第66話 討伐後
ギルドに到着した3人は、受付へと向かう。
応対に出た受付嬢は、3人の姿を見て安堵の表情を浮かべる。
「お帰りなさい。ご無事で何よりです」
ジャンが一歩前に出て、落ち着いた声で報告を始める。
「依頼の件、カドゥケウスは討伐した。現場の確認もしてくれると助かる」
「討伐・・・・・本当に?」
受付嬢の声は震えていた。
西の塔19階の生還者として既に注目されていた3人が、今度はBクラス以上でも手を焼く魔物を倒したのだ。
「信じられない・・・・・でも、あなた方なら・・・・・もしかしたら、と思っていましたが・・・・・本当にありがとうございました」
受付嬢は深々と頭を下げた。
フィリーネは、今後もジャンとルナの力になる!
これでやっと2人の仲間として胸を張れる!
そう実感できる喜びが、心を温めていた。
受付嬢はしばらく沈黙した後、深く息を吸い込んだ。
「少々お待ちください。ギルド長をお呼びしてまいります」
そう告げると、慌ただしく奥へ駆けていった。
「ギルド長・・・・・なんか、おおごとになってきちゃったね」
ルナが照れ笑いをした。
ジャンは肩をすくめる。
「まあ、あれだけの相手を倒したんだ。普通の報告じゃ済まないだろう」
フィリーネはそっと胸に手を当てた。
自分の力が役立てたことの誇りと、同時に大きな責任を負った気配を感じていた。
やがて重い扉が開き、壮年の男が現れる。
白髪交じりの髪を後ろで束ねた、威厳ある風貌のギルド長、ラガンだった。
「君たちが討伐を成し遂げた冒険者か」
低い声が受付に響く。
ジャンが一歩前に出て、落ち着いた口調で答えた。
「はい。ご依頼の通り、カドゥケウスを討伐しました。現場の確認をしていただければ分かると思います」
ラガンは3人を見渡し、深く頷く。
「よくぞやってくれた。あの魔物に苦しめられていた者がどれほど多いか・・・・・。感謝する」
そう言うと、机に分厚い封筒を置いた。
「依頼料に加え、ギルドからの特別報奨金だ。君たち3人で分けるといい」
ルナの目が丸くなる。
「わぁ・・・・・特別って響き、なんか嬉しい!」
フィリーネは驚きながらも丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
ジャンは封筒を受け取り、静かに会釈する。
「ありがたくいただきます」
ラガンはにっこりと笑みを浮かべた。
「君たちのような冒険者が、この街にいることを誇りに思うよ」
短い言葉ではあったが、その眼差しは確かな敬意に満ちていた。
ラガンが昇格の件で謝ってきたので、ジャンはさっきも受付嬢にも謝られたので問題ないと返した。
忘れていた西の塔18階までの地図を手渡すと、ラガンは厳かな面持ちでそれを受け取り、他の街のギルドにも必ず共有すると力強く約束してくれた。
ギルドを出ると、街はすでに夕暮れに染まっていた。
西の空は茜から紫へと変わりつつあり、通りには灯火がひとつ、またひとつと点り始めている。
「ふぅ・・・・・やっと終わったね!」
ルナが大きく伸びをして、気持ちよさそうに深呼吸した。
「戦って、報告して・・・・・お腹ぺっこぺこ!」
「はは、いつも通りだな」
ジャンは笑いながら肩の力を抜いた。
「じゃあ、今日はしっかり食べるか。どこにする?」
「ねえ・・・・・、静かな場所でお願いしてもいいかしら?」
フィリーネが提案する。
「じゃあ、あの広場の近くの食堂にしよ!」
ルナが元気よく答えた。
「前に一回行ったとき、定食がすごく美味しかったんだー!」
ジャンとフィリーネも異論はなく、3人は足を速めた。
夕暮れの通りを抜け、少し奥まった場所にある小さな食堂へ。
