第32話 サーチ魔法とルナの勘違い
オレは海の上空を飛びながら、サーチ魔法を周囲に広げる。
風を感じ、潮の香りを嗅ぎ、海のそばにある森の木々の一本一本、その木々の香りまで感じ取れるような、
まるでオレの意識が海や森、見える景色そのものになったかのように、周囲の状況が手に取るように分かった。
「面白いな」
誰にともなく呟きながら、海やすぐ隣にある森を行き来する。
(そろそろ、街に戻るか)
そう思って進路を変えた時、サーチ魔法が、ちょうど街の方角、1.1マイル付近だろうか?そこで、何かを捉えた。
それは、まるで影が逃げているかのような感覚だった。
(人・・・か?)
ただ、その魔力の動きは人間が発するそれだ。
だが、逃げているかのように、不規則に、そして必死に走っている。
オレは、その人物らしきものに1マイル付近まで近づく、その人物がはっきりと見えてくる。
「っ!あれは……」
見えたのは一人の男性が、三つ目で角を持つ、巨大な猪型のモンスターに追いかけられている姿だった。
男性は必死に逃げているが、モンスターのスピードは男性を上回り、少しずつその距離を詰めている。
(まずい!)
この場所から街までは、約3マイルもある。男性の所からでも約2マイルだ。
この森は、人通りがほとんどない。
もしあの男性がここでモンスターに捕まれば、助かる見込みはないだろう。
(急がないと!)
オレは、飛行魔法にさらに魔力を注ぎ込み、一気に速度を上げた。風を切り裂くような感覚。
目の前の景色が、どんどん後ろへと飛んでいく。
男性とモンスターの距離が、だんだんと近づいてくる。
「くそっ、間に合え!」
オレは、サーチ魔法でモンスターの動きを追う。
モンスターは、獲物である男性を仕留めようと、何度も体当たりを試みるが、男性はギリギリのところでかわしている。
しかし、男性の動きはだんだんと鈍くなってきている。
(もう少しだ!)
男性の魔力と、モンスターの魔力が、サーチ魔法を通して、より鮮明に感じられる。
(くそ!攻撃受けたか!何とか耐えてくれ!)
そして、ついに、オレは男性とモンスターの上空へと到着した。
男性は、もう地面に倒れ伏し、モンスターが最後のとどめを刺そうと、その巨大な角を振りかぶっている。
男性「だ・・・・・だ・・・れか・・・助・・・」
オレは、飛行魔法を解除し、一気に地面へと降下しながら、モンスターの頭上から、魔法を放った。
「ファイアーボール レイン!」
炎が雨のように、モンスターに向かって降り注ぐ。
その隙に、男性は転がるようにして、モンスターから距離を取った。
「――グギャアアアア!」
モンスターは、激しい炎の攻撃に耐え切れず、苦悶の叫びを上げて地面に倒れ伏した。同時にオレは着地する
着地の瞬間飛行魔法で、フワッと着地する。
人を助けたのに、オレが空から落下して死んだら、またカイラスたちを悲しませるからな。
オレは、男性に近づく。
「大丈夫か?」
男性は、オレの顔を見て、目を見開いた。
「き、君は?」
オレは、男の言葉を遮り、回復魔法をかける。
「ヒール」
オレの放った光が、男性の傷を癒していく。
男性は、驚いた顔で自分の体を見つめている。
「あ、ありがとう・・・・・助かった」
男性はそう言って、オレに向かって深々と頭を下げた。
「いや、気にしないでください」
「これから、どちらへ行かれるんですか?」
オレが聞くと
「海まで散歩しようと思ってたが、今日は帰る事にするよ」
そう言ったので、オレも街に帰るついでに申し出た。
「オレもちょうど街に帰る所だったので、街の入口まで送りますよ」
さすがに飛行魔法を見せると、卒倒するか、人じゃない目で見られるだろうな
と思いながら男性と会話しながら、歩いて街へ帰る。
もちろん、会話中でもモンスターが来ないかサーチ魔法で警戒していた。
