第36話 困惑と衝撃
5人は、しばらくの間、ルナとジャンが本当に消えたのではないか?と、訳が分からないまま森の中を探し回る。
「もうやめよう。疲れたし、宿に帰るぞ」
ライアスが、観念したように言った。
他の四人も、疲れ果てた表情で頷く。
5人は、肩を落として宿へと戻ることにした。
宿に着いた彼らは、ルナの部屋の明かりが灯っているのを見て、驚いた。
「おい、ルナが帰ってきてるぞ!」
カイラスが、信じられないという顔で言った。
「どういうことだよ!?いつの間に!?」
ライアスが、ルナの部屋の扉を勢いよく開ける。
ルナは、ベッドに座り、真剣な顔で魔導書を読んでいた。
「ルナ!?」
ぱっと顔を上げたルナは、まず驚いたように目を瞬かせ、それから頬をふくらませて言った。
「ちょ、ちょっと! 女の子の部屋は急に開けたらダメだよ? 着替えてる途中だったら大変なんだから!」
ライアスは気まずそうに頭をかき
「お、俺が悪かった・・・・・・悪い!」と視線を逸らす。
ルナは小さくため息をついてから、ふっと笑みを浮かべた。
「うん、もういいよ。気をつけてね」
そう言ってから、5人に視線を移した。
「でも突然どうしたの? みんな、そんなに息を切らして」
ルナは、何事もなかったかのように、きょとんとした顔で尋ねた。
「どうしたの、じゃないだろ!さっきまで、お前、草原にいただろ!ジャンと!」
ライアスが、興奮してルナに詰め寄った。
ルナは、首を傾げる。
「草原?私、ずっと部屋にいたよ?夕食後からずっと、魔導書を読んでいたから」
ルナはパタン、と魔導書を閉じた。
「嘘だ!絶対に見たわよ!」
ルミアが、ルナの言葉を否定する。
「そうだ!オレも見た!ジャンも一緒だった!」
カイラスが、ルミアに同意する。
「私もよ!楽しそうに話してるの、聞いたもの!」
「私もよ!」
エルミナとリリエルも、ルナに詰め寄る。
ルナは、まるで本当に何も知らないかのように、目を丸くした。
「そうだったの?私、夕食を終えて部屋に戻る時、みんなが急いで外に出て行くのを見たけど・・・・・、草原に行ってたの?」
ルナは、逆に5人に尋ねた。
その言葉に、5人は言葉を失った。
「いや、だから・・・・・。オレたちが草原に行ったのは、お前とジャンがいたからだ!」
ライアスが、必死に叫んだ。
「じゃあ、ジャンと一緒にいたのは事実だろ?」
カイラスが、ルナに詰め寄った。
「うん・・・・・。食事に誘われたから、確かにジャンと2人で食事には行ったけど、食事後はすぐに戻ったよ?」
ルナは、とぼけたように言った。
「嘘よ!毎晩出かけてたのはなんで!?」
ルナは、手にある魔導書を胸元まで持って言った。
「毎日、この魔導書を読んでいたからだよ。頭が痛くなって、気分転換に散歩していただけかな」
「でも、出かける時、いつも嬉しそうに笑ってたわ!それは、ジャンに会えるからじゃないの!?」
ルミアが、ルナの顔をじっと見つめながら尋ねる。
ルナは、手に持った魔導書に目を向ける。
「この魔導書が、すごく面白かったから・・・・・かな?読み進めるのが楽しくて、笑顔になっていたのかもしれないね」
ルナは、そう言って、にっこりと笑った。
5人は、ルナの言葉に、顔を見合わせた。
ルナの言葉は、辻褄が合っているように聞こえる。
しかし彼らは確かに、ルナがジャンと2人でいるところを見たのだ。
ライアスは、何か言いたげな顔をしていたが、カイラスが肩を叩いた。
「まあ、いいだろ。ルナが部屋にいるんだ。勘違いだったのかもしれない」
そう言って、カイラスはルナの部屋を出て行った。
ルミアも「だって・・・・・」
そこまで言ったが、部屋を出て行った。
他の3人も、納得いかないような顔をしながら、ルナの部屋を出て行った。
ルナは、1人になった部屋で、小さくため息をついた。
そして、窓の外に視線を向けた。
窓の外、中からやや見えにくい所にジャンの姿があった。
ジャンは、窓を開け、音もなく部屋に入ってくる。
「よくやった。完璧な演技だったぞ」
ジャンは、親指を立てる。