外の喧騒が届かず、窓からは柔らかな灯りがこぼれている。
中に入ると、木の温もりを感じる静かな空間が広がっていた。
煮込み料理のやさしい香りが漂い、壁際では小さなランプが柔らかく揺れている。
「ここ、落ち着くね!」
ルナが思わず声を弾ませる。
「ふふ、静かでいい場所ね」
フィリーネも微笑み、ゆっくりと席に着いた。
ジャンは穏やかに頷きながら、窓際の丸いテーブルを選ぶ。
外では、風に揺れる木々の葉がかすかに音を立てていた。
3人が腰を下ろすと、ようやく静けさが心に染みてくる。
「こうしてゆっくりできるの、久しぶりだな」
ジャンの言葉に、ルナとフィリーネは顔を見合わせて微笑んだ。
程なくして料理が運ばれ、テーブルはたちまち色とりどりの皿で埋まった。
「いただきまーっす!」
ルナが元気よく手を合わせ、真っ先にスプーンを手に取る。
「あぁ、やっぱり美味しい♪」
フィリーネは一口運び、頬をほんのり染める。
緊張から解放されたせいか、その小さな笑顔はとても柔らかだった。
ジャンも一口食べ、静かに息をつく。
「確かに、疲れた身体に染みるな」
「でしょでしょ! やっぱり頑張った後はご飯だよ!」
ルナは幸せそうに口いっぱいに頬張りながら言う。
その姿にフィリーネもくすりと笑った。
「ルナは、本当に元気だわね」
「えへへ、食べると元気が湧いてくるんだよ!」
ルナはスプーンを掲げて胸を張る。
ジャンはその光景を眺め、ふっと口元を緩めた。
「・・・・・こうして食事してると、いつもの日常に戻ったって感じがするな」
その言葉に2人も頷いた。
「ええ……。本当に、今日は必死だったわ。でも、こうして一緒に食事をしながら話していると、あぁ、無事に帰ってこられたんだと、心から安堵できるのよね。」
フィリーネの声は小さく震えていたが、瞳には確かな光があった。
ルナは彼女の手を取って、強く握る。
「フィリーネはすごかったよ! “ルーセントハート”がなかったら、私もジャンも危なかった。胸張っていいんだからね!」
「ルナ・・・・・ありがとう」
フィリーネは潤んだ瞳で笑みを浮かべた。
ジャンも2人を見て、ゆっくり頷く。
「本当にそうだ。今日の勝利は、オレたち3人で掴んだものだ」
3人の視線が交わり、自然と笑みが零れる。
テーブルの上の料理が湯気を立て、温かな香りが静かに満ちていく。
その温もりのように、3人の心にも確かな絆が広がっていた。
ジャンは微笑みながらカップを傾ける。
「いい夜だな」
「うんっ! 明日はもっとおいしいもの食べようね!」
ルナの無邪気な声に、ジャンとフィリーネは思わず笑みを交わした。
窓の外では夜風が木々を揺らし、淡い灯りが3人の横顔を照らしている。
その夜の食堂は、戦いを終えた者たちにやすらぎを与える、優しい時間に包まれていた。
「ねぇ、デザート頼むの忘れてない? あのプリン、食べたかったのに!」
ルナの声が響き、二人の笑いが静かな夜に溶けていった。
食堂を出ると、夜の街には涼やかな風が吹いていた。
灯火に照らされた石畳を3人で歩きながら、腹も心も満たされた余韻を楽しんでいたその時――。
「ジャン、ルナ」
突然、フィリーネが立ち止まり、小さな声で2人を呼び止めた。
ジャンとルナが同時に振り返ると、フィリーネはまっすぐに2人を見つめ、深く頭を下げた。
「今日は・・・・・本当にありがとう!」
「え? 何でいきなり?」
ジャンが驚いたように目を瞬かせる。
ルナも首を傾げながら笑う。
「そうだよ!、どうしたの?」
フィリーネは少し頬を赤らめ、けれど瞳には確かな光を宿していた。