男性は馬車をレンタルする仕事をしているようだ。
飛行魔法を知らなければ、お世話になったかも知れないな
そうしている内に街の入口にたどり着くと、お礼を言うと同時に何かを渡してくる。
とっさに受け取ったが、紙幣だった。
数枚ある。
驚いて返そうとするが
「モンスターに襲われた時に命まで助けてもらった上に、帰り道では護衛までしてくれたんだ。本当に助かった。命はお金には代えられない、少ない金額だが是非受け取ってくれ!」
そう言うと、再度お礼を言い、足早に去って行った。
むしろ、もらいすぎだろ!?これ。
そう思いながら、男性の姿を確認するが、もう見えなくなっていたので、収納魔導具に片付けた。
男性と会話しながらサーチをすることで分かった事がある。
サーチ範囲を狭くすると、魔力消費が少なくなり、広くすると魔力消費が大きくなる。
とは言っても、最大で1日中使い続けたとしても、1/4も減らないだろう。
むしろ飛行魔法の方が魔力消費が大きい。
陽が昇り始めるころから使い続けると、昼頃には魔力が空っぽに・・・・
お腹も空っぽだ。お腹すいたな。
昼食の時間は、かなり過ぎている。
ギルド飯でも食べに行くか。
昼食後、塔へ続く小道の入口に来た。
サーチ魔法を発動。
サーチ範囲は、30フィート程度にしてある。
少し歩き、人影が無くなった辺りで2インチ程度浮きながら進む。
これならもし人が来ても、すぐに飛行魔法を止めれば良い。
この辺りか・・・
当時は『さん』付けだったなぁ
と懐かしく思いながら、ふと止まる。
この辺りはエルミナが魔物に襲われた場所だ。
カイラスたちは、モンスターとは呼ばなかった。
という事は、悪魔的な何か・・・か?
モンスターや人が来る気配はない。
一体あの魔物は何だったのか?
エルミナに攻撃して、すぐに去った。
エルミナの体内から取り出した黒い棒状の物は、魔力蓄積棒だった。
魔物にとって、エルミナに魔力蓄積棒を埋め込むメリットは一体何だったのだろう?
もしエルミナが亡くなっていたら、どうなっていたんだ?
魔物がエルミナの遺体を引き取りに?
そんな事を考えながらゆっくりと塔に向かって進むが、モンスターなどは出ないみたいだ。
そろそろ塔の近くだから歩くか。
飛行魔法を解除する。
さて、このまま塔に入って魔力の攻撃でも練習するか。
ひとまず5階・・・・・いや、この間のような事があってもな・・・
あの子たち、元気にやってるかな?
よし!8階行くか。
塔を出ると、既に暗くなっていた。
結果8階はちょっと早かった。1回戦闘すると、すぐに6階に降りた
6階でやってると先日のパーティーと会ってしまった。
会いたくないと思うと会ってしまうのは何なんだろうな?
でも、みんな嬉しそうにDクラスになった事を報告してくれた。
まだ連携は不十分だがDクラスで、あの連携であれば十分やって行けるだろう。
さて、オレはもう少しだけやる事がある。
オレはルナの部屋の前に来ると、コンコンとノックした。
少しして扉が開き、ルナがひょこっと顔を出す。
「あ、ジャン。どうしたの、こんな時間に?」
「ああ、夜に悪いなルナ。少し二人きりで話したい事があって来たんだが、今、時間はあるか?」
言った瞬間、ルナの顔がボンッと音がしそうな勢いで赤くなる。
「ふっ……ふ、ふたりきりっ!? よ、よよよ夜に!? え、えぇぇ!? あの、ちょ、ちょっと待って! 心の準備が……って違う違う違う!!よ、夜だよ!? ほんとに夜だよ!?」
完全に混乱してる。
「ん? どうしたんだ?」
オレが訊ねると、ルナは両手をぶんぶん振りながら後ずさった。
「わ、わたしは大丈夫! でも大丈夫じゃない! えへへへへっ!? あっ、いや、ちょっと! ちょっとだけ! 準備! 準備するから待ってて!」
バタン!
