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パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外  作者: つるぴかつるちゃん
第二章 メルグレイスの事件、ヒルダロア2つの真相

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第64話  討伐依頼とルーセントハート

受付嬢は深く頷き、言葉を続けた。


「本来のパーティー編成からすれば、支援職であるホワイトマジシャン2人にマジシャン1人という組み合わせは、まず成立しません」


一度言葉を切り、彼女は続けた。


「通常は戦士や僧侶、賢者といった職を加えて、全体のバランスを取るものです。しかも、そんな整った編成でさえ、ホワイトマジシャンが2人というのは極めて稀なことです」


受付嬢は再び口を閉ざし、3人のプレートに目を落とした。

そして、しばしの沈黙のあと、決意を込めた声で言った。


「ですが・・・・・あなた方はその3人だけで西の塔に到達しています。ぜひ、その力をお貸しいただきたいのです」


ルナが興味津々といった様子で、身を乗り出した。


「えっ、私たちにお願いって・・・どんな依頼なの?」


「対象は、カドゥケウス・・・・・。ホワイトマジシャンを執拗に狙う性質を持つモンスターです。最初はCクラス以上に出していましたが、精神を病む者が続出し、今はBクラス以上限定になっています」


受付嬢の声は硬くなった。


「現在、Aクラスのパーティーは遠征中で不在。Bクラスのパーティーはいますが、僧侶の回復で生き残っているものの、戦闘中は重傷を負ってしまい討伐に至らない上、先ほども申し上げたようにBクラスパーティーでさえ精神を病む者が続出しており、状況は逼迫しています」



沈黙のあと、ジャンが口を開いた。

「なるほど。事情は分かりました。オレたちで行こう」


「うん! やろうよ!」

ルナも即座に賛同する。


だが、フィリーネは一歩下がり、俯いた。

「でも・・・・・私はCクラスだから・・・・・」


受付嬢はふっと笑みを浮かべ、3人にプレートを差し出した。

「こちらが皆さんのプレートです」


受け取った瞬間、フィリーネは息を呑んだ。

「えっ!? Bクラスに・・・・・なってる?」


ルナとジャンは変わらずAクラスだったが、フィリーネのプレートには、はっきりと「B」の文字が刻まれていた。


「どうして?」


フィリーネが、信じられないという表情で問いかけると、受付嬢は真摯に答えた。


「西の塔へ到達した記録が昇格条件を満たしていたのです。先ほど申し上げましたように、本来はSクラスに相当します。ただ、西の塔へ到達したことは例外とはいえ飛び級はありません。ですのでフィリーネさんがBクラスになってしまう事はお許しください。」


受付嬢は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。


「ルナさんとジャンさんも、本来ならSクラス相当なのですが、昇格して間もないためギルドのルールにより、昇格できません。・・・・・重ね重ね申し訳ありません」


受付嬢は再び頭を下げる。


ジャンとルナは顔を見合わせ、同時に苦笑する。


「謝られるようなことじゃないですよ」

受付嬢に言いながら、ジャンが肩をすくめる。


ルナも頷いた後、フィリーネの方を向いた。

「フィリーネ! すごいよ!Bクラスだよ!」


ルナは自分の事のように喜び、フィリーネに抱きついた。


フィリーネの顔はぱっと明るくなる。

「私、Bクラス・・・・・! 本当に?」


「ああ、本当だ。胸を張れ」

ジャンが穏やかに言った。


フィリーネはぎゅっとプレートを握りしめ、満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう・・・・・! 私、頑張るわ!」