「ふふ。作戦を教えてくれてありがとう。まさか、みんなが草原まで私たちを探しに来るなんて思わなかったなあ」
ルナは、嬉しそうに笑った。
ジャンは笑顔で頷くと、窓から外に出た。
そして、自分の宿へ飛行魔法で帰っていった。
ルナは、誰もいなくなった部屋で、静かに窓を閉めた。
彼女の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
ルナの部屋を出た5人は、宿の廊下で顔を見合わせた。
「どういうことだよ、一体・・・・・」
ライアスが、頭を抱えて唸った。
「私たちは、確かにルナとジャンが草原にいるのを見たわよね?」
ルミアが、納得いかない顔で尋ねる。
「ああ。オレたち全員で見た。間違いない」
カイラスが、きっぱりと答えた。
「でも、ルナはああ言ってるし・・・・・。一体、何がどうなってるの?」
エルミナが、混乱した表情で言う。
「散歩で毎日笑顔になるなんて、ありえないわよ!絶対に何かあるわ」
リリエルが、ルナの言葉に納得いかない様子だった。
5人は、廊下の隅に集まり、小声で話し合うが結論は出ない。
みんな納得いかずに、首をひねっていた。
翌朝、ギルドで顔を合わせた7人は、いつも通りに振る舞った。
ルナは、まるで何もなかったかのように、笑顔で皆と話している。
ジャンもまた、いつもと変わらない様子だった。
「おい、ジャン。昨日の夜はどこに行ってたんだ?」
ライアスが、我慢できずに、そう尋ねた。
「どこって?部屋にいたけど。何かあったのか?」
ジャンは、とぼけたように答えた。
「いや、別に何も・・・・・」
ライアスは、そう言って、言葉に詰まってしまった。
そこにギルド長が来て告げる。
「カイラスくんたちのパーティーは、今日まで休みにしてくれないか?18階の調査が今日で調査が終わるんだ。また明日から調査に協力してもらえると助かるよ。」
カイラスは驚き
「十分休ませて頂きましたので、その分協力致します!」
と言ったもののギルド長のリーザンは
「特別休暇だと思って休んで欲しい。明日からまたお願いするよ」
と返す。
「ですが、休んでばかりだと申し訳ないですし、腕が鈍ります」
とカイラスは引き下がらない。
リーザンは、熱意に押される形で
「分かった、では17階以下の階層で苦戦しているCクラスパーティーの育成をお願いしたい」
カイラスたちは「はい!」と答える。
ここで、ジャンは静かに口を開いた。
「ギルド長、カイラス、みんなに話がある。以前、少しだけ話していた、北の街ヒルダロアに、2日後に旅立つことにした」
ジャンの言葉に、カイラスたちは少し驚き、一瞬の静寂がテーブルを包んだ。
最初に口を開いたのはライアスだった。
「そうなのか、いよいよ2日後か!別れは寂しいもんじゃのう!」
ルミアが冷静に
「仕方ないわ。いよいよお別れなのね」
と続ける。
リリエルが不安げな声で
「ジャン、本当に・・・・・行ってしまうんですね」
と呟いた。
カイラスは少し考え込み
「そうか、2日後か・・・・・・。なあ、ジャン。明日は、オレたちに協力してくれないか?Cクラスパーティーの育成には、お前たちの力が必要だ」
と真剣な眼差しで言った。
しかし、ジャンは首を横に振った。
「すまない、カイラス。旅の準備があるから申し訳ないが、協力できない。育成はカイラスたちで十分できるさ」
その間、俯いていたルナが、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は決意に満ちていた。
「カイラス、みんな・・・・・。ジャンと話し合った結果、私も一緒に旅立つことにしたんだ・・・・・」
ルナの言葉に、テーブルにいた全員が息をのんだ。
「ルナ、何を言っているんだ?」
カイラスが驚きを隠せない声で尋ねる。
「ルナ、どうして急にそんなことを言い出すの?」
リリエルも困惑したように言った。
ルナはみんなの視線を受けながらも、まっすぐにみんなを見つめた。
「ジャンが塔で消えた時の話を聞いたんだ。ママを通して、ジャンとは深い繋がりがある事を聞いたから、一緒に行って隣でジャンを支えたい!」
