第65話 失われた魔法、立て続けに誕生
ジャン、ルナ、フィリーネ3人が驚いたのも無理はない。
2人の放った魔法は正反対の魔法。
ルナの手からほとばしったのは、夜空を裂くような光を纏った炎
『スターフレア』
一方、ジャンの手から解き放たれたのは、極寒の嵐を伴った氷雪の暴風
『ブリザード』
ルナが慌てて声を上げる。
「ジャン!? ここは炎系でしょ!」
ジャンは眉をひそめ、すぐに言い返した。
「いや、さっき炎でモヤを消せなかったから氷だ!」
フィリーネが悲鳴をあげる。
「ちょ、ちょっと待って! 相殺される!」
巨大な炎と極寒の吹雪は、カドゥケウスに届く寸前で正面衝突した。
次の瞬間、轟音が大地を揺るがす。
「――っ!」
炎と氷がぶつかり合い、凄まじい爆裂音とともに炎と氷が渦を巻く。
だが、ただ消え去ったわけではなかった。
衝突の余波が暴風となり、無数の刃のような空気の断層を生み出した。
暴風は唸りをあげ、鋭利な刃と化してカドゥケウスの巨体を切り裂く。
「これは!?」
ルナは一瞬息を呑み、状況を見極めようと目を凝らした。
「何だ・・・・・これ!?」
ジャンは思わず目を見開く。
フィリーネも両手を胸に当て、呆然と立ち尽くす。
だが・・・・・・。
「えいっ!今だー!」
ルナだけは一瞬の隙を逃さなかった。
観察しながら、すでに魔力を練り終えていた彼女は、杖を振り下ろす。
「エクスプロージョン!」
轟音と共に、暴風の中心に紅蓮の爆発が叩き込まれた。
暴風は爆炎に煽られ、さらに巨大な竜巻のごとき奔流となってカドゥケウスを包み込む。
「グゥゥオオオオオオオオオッ!」
耳をつんざく咆哮。
影の翼がもがき、白い霧が散り飛ぶ。
カドゥケウスの巨体が激しく揺れ、ついにその足が地を踏みしめた。
大地に深い亀裂が走り、衝撃で周囲の樹木がなぎ倒されていく。
「すごい!!」
フィリーネが息を呑む。
ルナは次の詠唱に入ろうとした。
だが、そこまでだった。
暴風と爆炎に翻弄され続けたカドゥケウスは、全身を切り裂かれ、爆発の中心でなおガタガタと震え
そして・・・・・・。
巨体が、崩れ落ちた。
白い霧が消え去り、赤い光も虹色の輝きも、すべて空気に溶けていく。
「倒れた」
ジャンが小さく呟く。
「やった・・・・・本当に!」
フィリーネの顔に、安堵の笑みが広がる。
ルナは荒い息を吐き、杖を握ったまま膝をついた。
「ふぅーー!・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・幻覚はもうイヤだよーーっ!」
ジャンが駆け寄り、ルナの肩を支える。
「ああ、そうだな。だけど、よくやった!」
フィリーネは2人の姿を見つめながら、胸の奥に“ジーン”と温かいものを感じていた。
自分も確かに、この戦いの一員だった。
そう実感できた瞬間だった。
「フィリーネに、また助けられたな」
ジャンがそう言うと、フィリーネの胸がふっと熱くなる。
そして彼は、優しい笑みを浮かべながら続けた。
「フィリーネ、このパーティーには、なくてはならない存在だ。これからもよろしくな」
その一言が、とどめの一撃のように胸に響く。
フィリーネは口元に手を当て、ぽろぽろと涙をこぼした。
ジャンとフィリーネは同じホワイトマジシャン。
だがジャンは、攻撃魔法も回復魔法もこなす万能型。
一方のフィリーネは純粋な支援職で、攻撃も回復も使えない。
そのせいで、心のどこかにいつも小さな迷いがあった。
私は、本当に役に立てているのだろうか?
だが今、ジャンの言葉がその迷いをすべて吹き飛ばしてくれた。
横で様子を見ていたルナが、意地悪く目を細めてから茶化す。
「ジャンが女の子泣かしたー!ひっどーい!」
その瞬間、ルナは見た。
ジャンの目が、「ギラリ」と光るのを・・・・・・。
「あっ・・・」
冷や汗を流しながら、ルナはじりじりと後ずさる。
ジャンがドシン、ドシン!と地面を揺らす勢いで、一歩ずつ迫ってくる。
笑顔なのに、その笑顔が一番怖い!
