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パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外  作者: つるぴかつるちゃん
第二章 メルグレイスの事件、ヒルダロア2つの真相

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第57話  見せつけられた未来と迫る終焉

ルナがジャンに駆け寄り、ジャンの名を叫び続けていた。

「ジャン! ジャン! 私のそばにいて!! 置いて行かないでーー!」


その姿は必死で、痛ましく、そして抗えない絶望に満ちていた。


フィリーネは全身が凍りつくのを感じた。

喉から悲鳴が漏れそうになり、両手で口を覆う。


だが――意識の片隅で、冷静な自分が囁く。

(おかしい・・・・・何かが違う。これは・・・・・幻?)


映像の輪郭は、よく見ればどこか曖昧で、滲んでいた。

まるで霧そのものが映像を形作っているように。


そして霧がゆっくりと晴れていく。


現実の光景が戻ってきたとき、フィリーネの目に映ったのは――。


杖を握りしめたまま、顔を真っ青にしてガタガタと震えるジャンの姿だった。


彼の瞳は大きく見開かれ、恐怖を映し出している。

戦いの最中だというのに、視線は敵ではなく、幻影が見せた何かに釘付けになっていた。


「・・・・・ジャン?」

フィリーネの声は震えていた。


その横で、ルナが地面に座り込み、頭を抱えて泣き叫んでいた。

頬を伝う涙は大粒で止まらず、声が枯れるほどに「ジャン」の名を繰り返す。


「ジャン・・・・・いやだよ・・・・・死んじゃいや・・・・・!」

その声は、先ほどフィリーネが見た幻と、おそらく同じ。


未来の絶叫が、現実に重なっていく。

ジャンは辛うじて敵に反応し、襲い来るモンスターを倒してはいた。


だが、その魔力は震えている。


恐怖に押し潰されそうな目――それは、いつも冷静で頼りになる彼の姿とはまるで別人だった。




「落ち着いて! 2人とも!」

フィリーネは叫ぶ。


しかしその声も、2人には届いていないようだった。

これはただの幻ではない。


見せられたのは未来の一端。

それが真実か虚構かは分からない。


だが、3人の心をえぐり、揺さぶるには十分すぎた。

フィリーネは歯を食いしばり、自らの恐怖を押し殺した。


今、冷静でいられるのは自分だけ。

ここで踏みとどまらなければ、ジャンもルナも本当に幻影に呑まれてしまう。


彼女は胸に手を当て、深く息を吸う。


(大丈夫。私は見抜ける。あれは“少しだけ歪んだ未来”。必ず打ち破れる)


そしてジャンに駆け寄り、その肩を強く掴んだ。

「ジャン! あなたの目で確かめて! あれは本物じゃない!」


ジャンの肩を揺さぶる。


「幻よ! あなたなら分かるはず!冷静になって!」

「ジャン! しっかりして! 私を見て!」


フィリーネは必死に呼びかけながら、両肩を揺さぶった。

だがジャンの瞳は虚空を映すだけで、焦点はどこにも合わない。


石像のように固まり、微動だにしない。


「お願いだから、目を覚まして・・・・・!」

フィリーネの声が震える。


あの冷静沈着なジャンが、まるで魂を抜かれた人形のように立ち尽くしている。


その姿は、今まさに幻で見せられている「血に染まり倒れる未来」と重なり、フィリーネの心臓を鋭く締めつけた。


ルナは膝をつき、ジャンの腕にすがりつきながら泣き叫んでいる。


「ジャン・・・・・いやだよ・・・・・! 死んじゃいや! 置いて行かないで・・・・・お願いだから、戻ってきて!」


その声はかすれ、喉が裂けそうなほどだった。


「ルナ、聞いて!」

フィリーネは彼女の肩を掴み、必死に目を合わせようとする。


「これは幻なの! 本物じゃない! ジャンは死なない!」


だがルナの大粒の涙は止まらなかった。


必死に何度も「ジャン」と名を呼び、震える手で頬を撫で、ただただ「行かないで」と繰り返す。


その姿は、幻に心を縛られ、現実を見失っているようだった。


「どうして・・・・・どうしてこんな・・・・・!」

フィリーネは唇を噛みしめる。血の味が広がっても、焦りは消えない。


周囲からは、石壁の影からは小型のモンスターがじわじわと姿を現していた。


牙を剥き、低く唸り声を上げる。




だが3人の中で武器を構えられる者は誰もいなかった。


ジャンは震える手で杖を握り続けてはいる。

だが視線は一点を彷徨い、仲間の声も届かない。


ルナは涙に溺れ、床に座り込んでいる。


そしてフィリーネ自身も、心のどこかで冷たい恐怖に絡め取られていた。

(支援魔法では・・・・・この幻惑を打ち消せない・・・・・)


