第52話 登録してたんだった!!
ギルドに着いたジャン、ルナ、フィリーネは、受付嬢とギルド長に出迎えられた。
フィリーネは少し緊張しているようだったが、ルナが元気に話しかけているのを見て、少し安心した。
「フィリーネも、一緒にパーティーを組まないか?」
受付を済ませた後、ジャンがフィリーネに問いかけた。
フィリーネは一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに首を横に振った。
「ううん、私はいいわ。ジャンと同じホワイトマジシャンだし、2人組で十分だと思う」
フィリーネの言葉に、ルナは少し寂しそうな顔をした。
「そんなこと言わないでよ、フィリーネ! ジャンと私、2人だけじゃ心細いんだもん! フィリーネも一緒の方が、絶対楽しいよ!」
ルナがフィリーネの肩を掴み、ウルウルとした瞳で見つめる。
ルナのあまりの真剣さに、フィリーネは押し切られるように頷いた。
「わ、分かったわよ・・・・・。そこまで言うなら、仕方ないわね」
「やったー!」
ルナはフィリーネに抱きつき、満面の笑みを浮かべた。
ジャンもまた、安堵したように微笑んだ。
「ありがとう、フィリーネ。これでオレたち、正式にパーティーだな」
ジャンがそう言うと、フィリーネは照れくさそうに顔を赤らめた。
「正式って・・・・・まだ何も手続きしてないでしょ!」
「そうだったな。じゃあ、まずはパーティー登録をしないとな」
ルナが受付嬢に明るく声をかけた。
「こんにちは!私たち、3人でパーティーを組みたいんです!」
ルナの言葉に、受付嬢はにこやかにうなずく。
「はい、承知いたしました。では、皆さんの冒険者プレートを出していただけますか?」
ジャンとルナは、慣れた手つきで各自のプレートを取り出した。
そのプレートを見た受付嬢は、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻ってプレートを確認し始める。
しかし、その隣にいたフィリーネは、まるで時間が止まったかのように固まっていた。
彼女の視線は、ジャンとルナが手にしているプレートに釘付けになっている。
「フィリーネ?どうしたの?」
ルナが不思議そうに声をかけると、フィリーネは震える声でつぶやいた。
「銀・・・・・Aクラス・・・・・」
フィリーネの顔は青ざめ、手に持っていたプレートを隠すように後ろに回した。
「そ、そんな・・・・・。わ、私、Cクラスよ・・・・・。Aクラスのあなたたちとは、釣り合いが取れないわ。それに、私のプレートは、今持っているのとは違うみたいで・・・・・」
フィリーネはしどろもどろになりながら、パーティーを組むことを断ろうとする。
しかし、ジャンとルナは引き下がらない。
「気にすることはない。ランクなんて、ただの目安だ」
ジャンが優しい声でフィリーネを諭す。
「それに、フィリーネは私たちと一緒のパーティーにいるんだから、これからどんどん強くなれるよ!」
ルナもまた、フィリーネの腕を掴み、ウルウルとした瞳で見つめた。
ジャンとルナの説得に、フィリーネは観念したようにため息をついた。
「・・・・・わかったわ。2人と一緒なら・・・・・頑張ってみるわ」
フィリーネがしぶしぶと了承すると、ルナは飛び上がって喜んだ。
「やった!ありがとう、フィリーネ!」
受付嬢は、そんな3人のやり取りを温かく見守っていた。
フィリーネの了承を得て、3人は改めて受付嬢の前に並んだ。
受付嬢は3人を順に見やり、手元のプレートを確認する。
――Aクラスが2人に、Cクラスが1人。
それ自体に問題はない。
本人たちの合意さえあれば、極端な話、AクラスとEクラスの組み合わせでもパーティは組める。
どんな編成であっても登録は可能――だが。
受付嬢は、まるで信じがたいものでも見るように3人をじっと見つめた。
ジャンが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
受付嬢は小さく咳払いをしてから、少し戸惑ったように尋ねた。
「他に・・・・・・何名ほど、ご登録なさいますか?」
「この3人だけだよー! お願いしますっ!」
ルナが元気よく胸を張って答える。
受付嬢は再び書類を確認しながら言った。
「ホワイトマジシャンが2人、そしてマジシャンが1人・・・・・・こちらの内容でお間違いありませんね?」