「ちょ、ちょっと待って待って、待ってよぉーっ!」
ルナの必死な叫びに、フィリーネは涙を流しながらも、こらえきれず吹き出してしまった。
そして・・・・・・
戦いを終えた大地の上には、カドゥケウスの巨体が静かに崩れ落ちていた。
こんな和んでいる中、不意にルナがカドゥケウスの方を見て黙り込む。
ジャンとフィリーネもカドゥケウスを見て勝利を確信した、その時。
「・・・・・っ!」
ルナの瞳が鋭く細められた。
その脳裏に、ほんの一瞬、何かの術式の断片が閃いた。
幾何学の紋様のような、見たこともない構築の回路。
「ジャン! すぐあそこに、アイスアローを! 早くー!」
ルナはカドゥケウスの死体を指差し、声を張り上げた。
「は? いや、もう魔力は感じないぞ?」
ジャンが困惑して眉をひそめる。
「そうですよ・・・・・カドゥケウスはもう」
フィリーネも恐る恐る言葉を添えた。
安堵の余韻がまだ胸に残っている。
だがルナの顔には焦燥の色が浮かんでいた。
「いいから! 早くっ!」
その必死な声音に押され、ジャンは杖を振る。
「ああ、わかったよ、やればいいんだろ?」
青白い矢が生まれ、指示された地へと放たれる。
ルナは同時にファイアーアローを放った。
「なっ・・・・・また!?」
ジャンは驚きで言う。
「えっ!?」
フィリーネもまた驚く。
炎と氷。
ふたつの矢は空中でぶつかり、鈍い衝撃音と共に弾けた。
先ほどカドゥケウスを葬った時とは比べものにならないほど、威力は小さい。
だが、爆ぜた周囲の空気が渦を巻き、またしても暴風を生んだ。
小規模ながら、鋭い風の刃が虚空を切り裂いていた。
ジャンとフィリーネは顔を見合わせた。
「おいルナ、なんだこれ」
「ルナ・・・・・一体どうしたの?」
2人が問い詰めるように視線を向けたその瞬間、ルナはすでに次の詠唱に入っていた。
「エクスプロージョン!」
ジャンとフィリーネがそこに目を向ける。
炎の爆裂が暴風の渦に重なり、凄まじい音を立てて空気が震えた。
その様を目にしたルナは、杖を握りしめ、目を輝かせた。
「そうなんだ、本当にできるんだ!・・・・・ これなら・・・・・私、頑張るよ!」
「は? 出来るって・・・・・何がだよ!」
「私も全然・・・・・何を頑張るか・・・・・、一体何のことなの!?」
ジャンとフィリーネが互いに顔を見合わせ、困惑の声を上げる。
その傍らでルナだけが、確信に満ちた眼差しで燃え盛る渦を見つめていた。
ルナは大きく息を吐き出すと、胸の鼓動を静めるように瞼を閉じた。
手にした杖へ意識を集中させ、先ほど脳裏に浮かんだ術式の断片をひとつずつ紡ぎ直す。
「・・・・・感じて・・・・・」
呟いた瞬間、杖の周囲にふわりと風が舞った。
「なっ・・・・・!」
ジャンが思わず目を見張る。
「ルナ・・・・・まさか、風・・・・・?」
フィリーネも口元を押さえ、声を失った。
風系魔法・・・・・・それは本来、僧侶が扱うもの。
マジシャンであるルナには決して使えないはずの系統だった。
「オレだってウィンドカッターくらいは出せるが・・・・・」
ジャンは唸るように言葉を続けた。
「あれは違うな。杖の周りの風の巻き方が・・・・・、オレも見たことがない。」
確かに、ただの斬撃を飛ばすだけの風とは根本的に違っていた。
ルナの杖の周りでは、風がどんどん渦を巻き、濃密に絡み合い、空気そのものが唸りを上げている。
「こんなの・・・・・わたしも、一度も見たことがありません」
フィリーネの声は震えていた。
ジャンは視線を外さず、短く吐き出す。
「普通の風系魔法ではないのは確かだ。」
その傍らで、ルナは集中を切らさず、ただ風の流れに心を合わせていた。
風はただの空気の動きじゃない。