ルナはそう言うと、ジャンの隣に立った。
その横顔は、いつもの明るいルナではなく、どこか哀しみを秘めた、大人びた表情をしていた。
「ルナさん、それは本当かね?」
リーザンは驚きを隠せない声で尋ねると、ルナは力強く頷いた。
「はい」
カイラスたちは、ただ驚愕の表情で立ち尽くしていた。
リーザンは、ルナの言葉に何か思うところがあったのか、ただ静かにその様子を見守っていた。
ジャンはリーザンに聞く
「ギルド長、先日の光に消えた時に聞いた話を、今から話してもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
ギルド長が答えると、オレはギルドに関係する事を話した。
リーザンは静かに話を聞いていた。
話が終わると、リーザンは口を開いた。
「そうか、不完全な制限魔法の解除にルナさんが必要と言うわけか。分かった」
一区切りつき、ジャンはリリエルとルナに向かって話す。
「明日、塔の36階でドラゴンと戦う。リリエル、ルナ。ついてきてほしい」
ジャンはそう切り出した。
リーザンは驚愕の表情で目を丸くした。
「ドラゴンだと? 幻獣として語り継がれる最強の存在が、この塔に出るというのか!?」
オレの問題だから・・・・・、とさっきはみんなにドラゴンの件は話してなかった。
「はい。今のうちにその強さを知っておきたいんです。ベルトランが言ってたことと関係があります。実はあいつがただのモンスターではないことは確かですから」
ジャンは冷静に答える。
「何を言ってるの、ジャン! そんなの、倒せるわけないじゃない!絶対に勝てないわ!」
リリエルが震える声で叫んだ。
カイラスたちも驚きのあまり何も言えないでいる。
「本当に大丈夫?」
エルミナが何とか声にする。
カイラスが気を取り直して
「ジャン悪い!、オレたちも手伝えればよかったんだが」
そう言うとジャンにプレートを見せる。
東 3階
西 --階
南 35階
北 --階
「あともう1階上に・・・・・」
そういうと悔しさを滲ませながら
「そうすれば手伝えたんだが・・・・・」
「ありがとう、その気持ちだけで嬉しいよ」
ジャンが答える。
ルナも不安そうな顔でジャンの袖を引いた。
「ねぇジャン、そんなの危ないよ・・・・・?いくら制限魔法を壊すためとは言っても、私たちはまだ、そんな強いモンスターは倒せないよ」
「大丈夫だ。オレは絶対にみんなに無理はさせない。危ないと判断したらすぐに逃げよう。ただ、いつか戦う事になるドラゴンの戦闘力を、今のうちに知っておきたいんだ。」
ジャンの言葉は、彼らの不安を少しだけ和らげた。
リリエルは「でも……」と口ごもったが、ジャンの強い意志を前に言葉を失う。
リーザンは深いため息をつき、諦めたように言った。
「わかった。そこまで言うなら、お前たちを止めることはできまい。ただし、絶対に無理はするな。そして、何があったかギルドに報告しろ」
「はい。ありがとうございます」
ジャンは深く頭を下げた。
「わかったわ。もしもの時は、私が守ます」
リリエルが震える声で言った。
「ジャンがいるなら、きっと大丈夫だもん!」
ルナが少しだけ笑顔を見せた。
「ジャン・・・・・本当に、大丈夫なの?」
リリエルが不安げな顔で尋ねる。
「大丈夫だ。オレを信じてくれ」
ジャンは2人に、優しく微笑んだ。
彼の笑顔に、リリエルとルナは少しだけ安心したように見えた。
「ありがとう、二人とも。それからギルド長。この件はくれぐれも内密に。他の冒険者たちに知られたら、無駄に危険な目に遭う可能性がありますから」
ジャンはそう言い、翌日の集合時間と場所を伝えた。
「ジャン、絶対に帰って来いよ!」
カイラスが真剣な表情で言うと、オレは「ああ」と答えた。
「がはははは!問題ないさ、なったってコイツは規格外のチート野郎だからな!がはははは!」
そう言うライアスは、まるで不安を覆い隠すような、少し震える声だった。
カイラスたちは、これから塔へ行くCクラスパーティを探しに
ジャンは、いよいよルナにサーチ魔法を教えるため、広場へ行くのだった。




