第56話 ルナの母の死、真相を求めて
次の日の朝、3人は再び塔へと向かった。
昨日の疲れなど微塵も感じさせない、力強い足取りだった。
彼らの心には、悲しい過去と、それを乗り越えるための強い決意が宿っている。
18階に転移すると、そこには昨日と同じく静寂が広がっていた。
「よし、行くぞ」
ジャンが言った。
ルナは頷き、フィリーネは2人を援護するために、2人の後ろでで身構えた。
攻略を開始する。
しかし、不思議なことに、何も起こらなかった。
昨日までと同じく、通常の敵が出るだけで、2人が放つ魔法の前に、あっけなく命を落としていく。
19階へと続く階段を上り、転移装置の前に着いたとき、3人は顔を見合わせた。
「・・・・・何も起こらなかったな」
ジャンが言うと、ルナが不思議そうに呟いた。
「どうしてかな?」
ルナの声には、わずかながらの動揺が混じっていた。
「待てよ、ルナ」
ジャンは、何かを思いついたかのように、言う。
「昨日、オレの母さんのことと、お前の母親のこと、2つの事柄が繋がったように感じた」
「うん」
「もちろん、オレの母さんのことと、お前の母親のこと、2つの事柄は全く別の事なのかもしれないけどな」
ジャンは少し考えてから続ける。
「・・・・・だけど、オレたちが何か特別なことをしないと、あの仕掛けは発動しないのかもしれない」
ジャンは、そう言うと、ルナに一つの提案をした。
「試しに、全ステータスアップと回復魔法をやってみよう」
フィリーネは、2人の会話を静かに聞いていた。
しかし、2人が互いを信じ、前に進もうとしていることだけは、はっきりと感じ取れた。
ルナは迷うことなく頷いた。
「うん。やってみよ!」
3人が18階に降りると、ジャンは、深呼吸をし、魔力を集中させた。
そして、『全ステータスアップ!』そう唱えた。
ルナとフィリーネにも、その魔法の効果が伝わってくる。次にヒールを唱える。
「違和感がある・・・・・」ジャンはそう言うと、ルナも、南の塔の時と同じ、奇妙な感覚に襲われた。
フィリーネにも得体の知れない、初めての違和感がおそってきた。
「ルナ、行くぞ!」
ジャンの声に、ルナが素早く構える。
2人は、敵が出た瞬間に『フレア』で仕留める作戦を立てていた。
そして、姿を現したのは、見慣れたクリブン。
南の塔18階で出現する個体と、同じ強さだ。
「「フレア!」」
同時に放たれた炎が炸裂し、クリブンは瞬く間に灰と化した。
「・・・・・・すごい」
フィリーネが思わず息をのむ。
その後も、何度か戦闘を繰り返したが、結果は同じだった。
圧倒的な勝利。
しかし、異変は起こらない。
やがて、ルナが不思議そうに呟く。
「ねえ、ジャン・・・・・・どうして何も起こらないの?」
「いや、オレにも分からない」
ジャンも首を振る。
いくつかの戦闘を経て、3人は再び18階の転移装置の前へ戻ってきた。
「ねえ、ジャン、ルナ」
フィリーネが静かに口を開く。
「何か手がかりが見つかるかもしれないわ。・・・・・・2人のご両親が住んでいた家を、見に行ってみない?」
その提案に、ジャンとルナは顔を見合わせ、静かに頷いた。
塔を出ると、夜とは違う、柔らかな昼の光が街を包んでいた。
2つの家は、夜とは違い、今にも中から人が出て来そうな雰囲気があった。
フィリーネは、家をじっと見つめ、何かを感じ取ろうとしている。
そして、ルナの家を指差した。
「ルナの家・・・・・、何か分からないけど感じる・・・・・」
フィリーネは、そう言うと、静かに目を閉じた。
彼女の魔力は、ジャンの支援魔法で数倍に増幅されており、その鋭敏な感覚で、家の中に残る微かな魔力の痕跡を感じ取ろうとしていた。
「家の中に入れないかしら?」
ちょうどその時、元ルナの家の後ろの家から男性が出てきた。
「この家、みたいのかい?」
男性が聞くと、ルナは期待の目をしながら身を乗り出して答えた。
「はい!ここは以前、私が住んでいた家なの。入ってみたい!」
男性はルナを驚いて見ながら
「もしかして・・・・・ルナちゃんかい?」
そう聞くと、ルナも驚いた眼をして話す。
「うん!そうだよ。もしかして隣のおじさん!?パッと見た感じ分からなかったけど、今気づいたよー、今も住んでるんだね!」
