第37話 ジャンの魔法教室と、2人の秘密
ジャンとルナは広場へと向かっていた。
ルナは
「ねえ、夜じゃなくても大丈夫?」
と疑問を口にした。
ジャンは
「ああ、飛行魔法みたいに派手じゃないからな」
と答えた。
広場に着くと、ジャンは早速魔法を教え始めた。
ルナはものの数十分でそれを習得した。
飛行魔法の時には、魔力自体を放出する感覚を掴むのに苦労していたが、どうやらその感覚を掴めたようだった。
ジャンはルナが自分より早く覚えたことに驚いたが、さすが魔法のエキスパートだと感心した。
ルナはだいたい1000ヤードくらいまでサーチできるようになった。
これはジャンの半分より少し多いくらいの距離だが、今はこれで十分だろうとジャンは考えた。
(よし、これで準備が整ったな)
とジャンは心の中でつぶやき、ルナを見つめながら心の中で話しかけた。
(ルナ、聞こえるか?)
(ルナ?)
ルナはジャンがジーッと見つめていることに気づいた。
(ルナ、どうだ?聞こえるか?)
ジャンが再び心の中で問いかけると
ルナは
「ジャン・・・・・」
と声に出して返事をした。
それを聞いて、ジャンは
(よし、聞こえてる!)
そう確信し、再び心の中で話しかけた。
(ルナも心の中でオレに話しかけてくれ!)
ルナは急にもじもじし始め、顔を赤らめた。
「えっと・・・・・その・・・・・ジャン、どうしちゃったのかな?えへへ、そんなに見つめてきて」
下を向きながら答えるルナに、ジャンは困惑した。
「え?今の聞こえなかったのか?」
思わずルナに聞いてみた。
ルナは慌てて謝る。
「あ、ご、ごめん、話聞いてなかった。もう一回言ってくれない?本当にごめん!」
「あ、いや、良いんだ。 大したことじゃないから」
ジャンは落胆しながら答えた。
(おい、ベルトラン!話が違うじゃないか!)
ジャンは心の中でベルトランに少し腹を立てた。
ルナは、ひどく落ち込み
「ごめんね、ジャンが落ち込んだ顔してるから・・・・・大切な話じゃなかったのかなあって思って・・・・・」
今にも泣き出しそうな声で話した。
それを見たジャンは慌てて説明した。
「ベルトランが言ってたんだ。2人でサーチを覚えると、テレパシーで会話できるようになるって」
ルナの顔は、泣きそうだったのが嘘のように晴れ、キラキラした目で聞いてきた。
「え!?私とジャンがテレパシーで話せるようになるの!?やってみるね!」
今度はルナがじっとジャンを見つめる。
しばらくして
「どう?どう?聞こえた?」
と尋ねるが、ジャンは首を横に振った。
「2人ともサーチを覚えたばかりだからかもしれないな。そのうち使えるようになるさ」
ジャンがそう言うと、少しがっかりした顔でルナは
「今が良かったなー」と言い
ジャンも「そうだな」と答えた。
少しして、ジャンは突然思い出したように
「あ、そうだ!収納魔法、便利だから教えておくよ」
とジャンが言うと、ルナは身を乗り出して聞いてきた。
「収納魔法!?すごーい!」
そう言うとルナは
「あははははは!ライアスが規格外って言うわけだー。あはははは」
と声を上げて笑い出した。
「ルナもそう思ってるのか?ひどいなー」
とジャンも一緒に笑った。
そして、ジャンは収納魔法を教え始めた。
(サーチ魔法を教えた時も思ったけど、魔法のエキスパートって本当にすごいな!わずか数分で覚えた。オレは数日かかったのになあ)
ジャンがそんなことを考えていると、ルナが首をかしげて尋ねてきた。
「ジャンはその腕輪から出し入れしてるみたいだけど、どうして?」