頭の中で魔法体系を思い返す。


(パワーアップも、ディフェンスアップも、スピードアップも、マジックアップも、テクニカルアップも。すべては身体能力を高めるだけだ。霧が見せた心の幻には無力)


冷静に考えようとすればするほど、無力さだけが浮き彫りになった。


「くっ・・・・・!」

思わず拳を握りしめる。


爪が掌に食い込んで痛みが走る。

その痛みは、自分がまだ現実にいるのだと確かめる唯一の拠り所だった。


視線を戻せば、ルナはジャンの胸元に顔を埋め、子供のように泣きじゃくっている。


ジャンは、ルナを抱き返すこともない。


まるで心だけがどこか遠くへ置き去りにされたように。


「このままじゃ・・・・・2人が・・・・・!」

フィリーネの喉から絞り出すような声が漏れた。


迫り来るモンスターの影が揺らめく。

数は多くない。


普段ならジャンかルナ1人で容易く倒せる程度。

けれど今は――ジャンは動かない。

ルナも立ち上がれない。


非戦闘員の自分1人で彼らを守れるのか? 心が怯えを訴える。

胸が張り裂けそうだった。


2人を救いたいのに、その術が見つからない。

自分の得意とするのは支援魔法だけ。


攻撃に特化した魔法は持たない。

幻惑を断ち切る術も知らない。


「私・・・・・支援しか・・・・・できないのに・・・・・!」

強い自己嫌悪が心を打ち据える。


今こそ仲間を救わなければならないのに、自分には力がない。

目の前の現実と、見せられている未来の幻影が重なる。




ジャンは棒立ちになり、ルナは泣き叫ぶ。

自分は――ただ見ているだけ。


「いや・・・・・そんなはず・・・・・」


否定の言葉を口にしながらも、頭の中では別の声が囁いていた。


――死ぬ方が現実。

涙が滲む。

拳を握る。


だが答えは残酷なまでに明瞭だった。


幻惑を打ち消せない。

支援しかできない自分――。


何もできないはずだった。


「・・・・・スターフレア!」


唐突に、ジャンの口から魔法の詠唱が迸った。


次の瞬間、火炎弾が一面に降り注ぎ、迫ってきたモンスターを焼き尽くす。


「ジャン!?」


フィリーネが驚いて振り返る間にも、ジャンは休むことなく次々と魔法を放った。


「ブリザード・・・・・ウインドカッター・・・・・ファイアーストリーム!」


まるで暴走するかのように、部屋へ侵入してくるモンスターを片端から薙ぎ払っていく。


閃光と爆音が交錯し、広間は一瞬にして魔力の嵐と化した。

敵は次々に崩れ落ちる。


石床を焦がし、凍らせ、砕きながら、ジャンの放つ攻撃は容赦なかった。


その様子を見て、フィリーネは胸を撫でおろした。

(よかった・・・・・正気に戻ったのね!)


だが――次の瞬間、その希望は音を立てて崩れる。

ジャンの顔は蒼白で、焦点の定まらない瞳が宙を彷徨っていた。


「オレが・・・・・死ぬ・・・・・ここで・・・・・オレは・・・・・」


虚ろな目で、誰に向けるでもなく呟くその姿は、先ほど見た幻影そのものだった。


「ジャン!?」

フィリーネの喉から悲鳴のような声が漏れる。


何度も何度も見せつけられる幻影、まるでそれは避ける事の出来ない近未来に絶対に起こる事として現実のように映像が流れ込んで来る。


「ルナ・・・・・!」


フィリーネが叫んでも、ルナはジャンにすがりつき、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら震えている。