「ルナちゃん、大きくなったね、目元がリアーナそっくりだ」
ルナは母親と目元が同じと言われ、嬉しくなり微笑んだ。
だが、すぐにまじめな表情になり、おじに言った。
「中を見たいの。この家を管理している人知りませんか?」
「今は私がこの家を管理してるんだ。すぐにカギを持ってくるよ」
男性はそう言うと家の中に入って行き、しばらくすると、出てきてルナにカギを渡す。
「好きなだけ見て行くと良いよ。終わったらカギはポストに入れておいてくれたら良いからね。後ろの方も冒険者さんですね。ルナちゃんとパーティーを組んでくれているのかな?」
男性が聞いてきたので、フィリーネとジャンは「はい、そうです」と答えた。
「そうかそうか、おっと、もう行かないといけなかったよ。じゃあ失礼するよ」
そう言うと男性は行こうとしたが、ジャンを見て話した。
「もしルナちゃんと気が合うなら、お嫁さんにしてあげてくれないかい。きっといい奥さんになるよ。まあ、ちょっと活発すぎるところはあるけどね。はっはっは」
男性がそう言って歩き始めると、ジャンもルナも顔を赤くした。
「おじさーん!そんなからかわないでよー!」
ルナが抗議すると、手を振りながら行ってしまった。
「もう!、おじさん変わってないんだからー!」
ルナは顔を赤くしたまま言いながらも、どこか懐かしそうな目をして、男性の去って行った場所を見ていた。
昼の光が降り注ぐ中、ルナは懐かしそうに鍵穴に手をかけた。
隣の家の男性からもらった鍵を差し込み、静かに扉を開ける。
家の中はひんやりと静まり返っており、長らく誰も住んでいないことを物語っていた。
しかし、ジャンとルナは特に何も感じることはなく、ただ昔の思い出に浸るだけだった。
「ここがルナの部屋だったのか?」
「うん。この窓から、いつも空を眺めてたんだよ!」
ルナはそう言って微笑んだ。
一方、フィリーネは家に入った瞬間から、不吉な気配に襲われていた。
鳥肌が立つような悪寒と、耳の奥でささやくような声。
まるで、この家に巣食う何かが、自分たちを闇へといざなおうとしているかのように感じられた。
懐かしそうに笑い合う姿を見て、言葉を飲み込んでいたが・・・・・やがて決意を固めた。
「ジャン、ルナ」
フィリーネは、2人の背中に向かって、不安げな声で呼びかけた。
「私たち、今すぐここを出た方がいい!18階には、行かない方がいいわ。今行ったら、命を落とすわよ」
その言葉に、ジャンは眉をひそめた。
「どういうことだ?18階のたたりと関係があるのか?」
フィリーネは静かに首を振る。
「そんな感じがするだけ。でも、この家に来た人を18階に誘う何かがある。この家に入った者は、18階で不吉な何かが起こるわ。たとえ今18階を避けたとしても、この家にしばらく住んでいると、18階に行きたくなってしまう。悪霊のような何かが、今私たちを誘ってるわ」
フィリーネの真剣な表情に、2人は言葉を失った。
しかし、ルナはすぐに顔を上げた。
「じゃあ、今から行こうよ!」
ルナの言葉に、ジャンは驚いて振り返った。
フィリーネも信じられないといった様子で叫ぶ。
「何言ってるの!?ルナ!!そんなの罠に自分から行くようなものよ!とても危険だわ!」
「でも、どうせ行きたくなるんでしょ?だったら、今から行って、この謎を解き明かすしかないじゃない!」
その強い言葉に、フィリーネは首を振った。
「違うのよ、ルナ。行きたくなるのは、この家に“住んでいる人”だけ。私たちは今ここに暮らしているわけじゃない。だから1~2日がたてば、その衝動も自然に消える。落ち着いて待てば、いずれ安全になるの。」
けれどルナは、その理屈を受け入れなかった。
「そんなの、意味がない! 待って衝動が消えるのを待つだけなんて・・・・・・それじゃあ、私の知りたい真実は一生わからなくなるもん!」
母親の死の真相を知りたいという強い想いが、彼女を突き動かしていた。
「お母さんの真実を知りたい気持ちはわかるわ。でもね、ルナ・・・・・あなたが同じように命を落としたら、その想いさえ途切れてしまうのよ。」
フィリーネの忠告にも、ルナは耳を貸さない。
フィリーネを押し切り、ルナは1人で塔へ向かおうとする。
ジャンは慌ててルナの手を掴んだ。
