第44話 絶体絶命からの事件
背後から轟音と振動に2人は思わず足を止め、振り返る。
「・・・・・な、なに今の音!?」
ルナが震える声で叫んだ。
「分からない。とにかく戻るぞ!」
ジャンはルナと飛行魔法で、来た道を急いで戻り始める。
しかし、2人が入口にたどり着いた時、そこは再び頑丈な岩盤に閉ざされていた。
「ウソ・・・・・!閉まってる!」
ジャンは慌てて岩盤に手をかざし、魔力を流し込む。
だが、岩盤はびくともしない。
「くそっ、開かない・・・・・!」
「ごめん、ジャン・・・・・!私のせいで・・・・・!」
ルナは青ざめた顔でジャンを見上げた。
目に涙を浮かべ、震える声で謝罪する。
その姿に、ジャンは優しく首を横に振った。
「お前のせいじゃない。オレもこの場所を甘く見ていた。今は謝っている場合じゃない、とにかく先に進むしかない」
ジャンはルナを安心させるように、その背中をポンと叩いた。ルナはこくんと頷き、ジャンの隣にしっかりと立つ。
「よし、行くぞ」
ジャンは再び前を向き、階段を下り始めた。
螺旋階段をどこまでも降りていくと、やがて突き当りに辿り着いた。
そこには、1つの大きな扉があった。
錆びた鉄製の扉には、見たこともない紋様が刻まれている。
ジャンは警戒しながら、ゆっくりと扉に手をかけた。
扉は、意外なほどあっさりと開いた。
その先には、広大で巨大な空間が広がっていた。
光の届かない最下層とは思えないほど天井が高く、空間全体がまるでドーム状のようだ。
ジャンは光をかざし、内部を照らす。
すると、広間の中心には、巨大な祭壇が鎮座していた。
「わあ・・・・・!すごい、広い!」
ルナが目を輝かせた。
「警戒を怠るな、ルナ」
ジャンは冷静にルナに注意を促し、2人は祭壇へと向かって歩き出した。
広間はがらんどうで、祭壇以外には何も見当たらない。
その時だった。
「ジャン!何か来る!」
ルナが叫ぶ。
その声に、ジャンは素早く周囲に目を光らせる。
すると、広間の壁から、夜の闇や空気中に漂う微細な粒子が、まるで意志を持ったかのように集まり始めた。
それは、ガス状の不気味な塊となり、ルナとジャンを取り囲んでいく。
「何だ、あれは・・・・・!」
「気をつけて、ジャン!何かの魔力だよ!」
ルナの声が、ジャンを現実に引き戻した。
ジャンは冷静に状況を判断する。
相手は物理的な実体を持たない、
魔力で構成された存在だ。
「よし。ルナ!魔法で応戦だ!」
ジャンはルナに指示を出すと、自らも素早く炎の魔法を放った。
火球がガス状の塊に命中する。ガスは一瞬燃え上がったが、すぐに元の形に戻る。
「効かない!?」
ルナが焦った声で叫んだ。
「くそっ!」
ジャンは今度は氷の魔法を放つ。
鋭い氷の槍がガスを貫くが、これもまた、すぐに消えてしまう。
「どういうこと?全然、効かないよ・・・・・!」
ルナが再び魔法を放つが、結果は同じだった。
ガス状の塊は、わずかにその形を歪めるだけで、すぐに元に戻ってしまう。
「ダメージはわずかに与えられている」
ジャンは額に汗を浮かべ、必死に考えを巡らせる。
このままでは、ジリ貧だ。
何か、決定的な打開策を見つけなければ、この広間から抜け出すことはできない。
ガス状の塊は、2人の周りをゆっくりと旋回する。
その動きは、まるで獲物を品定めする捕食者のようだった。
不気味な気配が、2人の心臓を締め付ける。
「どうしよう、ジャン・・・・・!」
ルナが不安げな声で言った。
「落ち着け、ルナ。必ず、道はある」
2人は、ガス状の物質に様々な攻撃を試みた。
炎の魔法、氷の魔法、そして物理的な攻撃も。
しかし、どれも決定的なダメージには繋がらない。
「ジャン!これじゃ埒が明かないよ!」
ルナが叫ぶ。
ガス状の物質は、形を変えながら2人の周りを飛び交い、
時折、鋭い刃のような形に変化して襲いかかってくる。
「くそっ!一体どうすれば・・・・・!」
ジャンは冷静さを保とうとするも、焦りが募る。
このままでは、魔力が尽きてしまう。
魔力の消費が激しく、既に2人とも疲労困憊だ。
「収納魔導具だ。ルナ!杖を出せ!」
ジャンの指示に、ルナは素早く収納魔導具から杖を取り出した。
ジャンもまた、自分の杖を手に取る。
「杖の魔力を使うんだ!」
2人は杖に蓄えられていた魔力を使う方向へ切り替える。
「行くぞ、ルナ!」
「うん!」
2人は、杖から放たれる強力な魔法を、ガス状の物質に放つ。
炎と氷の魔法が、物質を襲う。物質は、わずかに後退した。