ジャンは頷き、ルナも満面の笑顔を見せる。


「じゃあ、この依頼、引き受けよう!」


3人の決意に、受付嬢は深々と頭を下げた。




3人は依頼を受けると、すぐに準備に取り掛かった。


ギルドで必要な回復薬や予備の食料を受け取り、街の武具店で最低限の備品を確認する。


武具を振るう者はいないパーティーだが、それでも護符の触媒は欠かせない。


「ふふっ、これで準備万端!」

ルナが収納魔導具にしまい込み、満面の笑みを見せた。


「浮かれて怪我するなよ」

ジャンがやや苦笑して返す。


「私も・・・・・忘れ物ないと思うわ」

フィリーネは少し緊張した顔で荷物をルナに渡した。


ルナがそれも受け取ると、収納魔導具に入れた。




3人は街を後にし、森を抜けて目的の場所へと向かう。

ギルドから聞かされたのは、カドゥケウスが目撃された丘のふもとだった。


向かう途中、ルナが笑いながら話し出す。

「Sクラス相当なんだってー・・・・・、私たち、そこまで強くないのにね。あはは」


ジャンはプレートを出し、銀色のプレートを見ながら笑い、話す。

「そうだな。でもオレたちはまだまだ強くなれる!プレートはシルバーに変わったが、心はまだBクラスだ」


ルナも、うんうん、と頷いている。


フィリーネは少し驚いて言う。

「二人の連携は、見ているとBクラスよりも洗練されているわよ」


ここでちょっと意地悪そうな顔をして、フィリーネは続ける。

「私なんて非戦闘員なんですから・・・・・」


そう言うと、ルナは必死になって返す。

「フィリーネは役に立ってるもん!」




こんな話をしていると、やがて林が開け、荒れた草地が広がる。


「ここだな」

ジャンが足を止める。


ジャンは静かに息を吐き、唱える。

「サーチ」


周囲の空気が揺らぎ、透明な波紋のように魔力が広がっていく。

ジャンの眼差しは鋭くなり、遠方を探る。


「来る!」


低く告げられたその声に、ルナも即座に杖を構えた。

「じゃあ、私も・・・・・サーチ!」


ルナの魔力はジャンよりも軽やかで、だが的確に広がっていく。


瞬時に方向を捉え、腕を伸ばして指差した。

「あっちから来るよ!」


フィリーネは思わず目を丸くした。

「えっ・・・・・? どうして分かるの?」


「ん? サーチ魔法だよ」

ルナがあっけらかんと答える。


「サーチ魔法!? また失われた魔法を・・・・・」

フィリーネは半ば呆れ、半ば感心したように額に手を当てた。


「便利だからいいでしょ!」

ルナは胸を張る。


フィリーネが「もう信じられない」と小さくため息をついた次の瞬間。




地面の奥から、ぞわりと重い気配が迫ってきた。

空気が粘つくように揺らぎ。


森の奥から現れたのは、闇そのものが凝縮され、形を成したような巨像だった。

その体は黒い霧が幾重にも絡み合い、鋭い棘や影の翼を形作っている。


ぎらつく赤い光を放つ指先と、顔に浮かんだ2つの冷たい光が、遠くからでもはっきりと見て取れた。

だが、最も異様だったのは、その胸の中心に輝く、虹色に渦巻く光の塊だった。


そこから放たれる光の筋が、周囲を漂う小さな球体とつながっている。


球体の中には、人々の苦しみや悲しみ、怒りや憎しみといった負の感情が映像化されており、まるでこのモンスターが人間の負の感情を飲み込み、自らの力としているかのようだった。

挿絵(By みてみん)