「はい。間違いありません。・・・・・・何か問題でも?」
ジャンが問い返すと、受付嬢は怪訝そうに眉をひそめ、プレートを見つめながら答えた。
「いえ・・・・・・ただ、この構成での登録は前例がございません。
回復職が不在のままホワイトマジシャン2人で登録されるパーティは、前例がございませんので、念のため確認させていただきました。」
「大丈夫だよ!」
ルナが勢いよく言葉を被せる。
「ジャンはね、ホワイトマジシャンなのに、攻撃魔法も回復魔法も使えるんだよ! すごいでしょ!」
受付嬢は思わず目を見張った。
アステリアに、“攻撃も回復もこなせるホワイトマジシャン”がいる噂は耳にしたことがある。
まさか、その本人が目の前にいるのか――そう思いながら、彼女は少し息を整え、柔らかな笑みを浮かべた。
「なるほど。それでしたら、問題ありません。では、こちらにご記入をお願いいたします。」
ジャンは頷き、用紙を受け取ると必要事項を記入し、再び受付に差し出した。
受付嬢は、にこやかにうなずき、手元の端末を操作し始める。
「では、パーティー登録をさせていただきますね。リーダーはどちらになさいますか?」
ジャンが「オレがやります」と答え、受付嬢はジャンのプレートを端末にかざした。
プレートの情報が読み込まれ、画面にジャンの名前と冒険者クラスが表示される。
続いてフィリーネのプレート、最後にルナのプレートをかざした。
しかし、ルナのプレートをかざした瞬間、受付嬢の顔から笑顔が消えた。
画面を食い入るように見つめている。
「あの・・・・・どうかしましたか?」
ルナが不安そうに尋ねた。
「えっと・・・・・ジャンさんのプレートとフィリーネさんのプレートは問題なく登録できるのですが、ルナさんのプレートは・・・・・」
受付嬢は言葉を濁し、申し訳なさそうにルナを見つめた。
「どういうこと!?私だけ、登録できないの?」
ルナは眉をひそめ、首をかしげる。
「はい・・・・・。申し訳ありませんが、ルナさんはすでに、別のパーティーに所属されているようです」
受付嬢の言葉に、フィリーネは驚き、ルナは目を丸くした。
「そういえば私・・・・・カイラスたちの・・・・・」
頷きながら、受付嬢は端末の画面をルナに見せた。
「はい、そうですね。こちらに表示されている南の街、アステリアのギルドに登録されている、カイラスさんのパーティーです」
カイラスのパーティーに所属していた事を、この時までルナは失念していた。
受付嬢は続ける。
「そのパーティーから脱退しない限り、新しいパーティーに登録することはできません。直接連絡を取って、脱退の許可をいただいてから、改めて手続きをお願いいたします」
「何とかなりませんか?」
ルナはすがるようにとつぶやいた。
「Aクラスであっても、そこは変わりません。」
受付嬢の説明に、ルナはうつむいた。
「どうしよう・・・・・。カイラスたち、アステリア・・・・・」
ルナは途方に暮れた表情で、ジャンを見上げた。
ジャンは静かに、受付嬢に問いかけた。
「オレとフィリーネだけでも、先にパーティー登録はできますか?」
「はい。可能です。ひとまず、御二人だけのパーティーとして登録されますが、よろしいでしょうか?」
受付嬢の言葉に、ジャンはうなずいた。
「はい、お願いします」
フィリーネもまた、ジャンに倣ってうなずく。
受付嬢は再び端末を操作し、ジャンとフィリーネの2人の名前を新しいパーティーとして登録した。
「これで、御二人のパーティー登録は完了です。ルナさんの件は、また改めて・・・・・」
受付嬢がそう告げると、ルナは寂しそうな顔で、ジャンとフィリーネを見つめた。
受付嬢の言葉に、ルナは納得がいかない様子で首を振った。
「なんで!? おかしいよ! 私とジャン、付き合ってるのに!」
ルナの突拍子もない発言に、ジャンは慌てて彼女の口を両手で塞いだ。
「ばっ、ばか! 何言ってんだお前は! 付き合ってることと、パーティー登録は関係ないだろ!」
「関係あるもん!」
ルナはジャンの手から逃れ、むすっとした表情で、不満げにジャンを見つめる。
「一緒に冒険するんだから、同じパーティーがいい!」
ルナの言葉はもっともだったが、まったく納得していないようだった。
フィリーネは、2人のやり取りを微笑ましく見守っている。
