第6話 裏切り
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この話は、読み進めると、人によっては、かなり胸糞悪くなると思います。
自分自身が書いてて、そうだったので。(^-^;
覚悟が決まった方はどうぞ、読み進めてください。
ここで時系列は前日の夜に戻る。
ジャンが宿に戻ってパーティー全員の扉を叩く、その一時間ほど前のことだ。
ルシウスは、ゼノン、リリエル、ルナの部屋を順に訪ねていた。
彼はいつものように自信に満ちた笑みを浮かべ、少し芝居がかった口調で言った。
「やあ、みんな。今夜、ジャン抜きで重要なミーティングをしようと思ってね。
どうだい、僕の奢りで美味しい物を食べに行かないか?」
その言葉は、まるで魅力的な提案のように聞こえたが、その裏には冷たい威圧感が潜んでいる。
「重要」という言葉を強調し、もしミーティングに参加しないならパーティーから強制的に抜けてもらう。
という脅しをちらつかせた上で、食費は全額負担するという条件を付け加えてきた。
食費を負担する=決定事項には絶対に従う
それは、ルシウスのパーティーにおける暗黙のルールだった。
ルシウスは、この条件を出せば、少なくともリリエルとルナは必ず従うと確信していた。
彼は、事あるごとに2人にこう言ってきたのだ。
「Eクラスなら、他のパーティーにも簡単に入れるだろう?
あるいは、AクラスやSクラスくらいの強さがあれば、
『むしろパーティーに入ってくれ』と頼まれるだろう?」
その言葉は、2人がパーティーを抜け出せないようにするための洗脳だった。
リリエルがたまに
「私たちは他のパーティーに入れないって言いたいの?」
と問い詰めると、ルシウスは涼しい顔でこう返すのだ。
「そうは言っていない。簡単にどこかのパーティーに入れるのか?
今、入ってくれとオファーがかかってるのか?どっちだ?」
このやり取りを何度も繰り返すことで、ルシウスは自分がパーティーを抜ける話をちらつかせれば
2人は必ず残留を選ぶことを知っていた。
そして、ゼノンは常にルシウス寄りだったため、反対することはないだろうと踏んでいた。
こうして、ルシウスの思惑通りに話は進んでいった。
酒場で、全員が十分に食事を堪能した頃合いを見計らい、ルシウスは満足そうに口を開いた。
「明日、あの忌々しいジャンには消えてもらう!」
リリエルは顔色を変えた。
「メンバーから追放するってこと?」
ルシウスは優雅にグラスを傾け、冷たい笑みを浮かべた。
「そうじゃない。明日は塔の攻略だ。
そして、塔を攻略する時って、必ず事故ってついて回るだろ?」
リリエルの顔から血の気が引いていく。
「まさか、モンスターに殺させるってこと!?パーティーから追い出すだけで良いじゃない!」
リリエルの必死な声に、ルシウスはふっと笑った。
「ん?、さっき食事しませんでしたか?リリエル様?」
その言葉には、「食費を払ったんだから従え」という脅しが込められている。
リリエルは唇を噛みしめた。
「さすがに賛成できないわ!食費は自分で払う!」
ルシウスはわざとらしく肩をすくめた。
「OK、OK。リリエル様は今日でパーティーを抜け――」
リリエルはルシウスの話を遮り
「それだけはやめて!」
リリエルの悲痛な叫びに、ルシウスは満足そうに目を細めた。
「ん?賛成なのかい?パーティーを抜けるのかい? 僧侶のリリエル様?」
悔しさに顔を歪め、リリエルは何も言えなくなってしまった。
俯いたまま、ただ唇を震わせている。
「んんん?どっちなんだい?選択肢は与えてあるけど?」
リリエルは唇をかみしめながら言う
「さ、さ・・・・・ん・・・・・」
ルシウスの挑発的な声が、部屋に響く。
「あんれぇ?聞こえないんだけど?