火と氷がぶつかり合った時に見せた、あの「変化」。
フィリーネが見せた、魔力+術式+旋律
きっと、ここに新しい術式が眠ってる。
ルナの脳裏に言葉が浮かぶ。
自然と口が動き、その名を告げた。
「ウインドブラスト!」
次の瞬間。
杖先から放たれた風が唸りを上げ、カドゥケウスの残骸がある場所を中心に爆発が起きた。
地を抉るような衝撃と共に、猛烈な風の嵐が巻き起こり、砂塵が天を覆い尽くす。
「うわっ・・・・・!」
ジャンが腕で顔を覆う。
フィリーネもスカートを押さえ、必死に踏ん張った。
嵐が収まると、広がったのは抉られた地面と、なお漂う風の残滓。
ルナは目を輝かせ、両手を挙げて跳ね上がった。
「やったぁぁぁ!! できたよーーっ!!」
飛び跳ねて喜ぶその姿は、戦闘の緊張感を吹き飛ばすほど無邪気だった。
一方で、ジャンとフィリーネは・・・・・
「おいおい、今のは・・・・・」
「す、すごい・・・・・風が爆発して・・・・・!」
目を点にして立ち尽くすしかなかった。
マジシャンが風系魔法を、使ってみせるなど、常識では考えられない。
だが確かに、今ここで新しい魔法が生まれたのだ。
「本当に、驚かされるな」
ジャンが静かに息をつき、感嘆の声をあげた。
この短時間で、ルナは“ウインドブラスト”を生み出し、フィリーネは“ルーセントハート”を体得した。
どちらも古い記述にしか残されていない、失われた術式だ。
それが目の前の仲間の手で、2つも同時に現れたのだと思うと、ジャンの胸の奥に熱いものがこみ上げる。
「ルナ、すごかったよ。あんな魔法、オレも初めて見た」
そう褒めると、ルナはぱっと笑顔を見せた。
「でしょー!? でもね、ジャンは攻撃魔法使えるけど、本当はホワイトマジシャンって、攻撃魔法なんて使えないんだよ!」
「確かにそうね」
フィリーネが冷静に言う。
そしてルナは再び、喜びを爆発させ、飛び跳ねながら楽しそうに両手を広げてみせる。
「わーい、出来ちゃったー!やったぁー!!」
その無邪気な調子につられて、フィリーネも小さく笑みを浮かべる。
「ふふ・・・・・なんだか可笑しいです」
ジャンも自然と口元をほころばせた。
しばらくするとジャンはフィリーネを見て言った。。
「でもな、フィリーネも大したもんだよ」
ジャンが今度はフィリーネへと視線を向ける。
「術式を旋律に重ねるなんて聞いたことがない。だからこそ、“ルーセントハート”は、あんなに強く輝いたんだろう」
ルナもすぐに大きく頷いた。
「そうそう! 普通はそんな発想しないよ! フィリーネ、めっちゃすごーい!」
「わ、わたし・・・・・そんな」
頬を赤らめ、フィリーネは胸の前で手を組む。
けれどその声は震えるどころか、どこか確かな強さを帯びていた。
「でも・・・・・少しでも、みんなを守れるなら・・・・・本当に嬉しいです」
彼女の言葉に、ルナがぱっと笑みを弾けさせる。
「うんっ! そうだよ!たくさん失敗したけど、今度こそ大丈夫だね!」
ジャンも穏やかに目を細めた。
「そうだな、もう体得したな!」
ルナは目を輝かせながら言う。
「ウインドブラストはねー、実は、術式を旋律に重ねる、これがヒントになったんだよ!」、
フィリーネは驚いて返す
「それがヒントになったなんて・・・・・ルナ、すごい!」
戦いの緊張から解き放たれた彼らの胸に残ったのは、新しい魔法の誕生だけではなく、互いを信じ合う確かな絆だった。
戦いを終え、3人はゆっくりとギルドへの帰路についていた。
街並みが視界に広がり始めると、張り詰めていた気持ちも自然と和らいでいく。
「しかし・・・・・“ルーセントハート”に“ウインドブラスト”か」
ジャンが歩きながらぽつりと口を開いた。
「失われた魔法が、同じ日に2つも生まれるなんて、誰が信じるだろうな?」
