第2話 荒れる勇者
ルシウス勇者一行は王様の前にいた。
国王セレオスは
勇者ルシウス・グローリー
戦士ゼノン・ストーン
僧侶リリエル・セラフィー
マジシャン ルナ・ノアール
ホワイトマジシャン ジャン・クレメンス
の名前を一人ひとり読み上げ、こう告げた。
「国民を代表して、また国王セレオス個人としても称賛を送ろう。
この度は40階攻略おめでとう。
今回、世界初の40階攻略ということで、いつもより報酬を弾もう」
ルシウスは顔を上げ、
「この若輩者めにもったいなきお言葉、勇者の名に恥じぬよう益々研鑽する所業でございます」
と述べ、再び頭を下げた。
セレオスは
「あい分かった。裏の顔で傲慢にならぬよう、さらなる成長 期待しておるぞ」
と声をかけた。
ジャンは、この言葉に少し驚いていた。
王様は普段、このような嫌味を言う人ではないことを知っていたからだ。
ルシウスの態度が、王様の目から見ても問題があるということなのだろうと、ジャンは静かに考えていた。
城を出ると、ルシウスはすぐに
「今から41階を攻略する!」
とみんなに告げた。
リリエルが「えー、今日は休みって・・・・・」と不満を漏らす。
しかし、ルシウスは
「気が変わった!今から行くぞ 反論あるやつは?」
と強い口調で言った。
ゼノン、ルナ、リリエルは、全員黙り込んでしまう。
ジャンは
(このダンマリを承諾と取るんだよな)
と思いながら、ルナとリリエルのことを気にかけた。
昨日、王様に会う件を伝えに行ったとき
ルナが
「今日はリリエルと服を見に行くんだ」
と話してくれたことを思い出したのだ。
「なぁ、ルシウス」
ジャンがそう声をかけると、ルシウスも同時に
「オレたちは弱いから もっと下の階で」
とジャンと全く同じことを言い、驚いて止めたジャンの代わりに、ルシウスは
「戦った方が良いんじゃないか?」と続けて言い、ジャンは
「あ・・・・・あぁ」
と曖昧に相槌を打った。
ルシウスは怪訝な顔になり
「オレの強さが不満か?オレとお前で一騎打ちでもするか?」
と挑発的に言った。
「そういう事じゃなくてだな。もっと底上げを・・・」。
ジャンの言葉を遮り、ルシウスは
「だったらオレたちの足手まといになってんじゃねえ!!テメエこそ自分の実力を知りやがれ!」
と怒鳴りつけた。
「すまない」
ジャンは頭を下げた。
ジャンは
(今日はいつも以上に機嫌が悪いな)
と感じていた。
「おい!何ボーッとしてんだよ!さっさと支援魔法かけろ!いくぞ!!」。
ジャンはいつものように、無詠唱でパワーアップ、スピードアップ、マジックアップ、ディフェンスアップを自分にかけてから、仲間たちにも同じ魔法をかけた。
その直後、メガプロプトスがすごいスピードでこちらへ向かってきた。
メガプロプトスは人型をしたモンスターで、身長は約10フィート、口と鼻の上に1フィートはあろうかという大きな目玉が一つだけあるのが特徴だ。
金棒を持っており、恐ろしく速いのが脅威だった。
ルシウスが「っっっらーーーーー!これでも食らいやがれ!雷電!!」と叫ぶ。
ルナは「フレア!」と魔法を放ち
リリエルも「ウインドカッター!」と支援する。
ゼノンは「とどめにワシの斧をお見舞いしてやらあ!」と斧を振りかざした。
バチバチ! ドドドド! シュパーン! ドガーーー!と、それぞれの攻撃が炸裂し、魔物の声が響き渡った。
「グワオゥゥガアア!!」。
「かってーなー!!もう一発!」
ゼノンが斧を叩きつけながら叫び、ルシウスも
「気に食わねえんだよ!でかぶつがー!」
と怒りをぶつけた。
ドガー! ザシュ!