その姿は、世界のすべてを食らい尽くす、終末の捕食者を思わせた。


「カドゥケウス」ジャンが呟く。


モンスターの赤い眼が、真っ直ぐジャンを捉えた。

次の瞬間、地を揺るがすような咆哮が辺りを包んだ。


「来るぞ!」


ジャンは息を吸うよりも早く、無詠唱で、パワーアップ、スピードアップ、マジックアップ、ディフェンスアップ、さらに魔力消費を抑えるマジックダウンをかける。


わずか一瞬で5つの術式が3人に行き渡り、全身に魔力の奔流が駆け巡る。


だが同時に、カドゥケウスの胸の光が不気味に脈打ち、その口から、白いモヤが吐き出された。

冷気とも熱気ともつかぬそれは、生き物のようにうねりながら3人に迫る。


「「炎で焼き払う!」」


ジャンとルナがほぼ同時に叫び、杖から炎の奔流を叩きつけた。

轟音と共に火焔が広がり、モヤの大半は焼き尽くされる。


だが、残った一部が音もなく滑るように迫り、真っ直ぐ3人を包み込んだ。


「くっ・・・・・!」

肺に冷たいものが入り込んだ感覚に、ジャンは一瞬顔を歪めた。


そのとき脳裏をよぎったのは、ギルド受付嬢の声。

カドゥケウスはホワイトマジシャンを執拗に狙う。


「フィリーネから離れて、オレに引き付ける!」


ジャンは叫ぶと同時に地を蹴り、フィリーネとは逆方向へ走った。

背後に伸びてくる霧を避けつつ、炎の魔法を撃ち牽制する。


しかし、モヤを吸い込んでしまった

視界がぐにゃりと歪み、世界が黒く塗り替えられていく。


次の瞬間、それぞれの心に突き刺さる光景が叩きつけられた。



ルナは、ジャンが無残に殺され、血に染まる姿を前に膝をついた。

絶望に沈み込んだその瞬間、彼女自身もまた刃に貫かれ、声にならない叫びを残して倒れる未来を見た。



ジャンは、目の前でルナが惨殺され、笑顔も声も奪われるのを見せつけられた。

その絶望の淵で膝を折った瞬間、背後から襲いかかる影に命を奪われる未来を見せつけられた。



フィリーネは、荒野でモンスターに囲まれ立ち尽くしていた。

そこでジャンとルナが振り返り、冷たい声で言い放つ。


「お前は戦えない、役立たずだ」

「私、戦えない人は求めてないの」


罵倒と共に2人は背を向け、遠ざかっていく。

残された彼女の前に、群がるモンスターが牙を剥き、逃げ場もなく飲み込まれていく未来を見た。



胸を抉るような絶望。

足は重く、体は鉛のように鈍る。


「ぐっ!」

ジャンが苦悶の声を漏らす。


ルナの瞳は揺らぎ、既に涙を流している、


フィリーネの唇は恐怖に震えていた。


その様子を見逃さず、カドゥケウスが咆哮を上げる。

胸の光が再び脈動し、巨体を揺らしながら、再び白いモヤを吐き出した。


3人の視界が幻に囚われ始めている中、容赦なくモヤの奔流が襲いかかる。

白いモヤが3度目吐き出され、3人を包み込む。


「くそっ!」

ジャンは頭を振り、必死に意識を現実へ引き戻そうとした。


これは幻覚だ。


塔の18階で味わったあの感覚と同じ。

頭では分かっている。



だが、目の前に広がる光景はあまりに現実的で、血の匂いまで鮮烈に漂ってきた。


目の前で、ルナが惨殺される。

息絶えたその姿を抱きしめる自分自身。


幻だと理解しても、その瞬間に湧き上がる絶望と喪失感が身体を絡め取る。


「ルナッ!」

怒りを力に変えようと、ブリザードを放つ。


しかし構築が乱れ、細い氷が出ただけ。

狙いもぶれて、カドゥケウスの影の翼をかすめる程度に終わった。



「ジャンっ・・・・・、いやっ!」

一方のルナも、己の視界に広がる悪夢に縛られていた。


ジャンが無残に殺される。

ジャンは呼びかけても動かない。

その光景に涙が溢れ、手が震えた。


震える指先で魔法陣を描くが、構築は不完全。

火球は力なく地面を焼くだけで、巨像に届かない。


「これは! まぼ・・・ろし・・・・・」

ルナは歯を食いしばる。


頭では幻覚だと分かっているのに、現実にしか感じられない感覚に、心が絶望に染まっていく。