「効いてる!?」
ルナが驚きの声を上げた。
「これだけじゃだめだ・・・・・!」
ジャンは冷静に分析する。
ガス状の物質は再び元の形に戻り、2人に襲いかかってきた。
杖に蓄えられている魔力も、無限ではない。
このままでは、時間の問題だ。
2人の体力は限界に近づいていた。
額から汗が流れ落ち、息は切れ切れだ。
しかし、このまま諦めるわけにはいかない。
「何か・・・・・何かあるはずだ・・・・・!」
ジャンは、必死に思考を巡らせる。
この広間、そしてこのガス状の物質の正体。どこかに、必ず弱点があるはずだ。
ガス状の物質との激しい攻防戦は、すでに長い時間続いていた。
ジャンとルナの体力は限界に近づき、呼吸は荒い。
ジャンの放った攻撃魔法は、ガス状の物質をわずかに揺らすだけで、すぐに元に戻ってしまう。
「くそっ、このままじゃ・・・・・!」
ジャンがもう1度攻撃魔法を放とうとした、
その時だった。
足がもつれ、ふらつき、その場に転倒してしまう。
その隙を見逃さず、ガス状の物質が、鋭い刃のような形に変化し、ジャンに襲いかかった。
「ジャン!!」
ルナの悲鳴が、広間に響く。
ルナは咄嗟に、ジャンと物質の間に割り込み、アイスウォールの魔法を唱えた。
彼女の魔力によって、地面から巨大な氷の壁がせり上がる。
「ルナ!危ない!!」
ジャンが叫ぶ。
次の瞬間、驚くべき光景が目の前に広がった。
ガス状の物質が、氷の壁にぶつかった途端、その一部が氷に吸い込まれていくように、壁の中に溶け込んでいく。
「え・・・・・?」
ルナは呆然と氷の壁を見つめた。
ガス状の物質は、壁に吸い込まれた部分が欠けている。
「ルナ!大丈夫か!?」
ジャンが立ち上がり、ルナに駆け寄る。
ルナは、心配そうな顔でジャンを見つめ返した。
「うん・・・・・ジャンは大丈夫!?」
「ああ。それより、アイスウォールだ!ルナ」
ジャンの言葉に、ルナはもう1度氷の壁を見つめた。
確かに、物質のガスが氷の中に封じ込められているのが見える。
「・・・・・そっか!氷の魔法が効くんだ!」
ルナの瞳に、希望の光が宿る。
「ルナ!魔力はまだ大丈夫か!?」
ジャンが尋ねる。
「魔力は杖の中にまだ余裕があるよ!でも、体力的にキツイよ・・・・・!」
ルナが息を弾ませながら答えた。
その言葉に、ジャンは力強く頷く。
「最後のひと踏ん張りだ!2人で・・・・・アイスウォールを大きくするぞ!」
ジャンはそう叫び、自らも氷の魔法を放ち、ルナの創り出した氷の壁を補強する。
2人の魔力が、1つの氷の壁となって広間を埋め尽くしていく。
ガス状の物質は、巨大化する氷の壁から逃れようとするが、その動きは次第に鈍っていく。
物質の体が、どんどん氷の中に吸い込まれていく。
そして、ついに・・・・・。
広間に存在していた全てのガス状の物質が、巨大な氷の塊の中に閉じ込められた。
祭壇の周りに、無数の小さな氷の粒が浮遊している。
それは、物質の残骸のようだった。
「やった・・・・・!」
ルナが、安堵の表情で崩れ落ちる。
ジャンもまた、その場に座り込んだ。
「ルナ、よくやった・・・・・!」
ジャンが力なくルナの肩を抱き寄せる。
2人の体は、もう1歩も動くことができないほどに疲労困憊だった。
「少し・・・・・休もう」
ジャンはそう呟き、2人はその場で、しばしの休息を取ることにした。
広間は、静寂に包まれていた。
巨大な氷塊の中にガス状の物質が封じ込められ、祭壇の近くで、ジャンとルナが座り込んでいた。
ジャンが、自身とルナにヒールをかける。
そうすると、歩ける程度には回復した。
ルナの表情には、安堵が浮かんでいた。
ふと、ルナが氷塊に目を向ける。
そこには、彼女の勇気が生み出した奇跡の壁がそびえ立っていた。
あの時、恐怖に震えながらも、ジャンを守ろうと飛び出したルナ。
その行動が、勝利への糸口となったのだ。
「ここから、どうやって出るかだ」
ジャンは氷塊をじっと見つめながら呟く。
入り口は再び閉ざされてしまった。
しかし、その時、背後から再び轟音が響いた。
2人はハッと顔を見合わせ、急いで飛行魔法で入り口へと戻る。
すると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
閉ざされていたはずの岩盤が、大きく開いている。
「開いてる・・・・・!」
ルナが驚きの声を上げる。
「行こう、ルナ!」
ジャンは迷わず、開いた入り口へと飛び込んだ。
2人は古代遺跡から脱出し、そのまま宿へと急いだ。