グギャオオオ!
と叫んだメガプロプトスは、ジャンに急接近してきた。
ジャンは咄嗟に、目に向かって「ファイアーアロー」を放つ。
メガプロプトスが目を閉じた瞬間
ドン!
ザシュザシュ!!
と、ルシウスが全体重を乗せた蹴りで吹き飛ばし、すぐに二度切りつけた。
「ジャンてめえ!邪魔ばかり・・・」
ルシウスが言いかけたその時、リリエルとルナの悲鳴が響いた。
リリエル「ガハッ」
ルナ「きゃー!」。
ルシウスがメガプロプトスを切りつけた際、金棒が手から離れて回転しながら、リリエルの後頭部を直撃し、その直後ルナの脇腹に当たったのだ。
「ジャン!どれだけ邪魔すれば気が済むんだよ!!
リリエルとルナに何かあったら責任取れよ!分かったな!」
ルシウスはそう叫ぶと、メガプロプトスの首元へ行き、ゼノンと一緒に首を撥ねた。
「ルナ、大丈夫か?すぐに・・・・・」
ジャンはルナに駆け寄った。
「私・・・・・よ・・・・・り、リリエ・・・・・ごほっ」
ルナは苦しそうに言った。
「分かっ・・・・・」
ジャンはリリエルの元へ行こうとした。
「バカかてめえは!!
優先順位も分からねえのか!?
何ノンビリ会話してんだよ!」
ルシウスが再び怒鳴った。
「のんびりしてるわけじゃ・・・・・」
ジャンが反論しようとすると、
「余計な話をする暇があるならさっさとやれって言ってんだよ!」
と、ルシウスはさらに声を荒げた。
ジャンはすぐに「ハイヒール!!」と魔法を放つ。
通常のハイヒールは僧侶か賢者しか使えない魔法らしいが、ジャンは師匠との修行で使えるようになっていた。
しかし、ヒールよりも上位であるはずのハイヒールなのに
ジャンが使うと僧侶や賢者の使うヒールよりも回復しないという問題があった。
師匠ですら、その原因は分からなかったという。
「リリエルの意識、戻らないが大丈夫なのか?」
ゼノンが心配そうに尋ね、ジャンが提案する。
「41階の入り口が近い、教会に行って治療を受けた方が・・・」
「なに寝ぼけてんだよ!今日は42階へ行くんだよ!」
ルシウスはジャンの言葉を遮り一蹴した。
ゼノン、ジャン、ルナは「「「えっ?」」」と声を揃えた。
ルシウスは
「え、じゃねえんだよ!42・・・」
と言いかけたところで、
「うっ・・・・・いっっったーい」というリリエルの声が聞こえた。
「大丈夫か?すぐにハイヒールを自分にかけろ」
ゼノンがリリエルに言った。
リリエルは「ハイヒール」と唱え、自分を回復させると
「痛かったー、あっ、ルナ!」
ケガをしているルナを見て
「ヒール」
と唱えてルナを治療した。
ルナが「ありがとう、もう大丈夫」
と答えると、リリエルは
「みんなケガしてるじゃない」
と言って、全員にヒールをかけ始めた。
全員にヒールをかけ終わると、彼らは41階の攻略を再開した。
この日は、ルシウスの罵声と怒声が飛び交う中で戦闘が続いた。
ルシウスの不機嫌は収まらなかった。彼は仲間を叱責し、より危険な戦い方を要求した。
「おい、ジャン!もっと素早く支援をかけろ!」
「ルナ!なんでそんな悠長な魔法なんだ!フレアで焼き払え!」
「ゼノン!もっと前に出ろ!」
「リリエル、回復はまだか!」
と絶え間なく罵声が飛び交う。
ジャンは無言で魔法をかけ続け、ルナは何かをこらえながら魔法を放つ。
ゼノンとリリエルも黙々と自分の役割をこなしていた。
彼らはルシウスの怒声に慣れているが、今日のそれはいつも以上にひどかった。
ルシウスは、モンスターを一体倒すごとに
「ふん、こんな奴らに手こずってるんじゃ、Aクラスなんて夢のまた夢だな!」
と吐き捨てる。
パーティーの連携はバラバラで、各々がただ自分の役割をこなすだけの作業になっていた。
