第75話 続・魔法の特訓と朝日
そんなみんなの様子を見て、ルナは残念そうに口を尖らせた。
「せっかくカイラスたちみたいに、変な魔法が出るの見れるかと思ったのに・・・・・」
ルナの言葉に、ジャンとフィリーネは苦笑いを浮かべた。
しかし、ルナはすぐに顔を明るくした。
「でも、半日で飛べるようになるなんて、すごい!みんな、本当は才能あるんだね!」
ルナは、心から喜んでいた。
そして、ソフィアの手を握り、力強く言った。
「ソフィア、大丈夫!私がソフィアに教えてあげる!」
ルナは、意気揚々とソフィアに飛行魔法の教えを始めた。
「いい?魔力を、足の裏から、地面に向かって噴き出すようにイメージするんだ!」
ルナは、そう言って、ゆっくりと体を浮かばせてみせた。
ソフィアもまた、ルナの真似をして、魔力を足元に集中させる。
しかし、彼女の体は、ピクリとも動かなかった。
「あれ?」
ルナは首を傾げ、もう一度、ソフィアに教える。
「もっと、力強く!地面を蹴るように!」
ソフィアは、言われた通りに、思い切り魔力を放出した。
しかし、彼女の体は、地面にめり込むように、ほんのわずかに沈んだだけだった。
「うーん・・・・・」
ルナは、腕を組み、真剣な表情で考え込んだ。
ソフィアは、不安そうにルナの顔を見つめていた。
「ソフィア、もっとイメージを具体的に!」
ルナの言葉に、ソフィアは再び集中する。
しかし、彼女の足元からは、今度は炎が勢いよく吹き出し、砂が燃え上がった。
「わあ!」
ソフィアは、驚いて飛び退いた。
「大丈夫!次は、氷のイメージでやってみよっ!」
ルナは、そう言って、ソフィアを励ました。
ソフィアは、言われた通りに、今度は氷の流れをイメージする。
すると、彼女の足元から、冷たい氷が勢いよく噴き出し、砂地を凍らしていった。
「えっ!?」
ソフィアは、困惑した表情でルナを見つめた。
ルナもまた、首を傾げている。
ルナは、もう一度、ソフィアに教える。
「次は、風をイメージしてみて!風の流れに乗るように!」
ソフィアは、ルナの言葉に従い、風をイメージする。
しかし、彼女の足元からは、パチパチと音を立てて、小さな氷の粒が飛び散った。
ソフィアは、もうどうしていいか分からず、ルナを見つめていた。
「ソフィア、頑張れ!」
「いけるぞ!」
エレオスとリディアが、離れた場所から声をかける。
ソフィアは、2人の声援に、もう一度ルナに教えを乞う。
「よし、ソフィア!落ち着いていけ!」
エヴァンの声が、冷静にソフィアに届く。
「ソフィア、大丈夫!もう一回、集中だよ!」
ルナが、ソフィアの手を握り、優しく言った。
ソフィアは、ルナの言葉を信じ、目を閉じる。
そして、自分の心の中にある、風をイメージした。
(風・・・・・風・・・・・)
彼女の足元から、微かな風が吹き始めた。
それは、まるで春のそよ風のように、優しく、穏やかなものだった。
ソフィアは、その風の流れに、自分の魔力を乗せていく。
すると、彼女の体が、フワリと地面から離れた。
「えっ!!」
ソフィアは、驚きと喜びで、目を見開いた。
彼女はフラフラしながら、しかし確実に、空中に浮いている。
「やったー!」
ルナが、自分のことのように大喜びし、飛び跳ねた。
ソフィアは、まだ少ししか浮いていないが、それでも、自分の力で空を飛べたことに、心から感動していた。
しかしソフィアは、すぐにバランスを崩して落ちてしまった。
「ううん・・・・・」
悔しそうにうめくソフィアに、ルナは心配そうに声をかけた。
「ソフィア、大丈夫?」
「はい・・・・・。でも、やっぱり難しくて・・・・・・」
うつむくソフィアの周りに、エヴァン、エレオス、リディア、そしてジャン、フィリーネが集まってくる。
「ソフィア、オレたちが一緒に飛ぶから、出来るさ」
ジャンがそう言うと、エヴァン、エレオス、リディアも力強く頷いた。
「オレたちがそばにいるから、怖くないぞ!」
エレオスが陽気に声をかけると、リディアも続いた。
「そうだよ、ソフィア!みんなで一緒に飛ぼう!」