ジャンは左腕を上げて答えた。
「ああ、これは表向き収納魔導具ってことにしてある。収納魔法は、魔法ってつくように魔力をほんのわずかだけど消費するんだ。だけど、理由は分からないけど、これを付けていると魔力を全く消費しなくなるんだ」
ルナは「ええ!?さすが『キ・カ・ク・ガ・イ』だねーっ!あはははは」と、お腹を抱えて笑った。
(規格外はちょっと複雑な気分だけど、ルナの笑顔はやっぱりカワイイな)
「!?」
ジャンは自分の思考を疑った。
ルナの笑顔を見て、カワイイと思った。
それは間違いないが、大人が子どもを見てカワイイと思うのとは何か違う。
その笑顔を見るだけで、癒されるような・・・・・・
どこか安心するような・・・・・・
不思議な感覚だと感じたジャンだが、その気持ちが何なのかに気付くのは、まだ少し先のことだった。
その後、ルナがジャンと同じ腕輪が欲しいと言い出し、2人は街に探しに行った。
すぐに同じものが見つかり、ルナは腕輪を両手で上に持ち上げてとても喜んでいる。
「わーい!わーい!ジャンと同じものだー!わーい!」
ジャンは笑顔になり、左手の手のひらを上に向けて、手のひらサイズの魔法陣を出すと、そっと左手に腕輪を置くようにルナに促した。
ルナが腕輪を置くと、魔法陣が腕輪の中に入り込み、キラキラと輝き始めた。
「わーーー!キレイーーーっ!」
ルナが興味津々に見ていると、しばらくして光はスーッと消えた。
「はい、ルナ専用の収納魔導具だ。これで飛行魔法を教えた時のように魔力がゼロになっても、万が一、魔力を封じられるような状況に陥っても収納魔法が使えるぞ」
そう言ってジャンが手渡すと、ルナは幸せそうに胸の前で抱きしめ
「私・・・・・専用」
とつぶやき、腕に取り付けた。
早速ルナは出し入れしてみて驚く。
「本当だー!ねえねえ!どうして魔力を消費しないの!?だって魔法陣作ってたよね?」
ルナは両手を広げながら
「パアーッ!って光って入って行ってたけど、何かの術式が組み込まれてるんだよね!?」
と目をキラキラさせて聞いてきた。
「オレもその辺りはさっぱり分からないんだ。魔法陣を腕輪に組み込んでいるわけだから、ルミアの話を聞く限り、魔力消費しないってことはないはずなんだけど、なぜか魔力消費がゼロになるんだ」
ジャンが両手を広げて分からないというジェスチャーをすると、ルナはさらに興味津々で聞いてきた。
「じゃあじゃあじゃあ!例えばね、ファイアーボールとか、攻撃魔法の魔力消費をゼロにすることはできないの!?」
ジャンは首を横に振り
「今は出来ないな。だけど、出来るようになったらいいな」
と答えた。
色々な話をしているうちに、いつの間にか昼になっいたので、ジャンとルナは一緒に食事をした。
ルナは食事が終わるまで、ずっとハイテンションだった。
嬉しそうに身振り手振りを交えながら、今日学んだ魔法について熱心に話していた。
その瞳は希望に満ちてキラキラと輝き、まるで自分だけの宝物を見つけた子どものようだった。
そんな時間は瞬く間に過ぎ、食事が終わった。
2人が別れる時、ルナは名残惜しそうに、何度も何度も振り返って手を振った。
ルナはそのたびに、さっきまであんなに楽しかったのに、どうしてこんなに胸がぎゅっと締め付けられるんだろう?と思った。
明日また会えるのに、もう二度と会えないような気がして、涙がこみ上げてきそうになるのを必死にこらえた。
ジャンと同じ腕輪をぎゅっと握りしめると、彼の温かさを感じられるような気がして、少しだけ安心できた。
(私、ジャンの事が好きなのかな?)