リリエルがウインドカッターでモンスターに攻撃。モンスターの攻撃を、ゼノンが斧で防ぎ、その隙にルナが魔法で攻撃する。
だが、ルシウスは独断で飛び出し、モンスターを蹴り飛ばしてしまった。
そのせいでモンスターはルナの魔法が届かない場所へ飛ばされ、ゼノンの防御は無意味に終わる。
「てめえら!なんでオレの動きに合わせて動かねえんだ!」
とルシウスが怒鳴る。
誰も何も言えなかった。
ただ、早くこの日が終わり、静かに休めることを願うだけだった。
なんとか42階まで行ったものの、パーティーは満身創痍となり、旅館へ戻ることになった。
塔を出て旅館までの道では、勇者でさえ何も話す気力がなく、久々に静かな移動だった。
旅館の部屋のベッドでゆっくりしながら、ジャンは考えていた。
自分はホワイトマジシャン、いわゆる白魔導士で、本来は支援職だ。
だが、使える魔法は多岐にわたる。
炎系では
ファイアーアロー
ファイアーウォール
ファイアーボール
ファイアーボール レイン
ファイアーストリーム
フレア
が使える。しかし、
スターフレアとエクスプロージョンは、魔法力が足りないせいか、なぜか使えない。
氷系では、
アイスアロー
アイスウォール
アイスバインド
アイスブラスト
アイスストリーム
が使えるが、ブリザードと絶対0度は使えない。
その他にも
ウインドカッター
ホーリーアロー
ライト
ヒール
ハイヒール
ロックウォール
ロックバインド
が使える。
(ホーリーアローなんてアンデッド系に有効なんだろうけど、アンデッド系のモンスターなんて見たことないんだけどな・・・・・)
(師匠は何を思ってこんな役に立たない魔法まで教えてくれたのか・・・・・)。
(まぁ、ライトは40階攻略の時に使って、偶然スキを作り出せたから勝てたけど、どう頑張っても攻撃には使えないんだよなぁ)
(どの魔法も、マジシャンや僧侶、賢者には遠く及ばないんだよなぁ)。
時々、これらの魔法はホワイトマジシャンには使えないらしいと耳にする。
しかし、ホーリーアロー、ロックウォール、ロックバインドといった魔法は、賢者やマジシャン、僧侶が使えると聞いたこともない。
(これは、もしかしてホワイトマジシャンが使える魔法だったりするのか?)。
オレはホワイトマジシャンで、普段
パワーアップ(力を上げる魔法)
スピードアップ(素早さを上げる魔法)
マジックアップ(魔法の効果を上げる魔法)
ディフェンスアップ(防御力を上げる魔法)
の四つしか使わない。
(テクニカルアップ、これは技術力を上げる魔法だが、オレの考え方として魔法で上げた技術力はチートだと考えている。
一時的に技術を上げたところで身につかないし・・・・・。
いや、他の四つも同じかもしれないな)
とジャンは考えた。
(現実問題として、ルシウスは支援魔法有りの力を自分の力と過信している)。
(うーん)
ジャンは腕を組んで考え込む。
(だけど、ルナとリリエルは自分の実力をしっかり知った上で魔法を使っている・・・・・ような気がする。
ゼノンも支援魔法ありきの戦い方ではなく、自分の実力を知ってる・・・・・と思う)。
全ステータスアップは魔力消費が大きい。
(結論、今まで通りで良いのかな)。
(支援魔法って6種類あったような気がするが・・・・・気のせい?)。
(いや、作ればいいのか)。
(オレが思っている支援魔法は、マジックアップをベースに作ればできそうだな)。
(明日は休みだし、他にも考えてみるか)。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかジャンは夢の世界に入っていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。