フィリーネは、ソフィアの背中をそっと押して、空を指差した。
「私たちは、いつでもソフィアのそばにいますよ。さあ、一緒に飛びましょう」
ソフィアは、みんなの優しさに涙ぐみながら、再び杖を握りしめた。
「ありがとう!」
ソフィアが、ゆっくりと地面を離れると、ジャンとルナ、フィリーネ、エヴァン、エレオス、リディアも、それぞれのやり方で空に舞い上がった。
ソフィアは、まだおぼつかない足取りで、空中に浮く。
何度もバランスを崩しそうになり、そのたびに、隣を飛ぶルナが手を差し伸べた。
「大丈夫!ゆっくりでいいから!」
ソフィアの向かい側では、エレオスが手を振って応援している。
「ソフィア、いけるぞー!」
その横では、エヴァンが冷静にソフィアの動きを見て、アドバイスを送った。
「ソフィア、もう少し魔力の放出を一定にするんだ」
リディアは、ソフィアを励ますように、笑顔で声をかける。
「ソフィア、上手いよ!その調子!」
みんなの声援に、ソフィアの顔に自信が戻ってきた。
彼女は、少しずつ、自分の体のバランスを取ることができるようになっていった。
「やった!飛べた!」
ソフィアは喜びで溢れていた。
ジャンとフィリーネは、そんなソフィアの成長を、見守っていた。
そして、ルナは、ソフィアに抱きつき、一緒に喜びを分かち合った。
「ソフィア、本当におめでとう!」
飛行魔法の練習を終え、一行が砂地を後にする頃には、空は茜色に染まり始めていた。
魔力の消耗も激しく、皆の腹の虫が鳴り始めたところで、賑やかな食堂へと向かった。
夕食を待つ間も、話題は尽きない。
先ほどの飛行魔法の練習で持ちきりだった。
「いやー、まさか本当に空を飛べるようになるなんてな!」
エレオスが、興奮冷めやらぬ様子で語る。
「体がフワッと浮いたときは、本当にびっくりした」
ソフィアも、嬉しそうに微笑んだ。
「ジャンとフィリーネ、ルナのおかげだよ。ありがとう」
リディアが、感謝の気持ちを伝えた。
「これで、東の塔の攻略も、もっと楽になりそうだな」
エヴァンが冷静に分析する。
「ああ。そうだな」
ジャンが言うと、ルナが目を輝かせながら言った。
「ねぇ、みんな!明日、日の出を見に行かない?」
ルナの提案に、エヴァン、エレオス、リディア、ソフィアは、顔を見合わせ、首を傾げた。
「でも、オレたち、まだ上下にしか移動できないぞ」
エヴァンの言葉に、ルナは気にすることなく答えた。
「大丈夫!みんなが空中に止まっていれば、ジャンとフィリーネと私が、引っ張ってあげるから!」
ルナの突拍子もない提案に、皆は顔を見合わせたが、楽しそうなルナの様子に、次第に乗り気になっていく。
「それ、面白そうじゃん!」
エレオスが笑うと、リディアもソフィアも頷いた。
「じゃあ、決まりだね!」
ルナは、嬉しそうに笑った。
こうして、7人で日の出を見に行くことが、食堂で決まったのだった。
皆で夕食を終え、宿に戻ると、ジャンとルナは自分たちの部屋へと向かった。
ダブルルームの扉を閉めると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返る。
ルナはベッドに飛び込み、「ふかふかだー!」と大きな声で叫び、くるくると転がった。
ジャンは、その愛らしい姿を見て思わず笑みを浮かべながら、窓辺に立って夜空を見上げた。
満月が優しく部屋を照らし、2人の世界を包み込む。
「ジャン、早くこっち来て!」
ルナがベッドの上で両手を広げ、子どものように彼を呼んだ。
その笑顔に抗えず、ジャンはゆっくりと近づき、彼女の隣に腰を下ろす。
すぐにルナはジャンの腕に絡みつき、幸せそうに頬を寄せた。
「明日の日の出、楽しみだね!」
ルナが顔を輝かせて言う。
その瞳の輝きに見惚れ、ジャンは思わずルナの頬にそっと触れた。
「ああ。楽しみだ」
優しい声と温もりに、ルナは頬を赤らめて俯きながらも、さらに体を寄せる。
そして小さく甘えた声で呼んだ。
「ジャン」
「どうした?」
ジャンは、彼女の髪を優しく撫でる。