「午前中、私の練習に付き合ってくれたから。あの時、何度も失敗して、正直、もうだめかと思っていた時、もうやめようかと思っていたの。でも、2人が練習中も戦闘の時も励ましてくれたから、今日、あの魔法が使えたの。本当に、感謝しているわ。」
その言葉に、ジャンとルナはしばし顔を見合わせた。
そして、2人同時に笑った。
「違うだろ、フィリーネ」
ジャンが穏やかな声で言う。
「オレたちはただ隣にいただけだ。最後まで諦めなかったのは、お前自身だ」
ルナも頷きながらにっこり笑った。
「そーだよ! フィリーネが諦めなかったから、できたんだよ。私たち、ちょっと手伝っただけ!」
「・・・・・」
フィリーネの胸の奥が、温かいものでいっぱいになった。
2人の言葉が心に染み込み、再び目頭が熱くなる。
「ありがとう・・・・・本当に・・・・・」
もう一度頭を下げた彼女に、ジャンとルナは優しく微笑んだ。
やがて宿に戻ると、3人はそれぞれの部屋へ向かった。
フィリーネは「おやすみなさい」と静かに手を振り、自分のシングルルームへ。
ルナは当然のようにジャンの腕をつかむ。
「はい、こっちこっち! ジャンは私と一緒だからね!」
「いや、わかってるよ」
苦笑いしながらも、フィリーネの隣の部屋、ダブルルームの扉に入るルナとジャン。
そして扉が閉まった瞬間。
「わーっ!」
ルナは勢いよくジャンに飛びついた。
「ジャンっ! 今日も一緒に戦えて嬉しかったー!」
「おいおい、窒息するって・・・・・」
苦しそうにしながらも、ジャンの表情は優しい。
「幻覚は、もうイヤだけど、ジャンが隣にいると私、全然怖くないんだよ?」
ルナは子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
その言葉にルナはふっと真顔になり、ジャンを見上げる。
「ねえ、ジャン。・・・・・ひとつ聞いていい?」
「ん?」
「戦いが終わった時・・・・・私、“ウインドブラスト”を使えたでしょ? あの瞬間ね、なぜかジャンの魔力を感じたんだ」
ルナの瞳は真剣そのものだった。
「私の魔法なのに・・・・・なんで?」
ジャンは少し考え込み、やがて静かに口を開いた。
「魔力共鳴、かもしれないな」
「魔力共鳴」
ルナが小首を傾げると、ジャンはふっと遠くを見るように目を細める。
「前に話したことがあるだろ。オレの母さんと、ルナの母親のこと。2人は双子以上に魔力が似ていて・・・・・互いの魔法を補い合えるほどだったって」
ルナは頷きながら、すぐにぱっと顔を明るくした。
「うん! 覚えてる! それ、すごく不思議で・・・・・でも、ちょっと羨ましいって思ったんだ」
「オレとお前も・・・・・もしかしたら、それに近いのかもしれない」
ジャンの声音は穏やかだが、どこか確信を帯びていた。
ルナは一瞬息を呑み、それから頬を赤くして笑った。
「そっか・・・・・やっぱり、ジャンと私なんだね」
勢いのまま、ルナはジャンに飛びつき、ぎゅっと抱きつく。
「だーーい好き! やっぱり私、ジャンと一緒だから強くなれるんだ!」
「ああ」
ジャンは少し照れながらも、優しくその背を抱きしめ返した。
そして、ルナは幸せそうに目を閉じ、ジャンに唇を重ねた。
2人の間に、温かな静寂が満ちていく。
ジャンとルナは魔力だけでなく、心そのものが確かに共鳴していることを、互いに感じていた。
一方、フィリーネは・・・・・
ベッドに腰を下ろしていた。
手を胸に当て、ゆっくりと息を吸い込む。
今日、あの絶望の中で、確かに「ルーセントハート」を発動できた。
光が仲間を守り、幻覚を打ち払った瞬間の感覚が、まだ胸の奥に残っている。
「今度は偶然じゃないのね」
小さく呟くと、自然に頬が緩む。
努力が実を結び、自分も仲間の力になれた。その喜びが全身を満たしていた。