勢いよく扉が閉じられた。
・・・・・・準備!? 何だ?
様子がおかしいぞ、本当に大丈夫かルナ!?
壁にもたれながら待っていると、数分後、扉がギィと開き、ルナが再び顔を出す。
髪はボサボサ、息はゼェゼェだ。
「あっ、あの! まだ準備できてなくて! もうちょっとだけ! 短いバスルームが! 長くて・・・ね! 馬車だから! 星が鏡がでね ・・・・・・わけわかんない!!!」
叫んで、またバタンと扉を閉める。
いやいやいやいや。
最後の方、本当に訳分からないぞ。
(ルナに関係ある事だから、ちょっと話しておきたいだけなんだが・・・・・)
さらに数分後、今度はドタドタと足音がして、扉がガチャリと開いた。
ルナが飛び出してきた。
髪は直しきれていないし、服・・・・・慌てて着たのか!?・・・・・後ろ前じゃないか?
「はぁっ……はぁっ……! ま、待たせてごめん! お、お待たせしましたぁ! でっ、でででっ、どこ行く!? 公園!? 星空!? それとも、その……ま、まさか、お、お散歩デ、デ、デ、デート!? ……あああっ、違う違う今のは忘れて!」
ルナが、完全におかしな娘になっている。
オレは苦笑を浮かべながら首を振った。
「いや、実は、先日オレが消えた件で、どうしても話をしておきたくてな」
ルナの顔から、一瞬で血の気が引いた。
さっきまでの真っ赤な顔が、今度は青ざめるくらいに。
(ルナ サイド)
「なんだ、そんな事・・・・・」
と、私は少し残念そうに呟いた。
(あ、そう・・・だよね。やっぱり、そういう事だよね)
私の胸に、期待が膨らんでいたことを自覚する。
夜に二人きりで話したい。
その言葉が、特別な意味を持っているのだと、そう勝手に思い込んでいた。
(どうしよう・・・・・恥ずかしい・・・・・。顔、真っ赤になっちゃったかな・・・・・)
私は、ジャンの顔をまともに見ることができず、俯いてしまう。
(変なこと考えちゃって、ごめんなさい・・・。ジャンは、たぶん消えた日の事を私が気にしてると思って話てくれるんだよね・・・・・)
自分の想像力の豊かさが、今はひどく恨めしい。
(でも、よかった。やっぱり、ジャンは優しい人だ。私のことを、気にかけてくれて・・・・・)
心の奥底に、安堵の気持ちと、ほんの少しの寂しさが混ざり合った。
・・・
・・
・
オレはお腹がすいてたので、ルナに聞いてみる。
「夕食は済ませたか?」
「あ、まだだよ。そろそろお腹すいたなって思ってたとこ」
ルナはそう言って、お腹をさすった。
「そうか。じゃあ、定食屋でもどうだ?話は食事をしながらでもできる」
ルナは「うん!行きたい!」と元気よく頷いた。
夕食を済ませていなかったのだろう、ルナの表情が一気に明るくなる。
顔がぱっと明るくなったルナを見て、オレは一瞬、言うべきか迷った。
だが結局、口を開く。
「・・・・・扉をノックして出てきた時より、髪が乱れてるし、服も・・・・・」
ルナは両手で頭を押さえて確認し、次いで自分の服に視線を落とした。
「えっ!?ちょ、ちょっと・・・・・・!? は、早く言ってよーっ!」
慌てて叫ぶと、そのままバタバタと部屋へ戻ってしまう。
しばらくして、再び姿を現したルナは、結局いつもの髪型と落ち着いた服装に戻っていた。
それでも頬はやや赤く、まだどこか落ち着かない様子だ。
仲間として気にしているだけのはずなのに、なぜか視線が自然と彼女に向かってしまう。
それ以上考えないように、仲間として当然だと心の中で区切りをつけた。
