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パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外  作者: つるぴかつるちゃん
第二章 メルグレイスの事件、ヒルダロア2つの真相

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第69話  カロスタイン

ジャンは夜中にふと目を覚ました。


窓の外を見ると、満月を少し過ぎた月が、西の空へ静かに傾いていた。

窓から差し込むその淡い光が、ベッドで眠るルナの柔らかな頬を照らしていた。


ジャンはベッドからゆっくりと抜け出し、そっと窓を開けた。

少し冷たい空気が肌を撫でる。


「少し、出てくる。すぐ戻るから」


振り返り、小さな声でそう告げると、ルナがかすかに身じろぎ、薄く目を開けた。


「ん・・・・・? ジャン、どうしたの?」

眠たげに目をこすりながら起き上がり、ルナも窓辺へと歩み寄る。


「ちょっと、行きたいところがあるんだ」

ジャンがそう言うと、ルナは不思議そうに首を傾げた。


眠たげな目はまだ完全に開いていない。

「夜中に? どこ?」


「カロスタインだ」


その言葉に、ルナの瞳がパッと輝いた。


まどろみは一瞬で消え去り、好奇心と期待に満ちた表情に変わる。

「わ、私も行く! カロスタインって、ジャンの生まれた街でしょ? どんなところか見てみたい!」


「いや、でも夜中だし・・・・・」

ジャンが困ったように言うと、ルナは目を丸くして彼を見つめた。


「どうしてダメなの? ジャン、ひとりじゃ寂しいよ?、私も行きたい!」


「わかった。無理はするなよ」

ジャンの小さな抵抗は、ルナのまっすぐな眼差しに一瞬でかき消された。


2人は窓から身を乗り出し、飛行魔法で夜空へ飛び立つ。

風を切って進む感覚が心地いい。


ルナは隣で無邪気に笑い、ジャンの手をぎゅっと握りしめた。

夜の闇を抜けて、2人は10分ほどで森の中にぽつりとある更地へと降り立った。


「ここが・・・・・オレの生まれた故郷だ」


ジャンがそう言うと、ルナはあたりをゆっくりと見回した。

「何も、ないね」

挿絵(By みてみん)



そこには、家も、道も、無かった。

昔の名残と言えば、更地周辺が森という事だけだった。

ただ、草原が広がっているだけ。


「ああ。シオンが悪魔と消えた時に、全部消えたんだ。」

ジャンの声が少しだけ震えていることに、ルナは気づかないふりをした。


ただ、無言でジャンの手を握る力を強める。


月明かりしかない暗い道を、2人はゆっくりと歩き始める。

森の木々が風に揺れて、ざわめく音が不気味に聞こえる。


「ねぇ、ジャン。なんか、怖いよ」


ルナが震える声で言うと、ジャンはルナの手に力を込めた。

「大丈夫だ。何かあっても、オレが守るから」


その言葉に、ルナは少し安心した顔をした。




しばらく歩くと、月明かりが一段と明るく照らす場所にたどり着いた。

周りの地面だけが、どこか違和感を覚えるほどに白く光っている。


「ここだ。・・・・・シオンが、消えた場所」


ジャンがそう呟いた瞬間、キィィィィィン、と耳鳴りのような甲高い音が、ジャンの脳内に直接響いた。


あまりの音の大きさに、ジャンは思わず頭を押さえる。


「な、何この音!?」

ルナの声が聞こえて、ジャンは驚いた。


「お前にも聞こえてるのか!?」


「うん! すごいキーンってするよ! 何これ!?」

ルナもまた、耳を塞いでいる。


その光景に、ジャンは驚きと同時に、言いようのない不安に襲われた。

この音は、自分だけに聞こえるものだと思っていたからだ。


2人が音のする場所を見つめていると、地面から魔法陣が現れ、白い光がゆっくりと立ち上る。


それはまるで、霧のように、あるいは淡い煙のように、空中で揺らめきながら、一つの形を成していく。




その光は、徐々に人間の輪郭を帯び、やがて、小さな女の子の姿へと変わった。

挿絵(By みてみん)



「シオン・・・・・?」

ジャンの喉から、掠れた声が漏れた。


ホログラムのように、透き通った光の体を持つ少女。

その光は、ジャンの知っているシオンの顔をしていた。


青い瞳と、茶色のふわふわとした髪。

その瞳は、まっすぐにジャンを見つめている。


「お兄ちゃん、助けて・・・・・」


その声が途切れると同時に、シオンのホログラムは輝きを増し、かすかに揺らぎながら言葉を続けた。

挿絵(By みてみん)