じゃあ、慈悲深い僕が3秒だけ時間を上げましょう。
ゼロでパーティー抜けること確定ね。さーーん、にぃーーー、いーーー」
リリエルは、震える声で叫んだ。
「賛成します!」
ルシウスはフンフンと鼻を鳴らし、次にルナの方を向いた。
「ふんふん、なるほど。OK、ルナ様ーーーーー。あなた様は、いかーがでーすかーーーーーー?」
ルナは、恐怖で顔を青ざめさせ、スカートの裾をぎゅっと握りしめて俯いたまま、震える声で答えた。
「賛成です」
ルシウスは憎たらしい笑みを浮かべ、リリエルに振り返った。
「リリエル聞いた?ルナちゃんはね、ちょーーーー素直な良い子ですよー。
じゃあね、機嫌の良いボクからぁ
あ、ボクって言っちゃった。面白い?面白い?ははははは」
ルシウスははゆっくりと立ち上がり、腰に両手を当て、勝ち誇ったように言った。
「食費以外に嬉しい嬉しいプレゼントを発表しまぁーす」
そう言って、彼は真剣な顔になり、低い声で全員に告げた。
「お前ら、共犯者な」
彼はスッと椅子に座り直すと、ゼノンが口を開いた。
「別に反対はしないけどよ。そこまでする必要はあるか?」
ルシウスは眉間に深いシワを寄せ、怒りの感情を露わにした。
「お前はそう思ってるんだな。殺す必要?
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!
あいつは殺されかけてるのに助けてやってるのは誰だ?オレじゃないか?」
彼はコップに残っていた酒を一気に飲み干すと、再びコップに酒を注ぎ、一口飲んでから、机に強く叩きつけた。
「ドン!」という音と共に、コップから酒が半分近くこぼれた。
ルナとリリエルは、びくりと肩を震わせた。
「それって処刑・・・いや死刑に値すると思わねえか?あいつはこの世にいてはダメな存在なんだなぁ。
それを分かっていますか?ゼノン先生?」
ゼノンはルシウスの狂気じみた怒りに、静かに頷くしかなかった。
「だから反対はしねぇよ。作戦は?」
そこからルシウスは、冷酷な作戦を淡々と説明し始めた。
彼は今日、大量のモンスターの餌を買ってきていたこと。
18階にある広い部屋を使い、ジャンをモンスターに襲わせること。
リリエルとルナは足手まといになるから18階の入り口で待機すること。
そして、自分が適当な言い訳を考え、ゼノンとジャンが角を曲がるたびにモンスターの餌を撒きながら進むこと。
「部屋に入る二つ前の角まで餌を撒いたら、モンスターが集まってくるまで待機。これで一つ目の退路を断つ」
ルシウスは薄笑いを浮かべた。
「ただし、ジャンが戻ってくる気配があれば、待機をやめてオレが出ていって、適当なことを言いながら部屋に戻す」
さらに、ジャンとゼノンが部屋に入ったら、ゼノンがジャンに部屋で待つように指示し、19階へ向かう通路の階段前まで行き、モンスターの餌を撒きながら部屋の方向へ戻ること
「こちらも二つ手前の角で待ち。これで二つ目の退路を断つ」。
ルシウスは続けて言った。
「飛び出すタイミングは、オレとジャンの会話を聞きながら臨機応変に。こちらもオレが来ていない状態でジャンが向かってきた場合は、適当なことを言いながらジャンを連れて部屋へ戻る」。
そして、ルシウスとゼノンが部屋に揃ったタイミングで
ゼノンが「19階側からモンスターがやって来ている」と伝え、すぐに退路を確保すると言って出ていく。
「部屋の戦闘状況を耳で確認しながら、頃合いになったらゼノンが僕に『こっちからもモンスターが来ているから手伝ってほしい』と伝える」。
ルシウスは、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
「そして短時間で良いから迫ってくるモンスターの対応をジャンに頼む。この時点でジャンは戦闘をしているから、必ず引き受けてくれるだろう」
万が一、ジャンも部屋での戦闘をやめて2人と一緒に行くと言っても、3人とも絶対に助かるためにと懇願すれば、ジャンは部屋で戦闘を続けてくれると踏んでいた。
「そして、ゼノンとオレは残ったモンスターの餌をバラ撒きながら部屋から遠ざかる。
ジャンが戦闘をしている間に、最後の退路からもモンスターがウジャウジャと湧いてくる」
ルシウスは立ち上がり、両手を広げた。
「こうして、ムカつく憎きホワイトマジシャン、ジャンはその一生を終え
