第30話 みんなのヒカリ
宿にて
深夜、ルナは目を覚ました。
リリエルは、ルナの隣で静かに眠っている。
ルナは、ふと窓の外を見た。
「ジャン・・・・・、今頃、どこにいるのかな・・・・・」
ルナは、そう呟き、窓の外の星をじっと見つめていた。
ベッドから起き上がると、リリエルも目が覚める。
「ねえ、散歩・・・・・行かない?」
ルナは精一杯作った笑顔で言う。
「ルナ、急に・・・・・ええ、そうね」
リリエルは驚くが、ここにいて悪い事ばかり考えるなら、と思い同意した。
二人は魔導具から差す街灯の明かりの下を歩いて行く。
「・・・・・ジャン」
カイラスは、そう呟き、窓の外を見る。そこには、何の変哲もない、ただの路地があるだけだった。
「・・・・・もう、諦めるしかないのか」
カイラスは、そう言って窓を閉め、外へ出かけて行くのだった。
ライアスはボーッと斧を見ている。
「ジャン・・・・・てめえは規格外のチート野郎じゃねえのかよ」
覇気のない声で言う。
「ここに居ちゃダメだ、頭冷やすか!」
外へ駆け出していく。
エルミナは星空を見上げていた。
「ジャン・・・・・、きっとこの星空の下、どこかで笑ってる・・・・・と思いたい」
ふぅ、ため息を吐くと街明かりの中へ消えて行った。
「全然眠れない。」
そう言うとルミアはベッドから起き上がる。
体は疲れているはずなのに、横になるとジャンの事が頭から離れない。
ちょっとだけ外に出よう。
夜の風が頬をなでる。昼間の喧騒とは打って変わって静かだ。
ギルド前を通り過ぎる。
ジャンの事があるからだろうか?
普段は深夜でも騒がしい声がするのに、今はひっそりとしている。
(ジャンは今まで違うパーティだったのに、いつからこんなに存在が大きくなったのかしら?)
しばらく歩くと酒屋の前を通り過ぎる。
「うちのかみさんがうるさくてよー」
「今日は初めてクリブンにとどめを刺せたよ」
「おーい、酒はまだかー!!」
「いいわね、ここはこんなに騒がしくて」
つい声に出したルミア。
ふと酒場から聞こえてきた別の声
「この間Bクラスパーティーのヤツが1人死んだんだってよー」
ダダダッ
ルミアはその言葉を聞いた瞬間、無意識の内に走り出していた。
「ハア、ハア、ハア」
気付くと広場に居た。
ベンチに腰かけ、呼吸を整える。
(昼間は騒がしいのに、こんなに夜遅いと誰もいないわね)
何気なしに噴水の方に目をやる
誰かが来る
その人物の顔を見るとエルミナだった
ルミアのそばまで来ると、無言で座る。
右と左の路地からも1人ずつ広場に向かってやってくる
遠くないベンチに腰かけた
カイラスとライアスだ
噴水の音だけが静かに響いてる。
ルミアがやって来た方からまた人影が・・・
ルナとリリエルだ
二人は噴水のふちに腰かける
しばらくの沈黙の後
「みんな、塔へ行かないか?」カイラスが言う。
「こんな時間に?」エルミナが答える。
「いいぜ、なんか体を動かしたい気分なんだ」
ライアスが立ち上がりながら言う
そのとき、噴水近くの街灯の根元辺りから、かすかな光が放たれた。
全員がそこに視線を移す。
そこから一匹の虫が飛び立って行く。
全員が落胆する。
しかし、同じ場所から再び光が放たれた。
今度は、先ほどよりも強く、そして温かい光だった。
光が消えた後、そこには、一人の男が立っていた。
「・・・・・ジャン!?」
リリエルが、信じられないといった表情で呟く。
「ジャン!」
ルナはそう言うと同時にジャンに向かって駆け出す。
カイラスも、ライアスも、ルミアも、エルミナも、そしてリリエルも、ジャンの元へと駆け寄っていった。
「ジャン!ジャンなのか!?」
カイラスが、信じられないといった表情でジャンの肩を掴んだ。
「カイラス・・・・・。どうしたんだ、みんな?」
ジャンは、きょとんとした表情で、カイラスたちを見つめている。
「ジャン、よかった!本当に、よかった・・・・・!」
ルナが、ジャンの胸に飛び込み、泣きじゃくる。
「ルナ・・・・・。どうしたんだ?」
ジャンは、戸惑いながらも、ルナの頭を優しく撫でた。
「ジャン、一体どこに行っていたんだ!?オレたちは、お前が死んだと・・・・・」
ライアスが、震える声で言った。
「死んだ?何を言ってるんだ、ライアス」
ジャンは、不思議そうに首をかしげる。
「どういうことだ、ジャン?お前は、あのロボットと一緒に消えたんだぞ!」
カイラスが、真剣な顔でジャンに問いかけた。
「ああ、そうだ。あの後、オレは……」
ジャンは、その時のことを話し始めた。
「オレがロボットに触れた瞬間、光に包まれて・・・・・。気が付くとオレは、茶色い土でできたような床と天井だけの、壁も柱もない奇妙な空間に立っていたんだ」
「床と天井だけ?」ルミアが、信じられないといった表情で言った。
「ああ。そこには、一人の男が立っていて・・・・・。オレの曽祖父だと名乗った」
その言葉に、全員が驚きの声を上げた。
「そんなことって……」
リリエルが、呆然と呟く。
「そして、話が途中だったのに強制的に、また光に包まれて・・・・・。気がついたら、ここにいたんだ」
ジャンは、そう言って、周りを見渡した。
なぜ、みんなは、こんなに憔悴しているんだ?