「いやだ・・・・・ジャン、約束したよね・・・・・ずっとそばにいてよ・・・・・!」


彼女はただ泣き叫ぶばかりで、魔法を放つどころか立ち上がることさえできない。


部屋の奥からはさらに新たなモンスターが現れる。

牙を剥き、唸り声を響かせながら近づいてくる。


ある程度集まったところで、ジャンが再び魔法を乱射し、一掃する。


だがその度に、彼の顔色はさらに悪くなり、瞳は深い闇に沈んでいくようだった。


このままでは――。

幻で見せられた未来どころではなく、本当に3人まとめて死んでしまう。


「どうすれば・・・・・!」

フィリーネは頭を抱えそうになる。




だがその時、胸の奥底から、古い記憶が蘇った。


 ギルドの書庫。


薄暗い棚の隅に積まれていた、ぼろぼろの羊皮紙。

埃を払いながら目を通したとき、そこに記されていた一文。


「心を澄ませ、迷いを払う光・・・『ルーセントハート』」


古代に存在したとされる支援魔法。

だが術式は失われ、再現できた者は1人もいないという。



アステリアでカイラスたちが・・・・・ギルド長でさえ笑い飛ばしていた、失われた魔法。


飛行魔法。


飛行魔法をカイラスたちが笑い飛ばしたように、フィリーネはルーセントハートを伝説のような話だと笑い飛ばしたことすらあった。




(ルーセントハート・・・・・あれが使えたなら・・・・・!)


思考が走る。


(でも、術式がないのに、どうやって・・・・・?)

頭は即座に否定を突きつける。


無理だ、不可能だ。


けれど――目の前で消耗していくジャンとルナを見て、心が叫ぶ。


 諦めちゃいけない。

 私が守らなきゃ。


胸の奥に熱が広がっていく。

焦燥の中で、ふと別の記憶がよみがえった。


アステリアの宿で、ルナが笑いながら言った言葉。


「魔法ってね、力だけで扱うものじゃないんだよ。心を整えることで制御できるものもあるんだよー!」


(心を・・・・・澄ませる。そう・・・・・光は剣じゃない。盾でもない。心そのものなんだ・・・・・!)


2人の迷いを払う光。恐怖や幻惑を吹き飛ばす、安らぎの光。

フィリーネは胸の内で必死にイメージを組み上げていく。


小さな灯火が心の奥で揺れる。

それはやがて金色に燃え広がり、暗闇を照らす炎となる。


仲間を救いたいという願いが、その光を強くしていく。


術式の形は分からない。

それでも――想いが形になるのなら。


フィリーネは震える唇を強く結び、胸の奥から声を放った。



「ルーセントハート!」



フィリーネの声が広間に響く。

だが、返ってくるのは虚しい反響だけだった。


「ルーセントハート!」

「ルーセントハート! ・・・・・ルーセントハート!」


何度も、何度も叫ぶ。


思いを込めれば形になると信じて、詠唱のたびに胸の奥から光をイメージする。


だが、何の変化も起こらない。


「どうして・・・・・どうして出ないの・・・・・!」


焦りで喉がひりつく。

術式を知らない。


正しい言葉も、発動の手順も分からない。


それでも繰り返すしかない。

必死に、分からない術式を頭に描きながら――。


「ルーセントハート!」

「ルーセントハート!」


しかし、何度も放った声は空しく散っていくばかりだった。


その間も、ジャンは幻に囚われたまま、モンスターを次々と撃ち倒していた。


「フレア! アイスストリーム! ブリザード!」


叫びとともに、凍気と炎が部屋を切り裂く。


モンスターたちは次々と倒れ、広間に焦げ跡と氷塊を残して消えていった。


けれど、フィリーネは理解していた。

これは終わらない。


モンスターは尽きることなく次々と現れる。

倒しても倒しても、永遠に押し寄せてくる。




そして、ついにその時が来た。


「・・・・・ファイアーアロー!ファイアーアロー!ファイアーアロー!」

ジャンの口が動く。


だが――魔法は出ない。

杖からは光ひとつ漏れず、虚しく空気を切るだけ。


「・・・・・っ!?」

ジャンの目が大きく見開かれる。


自身の魔力切れに気付いたのだろう。

「な、なんで・・・・・出ない・・・・・!? オレは・・・・・死ぬ・・・・・! ここで・・・・・死ぬんだ・・・・・!」


虚ろだった声が、今度は恐怖に震えていた。


フィリーネは胸が引き裂かれる思いだった。

(だめ・・・・・このままじゃ・・・・・本当に・・・・・!)


ルナはまだ地に座り込み、涙に濡れた顔で

「ジャン・・・・・行かないで・・・・・置いて行かないで・・・・・」

と繰り返すばかり。


絶望感が胸を覆う。

仲間を救いたいのに、自分には攻撃もできない。支援では幻を打ち消せない。


「どうすれば・・・・・!」

視界が滲み、膝が震える。


その時、背筋をなぞるように冷たい気配が迫った。


振り返れば、背後の通路からさらにモンスターが押し寄せてくる。

右も、左も、前も、後ろも――全方位を囲まれていた。


鋭い牙をむき、剣を構えた影が迫る。


「・・・・・終わり・・・・・なの・・・・・?」


胸の奥から諦めの声が漏れそうになる。







最後までお読みいただきありがとうございました。

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