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パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外  作者: つるぴかつるちゃん
第一章 アステリアの街で

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第34話  感覚で掴め!

アステリアの街から少し離れた、広々とした草原。


風が心地よく吹き抜けるこの場所で、ジャンはルナに飛行魔法を教えていた。


「ルナ。魔法ってのは、術式を構築するだけじゃないんだ」


ジャンはそう言いながら、片手を空にかざす。


魔力が見えるように、放出している魔力をミストに変える。


ジャンの手のひらからミストが生まれ、それがゆっくりと宙に浮かび上がった。


ミストはジャンの周囲を円を描くように回り、やがて彼の足元へと戻ってくる。


「こうやって、魔力を体から直接放出する感覚だ」




ルナは真剣な表情で頷いた。


「分かっているの・・・・・頭では。魔力を体の外に溢れさせて、それを推進力にするんでしょ?」


そう言う彼女の頭上には、小さな火の玉が二つ、ちょこんと浮かんでいた。


「ただ、感覚が・・・・・」




そう言った途端、小さな火の玉が消え、代わりにルナの全身から、まるでシャワーのように氷の粒が放出される。


「冷たっ!?」


思わず悲鳴を上げたルナは、慌てて両手を胸の前で固く握りしめる。


「まただーーー!。なんで氷魔法になっちゃうのーーー!」


びしょ濡れになったルナの姿を見て、ジャンは深くため息をついた。




飛行魔法の練習を始めてから、既に2時間が経過していた。


しかし、ルナは一向に飛べるようにならない。


それどころか、魔力を放出するたびに、予期せぬ魔法が暴発するのだ。


最初に試した時は、身体から炎が吹き出た。


詠唱してないからだろう、幸い威力は弱く、ルナの着衣の一部が焦げ付いた程度で済んだが、炎や氷、水と言ったものがルナから吹き出す。


そして今度は氷のシャワーだ。


ジャンは、なぜルナが失敗するのか理解していた。


ルナはマジシャンだ。


マジシャンは賢者や僧侶のように、魔力の制御に長けているが、それはすべて術式を介しての話だ。


ルナは常に、魔法を使う前に頭の中で複雑な術式を構築している。


それが無意識のレベルで癖になってしまっているのだろう。



一方、ジャンは全く違う。


彼の魔法は感覚だ。


身体の中にある魔力というエネルギーを、意図した形に変換して放出する。


術式など必要ない。


いや、必要ないと言うのは違うのだろう。


ルミアは術式構築=料理のレシピだと言っていた。


魔法陣は出せるので、術式構築はしている・・・・・かもしれない。


だが、術式構築を意識するとすると魔力の流れが滞って、かえって威力が落ちるくらいだ。


だから、ジャンにとって「感覚で魔力を放出する」というのは当たり前のことだった。


むしろ、イメージさえ出来れば、複雑な術式構築が分からなくても何となく出来てしまう事も多いが


ルナにとってはそれが何よりも難しいようだった。




「だから、頭で考えなくていいんだ。もっと、こう・・・・・自然に、身体の中の魔力そのものを外に流すみたいに・・・・・」


ジャンは言葉を探したが、彼の口から出るのは、どれも感覚的な表現ばかりだった。


「だって感覚って言われても、もうやってるもん!どうやったら出来るの?魔力を出すと、火がボワッと出たり、氷がバラバラーーッて降って来るんだもん!」」


ルナは半ば泣きそうな声で訴える。彼女の言うことはもっともだ。


ジャンは眉間に皺を寄せた。


ジャンはなぜ自分は魔法が使えるのか?


答えは、何となくやれば出来るからだ。


その理屈を誰かに説明することなど、これまで考えたこともなかったのだ。



「うーん・・・・・。とりあえず、魔力だけを身体から出してみようか。えーっと・・・・・術式を介す魔法としてじゃなくて、ただのエネルギーとして」


ジャンはそう提案し、再び両手を前に突き出した。


彼の手のひらから、ミストのような霧っぽい魔力が溢れ出し、大気へと溶けていく。


それを見たルナは、深呼吸をして、ジャンの真似をするように両手を前に出した。


「うん!、またやってみる!自信ないけど・・・・・」


彼女の身体から、魔力ではない何かが出てくる。


ジャンはマズイかも思った。


その刹那、ルナの全身から轟音とともに土の壁がいくつも飛び出した。


ルナ「わあぁぁぁぁぁ!?」


土の壁は、ルナ自身を囲むように出現し、彼女は完全にその中に閉じ込められてしまった。


ジャンは呆然と立ち尽くす。


「土魔法・・・・・!?これって失われた魔法・・・・・」


ジャンはハッと我に返り、土の壁を叩いてみた。


堅い。土の牢獄?