「お兄ちゃんがこの映像を見ているってことは、ルナお姉ちゃんと一緒にここにいるんだね」


ジャンの胸が大きく波打った。

隣に立つルナもまた、驚きで目を丸くしている。


シオンがルナの存在を認識している。

それが何を意味するのか、ジャンにはまだ理解できなかった。


「お兄ちゃんとルナお姉ちゃんは、魔力の波動がとても近いから、こうして私の魔力と共鳴して、この映像が見えているの」


ホログラムのシオンは、どこか遠い目をして、淡々と話す。


「この映像は、村が悪魔に襲われる1週間前に残したの。1週間後の未来は・・・・・変わらなかったみたいだね。村が残っていたら、このホログラムは再生されないから・・・・・だから、今度は私が、お兄ちゃんを助けるね」


ジャンの喉が引き攣った。


「どうしてだよ……。なんで、お前がそんなこと言うんだ!」

ジャンは叫ぶ。


しかし、シオンのホログラムはただ、決められた言葉を繰り返すだけだ。

それは、過去の出来事を記録した、ただの映像にすぎないのだとジャンは悟る。


ルナは、静かにその様子を見守っていた。

まだ小さい頃、1度か2度、彼の妹に会った記憶がかすかにある。


しかし、彼女がこんなにも幼く、そして理路整然と話す子だとは知らなかった。


これが、ジャンの心の奥底に深く刺さったままの、妹なのだと。



シオンのホログラムは、次の話題へと移る。

その声は、相変わらず淡々としていながら、どこか説得力があった。


「失われた魔法について話すね。飛行魔法は、魔力自体を放出することで飛べる魔法だから、実は簡単なんだよ。やってみてね」


ジャンとルナ、2人は驚いて目を合わせた。

今、飛行魔法が使えるし、実際に魔力そのものを出して飛ぶという事をルナに教え、カイラスたちにもそのように教えたからだ。


そしてリリエルはヒルダロアに飛んできた。




シオンは、感情の無いような声で続けていく。


「ルナお姉ちゃんが、もしお兄ちゃんと一緒に旅をするなら・・・・・ルナお姉ちゃんは、マジシャンには使えない、風系の魔法が使えるようになるよ」


言葉を聞いた瞬間、ルナは目を大きく見開き、口をぱくぱくと動かすだけで声が出なかった。


隣のジャンも息を呑み、信じられないものを見るように妹の映像を凝視する。


マジシャンは通常、火や氷といった自然属性の魔法を得意とする。

風系の魔法は、一般的にマジシャンとは相性が悪く、誰も使えないとされている。




シオンは続けた。


「これから使えるようになるのは、ウインドカッター、ウインドブラスト、テンペスト、エアスラッグの4つの魔法だよ」


ジャンの隣で、ルナの目が大きく見開かれた。

「ウソ!?・・・・・そんなに?」


ルナの呟きに、ジャンも信じられないという表情を浮かべる。


しかし、ルナの最近の風魔法の発現を考えると、シオンの言葉には妙な説得力があった。


「そして、お兄ちゃん。信じられないだろうけど、回復魔法のヒールも、ルナお姉ちゃんは使えるようになるよ」

シオンの言葉は、2人の心をさらに揺さぶった。


回復魔法は、高度な魔力操作を必要とし、僧侶か賢者だけが使える特殊な魔法だ。


マジシャンであるルナが使えるようになるなど、ありえないことだった。



シオンのホログラムは、淡々と語り続ける。

それは、まるで2人の未来を予言しているかのような、驚くべき内容だった。


ジャンは、シオンがなぜこれほどまでに自分たちの未来を語るのか、理解できなかった。


ルナは、隣にいるジャンの顔を見上げた。

ジャンの目には、驚きと戸惑いが入り混じっていた。


それでも、彼はシオンの言葉に耳を傾けていた。

そしてルナもまた、シオンの言葉が真実であると信じ始めていた。


もしシオンの言葉が本当なら、自分は、ジャンの旅を、より助けることができる。



「ジャン! シオンの言ってること、ほんとみたいだね!」

ルナは興奮した面持ちでジャンの腕を取った。


「ウインドブラストが使えるようになったのは、ジャンと魔力の波動が似てたからなんだね! 嬉しいなあ! これからも、回復魔法とか色んな魔法が使えるようになるってことだもんね!」