その仕草にルナは胸を震わせながら、真っ直ぐに想いを伝えた。
「私、ジャンと一緒にいられて、本当に幸せだよ。ねぇ、こうしてると・・・・・世界で一番大切にされてる気がするの」
その言葉に、ジャンの胸が熱く締め付けられる。
彼はルナを強く抱き寄せ、唇をそっと重ねた。
短いキスの後、耳元で囁く。
「オレもだ。ルナと一緒で、オレはどんな時でも幸せになれる」
ルナは恥ずかしそうに笑いながら、彼の胸にぎゅっとしがみつく。
「明日も、明後日も・・・・・ずっとずっとジャンの隣にいたい。離れたくないよ」
「心配するな。オレたちは、ずっと一緒だ。世界で一番幸せな2人でいよう」
その言葉に、ルナの瞳が潤み、嬉しそうに大きく頷いた。
「うん!大好きだよ、ジャン!」
2人は再び唇を重ね、互いの温もりを確かめ合う。
月光に照らされながら、寄り添う2人の影はひとつに重なり、静かな夜を甘く彩っていた。
フィリーネは、宿のシングルルームに戻ると、静かに扉を閉めた。
日中の喧騒が嘘のように遠ざかり、部屋の中には、ただ彼女の呼吸音だけが響いている。
ベッドに腰を下ろすと、今日の出来事が次々と頭の中に蘇ってきた。
「化け物、か・・・・・」
ふと、その言葉を思い出し、フィリーネは小さく微笑んだ。
確かに、自分たちが操る魔法は、この世界では存在しないものもある。
「でも、ルナは・・・・・」
ルナが、嬉しそうにソフィアに魔法を教えていた姿を思い出す。
彼女の純粋な笑顔と、魔法を教えることへの情熱は、フィリーネの心を温かくした。
「ルナこそ、本当の魔法使いなのかもしれないわね」
フィリーネは、窓の外に広がる夜空を見つめた。
満月が、優しく街を照らしている。
胸の奥には、かすかな不安も湧き上がってくる。
(私たちは、どこへ向かっているんだろう・・・・・?)
塔の魔物の強さが元に戻った。
シオンの言った事が正しいのであれば、既に古代文明遺跡が蘇っているはずだ。
それは、世界が再び、動き出したということなのだろうか。
「でも・・・・・」
フィリーネは、静かに呟いた。
「ルナや、ジャンと一緒なら、どこへ行っても、大丈夫な気がする」
彼女の心は、不思議と落ち着いていた。
2人の存在が、フィリーネの心を支え、不安を打ち消してくれる。
フィリーネは、静かにベッドに横になると、目を閉じた。
明日の朝、昇る朝日を、2人の隣で見られる。
そのことだけを考えながら、彼女は、静かに眠りについた。
東の空が明るくなってきた頃、約束通り、東の塔の入り口に7人が集まった。
「なあ、徒歩だと1時間くらいかかるが、日の出に間に合うのか?」
エレオスが不安そうに尋ねる。
フィリーネは、微笑んで答えた。
「大丈夫ですよ」
リディアは続いて言う。
「フィリーネも、そう言うけど本当に、間に合うのかな?」
「うん、大丈夫だよ!」
ルナが元気よく答える。
ジャンは、エヴァンとエレオスと手を繋ぎ、ルナはソフィアと、フィリーネはリディアと手を繋いだ。
「みんな、浮くことだけをやっていてくれ。あとはオレたちが引っ張っていくから」
ジャンがそう言うと、7人は一斉に空中に浮かび上がった。
そして、塔と平行に、およそ330フィートまで上昇すると、ジャンは東へ向かって飛び始めた。
「わあ! 早い!」
ソフィアが身を乗り出すように叫ぶ。
「すごい! もうこんなに!」
エレオスが目を輝かせる。
「これなら、あっという間だね!」
リディアが弾む声で続ける。
「これは・・・・・風を掴んでるみたいだ!」
エヴァンも思わず声をあげた。
エヴァン、エレオス、リディア、ソフィアは、それぞれに興奮していた。
地上を歩くよりもはるかに速い速度で、景色が後ろへ流れていく。
あっという間に水平線が見えてきた。
塔からわずか5分ほどだろうか。
もう海に着き、日の出を見るのに最適な場所までたどり着いていた。
海の上空で静止すると、皆はさらに興奮した。
「すごい!もう海だ!」
「本当にあっという間だったね!」
皆が言葉を交わす中、東の空が少しずつ赤く染まり始めた。