カドゥケウスは2人の弱々しい攻撃など意に介さず、ぎらつく赤い光をフィリーネへ向けた。


  標的は、ホワイトマジシャン。


その巨体は重々しいが、一歩ごとに確実にフィリーネへ迫ってくる。



吐き出される白いモヤが、次々と3人を包み込む。


「う・・・・・!」

フィリーネの周囲に、またもや幻影が立ち現れた。


ジャンとルナが、冷たく罵倒する。


「お前は役立たずだ」

「戦えないなら、いらない」


そして2人は背を向け、モンスターの群れの中に置き去りにする。


フィリーネは息を詰まらせ、胸が締め付けられるような痛みに顔を歪めた。


「違う・・・・・これは・・・・・」

塔の18階でも幻を見せられた。




あのとき、自分を救ったのは、奇跡のように発動した光。


「ルーセントハート」

必死に呟き、掌を胸の前に掲げる。


だが淡い光が一瞬広がっただけで、すぐに掻き消えてしまった。


「だめ! まだっ!」


背後でジャンの叫びが響く。

「フィリーネ! 下がれ!」


弱々しいが、何とかファイアーボールをカドゥケウスに放ちながら、ジャンはフィリーネを必死に守ろうとする。


「私が・・・・・守るから!」

ルナも涙を流しながら杖を振る。


しかし炎は幻覚にかき消されるように散り、カドゥケウスに直撃しても威力を発揮しない。


3人の心が幻覚に翻弄されればされるほど、カドゥケウスの胸の光は強く脈打ち、吐き出すモヤの量は増していく。


「ーーっ!! やめてーーー!」

フィリーネは震える声で叫んだ。


視界を覆うのは、何度も何度も繰り返される絶望の映像。


それでも、彼女は他の2人よりもわずかに幻覚に抗える。


「ルーセント・・・・・ハート・・・・・ッ!」

光を掴もうと、何度も唱える。


だが掌に宿るのは淡い輝きだけ。

すぐに掻き消え、胸に広がるのは無力感と恐怖。


カドゥケウスの指先が赤く光り、影の翼を広げて迫る。

巨影がゆっくりと、しかし確実にフィリーネを包み込もうとしていた。


「お願いっ!」

涙がこぼれる。


それでも彼女は両手を胸に当て、声を振り絞った。

「ルーセント・・・・・ハート!!」


だがまたしても光は霧散し、絶望が胸を締めつける。



その瞬間、背後からジャンの声がかすかに届いた。

「フィリーネ・・・・・諦めるな!」


幻覚に捕らわれながらも、それだけは現実の声だった。

フィリーネを守ろうと、魔法を放とうとするが、術式が崩れ、幻覚でまともに狙えない。


ルナの声も続く。

「できるよ・・・・・フィリーネなら!」


かすかな声が、幻影に飲み込まれた心を引き戻す。

ルナもまたジャンと同じで、守ろうにもまともに戦えない。



フィリーネは涙に濡れた瞳を大きく見開き、迫る巨影を睨み返した。


「絶対に・・・・・負けない!」

彼女の掌に、再び光が灯る。


今度は消えかけながらも、確かに存在を主張する強い輝きだった。


――まだ未完成――。


だが、希望の光が確かにそこにあった。

カドゥケウスの咆哮が轟き、世界はさらなる闇に飲み込まれようとしていた。



フィリーネの掌に灯った淡い光は、確かに存在していた。

揺らぎながらも、胸の奥から溢れ出るような温かさを伴っていた。


「これなら・・・・・!」

震える声でそう呟き、彼女は必死にその輝きを広げようとした。


だが――。


カドゥケウスの胸の虹色の光が脈打ち、白いモヤが再び噴き出す。


奔流のように押し寄せたそれがフィリーネを飲み込んだ瞬間、かろうじて宿った光は無惨に打ち砕かれた。


「いやっ!」

手から滑り落ちる光を追いかけるように叫ぶ。



次の瞬間、再び幻覚が視界を覆った。


ジャンとルナが冷たい顔で彼女を見下ろす。


「戦えないなら、邪魔なだけだ」

「足手まといは置いていく」


背を向け、遠ざかる2人の姿。


必死に手を伸ばしても、指先は空を掴むだけ。

「待って! 置いていかないでーっ!」


その声は虚空に溶け、残されたのは群れをなすモンスターの影。