ルナの屈託のない笑顔に、ジャンの心は、少しだけ薄くなる。

信じられないことばかりだったが、ルナの素直な喜びが、その現実味を帯びさせていく。




シオンのホログラムは、ルナの興奮をよそに、淡々と語り続けた。

「もし、お兄ちゃんとルナお姉ちゃんが・・・・・」


今まで、感情のないロボットか何かが話しているように、表情を変えることなく話をしていたホログラムのシオンが話を止め、何か悩んでいるような表情と仕草になった。


ジャンとルナは顔を見合わせた。

「オレとルナが、どうしたんだ!?」


ルナは横に首を振った。

ホログラムのシオンが、迷いを断ち切るように頷くと続けた。


「もし・・・・・もしもだよ?、お兄ちゃんとルナお姉ちゃんがお付き合いするようになったら、もう一人ホワイトマジシャンを入れて旅をしてね」


ルナは顔を赤くして俯き、ジャンは戸惑っていた。

シオンは続けた。


「そのホワイトマジシャンはね、マナ・ケージ、ディスペル・ヴェイル、ルーセントハート、そして攻撃魔法のホーリーの失われた魔法4つが使えるようになるんだよ」


ルナが驚きながら言う。

「フィリーネ・・・・・ルーセントハート」


ジャンは頷く。


「この映像を見てる頃、お兄ちゃんはウインドカッターとテンペストを、使えるようになってると思うけど、さっき言った魔法はね、お兄ちゃん、テンペスト以外は使えないよ。」


ジャンは呟いた。

「テンペストは使えないな。だけど、この先使えるようになるのか・・・・・」


シオンは告げた。


「マナ・ケージはお兄ちゃんとルナお姉ちゃんを守ってくれるものだから、早めに覚えてもらってね。どれも理屈だけ言うと簡単だから、4つの内1つ使えるようになったら、あとは応用で出来るから、それを教えてあげてね。お兄ちゃんとルナお姉ちゃんが付き合うことがなければ・・・・・これは忘れてね。」


ルナは赤くなりながら、つい声を出した。


「えへへ! あのね、シオンちゃん! 私、ジャンと付き合ってるの! あとね、あとね! フィリーネっていうホワイトマジシャンも仲間になったんだ! みんなで冒険するの、すっごく楽しいよ!」


ジャンがルナの肩に手をやると、ルナはハッとして落ち着いた。


そして、シオンの次の言葉を待った。

「あとね、お兄ちゃんが使えるホーリーアロー、アンデッド系以外にも使えて、結構強いんだよ」


ジャンは驚いた。

「アンデッド系にしか使えないと思ってた・・・・・」


シオンは続ける。

「東西南北にある4つの塔は、18階だけすべて同じ構造になっているよ。でも、最後に行く塔の17階は、構造が変わるの」


ジャンは、眉をひそめる。


現在、北と南、そして西の塔の18階をすでにクリアしている。

確かに、どの塔も18階はまったく同じ構造をしていた。


だが、最後に残る東の塔、17階が構造が変わる?


「その17階は、ルナお姉ちゃんがウインドカッターを使えるようになっていなければ、お兄ちゃんのウインドカッターではクリアできないよ。もし、ルナお姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒に冒険しなければ、最後に行く塔の17階から先へは行けなくなるの」


「どういうことだ?」

答えないシオンに、ジャンが思わず声を荒げた。

「シオン、どういうことなんだ!?」


ルナは、静かにジャンの手を握り、首を振った。

「ジャン、落ち着いて。映像だから、答えてくれないんだよ」


ジャンの心が乱れているのが痛いほど伝わってきた。


ルナの冷静な言葉に、ジャンはゆっくりと深呼吸をする。

そうだ、これは過去の記録。

いくら問いかけても、答えは返ってこない。


シオンのホログラムは、彼らが落ち着くのを待つかのように、一瞬沈黙した。


そして、再び言葉を紡ぎ始める。


「西の塔には魔の森があって、普通は塔にさえ近づけない。でも、お兄ちゃんたちなら、飛行魔法を使えば簡単に行く事が出来るよ。飛行魔法、練習して覚えてね」

その言葉に、ジャンとルナは顔を見合わせる。


2人が西の塔へと向かう際、飛行魔法で魔の森を飛び越えた。

(今、飛べない事を前提にして教えてくれたのか。)