「ルナ、落ち着け。1人で行くなんて無茶だ。オレたちが一緒に行く」
ジャンもまた、ルナの決意に共鳴していた。
この家と18階に隠された謎を解き明かすことが、ルナの悲しみを癒す唯一の方法だと感じていた。
フィリーネは、2人を止めることはできないと悟り、ただ静かに頷いた。
「わかったわ。でも、絶対に無理はしないで。私が2人を守る」
3人は再び塔へと向かった。
塔に着き、転移装置で18階に降り立つと、今回は違った。
フィリーネが感じた不吉な気配が、ジャンとルナにも感じられたのだ。
肌を刺すような冷たい空気。耳元でささやくような声。
まるで、見えない何かが、自分たちを取り囲んでいるかのようだった。
「・・・・・なんだか、嫌な感じがするね」
ルナが震える声で言った。
ジャンもまた、表情を硬くしていた。
「ああ。さっきまでとは、何かが違う」
3人の前には、いつもの空間が広がっている。
しかし、3人は一歩も動けなかった。
広間全体から放たれる、不気味な気配。
それは、単なるモンスターの気配ではなかった。
もっと、根源的な、暗く、冷たい何か。
「・・・・・やっぱりこの感覚、何かいる・・・・・だけど・・・・・」
ジャンが呟いた。
サーチ魔法を展開しても通常のモンスター以外は見当たらない。
そこにジャンも戸惑いを覚えていた。
ルナは怖さ以上に、母親の死の真実を知りたい思いが勝っていた。
現れるモンスターの強さは3人で十分対応できる範囲だった。
それでもジャンは細心の注意を払い、歩を進める。
「急がなくていい。今は一歩一歩、確かめながら進もう」
その声は落ち着いていたが、僅かな緊張が混じっている。
ルナは杖を握りしめて緊張しながら言った。
「もう、ジャンったら慎重すぎ! でも・・・・・そうだね、ママのこともあるし」
フィリーネは2人の背を追いながら、小さく頷いた。
「ええ、焦る必要はないわ。確実に前へ進むことが一番よ」
戦闘は淡々と進んだ。
ジャンとルナの連携で瞬く間に殲滅される。
フィリーネはディフェンスアップを唱え、2人を守る。
午前と同じ光景に見えたが、3人の胸の奥には「この階に仕掛けがある」という確信めいた不安が横たわっていた。
やがて視界の先に広がる大きな部屋へ辿り着く。
ここを超えると19階の階段は遠くない。
3人が部屋に足を踏み入れた瞬間だった。
「なっ・・・・・!」
全ての通路から白い霧が一斉に吹き出す。
煙のようでいて粘り気を帯びたその霧は、たちまち広間を覆い尽くし、3人の視界を奪った。
わずかに見えていた石床も、仲間の姿も、すべてが白に溶け込む。
「ジャン!? ルナ!?」
フィリーネが叫ぶ。
その声が反響し、すぐにかき消されそうになる。
次の瞬間、彼女の意識に突き刺さるように「映像」が流れ込んできた。
近未来の断片――それはあまりにも生々しく、あまりにも残酷だった。
ジャンが血を吐き、膝から崩れ落ちる。
白い床に赤が飛び散り、彼の全身は返り血で真っ赤に染まる。
苦痛に顔を歪め、必死に何かを言おうとするが声にならず、やがて静かに地に伏した。
「いやーーーーーー!」
耳を裂くようなルナの悲鳴が広間に響く。
カイラス「今回も読んでくれて、本当にありがとう。いやぁ……最後、まさかの展開だったな」
ライアス「だな。あの白い霧……ただのトラップには見えなかった」
ルミア「ルナ、あんな叫び方して……ジャンたち、大丈夫なの?」
エルミナ「うん……ジャンが倒れるなんて、想像もしたくないわ。でも“見せられた未来”って感じがするの」
カイラス「確かに。あれ、幻覚かもしれないしな。だが、あの塔の仕掛け、どんどんヤバくなってる」
ライアス「ルナの母親の真実ってのも、気になるよな」
ルミア「でも、ジャンがいれば大丈夫。ルナを守るって、きっとそう言うよ」
エルミナ「ふふっ、そうね。フィリーネも支えてくれるはず」
カイラス「さて、次はどうなるんだろうな。真実に近づくほど危険も増すけど……」
ライアス「ジャン、フィリーネ、ルナ――そして塔の秘密。全部が繋がり始めてる気がする」
ルミア「次、泣いちゃう展開とか、やめてほしいんだけど……」
エルミナ「さぁ、どうかしらね。読者のみんなも、期待してるわ!」
全員「次回、お楽しみに!」