その声音には驚きと同時に、誇らしさがにじんでいた。
ふとジャンは横を歩くフィリーネに目を向ける。
「なあ、フィリーネ。オレもホワイトマジシャンだし・・・・・“ルーセントハート”、教えてくれないか?」
唐突な申し出に、フィリーネは一瞬立ち止まり、小さく首を横に振る。
「イヤよ」
「え?」
思わずジャンが聞き返す。
フィリーネは、真っ直ぐに言った。
「ジャンが覚えちゃったら・・・・・わたしの役割が、なくなっちゃうじゃない」
そう言うとフィリーネは「ふふっ」と笑った。
ジャンは少し驚き、すぐに苦笑を浮かべた。
「なるほど。それは困ったな」
そう言ってから、自然と視線をルナへ向ける。
その瞬間。
「いやーだよーっ!」
ルナが即座に叫び、舌を出してあっかんべーをした。
「おい。オレ、まだ何も言ってないんだけど?」
ジャンが呆れたように返すと、ルナは胸を張ってにやりと笑った。
「だって、どうせ言うでしょ!『ウインドブラスト教えてくれー』って」
「なぜ分かった!?」
目を見開き、驚くジャン。
そのやり取りに、フィリーネは思わず口元を押さえて笑う。
「ふふ・・・・・本当に、仲が良いのね」
3人の笑い声が、夕暮れの道に軽やかに響いた。
戦いの緊張は遠ざかり、ただ仲間との温かな空気だけがそこにあった。
ルナ「せーのっ!」
3人「「「今回も読んで頂き、ありがとうございます!」」」
ルナ「見た?見たーーー? ジャン、フィリーネ! あれが“ウインドブラスト”だよ!」
ジャン「ああ! とんでもない迫力だったな! すごいじゃないか!」
フィリーネ「本当に、あの魔法・・・・・・、もう誰も使えないと思ってたのに、まさかルナが再現するなんて」
ルナ「えへへー、フィリーネのおかげだよ!!」
ジャン「いや、ルナの直感がさえていたんだ!誇っていいよ。本当にすごかった!」
フィリーネ「ふふ、ジャンにまでそんなに褒められて、今日はいい日ね?」
ルナ「うんっ! これであとがきも完璧だねっ!!」
(そのとき、ライアスが通りかかる)
ライアス「ジャン! この前の“リリエルと、なんとかって女の子”とのあとがき、締まらなかったなぁ! 三人で、なんかグダグダだったぞ!がはははー!」
(そのままライアスは行ってしまう)
(ルナ、笑顔のまま静止)
フィリーネ「今、なんて言いました?」
ルナ「“リリエルと、あの女の子”って・・・・・・、どういうこと?」
ジャン「ライアスは、ネタバレを避けただけだ!」
ルナ「ジャン。まさか、私を誘わずに“女二人”とあとがきに出たの?前回の挙動不審、あれって……まさか!?」
ジャン「ち、違う違う! そういうんじゃなくて! ほら、その、もう一人は」
ルナ「ん?もう一人は?」(声が低い)
ジャン「お、お前も・・・、よく知ってるやつだ!」
ルナ「“よく知ってる”!? 誰よそれ!? ルミア? エルミナ? まさか、ソ(モゴモゴモゴ)」(フィリーネに口を押えられる)
フィリーネ「ルナ、ネタバレはダメ! ジャン、それ火に油を注いでるわよ」
ジャン「いや、違うって! まだ名前、言えないだけなんだって!」
ルナ「“言えない”ってことは、やましい関係ってことだよね?」
ジャン「ち、違うっ!!」
(ルナ、腕を組んでジト目)
ルナ「ふぅん、あとがきで“女二人”と。(ゆっくりと笑顔になる)リリエルと 誰かな?ジャン?『ウインドブラスト』の威力、体験してみる?」
ジャン「ぎゃああ! フィリーネ助けてーーっ!」
フィリーネ「無理ね。今回ばかりは、私もルナ側よ」
ルナ「じゃあ、締めるね。次回もーーー」
ルナ&フィリーネ「お楽しみにっ!」
ジャン「もう二度と『あとがき』には出ねえ!!」