「申し訳ありませんが、システム上どうにもならないので・・・・・」
受付嬢も困ったように眉を下げていた。
結局、ルナの登録問題は解決せず、3人はギルドを出ることになった。
ルナはまだぶつぶつと文句を言っている。
「もう! どうしてなの!?」
「仕方ないだろ。まあ、いつでもオレたちのパーティーに誘うことはできるし、登録しなければ一緒に行動してはダメ、という事もないんだ」
ジャンはそう言ってルナの頭を優しく撫でた。
ふと、ジャンは空を見上げた。まだ午前中だ。
「なあ、ルナ。まだ時間も早いし、このまま飛行魔法でアステリアに戻って、カイラスたちに会いに行くか?」
ジャンがそう提案すると、ルナの顔がぱっと明るくなった。
「うん、そうする! それが一番いいよ!」
ルナはすぐにでも飛び立ちたそうに、身体を揺らす。
「待て待て、落ち着け。フィリーネも一緒に行くんだからな。」
ジャンは苦笑しながら、ルナをなだめた。
フィリーネは少し驚いたように目を丸くしている。
「飛行魔法で・・・・・アステリアまで?」
フィリーネの言葉に、ルナが誇らしげに胸を張った。
「そうだよ! すごいでしょ! ジャンの飛行魔法は、誰にも負けないんだから!」
ジャンは少し照れくさそうに頭をかいた。
「そこまでじゃない。まあ、長距離の移動には便利だけどな」
3人は、再び空へと旅立つ準備を始めた。
ルナの心は、もうすでにアステリアへと向かっていた。
ギルドを出た3人は、そのまま南へと向かった。
メルグレイスからヒルダロアに来た時と同じように、フィリーネを真ん中に、両サイドをジャンとルナが固める。
3人が肩を組み、ジャンとルナが飛行魔法を発動した。
ふわりと身体が浮き上がり、地面から離れていく。
今回は2人とも、杖に蓄えられている魔力を使って飛んでいるため、自身の魔力は一切減らない。
おかげで疲れもあまり感じず、快適な空の旅だ。
一時間半ほど飛んだだろうか。
フィリーネが少し疲れた様子で、地上に視線を落とす。
「ねえ、ちょっと疲れたから、どこかで休憩しない?」
ちょうど眼下に広がる草原を見つけ、3人はそこに降り立つことにした。
広々とした草原の真ん中に、ぽつんと立つ大木の下で腰を下ろす。
ルナは持参したパンとチーズを取り出し、3人で食べ始めた。
「ねえ、飛行魔法って、どういう仕組みなの?」
フィリーネが不思議そうに尋ねた。
ルナは得意げに胸を張る。
「えへへ、それはねー、魔力自体を全身から下に向けて放出するんだよ!」
「魔力を下に?」
フィリーネはパンをかじりながら、おそるおそる両手を広げてみた。
そして、ルナに言われた通り、全身から魔力を放出するイメージで力を込める。
しかし、身体は地面に張り付いたままで、微動だにしない。
「うーん・・・・・。難しいわね・・・・・」
フィリーネは首をかしげ、ため息をついた。
「まあ、仕方ないさ。オレだって、初めて飛行魔法を習得するのに、丸一日かかったからな」
ジャンが慰めるように言うと、ルナがむっとした顔で彼を睨んだ。
「ジャン、ずるい! 私は3日もかかったのに!」
ルナが悔しそうに地団駄を踏んだ。
2人のやり取りを見て、フィリーネはもう一度、飛行魔法に挑戦してみた。
「魔力を下に・・・・・」
そうつぶやき、集中する。
すると、彼女の身体が、ほんの数インチほど、フワリと地面から浮き上がった。
それは頼りない浮き方だったが、確かに――浮いていた。
「・・・・・っ!?」
「な・・・・・!?」
ルナとジャンは同時に息を呑んだ。
その瞬間、周囲の空気が張りつめ、世界が一瞬だけ静止したように感じられた。
「まさか・・・・・本当に・・・・・!?」
ルナの瞳は大きく見開かれ、光を映すように潤んでいた。
胸の前で強く両手を組み、声は震えている。
「私、あんなに苦労したのに・・・・・フィリーネは今・・・・・奇跡みたいに・・・・・!」
ジャンも言葉を失い、ただ首を振った。
「・・・・・信じられない・・・・・。オレたちが血の滲むような努力で掴んだものを・・・・・こんなにも早く・・・・・」
その声には驚愕だけでなく、畏敬の念すらにじんでいた。
フィリーネの身体を包むかのように、柔らかな風が舞い上がる。
宝石のようにきらめく光が空気に散り、彼女を中心に淡い輝きが揺らめいた。
それはまるで、大地が新たな翼を歓迎しているかのような光景だった。