オレが、この空間にいる間、一体、何が起きていたんだ?
そもそも何で夜なんだ?
そして、最後にベルトランが言った、あの言葉。
「シオンは、眠っておるが・・・・・この空間で、生きておぬしの迎えを待っておるぞ。」
その言葉が、オレの頭の中で、何度も、何度も、反芻された。
シオンが・・・生きている?
そんな、馬鹿な。
そんなはずがない。
シオンは、あの時オレの目の前で・・・・・
だが、ベルトランは、確かにそう言った。
だけど、そもそも論、あの空間にはどうやって行くんだよ!?
「ジャン、その不思議な空間には、どれくらい・・・いたの?」
ルナが、不安そうに尋ねた。
「どれくらいって・・・・・。2時間か、せいぜい3時間までだな」
ジャンは、そう言って、カイラスたちの方を向いた。
「それより、みんな、どうしたんだ?そんなに心配そうな顔をして」
ジャンの言葉に、全員が絶句した。
「ジャン・・・・・。お前が消えてから・・・・・、もう6日も経っているんだぞ?」
カイラスが、震える声で言った。
「え・・・・・?」
ジャンの顔から、表情が消えた。
「6日・・・・・?嘘だろ・・・・・?」
ジャンは、自分の手のひらをじっと見つめた。そこには、何も変わったことはなかった。
「信じられない」
ジャンは、そう呟き、愕然とした表情で立ち尽くしていた。
その間の出来事は、非常に濃密で、時間の流れすら歪んでしまったような感覚だったが、
まさか、現実世界で6日もの時が経過しているとは、夢にも思わなかった。
「6日・・・・・、本当に・・・・・?だって、オレはついさっき、ベルトランと・・・・・」
ジャンは、混乱した表情で、呆然と立ち尽くしていた。
彼の言葉は途切れ途切れで、まるで壊れた人形のようだった。
「本当だってば!ギルド長も昨日、もう捜索を諦めると言って・・・・・」
ルナは、泣きながらそう言った。
彼女の言葉が、ジャンの耳にゆっくりと、しかし確実に届いていく。
「だから、みんなそんなに憔悴しているのか」
ジャンは、ようやく事態を把握し、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
自分のせいで、大切な仲間たちがこんなにも苦しい思いをしていたのかと。
「すまない・・・・・。オレが、みんなに・・・・・」
ジャンが、うつむきながらそう呟くと、ルナはさらに激しく泣き始めた。
「謝らないで!生きていてくれて、本当に、本当に嬉しいんだから!」
ルナの叫び声に、ジャンは顔を上げた。
そこには、涙を流しながらも、満面の笑顔を浮かべているルナがいた。
その笑顔に、ジャンは胸が熱くなった。
カイラスが、ジャンの肩に手を置いた。
「ジャン、無事でよかった。本当に・・・・・よかった」
カイラスの声は震えていた。
彼もまた、安堵と喜びで、涙をこらえているようだった。
ライアスが、ジャンの背中を力強く叩いた。
「ジャン!お前、生きとったんじゃな!ワシは、もう二度とお前に会えんかと・・・・・!」
ライアスは、そう言って、大粒の涙を流した。
ルミアも、エルミナも、リリエルも、皆、ジャンの無事を心から喜んでいた。
彼らの喜びは広場を、温かい光で満たしていく。
ベルトランのいる空間のどこかに、シオンがいるという言葉。
その言葉が、オレの心に、一つの希望の光を灯した。
オレは、必ず、シオンを見つけ出す。
そう、心に誓った。
最後までお読みいただきありがとうございました。