ルシウス様勇者御一行は新しいホワイトマジシャンを迎え入れ、Aクラスに昇格するのでしたー。めでたしめでたし」
リリエルは絶望的な顔で尋ねた。
「え?もう次のホワイトマジシャンいるの?」
ルシウスは当然のように答えた。
「ああ、フィリーネというジャンよりも優れたホワイトマジシャンだ」
彼は席に戻り、続けた。
「明日、18階から戻ったらギルドにいる。そこでジャンの死亡届を出すと同時に、パーティーに迎え入れる」
リリエルは、もう無駄だとわかっていながらも、最後の抵抗を試みた。
「こんなこと言っても無駄なんだろうけど言わせて」
ルシウスは冷たい声で返した。
「パーティーを抜けるならいつでもどうぞ?」
「ルナの気持ちはどうなるの?」
ルナは、自分の名前が呼ばれたことに、きょとんとした顔でリリエルを見た。
「さっき賛成したが、まさか今更Noとは言わないよな?」
ルシウスの問いかけに、リリエルは意を決して、ルナの顔を真っ直ぐ見つめて言った。
「ルナはね、ジャンのことが好きなのよ」
その言葉に、ルナは顔を真っ赤にして、ぶんぶんと首を横に振った。
ルシウスは、愉快そうに笑い出した。
「益々ムカつき度アップだな。さすがホワイトマジシャン!ムカつきアップの魔法まで使えるとはねーー!」
彼は少し考えるそぶりをしてから、ルナの方を向いた。
「ルナさーん、優しい優しいオレですよ?選択肢を一つ追加して差し上げましょう。愛する彼と心中♪どーおー?」
ルナは、顔を真っ赤にしたまま、震えながら答えた。
「そんなんじゃないんで、最初の通りで・・・」
「さすがは我がパーティーの要、ルナ様分かっていらっしゃいますねぇ。では当初の予定通りってことでミーティング終了」
こうルシウスが宣言して、ミーティングは終わった。
その日の晩、宿にて(ルナ サイド)
私は、リリエルの言うように、ジャンのこと好きなのかな?
ちょっとカッコイイなとは思うけど、その程度なんだけどな。
明日、ジャンがどうなるかを知っている。
助けたくても、私にそんな力はない。
自分勝手な考えだけど、明日、ジャンに助かって欲しいと思ってる。
でも、あのルシウスの計画を聞けば・・・・・あの状況で助かるわけがないのは分かっている。
かといって、ジャンと一緒に死ぬ勇気もない。
こんな自分の命が惜しい私・・・・・。
ダメダメ、こんなことを考えていても仕方ない。少し外の空気を吸ってこよう。
外へ行こうとフロントに向かって廊下を歩いていると、ジャンの泊まっている部屋の前を通り過ぎた。
(ちょっと部屋の前まで戻っちゃおう♪)
私は心の中でそう呟き、少しだけ足を戻した。
(ここがジャンの泊まっている部屋だー。)
(さすがにまだ起きているよね?)
そう考えていると、無意識のうちに扉をノックしていた。
(え!?何やってるの私?しっかりして!)
私は思わず駆け出して、フロントの奥まで走って行った。
何度も何度も深呼吸して、自分を落ち着かせた。
「さあ、部屋に帰ろう」
足を踏み出そうとしたその瞬間、目の隅に映ったのは、外から帰ってきたジャンの姿だった。
(こっちを見てるよぅ・・・・・平常心、平常心、大丈夫)
私は自分に言い聞かせ、ジャンの顔を見た。
その瞬間、頭の中に、悪魔のようなルシウスの声が響き渡る。
『お前ら、共犯者な』
私はぎゅっとスカートの裾を握りしめ、顔を俯かせた。
(私、共犯者じゃない)
『お前ら、共犯者な』
(違う!私は!)
『お前ら、共犯者な』
否定しても否定しても、頭の中を駆け巡るルシウスの声。
止めどなく溢れてくる涙。
(ここにはいられない!)
私は顔を覆って、走って自分の部屋へ戻った。
ベッドに頭をうずめて、可能な限り小さい声で泣いた。
心の中で叫ぶ。
(助けたい、助けられない、助けたい、助けられない・・・・・)
(誰か!)
『お前ら、共犯者な』
(助けて!)
『お前ら、共犯者な』
(私を助けて!)
『お前ら、共犯者な』
(ジャンを助けて!)
『お前ら、共犯者な』
私はただ、泣いて泣いて泣き続けた。
ここで時系列は5話の最後に戻る。(ジャン サイド)
オレがモンスターを足止めして、もうどれくらいの時間が経っただろうか?
まさか、ルシウスもゼノンもやられたのか!?
そんなはずはない。支援魔法をかけたばかりだ。
確かにすごいモンスターの数だが。
「ファイアーストーム!」
ギャアア!グギィィ!