ジャンは、妹が完全に未来を知った上で話しているわけではない事に、少しだけホッとした。



更にシオンは続ける。


「全ての塔の18階をクリアすると、トルナージュの西側の山、そこから少しアステリア側に行った所にある古代文明が蘇る。そこも、お兄ちゃんたちが攻略することになるよ」


「何が起こるんだ?」

ジャンは再び問いかける。


しかし、ルナが彼の質問を遮るように、静かに言った。


「ジャン、落ち着いて聞こうよ。答えてくれないんだから」

ジャンの心が乱れているのが、ルナの目にははっきりと見えた。


彼はルナの言葉にうなずき、再び深呼吸をする。


「ふぅー、そうだな。・・・・・聞いてよう」

2人は、シオンのホログラムが次に何を語るのか、固唾を飲んで見守った。


だがここで、シオンのホログラムは光の粒を散らしながら、崩れ始めた。


その姿は、まるで砂時計の砂が落ちるように、徐々に、しかし確実に薄くなっていくが、続けてシオンは話していく


「もう魔力が残り少ないから・・・・・あと、どれくらい話せるか分からないよ」


シオンの足元の魔法陣は薄くなり始めていた。

シオンは、光のかけらとなりながらも、必死に言葉を紡ぎ続けた。

「お兄ちゃん、ルナお姉ちゃんと一緒にここまで来て!」


その声には、先ほどまでの淡々とした響きはなく、焦燥と切なさが滲んでいた。


「ベルトランという、ひいおじいちゃんに、ルナお姉ちゃんと一緒に会いに行って!。そうすれば・・・・・お兄ちゃんとルナお姉ちゃん、2人の魔力共鳴で、ルナお姉ちゃんが私を見つけることができるから」