「ルナ、大丈夫か!?」


オレはそう聞くと


「だ、大丈夫!でも、もう嫌だぁぁぁ!」


壁の中から、ルナの泣き声が聞こえてくる。


だがルナは、何気にすごい事やってるよな?


ルミアの言う事が正しければ、無意識で失われた魔法、土の壁の術式構築したってこと・・・・・だよな?


これってもしかして、オレとルナの魔力の共振?


そんな事を考えながら


「とにかく、その壁を壊すぞ。ルナは中にいろ」


ジャンは、魔力を集中させて放ち、土の壁を少しずつ破壊していく。


土煙が晴れると、ルナがうずくまっていた。彼女の髪には土がつき、顔も少し汚れている。


「もうムリ・・・・・。私、一生飛べないよぉ・・・・・」


ルナはそう言って、目に涙を溜めていた。


ジャンはルナの前にしゃがみ込むと、彼女の頭を優しく撫でた。


「大丈夫だ。まだ二時間しか経ってない。オレが必ず、飛べるようにしてやるから」


ルナは顔を上げ、ジャンの真剣な瞳を見つめた。


「ジャン・・・・・」


「さあ、気を取り直して、もう一度だ」


ジャンはルナを立ち上がらせると、再び、魔力を放出する練習を再開した。


夜も更けて行くが、あれからさらに一時間が過ぎた。


だが、相変わらず、ルナは魔力を放出するたびに予期せぬ魔法を暴発させている。



さっきは、全身から雪を降らせたかと思えば、次の瞬間には土の粒子を撒き散らし


ついには身体から大量の水を噴き出して、自分とジャンをびしょ濡れにした。


「もー!やだぁ!どうして水なのよ!?」


ルナは両手を顔の前で振って、濡れた髪から水滴を飛ばす。


「いいから、落ち着けって」


ジャンも、自分の服についた水を払い落としていた。




その時、ルナの身体から、ごく微量だが、確かに魔力が漏れ出すのを感じた。


それは、まるで風船に開いた小さな穴から、空気が抜けていくような、微かな音と感覚を伴っていた。


ジャンはハッと目を見開いた。


「ルナ、今の、今の感覚だ!」


「え?何が?」


きょとんとした顔でルナが尋ねる。


「全身から、色々なものが出てくる中に、今、風船から空気が抜けるような音が混ざってなかったか?」


ジャンは興奮気味にルナに詰め寄った。


「あ、うん。確かに、何か『スゥー』って音がしたような・・・・・」


ルナは曖昧に答える。


「それだよ!それが、魔力だけを放出する感覚だ!その感覚を、もっと強く、意識してみろ!」


ジャンの言葉に、ルナの瞳に光が宿った。


「そっか!やったぁ!」


それまで半ば諦めかけていたルナの顔に、再びやる気が漲る。


「うん!もう一度!」


ルナは胸に両手を当て、深呼吸をして魔力に意識を集中した。


先程までのように、身体から炎や氷、土や水の魔法が暴発する。


だが、その威力は明らかに弱くなっていた。


炎は豆粒ほどに小さくなり、氷の粒もミストのような氷程度でしかない。


そして、その魔法の合間に、あの風船から空気が抜けるような音が、頻繁に混ざり始めた。


『スゥー』『シューーーーッ』


その音がするたびに、ルナの顔が歓喜に輝く。


「ジャン、できてる!できてるよー!」


「そうだ!その調子だ!」