そしてオレたちは並んで歩き出し、夜の通りを抜けて定食屋へと向かった。
ルナは歩きながら、塔の話や、最近あった面白い出来事を話してくれた。
定食屋に着き、席に座ると、ルナはメニューを指差しながら興奮したように言った。
「ジャンはどれにする?この生姜焼きも美味しいよ!そうそう、このハンバーグ、すっごく美味しいんだよ!この街で一番かも!」
「ああ、じゃあそれにしよう」
「じゃあ、私も!」
注文を終え、料理を待つ間、ルナは少し真剣な顔になってオレを見た。
話を聞きたい、目がそう訴えかけてるルナを見て、オレは言った。
「オレの母さんと、ルナの母親の事だ」
ルナは頷く
そして、ヒルダロアに住んでいたオレの両親と隣の家に引っ越してきた、ルナの母リアーナ
その2人はご近所さんになってからどんどん仲が良くなっていった事
2人は魔力が似ていた事
仲良くなると、ますます魔力が似て来た事
ここで嬉しそうに、でも小さい声でルナが
「私とジャンも魔力似ているのかな?」
そう言ったがオレには聞こえず、聞き直したが「何でもない」と話を続けてと促した。
オレの両親が結婚して妊娠した時にカロスタインに移り住んだが、しばらくは交流があった事
リアーナが赤ちゃんの時のオレを抱っこして、喜び、オレの母さんもそれを見て喜んでいた事。
そこまで話すと、オレたちの前にハンバーグが運ばれてきた。
ルナの顔が再び明るくなる。
「わあ!来たよ!ジャン、どうぞ!」
「ああ、ありがとう」
ルナはハンバーグにナイフを入れ、一口大に切ると、嬉しそうに口に運んだ。
「んー!やっぱり美味しい!ジャンも一口食べる?」
ルナがフォークに刺したハンバーグをオレの口元へ差し出す。
オレはフォークを受け取って、ハンバーグを食べた。
「美味しいな」
「でしょ!でしょ?!」
「ママたちも、こんな感じだったのかなー?」
そう言いながらルナは満面の笑みを浮かべた。
オレはルナの笑顔を見ながら、これから話す内容がルナの顔から笑顔を奪う事が容易に想像できた。
ルナの心を傷つけたくないな。
オレはそう考え始めていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ジャン「パーティーから裏切られたホワイトマジシャンは規格外を、いつもお読み頂き、ありがとうございます!」
ライアス「がはははは、ジャン、良かったなあ、読んでくれる人がいてよぉ」
ジャン「ああ」
ルミア「作者、泣いてたわよ」
ジャン「そうなのか?」
ルナ「読んでくれる人がいて嬉しいんだってー」
カイラス「泣くほどの事なのか?」
ルミア「そうみたいね」
ライアス「公開前は、どうせ読んでくれる人なんていないし、と言ってたからな、がはははは」
カイラス「しばらく0PVが続くと思っていたらしいぞ」
リリエル「そうね、でもこうして読んで頂けてるのよ」
ルナ「ねえねえ、9月14日過去最高のPVを記録したんだってー!」
ルミア「いくつなの?」
ジャン「97PVだな」
リリエル「作者は1か月後くらいには10PVくらい行くんじゃないか?って言ってたわね」
エルミナ「ちょっと悲観的過ぎる数字だと思うけど・・・・・」
ライアス「でもよ、実際にワシらの物語を読んでくれてる読者がいるんだぞ」
エルミナ「そうよ。みんなで改めてお礼を言いましょう」
カイラス「読んで頂いている読者のみなさん」
エルミナ「せーの!」
全員「「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」」