ジャンの脳裏に、記憶が蘇った。

ジャンはベルトランと出会ったことがある。


塔の謎や、18階のたたり、セレスの呪い、そして魔力共鳴などを教えてくれた。



その時のことをルナも思い出していた。


ジャンがベルトランに会った時、塔の19階で光に包まれて消えた。

そして、6日間も行方不明になった。


しかし、ジャン自身は、ベルトランと2~3時間しか話していなかったという、あの事件を・・・。


シオンは少し顔を歪ませたが、すぐに普通の表情に戻ると続けた。


「西の塔の18階に、鍵穴がある。そこに鍵を挿せば・・・・・ベルトランに会える」


シオンの言葉が途切れると同時に、ホログラムは急速に光を失い、消滅寸前の状態となった。


ジャンの心臓が激しく脈打つ。

「シオン! 鍵はどうするんだ!?」


ジャンは声を張り上げた。


シオンは、かろうじて光の残像を保ちながら、最後の言葉を伝えた。

「その鍵・・・・・塔・・・・・階の・・・・・せば・・・・・」


そして、魔法陣が消え去ると同時に、光は完全に消え去り、夜の草原には再び静寂が戻った。


「大事なところなのに・・・・・」

ルナの声が、悲しげに震えた。


悔しさで、ジャンの奥歯がきしんだ。

シオンがせっかく伝えてくれた情報なのに、肝心な部分が聞き取れなかった。


「くそ!・・・・・」


ジャンがうつむくと、ルナはジャンの腕にそっと手を置いた。

「ジャン、大丈夫だよ! まずはできることから始めようよ! 私たちなら出来るよ!」


ルナのまっすぐな瞳が、ジャンを見つめる。


「ねぇねぇ! まず明日、東の街トルナージュに行こうよ! 17階のナゾナゾを解いて、18階まで行っちゃお!」


「ああ、そうだな」

ジャンの心に、再び光が灯った。


落ち込んでいる暇はない。

シオンが示してくれた道を進むしかない。




2人は飛行魔法で宿へと戻り、ベッドに腰掛けた。


「なんか、信じられないことばっかりだったね・・・・・」

ルナがぽつりと呟く。


「ああ。でも、ほとんど本当だった。これから、ルナは新しい魔法を覚えていくんだな」


ジャンは、ルナの小さな手をそっと握った。


「うん、頑張って覚えるよ!」

ルナは、ジャンの胸に顔をうずめる。


ジャンは、彼女の柔らかな髪を優しく撫で、そっと背に腕を回す。


抱きしめ合うその一瞬が、永遠に続いてほしいと願うほど、2人の世界は静かに閉ざされていった。


「おやすみ、ルナ」

「おやすみ、ジャン」


ルナはゆっくりと顔を上げ、月明かりを映した瞳で彼を見つめる。


その瞳は星屑を宿したように揺らめき、言葉より雄弁に想いを告げていた。


ためらいがちに伏せられたまつ毛が震え、そっと触れ合った唇は、やがて甘く深い口づけへと変わっていく。


唇が離れると、ルナは小さく微笑み、頬を赤らめながらも

「えへへ・・・・・」

と照れ笑いし、指先でジャンの手を包み込む。


その可愛らしい仕草に、ジャンも思わず微笑む。


次の瞬間、ルナはもう一度ジャンの胸に飛び込むように抱きつく。

ジャンも迷うことなくその身体を強く抱き返した。


互いの鼓動が重なり、離れたくないという想いが全身で伝わってくる。

そして、再び唇を重ねる。


今度は短いものではなく、永遠に続くかのような長い口づけ。


静寂の夜に溶けるように、二人だけの世界が広がり、月明かりがまるで祝福するかのように降り注いでいた。


やがて、ゆるやかに唇を離したとき、ルナの頬は紅潮し、瞳は淡い光を湛え、まるで月光を映した宝石のように輝いていた。


二人は寄り添い、外の夜空を仰ぐ。


窓の外では、月が静かに輝き、祝福のヴェールを纏わせるように二人を包み込む。


ジャンとルナは、互いの温もりを抱きしめながら、静かに夢の中へと落ちていった。




翌朝。


3人は、宿の食堂で朝食をとっていた。


向かいに座ったフィリーネが、優雅にパンを切りながら微笑む。

「2人とも、なんだか顔つきが違うわね。何かあったの?」


ジャンとルナは、昨夜の出来事をフィリーネに話すことに決めた。


シオンのホログラムのこと、失われた魔法のこと、フィリーネが覚える魔法、そして、鍵の情報を。


フィリーネは、2人の話に静かに耳を傾けていたが、やがてその瞳を大きく見開いた。


「そんな・・・・・まさか・・・・・」


フィリーネは驚きを隠せない様子で、スプーンを落としそうになる。

「でも、ジャンの曾おじい様が、そのような・・・・・」


「ああ。オレも、ルナも、信じられないことばかりだった。」

ジャンが言うと、フィリーネは納得したようにうなずく。


彼女は冷静な頭脳で、2人の話に矛盾がないことを確認していた。

「なるほど・・・・・。ひとまず、次に目指すのは、東の塔ね?」


「うん。シオンちゃんが言ってたんだ。次は東の塔の17階をクリアしないと・・・」


ルナが言うと、フィリーネは微笑んだ。


「お任せください。私の持つ古代の文献にも、その塔についての記述があります。もしかしたら、2人の役に立てるかもしれません」


朝食を終えると3人はギルドへ向かった。



受付へ行くと、ギルド長を呼び出してもらった。


これからトルナージュへ向かう事を言った後、ジャンは切り出した。

「ギルド長、・・・・・近々、古代文明遺跡が蘇るかもしれません」


その言葉に、ギルド長は一瞬動きを止めた。

そして、すぐに豪快な笑い声をあげた。


「はっはっは! ジャン君、それはまたずいぶんと思い切った冗談を言うじゃないか! 古代文明なんて古文書に伝わる昔話だ。もう二度復活する事はないよ」


ギルド長は、楽しげに笑いながら、ジャンの肩をぽんと叩いた。

彼の言葉には、悪意はない。


ただ、長年ギルド長として見てきた経験からくる、確信のようなものが感じられた。


「それに、もし本当にそんなことが起こるなら、その周辺でとっくに予兆があるはずだ。この街のAクラスパーティーには、そこの調査に行ってもらってるが、特に変わった様子はない」


「そう・・・・・・、ですよね」

ジャンは、ギルド長の言葉に反論する気にはなれなかった。


シオンのホログラムから聞いた話は、あまりにも荒唐無稽で、信じてもらう方が無理なことだとわかっていたからだ。


しかし、ジャンの心には、シオンの切ない声がまだ残っていた。



ギルドを出た3人は、街の外れまで歩いていく。


「信じてもらえなかったね」

ルナが少し残念そうに言うと、ジャンは静かに首を振った。


「ああ。でも、信じてもらう必要はない。俺たちが、それを証明すればいいだけだ」


ジャンの言葉に、フィリーネは静かにうなずいた。

「ええ。我々だけで十分です」



こうして3人は空へ飛び立つ。

フィリーネの飛行はジャンやルナよりも安定しており、スピードも速い。


二人の前をすいすいと進んでいくフィリーネ。

それを見守る、ジャンとルナは、思わず笑みがこぼれた。





数日後、ヒルダロアのギルド長のもとへ、調査へ向かっているAクラスパーティーから、緊急の便りが届く。


差し出された手紙には、古代文明遺跡で発生した異常が記されており、ギルド長は思わず手を震わせる。


そして・・・・・・。

なぜジャンたちは、異常が起こる前にそれを察知していたのか。


その不可解な一致を、考える事になる。


ジャンたちもまた、後にシオンの言葉が真実だったと知ることとなり、驚愕することになる。


だが、この時は誰ひとりとして、それを知ることはなかった。




やがて東の空が白み始める。



新しい陽光が大地を包み、3人を優しく照らす。



日の光を浴びながら、3人はトルナージュへ向け新たな旅路へと向かっていった。




--- 第二章 --- 完


最後までお読みいただきありがとうございました。

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