牙が迫り、身体を裂かれる鮮烈な痛みが走る。


「っあああああ!」


現実の喉からも悲鳴となって溢れ出た。

幻覚だと頭では理解していても、痛みも絶望もあまりに現実的で、心をズタズタに切り裂く。


フィリーネは膝をつき、胸を押さえた。

心臓が握り潰されるように痛い。

呼吸が乱れ、視界が滲む。



「フィリーネ!」

ルナの声が遠くから届く。


しかしそのルナもまた、幻覚に捕らわれていた。

彼女の瞳は絶望に濁り、震える腕から飛び出す炎は弱々しい。


狙いも定まらず、地面を焼き焦がすだけ。


「ジャン・・・・・ジャンが・・・・・死んじゃう!」

嗚咽混じりに呟きながら、現実と幻の狭間でもがいていた。



ジャンも同じだった。


何度攻撃を試みても、構築が乱れて魔法はまともな形にならない、巨像を傷つけられない。


「ルナが・・・・・くっ・・・・・守れないのか!?」

額に血が滲むほど歯を食いしばりながら、それでも現実を掴みきれずにいた。


カドゥケウスは2人の無力な抵抗を完全に無視していた。

ぎらつく赤い眼差しをただフィリーネに向け、ゆっくりと歩み寄る。

動きは決して速くはない。


だが、その一歩ごとに大地が震え、影の翼が不気味に広がるたび、彼女の心臓を圧迫していく。


「来ないでぇーっ!」

声が震える。足も震える。


白いモヤがさらに吐き出され、視界が何重にも覆われた。

幻覚は増幅し、より強烈に彼女の心を抉る。


  ルナが死ぬ。

  ジャンが死ぬ。

  2人に拒絶され、自分は孤独に殺される。


映像が重なり合い、現実と幻覚の境界が完全に崩れる。

涙が止まらない。声が掠れる。


「いやだ・・・・・そんなの!」

フィリーネは何度も両手を組み、声を振り絞った。


「ルーセント・・・・・ハート・・・・・!」

しかし、何度唱えても、光は生まれては掻き消えた。


掌は虚しく空を切り、闇の圧力だけが重くのしかかる。


「どうして・・・・・! お願い・・・・・出て!」

喉が裂けるように痛くても、必死に叫び続ける。



けれども、返ってくるのは嘲笑うかのように強まる幻覚。

2人の冷たい言葉、背を向ける姿、モンスターの咆哮。


「フィリーネェェェ!」

ジャンとルナの叫びが、現実から確かに響いた。


だがその声も、幻覚の中では拒絶の言葉に塗り潰されていく。


「フィリーネェェェ!邪魔だ」

「フィリーネェェェ!足手まといなの」


どこまでが現実で、どこから幻覚なのか分からなくなって行く

幻覚には比較的強いフィリーネでさえ、心を折られそうになる。


ジャンもルナも幻覚に抗えるギリギリのところにいた。



胸の奥で光が点滅する。

だがそれは希望というより、むしろ限界に近い心の悲鳴だった。


「もう・・・・・いやーっ!」

涙に濡れた頬を伝い落ちる声は、ほとんど掠れていた。


カドゥケウスの影が、ついに彼女を覆い尽くす。


光はまだ未完成。

幻覚は消えない。

仲間は幻に囚われたまま。


絶望の淵で、フィリーネの心は引き裂かれようとしていた。




もう逃げられない。心が折れそうになった。


ジャンが必死に叫ぶ。

「あの日の・・・・・18階のお前の・・・・・気持ちを!」


「あの日の・・・私の気持ち」

フィリーネが呟くと、ルナも必死に叫ぶ。


「思い・・・出して!フィリーネなら・・・・・できる・・・からっ!」

再び白いモヤが襲って来る。


ジャンとルナの苦しそうな顔を見る。その瞬間・・・。


  祈りの言葉。


頭の奥に、いつも唱えてきた静かな旋律が響いた。

恐怖を和らげ、心を落ち着けるためだけに口ずさんできた旋律。


それが、なぜか今、この場面で蘇った。


「歌うように・・・・・」

フィリーネは震える唇で呟く。


魔力を制御しようと焦るのではない。

旋律に心を重ね、胸の鼓動に寄り添うように。

胸の前で手を組み、深く息を吸う。



ここで赤い光が指先に凝縮し、とどめを刺すためにフィリーネに振り下ろされようとしていた。