「・・・・・私・・・・・できたの・・・・・?」
フィリーネは目を見開き、驚きの声でつぶやく。
その言葉と共に、光はすっと消え、彼女の身体は静かに地面へと戻っていった。
ルナとジャンは同時に大きく息を吐き出した。
それでも胸の鼓動は収まらず、ただ彼女を見つめる。
――今、目の前で確かに奇跡が生まれたのだ。
2人の沈黙を破ったのは、ジャンだった。
「お前、飛行魔法を、たった一発で・・・・・それも、何の訓練もなしに、習得したのか・・・・・?」
ジャンの言葉に、フィリーネは驚いて目を丸くした。
「え・・・・・?だって、私、全然飛べてないし・・・・・」
「いや、たしかに、数インチしか浮いてなかったけど、それは間違いなく飛行魔法だ。一発で、その感覚を掴むなんて・・・・・。お前、もしかして、天才か?」
ジャンは興奮気味にそう告げた。
ルナもまた、目を輝かせながらフィリーネに駆け寄る。
「すごーい! やっぱりフィリーネはすごいんだよ!」
ルナはフィリーネの手を握り、ブンブンと上下に振った。
「ちょっとルナ、落ち着いて! そんなことないから!」
フィリーネは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
そんな微笑ましい様子に、ジャンは小さく息を吐いて口を開いた。
「そろそろ、出発しようか」
ジャンの言葉に、3人は再び空へと向かう準備を始めた。
今度は、フィリーネが自分で浮いた状態を維持し、ルナが彼女の手を引っ張る形になった。
ルナがフィリーネの左手を握ると、ジャンが反対側の右手を握ろうと手を伸ばす。
しかし、ルナはサッと手を横に動かし、ジャンがフィリーネの手を握るのを妨害した。
「なんでだよ?」
ジャンが不思議そうに尋ねた。
「えっと・・・・・ジャンは、一人の方が飛びやすいでしょ?」
ルナはとっさにそう答えたが、その心の中では、恋人であるジャンが他の女性に触れるのが我慢ならないという思いが渦巻いていた。
しかし、そんな気持ちは決して表に出さないように、必死で心にしまっておいた。
ジャンはルナの言葉に首をかしげたが、深く追求する気にはならなかった。
「そうか?まあ、お前がそう言うなら、いいか」
ジャンはそう言って、ルナの横を飛ぶことにした。
飛行魔法を使い、3人は南へ向かって飛んでいく。
フィリーネはまだ不安定な飛行だったが、ルナがしっかりと手を握ってくれているので、安心して飛ぶことができた。
しばらくして、眼下にアステリアの街並みが見えてきた。
街外れの草原に降り立った3人は、そのまま走ってギルドへ向かった。
ルナの心は、一刻も早くカイラスに会って、パーティーの件を解決したいという思いでいっぱいだった。
エルミナ「今回も読んでくださって、本当にありがとうございます!」
カイラス「みんな、感謝してるぞ!」
リリエル「……で、カイラス。ちょっといい?」
カイラス「ん? どうした?」
ルミア「どうしたもこうしたもないでしょ! 私たち、最近ぜ〜んぜん出番ないじゃない!」
カイラス「え、ええっ!? そ、それは……! ジャンとルナが今、大変な状況だからだよ!」
リリエル「2人でデートしてるらしいけどぉ?」
ルミア「完全に忘れられてる気がする」
カイラス「ち、違うって! ちゃんと準備中なんだよ! 出番調整ってやつ!」
ライアス「がはははは、オレなんて、もう出番ないんじゃないか?」
カイラス「ライアス!? そんなこと言うなよ!」
エルミナ「でもね、朗報があるの。ジャンとルナが、こっちに向かってるらしいわ」
リリエル「ほんと!? じゃあ、いよいよ私たちの出番じゃない!」
ルミア「ようやくね! 待ちくたびれたんだから!」
ライアス「がははは、ヒルダロアから、アステリアまでは馬車でも3~4日かかるんだぞ」
エルミナ「まだまだ出番はないわね」
ルミア「縁起でもないこと言わないで!」
リリエル(あの2人だと、たぶん飛行魔法ね。それだと、どれくらいで着くのかしら?)
ライアス「おい、リリエル、その顔は何だ?何か知ってるのか?」
リリエル「え!?な、何も知らないわよ!」
ルミア「んー、怪しい」
カイラス「ははは……ま、まぁ、次回に期待ってことで!」
エルミナ「というわけで、ここまで読んでくださった皆さまに感謝を込めて——」
全員「次回も、お楽しみにーっ!!」




