナがした途端、再びクリブンが姿を現した。
ジャンとルナは、再びフレアを放ち、クリブンは絶命する。
「私、戦ってみたい!」
ソフィアが、決意を秘めた目で言った。
ルナは、心配そうにジャンに尋ねた。
「危ないけど、どうする?」
ジャンは、ソフィアの真剣な瞳を見て、静かに答えた。
「ソフィアの魔法だけでは倒せないだろう。オレたちでサポートしよう」
ジャンの言葉に、ルナは頷き、ソフィアに「よかったね!」と声をかけた。
ソフィアは笑顔になるが、すぐに気を引き締める。
その後、少し進むと再びクリブンが出た。
ソフィアは集中し、昨日ルナに教えてもらったように炎の川をイメージする。
「ファイアーストリーム!」
ソフィアの魔法はクリブンに命中するが、グギャァァァという悲鳴を上げながらも、引き続き迫ってくる。
その時、フィリーネが驚きの声を上げた。
「川!?旋律!?」
ルナが「川?旋律?何のこと?」と聞くが、フィリーネは答えない。
迫りくるクリブンに、ジャンがウインドカッターを放ち、命中させる。
クリブンは雄叫びを上げるが、まだ生きており、ジャンたちに迫ってくる。
その瞬間、フィリーネが素早くホーリーを唱えた。
溢れ出す聖なる光が、迫ってくるクリブンを包み込み、ゆっくりと光の粒となって消滅させた。
クリブンは、断末魔の叫びを上げながら、完全に絶命した。
フィリーネのホーリーによってクリブンが絶命した瞬間、ルナは目を輝かせ、フィリーネの手を掴んだ。
「フィリーネ、すごーい!ルーセントハートの次はホーリーなんだね!私たちのパーティー、これで全員が魔法で攻撃できるようになったよ!」
ルナは、自分のことのように飛び上がって喜んでいる。
ジャンも、そんなフィリーネを見て、静かに「よくやった」と称賛した。
しかし、1人、目が点になっているのがリディアだった。
彼女は信じられないという顔でフィリーネを見つめている。
「ホワイトマジシャンが攻撃魔法を使うなんて・・・・・。ジャンだけでも驚きなのに、フィリーネまで!?」
リディアは、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
エヴァン、エレオス、ソフィアにとっても、それは常識では考えられないことだった。
その後も18階では何度か戦闘があった。
ルナが「次はソフィアの番だよ!」と声をかけると、ソフィアは集中し、ファイアストリームを放つ。
クリブンは悲鳴を上げるが、まだ生きている。
その隙に、フィリーネが素早くホーリーを唱え、とどめを刺す。
この連携が何度か繰り返され、ソフィアはどんどん自信をつけていった。
彼女の表情は、最初の不安げなものから、魔法使いとしての自信に満ちたものへと変わっていく。
ルナは、そんなソフィアの成長を、微笑ましく見つめていた。
フィリーネもまた、これで何かあっても今までより、ジャンやルナの役に立てる、と確かな自信を持つことができた。
リディア「今回も読んでくださって、本当にありがとうございます」
エヴァン「感謝申し上げる。読者の皆さんのおかげで、物語は続いている」
エレオス「おー、真面目か! でもマジでありがとな!」
ルナ「ありがとーっ!」
フィリーネ「感謝の気持ちは、心からですわ」
リディア「ところで・・・・・・今日は、ソフィアがいないのね?」
エヴァン「前回、知らない人たちと一緒にあとがきに出て・・・・・・少し熱を出したらしい」
ルナ「あぁー、ライアスさんと一緒だったもんね。いい人なんだけど、緊張したのかな?」
エレオス「そりゃあんな渋いオッサ・・・・・・いや、紳士だもんな!」
ルナ「言い直したけど遅いよ!」
フィリーネ「でも今回は、ソフィアが戦闘で大活躍でしたね。ファイアーストリームをあんなに綺麗に使うなんて」
ルナ「うんうん! 炎がすごくきれいだった!」
エヴァン「魔力の制御も安定していた。見事だったな」
エレオス「あれはもう、“炎の芸術”だな!」
リディア「そういえば、フィリーネも新しい魔法を覚えたのよね?」
フィリーネ「ええ、“ホーリー”ね。まだ精度は低いですけれど、これから練習を重ねてみせますよ」
リディア「ともあれ、ソフィアも体調を整えて、次回はもっと活躍できそうね」
フィリーネ「ええ、次は一緒に出演できますように」
ルナ「うんっ! ソフィア、待ってるよー!」
エレオス「それじゃ」
全員「次回も、お楽しみにっ!」