しかし、ふと隣の部屋から聞こえてくる笑い声に、フィリーネは肩を揺らした。
「ふふっ」
思わず小さな笑みが零れる。
ジャンとルナ、本当に仲がいいなぁ。
羨ましくないと言えば嘘になる。
でも、不思議と嫌な気持ちはなかった。
むしろ、2人が笑い合っている声を聞くだけで、胸の奥が温かくなるのだ。
「わたしも、もっと頑張らないと」
フィリーネはそう呟き、ベッドに横たわった。
しかし、その直後。
壁越しに、かすかに2人の声が聞こえてくる。
「魔力共鳴、かもしれない」
「魔力共鳴・・・・・」
耳に届いたその言葉に、フィリーネの胸が小さく震えた。
(魔力・・・・・共鳴・・・・・)
しばらく考え込んでいたが、やがてふっと小さな笑みを浮かべる。
隣から続けて聞こえる声
「そっか・・・・・やっぱり、ジャンと私なんだね」
「だーーい好き! やっぱり私、ジャンと一緒だから強くなれるんだ!」
ふふっと笑うと、呟いた。
「魔力もいいけれど・・・・・・」
そっと瞼を閉じながら、心の奥で呟いた。
(わたしも・・・・・心が共鳴できる相手が、・・・欲しいな)
そう思うと、不思議と胸の奥が温かくなる。
隣の部屋から聞こえる楽しげな声は、もはや寂しさを呼ぶものではなく、未来への淡い憧れを映す音に変わっていた。
外では風が木々を揺らし、遠くから街の喧騒がかすかに聞こえる。
戦いの疲れは深い眠気となって、フィリーネは穏やかな眠りへと落ちていった。
ルミア&エルミナ&リリエル「今回も最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます!」
ルミア「静かな夜の余韻が素敵なお話でしたわね」
エルミナ「ええ。フィリーネの成長も描かれていて、胸にくるものがあったわ」
リリエル「ジャンとルナの支え方も優しかったわね。ああいう関係、理想的だと思うの」
(ぱたぱた、と小走りの足音)
ルナ「ちょっと待ったーっ!!!」
ルミア「わっ!ルナ? 急にどうしたの?」
ルナ「どうしたの、じゃないよ! リリエルに聞きたいのっ! 今すぐっ!!」
リリエル「え? 私に?」
ルナ「この前のあとがき! リリエルと“もう一人の女”が出てたって話、あれ、誰なのっ!?」
リリエル「それは・・・ごめんなさい。今は、ネタバレになるから言えないの。きっと、すぐに分かるわ」
ルナ「えぇーーー!? 何でよ!? 気になるんだもん!!」
ルミア「“もう一人の女”って、何だか意味深ね」
エルミナ「気になるっていうか、騒ぎの元でしょ、どう考えても」
ルナ「まさかリリエルとジャンであとがき出てたなんて! で、もう一人って、まさか!?」
(ルナ、ぎろりと二人を睨む)
ルナ「ルミア? それともエルミナ!? 2人してリリエルとグルになって、ジャンを誘惑しようとしてない!?」
ルミア「ちょ、ちょっと!? なんでそうなるのよ!」
エルミナ「落ち着きなさいルナ、そんなわけないでしょ!」
リリエル「ルナ、違うの、誤解よ!」
ルナ「じゃあ誰なのよーーっ!!!」
ルミア「ルナ、ジャンを信じてあげられないの?」
ルナ「うぐぐっ!そ、そんな事ないもん!」
エルミナ「まったく、ジャンも罪な男ね」
リリエル「ほんとに、説明するまで許してくれなさそうだわ」
ルナ「リリエルも同罪だからね!!!」
リリエル「わ、私は関係な・・・」
ルナ「ジャンーーーっ! あとでちゃんと聞くからね!!」
ルミア「それでは、次回も」
全員「お楽しみにーーーっ!」
カイラス「なあ、次回もお楽しみにって、本編か?あとがきか?」
ライアス「がーはっはっは!! そりゃあ、あとがきだろうよ。がはははーーー!!」