次第に、その光は力強さを増し、水平線から、ゆっくりと、しかし力強く、太陽が昇り始めた。
波間に揺れる光が金の糸のようにきらめき、空と海を染め上げていく。
空を飛ぶ7人の頬を撫でる朝の風は、太陽の温かい光と共に駆け抜けた。
それは新しい一日の始まりであると同時に、7人の心にも届くように温かく
今日という一日を祝福するかのように輝いていた。
「わあ・・・・・!すごく、きれい!」
ソフィアが、感動で声を震わせる。
その瞳には、昇りゆく太陽の光が映り、キラキラと輝いていた。
「すげぇ・・・・・こんな景色、初めて見た!」
エレオスは、思わず息をのんだ。
彼の顔は、朝日の光に照らされて、神聖なものを前にしているかのように見えた。
そんなエレオスとソフィアの姿を見て、リディアは、嬉しそうに微笑む。
「本当に、来てよかったね」
エヴァンは、言葉を失っていた。
彼は、ただ静かに、その壮大な光景を見つめている。
彼のクールな表情も、この時ばかりは、感動に満ちていた。
「ルナ、きれいだな」
ジャンは、隣で目を輝かせているルナに優しく話しかけた。
「うん!とってもきれい!ジャンと一緒に見れて、本当に幸せだよ!」
ルナは、そう言うと、ジャンの手をギュッと握った。
フィリーネも、感動していた。
彼女の顔にも、希望の光が満ちている。
「本当に、来てよかった。この景色を、皆で見ることができて・・・・・」
フィリーネの言葉に、皆は静かに頷いた。
それは、いずれは別れる2つのパーティー。
その皆が互いの存在を確かめ合い、これからの旅路に希望を抱いた、かけがえのない瞬間だった。
ソフィア「ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。」
ライアス「今回は少し珍しい組み合わせ、ソフィアと、ワシ、ライアスでお送りするぞ!」
ライアス「よろしくな、ソフィア嬢! がははっ! ワシがあとがきに呼ばれるのはいつぶりだろうな?」
ソフィア「あ、はいっ! よろしくお願いします、ライアスさん。えっと・・・・・・どうして私とライアスさんの組み合わせなんでしょうか?」
ライアス「さぁなぁ! 作者の気まぐれってやつじゃろう! がはははっ!」
ライアス「てかよぉ・・・・・・ワシ、最近ぜんっぜん本編に出てねぇんだぜ!気づいたら酒場で出番待ちしとるんだ! このままじゃ存在忘れられちまうじゃねぇか!」
ソフィア「ふふっ、でも、こうしてあとがきに呼ばれたってことは、ちゃんと覚えられてますよ。ライアスさんがいると、場が明るくなるって聞いてますから」
ライアス「おおっ、そ、そうか! がははっ! お主、良いこと言うのう!」
ソフィア「あの・・・・・・私、初めて“飛行魔法”で空に浮かべたんです。ほんの少し、上下に動けるくらいですけど、それでも、すごくうれしくて!」
ライアス「おおっ、そりゃすげぇじゃねぇか! ワシも初めて浮いた時は感動したもんだぜ。地面が遠ざかって、風が頬をなでて・・・・・・あの感じ、忘れられんのう。」
ソフィア「はい! 朝日を仲間のみんなと、ルナやフィリーネたちと、一緒に見られたんです。あの空の光が、今も心の中で輝いていて・・・・・・」
ライアス「ほぉ、そりゃあええ話じゃな。ジャンやルナは元気にやってるのか?」
ソフィア「はい、元気にやってます! ライアスさん、ジャンたちをご存じなんですか?」
ライアス「おう、知ってるぜ! あいつらには、世話になったことがあるんだ。まっすぐで熱い奴らだよな、がははっ!」
ソフィア「ふふっ、そうですね。きっと今も、みんなで空を見上げてると思います」
ライアス「がははは、あいつらの事だ、そうかもな!」
ソフィア「次回も・・・・・・みんなで、素敵な瞬間を見つけられますように」
ライアス「がははっ! ここまで読んでくれて感謝だぜ! ソフィア嬢とワシの再登場、どうだった?」
ソフィア「ふふっ、楽しんでいただけていたら嬉しいです。次も、物語の中でお会いしましょうね」