何体かのモンスターが倒れる。
しかし、倒すモンスターの数以上に、部屋に入ってくるモンスターが多い。
オレの魔法はなぜこんなにも弱いんだ!!
支援魔法で強化されているにもかかわらず、これしか殺せない。
同じファイアーストームでも、マジシャンなら、もっと多くのモンスターを倒せるのに。
もしここにルナがいてくれたら、どうなっていただろう?
もっとたくさん倒せたはずだ。いや、この数では2人とも死ぬことになるか。
ふと、閃いた。理論上は出来るはずだ!
オレは右手にファイアーストームの準備をし、左手も出す。そしてファイアーストームの準備。
「ダブルファイアーストーム!」
両手から同時に炎の嵐が吹き荒れる。
グギャー!
ブオオオオ!
ピギャッ!
ギャー!
10体以上のモンスターが倒れる。
よし!これくらいが、通常のマジシャンが倒せる数だろう。
魔力消費は単純に2倍か、魔力消費半減と併せても通常の消費量より少し多いくらいだ。
頭の片隅で冷静にそんな計算をしながらも、今のこの状況で魔力を温存する余裕などないことは分かっている。
しかし、終わりが見えない戦いだ。
どこまで魔力を使っていいのか、判断がつかないまま、ジャンは次々と迫りくるモンスターを倒し続ける。
「魔力温存なんて、できるわけないか…いや、できるかどうかは分からないが、やってみる価値はあるだろう」
かすれた声でそう呟く。
上手くいけば、この絶望的な状況を少しでも引き延ばすことができるかもしれない。その一心で、
ジャンは新たな魔法に挑んだ。
「ダブルファイアーストーム!」
両手の手のひらを前方に突き出し、魔力を送り続ける。。
強烈な炎の嵐が吹き荒れ、モンスターたちの断末魔が響き渡る。
10秒、20秒と炎を放ち続けると、部屋の中のモンスターはほとんどいなくなった。
「よし!可能だ!」
手応えを感じ、ジャンは思っていたことが出来る事を確信し、こぶしを握る。
だが一時しのぎに過ぎない。
彼は通路のひとつに入り、角を曲がった突き当りが、以前確認した行き止まりの場所であることを思い出した。
通路の半分まで進んだところで、通路の入り口に向かって魔法を放つ。
「アイスウォール!」
目の前に巨大な氷の壁が築かれていく。
魔力を注ぎ込み続けると、壁はどんどん厚くなり、ついに彼の手前までせり出したところで、ようやく魔力注入をやめた。
「これで多少は時間が稼げる」
安堵の息を漏らしながら、通路の壁に背を預ける。
もし25階より上の階だったら、もうとっくに死んでいただろう。
そう考えると、全身から力が抜けるような疲労感が襲ってきた。
魔力は半分以上使っただろうか。
体のあちこちが痛み、所々に擦り傷や切り傷もできている。
だが、致命傷になるような怪我はない。それが唯一の救いだった。
「ここからどうするか・・・・・」
深くため息をつく。
このままでは、壁が壊された時が自分の最期だ。
エルミナ、苦しんでるだろうにオレはこんなざまだ
カイラスたちは、オレがここで死ぬとは思ってないだろう。
ルナがなぜあんなに泣いていたのか、未だに理由が分からない。
何を謝れば許してもらえるのか。
こんな状況で死んでいく自分が情けない。
そんな事を思っていると、ふと、疑問が湧いてきた。
ルシウスとゼノンが本当にやられたのか?
いや、あの二人なら、そう簡単にやられるはずがない。
だが、2人が去ったあの通路からモンスターが出てきた。
疑問が解けた。
そうか・・・・・あれはそういうことだったのか!
18階に来てルシウスが、一瞬だけニヤリと笑ったのを思い出す。
あの時の違和感が、今になって確信に変わった。
これは、ルシウスとゼノンが仕組んだ罠だったのだ。
俺は何もできないまま、ここで一人、死を待つしかないのだろうか。
もう誰も助けに来てくれない。
1人でこの状況を乗り切るしかない。
だが、打開策は・・・・・ない
「はぁ・・・・・俺、ここで死ぬのかな。死ぬんだろうな・・・・・」
自嘲気味につぶやき、ジャンは薄暗い通路の壁にもたれかかり、静かに目を閉じた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
ルシウスの本性を書いた話でした。