その夜、リリエルとルナの2人はなかなか寝付けなかった。
翌日の戦いを思うと、胸の奥で不安が渦巻いていた。
翌朝、ジャン、リリエル、ルナの3人は夜が明ける前にギルドを出発し、塔へと向かった。
塔の入り口に着くと、ジャンは真っ直ぐに18階へと向かった。
18階では、全ステータスアップを使い、ヒールを自分自身にかけた。
3人は違和感に襲われた。
リリエルはジャンに尋ねた。
「あ、この違和感・・・・・じゃあ、この階には今クリブンが出ているの?」
ジャンは「ああ、結界の外にはクリブンがいる。これで36階へ向かうと、ドラゴンが出るはずだ」と答えた。
ルナも驚きながら
「この違和感知ってる!これで36階にドラゴンが出るんだね」
と声を上げ、力こぶを作り、気持ちを奮い立たせた。
ここでジャンはリリエルに話を切り出した。
「リリエル、ちょっといいか?」
ジャンが真剣な表情でリリエルに話しかけた。
「どうかしたのジャン?急に真剣な顔をして・・・・・」
リリエルが驚きながら答えると、ジャンは言った。
「リリエルには、他の全ての人には秘密にしてもらいたいことがある。この先、カイラスたちに会っても絶対に話さないでほしい」
リリエルは戸惑いながらも頷いた。
「実は、オレとルナは、失われた魔法が使えるんだ」
リリエルは首を傾げた。
「失われた魔法・・・・・?」
ジャンは答えた。
「ああ。飛行魔法だ」
ジャンの言葉に、リリエルの目が大きく見開かれた。
「嘘でしょ?そんなの、ありえないわ!飛行魔法なんて、何百年も前に失われたって、歴史書にも書いてあるじゃない!」
ジャンは頷いた。
「その通りだ。だが歴史書が全て正しいとは限らない。信じられないと思うが、この後のドラゴンとの戦いで見せるよ」
リリエルの表情には、驚愕と不信感が入り混じっていた。
「本当なの・・・・・?」
ルナが小さく頷いた。
「うん!ジャンも私も、空飛べるんだよ!すごいでしょ!」
リリエルは「すごい・・・、けど・・・・・」と言葉を失い、ただただジャンとルナの顔を交互に見つめていた。
「あと、悪いな。先日の草原の件は謝らせてくれ」
そう言ってジャンはリリエルに頭を下げた。
「え?やっぱり2人は草原にいたの?でも、森に入って消えちゃったから・・・・・ルナも部屋で魔導書読んでいたわよね?」
リリエルは一つひとつ確認するように尋ねた。
「森に入ってすぐに、オレとルナは飛行魔法で空へ飛んだんだ」
笑顔で、うんうん、と頷くルナ
リリエルは信じられない!という驚きの表情でジャンとルナを交互に見ている。
「確かに毎晩、ルナと2人で草原にいた。だけどそれは、飛行魔法の練習を人に見られないようにするためだったんだ。夜ならめったに人も来ない」
うんうん、とルナは頷いている。
ジャンは続ける。
「リリエルが今驚いているように、カイラスたちが飛行魔法を見て、もし口を滑らせて、歴史書にしかないようなことが世間に知れ渡ったら、それこそ大変な騒ぎになる」
ルナは真剣な顔になって言う。
「だから内緒だよ!」
リリエルは頷き、ジャンが静かに言葉を継いだ。
「内緒にするために、2人でこっそり夜に飛行魔法を練習したんだ。騙すような真似をして悪かった」
ジャンは再び頭を下げた。
「良いのよ、まだ信じられないけど、私たちは・・・・・」
リリエルは首を横に振った。
まさか2人のデートの邪魔をしに行ったとは言えない。
「でも、まずは3人とも生きて帰ること!頑張りましょう!」
ジャンとルナが頷くと、転移装置の前に立ち、ジャンはプレートをかざし装置を操作する。
そして3人は、36階へと転移した。
最後までお読みいただきありがとうございました。