ジャンも自分のことのように嬉しくなり、ルナに声をかける。


それからさらに三十分が経過した頃、ついにその時は来た。


ルナが魔力に集中し、両手を前に出す。


今度は、何も暴発しなかった。


彼女の身体から、薄い霧のような魔力が溢れ出し、それが彼女の周りを優しく包み込んだ。


そして、彼女の足が、地面からふわりと浮き上がった。


ほんの数インチ。


それでも、それは紛れもなく、飛行魔法だった。


「やったぁぁぁぁぁぁ!」


ルナは歓喜の声を上げ、満面の笑みを浮かべた。




しかし、その喜びも束の間だった。


「あれ・・・・・?」


地面に足がついたと思うと、足元がふらつき、ルナの身体がぐらりと傾く。


「わっ・・・・・!」


ドサッ、と音がして、ルナは地面にへたり込んだ。


「ルナ!?」


ジャンが駆け寄ると、ルナは汗だくで、顔は青くなっていた。


「なんとか、魔力を放出する感覚は掴めたけど・・・・・。魔力が、ほとんど残ってないみたい・・・・・」


ルナは消え入りそうな声で言った。


無理もない。


これまでの長時間にわたる無駄な魔力消費に加え、初めて成功した飛行魔法で、ルナの魔力は底をついてしまったのだろう。


ジャンはルナの肩を支え、ゆっくりと立ち上がらせた。


「今日はもう終わりにしよう。夜も遅いし、疲れただろ」


空には、満月が輝いていた。


「明日も練習したい!朝からやろうよ!」


ルナはそう言って、ジャンの顔を見上げた。


その瞳には、まだ練習を続けたいという強い意志が宿っていた。


「朝はダメだ」


ジャンは即答した。


「どうして?」


「日が高いうちは、人が多い。飛行魔法は一般的には知られていない。人に見られたら、それこそ一大事だ。」


ジャンはそう言うと


ルナは少し不満そうだったが、ジャンの言葉に納得したのか、頷いた。


「わかった・・・・・。じゃあ、明日の夜にまたここでね」


「ああ。また、ここで」


夜道を二人で歩きながら、ルナは何度も、


「もう一度、飛んでみたい」


と呟いていた。


その言葉を聞いて、ジャンは微笑んだ。


明日も、ルナはきっと頑張るだろう。


そして、いつか、彼女は空を自由に飛び回るようになる。


そう確信しながら、ジャンはルナの少し後ろを歩きながら宿まで送り届けた。




翌日の夜、ジャンが草原に着くとちょうどルナがやって来た。


ジャンの姿を見るなり駆け寄ってきた。


「ジャン!早く、魔法を教えて!」


その瞳は、昨日にも増して輝いている。


二人はさっそく練習を再開した。


ルナは昨日、一瞬だけ飛行に成功した。


しかし、現実は甘くなかった。


「あれ・・・・・?なんで・・・・・?」


ルナの身体から、昨日と同じように『シューーーー』という音が漏れる。


しかし、足が地面から浮くことはない。


何度やっても同じだった。


ルナの顔から、次第に自信が消えていく。


「どうして?昨日できたのに・・・・・!」


ルナは悔しそうに拳を握りしめた。


ジャンはそんなルナの様子を見て、深く考え込んだ。


何が違う?昨日と今日で、何が違う?