フィリーネは旋律を刻むように、言葉を紡いだ。



「ルーセントハート!」



瞬間、胸の奥からあの日と同じ感覚が溢れ出した。

柔らかく、けれど確かに力強い輝きが、内側から広がっていく。

金色の光粒がふわりと舞い、彼女を覆っていた幻覚を焼き払った。


「・・・・・っ!」

瞳が見開かれる。




絶望の闇は霧散し、温かな光が彼女を包んだ。

カドゥケウスの影が振り下ろされたその瞬間、光が弾ける。


巨体の動きが鈍り、フィリーネは身を翻して間一髪かわす。

後退しながら息を荒げる彼女の周囲に、金色の粒子が漂い続けていた。


「できたっ!!」

震える声は、確信に満ちていた。


やがてその輝きが2筋の軌跡を描き、空気を切り裂いて飛んでいく。


一つはジャンの胸元へ。

もう一つはルナの胸元へ。


淡い金色の光が2人を包み込んだ瞬間、幻覚は完全に霧散した。


血に染まるルナの幻影も、絶望に沈むジャンの未来も、すべて光に浄化されて消えていく。


「・・・・・っ、これは・・・・・!」

ジャンは荒い息をつきながら、正気を取り戻した目でフィリーネを見た。


「フィリーネ・・・・・お前・・・・・!」


「すごい・・・・・! 本当に・・・・・!」

ルナの声は涙に震えていた。


2人はすぐに前へ出て、フィリーネを庇うように立ち塞がる。

杖を構え、魔力を練り直す音が響いた。


カドゥケウスの赤い眼差しが再び3人を射抜くが、もう恐怖に囚われてはいなかった。




塔で一度だけ掴んだ感覚が、今や確かな力となって彼女の中に根付いていた。


もう偶然、1回だけできた物とは違う。

確かな手ごたえ。


ルーセントハート。


それは幻を打ち払い、仲間へ光を分け与える希望の魔法。


「今度は、私がみんなを守る!」

金色の粒子を背に、フィリーネは誇りを胸に刻んだ。



金色の粒子が3人を包み、幻覚は完全に払われた。

ルナとジャンは視線を交わす。


言葉はなくとも、互いの意図を察するのは長い旅で培った呼吸だった。

2人は同時に杖を掲げ、魔力を練り上げ、空気が震える。


「いけッ!」


放たれた2つの閃光。

だが、次の瞬間。



「「えっ!?」」



ジャンとルナ2人は同時に驚きの声をあげた。


フィリーネは信じられない!といった様子で、口元を押さえ、魔法を見つめて固まっていた。




フィリーネ「今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございます」


ルナ「ほんと、ありがとう! ねぇフィリーネ、あの時の魔法、すごかったよ!」


フィリーネ「ふふ、ありがとう。失敗ばかりで、何度諦めようと思ったか」


ジャン「い、いやー、よよよ、よくやったよ、フィリーネ。あ、あれは本当に見事だった」


ルナ「うんうん! 幻影がパァンって消えた瞬間、もう鳥肌たっちゃったもん!! ね、ジャン?」


ジャン「えっ!? あ、ああっ、も、もちろん!!」


フィリーネ(首を傾げて)「ジャン? どうしたの? ずいぶん挙動不審ね」


ルナ(じとーっとした目)「まさか、何か隠してる?」


ジャン「な、なな、なんにも! 全然! 全く隠してないっ!」(汗だらだら)


ルナ「ふーん? 本当に?」


ジャン「気のせいだって! あれは、えっと、その・・・・・・夢だよ夢!」


フィリーネ「夢で“あとがき”って珍しいわね」


ジャン「ぐっ・・・・・・!」


ルナ「気になるけど、ま、いっか。今回はフィリーネが主役だもんね! おめでとう、フィリーネ!」


フィリーネ「ありがとう、ルナ。次はあなたたちの番ね」


ルナ「うん! ジャンと一緒なら、どんな敵でも負けないよ!」


ジャン「お、おう・・・・・・そ、そうだな」


フィリーネ「それではーー」


ルナ&フィリーネ「次回もお楽しみに!」



ジャン(小声で)「ふぅ、切り抜けた・・・・・・くそっ!作者め!!」



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