体力の限界を超えていた2人は、ベッドに倒れ込むようにして眠りについた。
泥のように深く、朝まで1度も目を覚ますことはなかった。
翌朝、2人はギルドへと向かった。
今回の調査結果を報告するためだ。
受付の職員に今回の経緯を説明すると、職員は驚きと感心の入り混じった表情で頷いた。
「なるほど・・・・・ガス状の魔物ですか。それは厄介だったでしょう」
職員はそう言うと、奥へと引っ込んでいった。
しばらくすると、彼は古びた壺を抱えて戻ってきた。
「この壺は、封印の魔導具です。もし、ガス状の魔物を完全に消滅させたいのであれば、この壺に封じ込めるのが最も確実な方法でしょう」
職員は壺を差し出しながら説明する。
「この壺を魔物に向けるだけで、魔物は壺の中に吸い込まれ、完全に封印されます。ただし、この壺は非常に貴重なものですので、取り扱いには十分ご注意ください」
ジャンは、その壺を慎重に受け取った。
「ありがとうございます。でも、なぜ・・・・・?」
ある職員が言う
「今回の件は、あなた方の命がけの功績です。この壺を使い、あなた方の手で、是非それを封じてください」
更に別の職員が言う
「この壺に、異変の元凶を封じ込めれば、10年以上未解決だった事件が、完全に解決するんだ。まさか、君たちが解決してくれるとはな」
職員は深々と頭を下げた。
ギルドからの温かい言葉に、2人は顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
「せっかくだし、今日は気分転換しない?もう、事件は解決したようなものだし・・・・・」
ルナがジャンの顔を覗き込むように尋ねた。
「そうだな。遺跡は午後から行くことにしよう」
ジャンの言葉に、ルナの顔がパッと輝く。
2人は、午前中を自由な時間として楽しむことにした。
市場の賑わいに、ルナの目はキラキラと輝いていた。
色とりどりの果物や、珍しい香辛料が並ぶ露店を、彼女は興味津々で見て回る。
ジャンは、そんなルナの様子を、優しい眼差しで見守っていた。
「わあ、ジャン!見て!あれ、何だろう?」
ルナが指差したのは、小さなアクセサリーを売っている露店だった。
ジャンはルナの後ろに立ち、彼女が欲しがっているアクセサリーに手を伸ばそうとすると、彼女の手に触れた。
その瞬間、ルナの顔が赤くなる。
「ご、ごめん・・・・・」
ジャンが慌てて手を引っ込める。
ルナは俯き、顔をさらに赤くした。
その姿を見て、ジャンは思わず笑みをこぼす。
ルナの無邪気な笑顔を見ているだけで、遺跡での疲労が癒されていくようだった。
「ジャン、クレープ屋さんだよ!」
ルナの興奮した声が聞こえる。
彼女の指差す先には、甘い匂いを漂わせるクレープの露店があった。
「ん?ルナ、どうしたんだ?」
うっとりとしているルナを見て、ジャンは聞いた。
「クレープって、ちょー美味しいんだよ! ほっぺた落ちちゃうくらい!」
そう言って、ルナはキラキラした瞳でジャンを見つめる。
ジャンは、彼女のその瞳に負けて、財布を取り出した。
「好きなのを選んでいいぞ。オレがおごってやる」
「ホント!?わーい!!やったー!」
ルナは飛び跳ねて喜び、ショーケースに並んだサンプルを熱心に見つめる。
迷いに迷った末、彼女はイチゴとクリームがたっぷりのクレープを選んだ。
ジャンは、嬉しそうにクレープを受け取るルナを見て、心が温かくなった。
「ねえ、ジャン!あそこで食べようよ!」
ルナは噴水の縁を指差した。
穏やかな水の音が心地よく、人通りもあまり多くなく、休憩するにはちょうどいい場所だった。
ルナは噴水の縁に腰かけ、クレープを口元に運び、1口食べた。
その瞬間だった。
ルナの体が眩い光に包まれた。
「え・・・・・?」
ジャンが驚きの声を上げる。
光はどんどん強くなり、噴水の周りにいた人々が次々と足を止め、その光景を呆然と見つめる。
そして、光が消えた時、そこにルナの姿はなかった。
「ルナ・・・・・?」
ジャンは信じられない思いで、ルナが座っていた場所を見つめる。
彼は、地面に何かが落ちているのを見た。
それは、ルナが1口食べた、イチゴとクリームがたっぷりのクレープだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ルナ「え!?私、消えちゃった! クレープは? ジャンは? ねぇ、ジャン?・・・ジャン!?」
ルナ「次回もお楽しみに!! ジャンーーー!!」