ジャンは昨日、ルナがなぜ一瞬飛べたのか思い出そうとした。


そうか、そういうことか。



ジャンは、自分の左耳の近くに左手を右耳の近くに右手を、持っていくと、手のひらを下に向けて、手のひらからミストを下に吹き始めた。


「このミストを、魔力だと思って見ると良い。この魔力を、全身からこうやって下に出すんだ」


ジャンは、まるで蛇口をひねるように、手のひらからミストを出し続けた。


ルナは、ジャンの手のひらから落ちるミストをじっと見つめ、何かを考えるように目を閉じた。


そして、ゆっくりと集中して魔力を下に出す。


「ん・・・・・」


ルナの身体から『シュー』という音がする。


その音が止むと、彼女の足が、少しだけ地面から浮いた。


「あ!」


ルナは歓喜の声を上げる。


「やったぞ!ルナ!その調子だ!」


ジャンも興奮して叫ぶ。


ルナは、さらに集中する。


浮いては落ち、浮いては落ち。


少しずつ、浮く時間が長くなっていく。


そして、ついに。


ルナは、地面から数インチの場所で、フラフラしながらだが浮いている。


「飛べた・・・・・!」


彼女は、目を輝かせた。


ジャンは、その姿を見て、心から嬉しくなった。


「次は、上下の移動だ。魔力を出す量を調整して、上に上がる時は少し強く、下に下がる時は少し弱く、意識して魔力を出してみろ」


ジャンがそう指示すると、ルナはすぐに実践した。


魔力を強く意識すると、身体が少しだけ上に上がる。


逆に、魔力を弱く意識すると、少しだけ下に下がる。


その繰り返しで、ルナは1フィート程度の高さで上下に移動する練習を続けた。


何度か繰り返すうちに、ルナは徐々にコツを掴んだようだ。


次第に上下に大きく移動できるようになった。


「すごいぞ、ルナ!」


ジャンは拍手をしてルナを称賛する。


ルナは照れくさそうに笑いながら、何度も上下に移動を繰り返した。


「やったな!ルナ!もう上下に飛ぶだけなら、かんぺ・・・」


ジャンが見上げた先には上昇中のルナがいる。ルナはスカート。


街灯に照らされたスカートの中・・・・・

挿絵(By みてみん)


ジャンは視線の先には水色の『それ』・・・・・マズイ!と下を向く。




ルナは、上昇中に急に下を向くジャンを見て、どうしたんだろう?くらいにしか思ってなかったが次の瞬間、理解した。


ルナの ほぼ真下には見上げていたジャンが・・・そして突然下を向いた・・・・・


顔を真っ赤にし、バッ!とスカートを押さえた途端、ルナの身体から魔力の放出が止まる。


「キャーーー!」


次の瞬間、ルナの身体が重力に従って、落下を始める。


「うわっ!」


ジャンは慌ててルナを受け止めようと、両手を広げた。

挿絵(By みてみん)


ルナは、ジャンの胸に勢いよく飛び込むような形になり、二人はそのまま地面に倒れ込んだ。

挿絵(By みてみん)


「いってて・・・・・。ルナ、大丈夫か?」


ジャンはルナを支えながら、ゆっくりと身体を起こした。


ルナはジャンの上で、顔を赤くして俯いてる。


「・・・・・重い」


ジャンは、ポロっと本音が口から漏れてしまった。


その言葉を聞いたルナの顔が、赤鬼のように赤くなる。


「ちょっと!ジャン!私が重いって言ったわよね!?」


ルナは立ち上がると、ジャンを睨みつけた。


「いや、違うんだ、ルナ!そうじゃなくて、その・・・・・」


ジャンは慌てて弁解しようとするが、言葉が出てこない。


「もう知らない!今日の練習は終わり!」


ルナはぷいと顔をそむけ、そのまま帰ろうとする。


「待てよ、ルナ!」


ジャンはルナの腕を掴み、彼女を引き留めた。


「ごめん、言い方が悪かった。でも、本当に大丈夫か?怪我はしてないか?」


ジャンの真剣な眼差しに、ルナは少し照れくさそうに笑いながら、ジャンの顔を見つめた。


「もう、ジャンったら!冗談に決まってるじゃない。でも、ちょっと落ち込んじゃったんだからね!」


そう言って、ルナは再び、にっこりと微笑んだ。


そして、魔力を放出すると、地面から数インチ浮き上がる。


「見て!ジャン!またできたーーーっ!」


彼女は、嬉しそうに1フィート程度上下を繰り返す。


その顔には、先程までの怒りなど、微塵も残っていなかった。


ジャンは、その姿を見て、心から安堵した。


「ああ。さすがルナだ」


「これも、ジャンが教えてくれたおかげだよ!ありがとう!」


ルナは、ふわりと地面に降り立つと、両手を上げて着地のポーズを決める。




着地したルナは突然聞いてくる。


「ジャン、さっき・・・見たでしょ?」


「え? な・・・何を?」


とぼけて答えるジャンに、ルナは満面の笑顔になるが、目は怒っている。


「罰として、私を宿まで送って!」


その威圧感のある言葉に、ジャンは直立不動で「はい」と答えるのだった。


「ぷっ・・・・・あはははは」


その時、ルナが笑いだし、ジャンも笑った。


そして二人は、仲良く並んで宿まで歩いていく。


「じゃあ、また明日の夜に草原で!」


宿の前で、ジャンがそう言うと、ルナは元気いっぱいに手を振った。


「うん。また明日!」


ジャンは自分の泊まる宿に戻りながら思った。


明日、ルナは自分の意志で自由自在に空を飛べるようになるだろう。


そう思うと足取りも軽くなっていた。




ルナの泊まる宿では、ルナが部屋に入るのを廊下の遠くのから『ジッ』と見つめる3人の女性がいた。





最後までお読みいただきありがとうございました。

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