第27話 ルナの母親
「ワシが設定した条件は、回復魔法の使えるホワイトマジシャン、すなわち、おぬしじゃな。おぬし以外がやっても何も起こらぬはずであった。じゃが、カイラスたち一行が、塔の18階で全ステータスアップの後に回復魔法を使った。そうじゃろう?」
その話を聞いて、オレは背筋が凍った。
カイラスたちから、その話は聞いていたからだ。
彼らが18階で何かをやって、いつもと違うクリブンが出た
その条件がわからない。
そう聞いていた。
確か聞いた話では、個別にステータスアップをかけた後で全ステータスアップをかけると
ステータスが下がるのか?変わらないのか?上手く行けば上がるんがないか?
ライアスはそう考え、どうなるかやってみたと・・・・・
その後、ルミアが気分の悪くなったルナにヒールをかけた。
そうか、それで条件を満たしていたのか!
そうすることで、強いクリブンが出現した・・・・・
そう言えば、オレがルシウスに騙されてモンスターに襲われた日、連れていかれたのが18階だった!
アイスウォールを壊されてから、全ステータスアップを試した。
そしてモンスターに襲われ、意識がなくなりそうになった時、ハイヒールを使ったな。
その後クリブンが現れ、ギルド長が助けに来てくれた。
そうだったのか!
あの日も条件を満たしていた・・・・・
ベルトランは続ける。
「そして運悪く、偶然にも、全く関係のないCクラスの四人パーティーが、同じことをやってしもうた。」
ベルトランは、その時の光景を思い浮かべるかのように、目を閉じた。
「そのパーティーのうち、三人が命を落としてしまったんじゃて。」
オレの心臓が、大きく脈打った。
その話も、カイラスたちから聞いていた。
彼らはクリブンがいつもの弱いクリブンだと思い、戦闘を始めた。だが僧侶だけが命からがら逃げだした。
まさか、それが塔の異常だったとは。
「ワシは、なぜこんなことが起きたのか、原因を調べた。すると、意外なことが分かったのじゃ」
ベルトランは、少しの間、言葉を切った。
その沈黙が、オレの胸をさらに締め付ける。
「セレスがまだアシュレイと付き合っておった頃・・・・・そうじゃのう、まだ恋人同士であった頃。おぬしも知っておるじゃろう?ヒルダロアに住んでおった」
オレは頷いた。
ヒルダロア・・・・・北の街だ。
時々、母さんに連れられて行ってたな。
両親が暮らしていた家は、今もヒルダロアにある。
「その時に、セレスたちの隣にリアーナという女性が引っ越してきたんじゃ」
リアーナ???
その名前に、オレは聞き覚えがなかった。
誰だ?
今まで、そんな名前は一度も聞いたことがない。
疑問に思っていると、オレの疑問に気づき、ベルトランは答えた。
「聞いた事ない、という顔をしておるな。リアーナ・ノアール・・・・・そう言っても、分からぬか?」
ベルトランの言葉に、オレは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
リアーナ・ノアール!?
リアーナ、その名前は聞いたことがない。
だが、その下の名前、ノアール。
オレの知っている、ノアールと言えば。
ルナ・ノアール。
「もしかして、ルナの・・・・・?」
オレは、震える声で尋ねた。
ベルトランは、静かに頷いた。
「その通りじゃ。ルナの母親じゃ」
ルナの母親。
思い出した!、そうだ!母さんが時々話していた人の名前、確かリアーナだった。
オレの母さんの隣に引っ越してきた女性が、ルナの母親だった?
そんな偶然があるだろうか。
いや、待てよ。
ルナの母親がオレの母さんの隣に引っ越してきたことと、塔の異常がどう繋がるというんだ?
いくら考えても、2つの間に接点が見つからない。
一体、どういうことなんだ?
オレは、混乱したまま、ベルトランを見つめた。
彼は、まるでオレの思考を読んでいたかのように、静かに続きを話す。
「セレスにかけた不完全な制限魔法・・・・・あれが、リアーナに影響を及ぼしたのだよ」
ベルトランの言葉は、まるで不可解なパズルのピースを提示されたようだった。
どうして、母さんの魔法が、ルナの母親に?
そもそもその2つに繋がりはないし、塔の異常ともなると、この3つが全く繋がってこない
「アシュレイには何も影響が出なかったのに、なぜリアーナには影響が出たのか、不思議に思うじゃろう?」
オレは、静かに頷いた。
「ワシも不思議に思って、色々と調べてみたんじゃ。すると、驚くべき事実が分かった。セレスとリアーナの魔力が、驚くほど似ておったのだ。まるで双子であるかのように、波長がそっくりであったんじゃな。」
魔力の波長が似ている?
そんなこと、聞いたことがない。
「その結果、一種の共振現象が起きた。不完全であった制限魔法が、リアーナの魔力と共振したのだ。それこそが、塔を異常にする原因であったんじゃ」
「たかが共振で、塔に異常が起きるなんて・・・・・」
オレは、思わず口にした。
そんなことが、信じられるはずがない。
塔は、強固で安定した建造物だ。
共振が起きたとはいえ、たかが個人の魔力だ、それで塔の構造が歪むなんて。
「信じられぬかもしれぬ。 じゃが、それが真実じゃ。不完全であった制限魔法に、ほころびが生じてしもうたのだ。それが不安定なまま、塔のシステムに・・・・・、いや違うな、塔にかけた制限魔法解除の術式と塔自体が持つ魔力、そして共振、それら3つが複雑に交わり合い、影響を及ぼした。本来ならおぬしにしか反応しないはずのシステムだった。だが現実として起きておるように、誰にでも反応するようになってしもうたのだからな」
ベルトランの言葉は、あまりにも唐突で、信じがたいものだったが、なぜか説得力があった。
これまでの不可解な出来事が、一つずつ線で結ばれていくような感覚があった。
「アシュレイとセレスは、おぬしの師匠であるサラフィナとも、実はパーティーを組んでおった事があるのだ」
オレは驚いた。
サラフィナ師匠が、両親とパーティーを組んでいた?
そんな話は、一度も聞いたことがなかった。
「三人のパーティーは大陸でも屈指の実力者じゃった。じゃから、18階、36階、45階の試練を攻略することも、そう難しくはなかったはずなのじゃが・・・・・」
ベルトランは、そこで言葉を切った。その表情は、どこか悲しげだった。
「ワシは、この世を去る前日に、この制限魔法を解除する方法を記した紙を残した。セレスがその紙を見つけたのは、おぬしの故郷であるカロスタインが悪魔に襲われる前日だったんじゃよ」
たった、一日前。
オレの胸に、あの日の光景がよみがえる。せめて、あと数日、早く見つけていれば・・・・・
そうすれば両親は、そしてシオンは、死なずに済んだんじゃないか?そう思わずにはいられなかった。
「じゃから・・・・・セレスは、この制限魔法を解除する機会を失ってしもうた。すべては…ワシの不完全な制限魔法のせいじゃ。」
ベルトランの悲しげな声が、オレの心に深く突き刺さった。
すべては、この不完全な魔法が原因だったのか。
そして、その原因を作ったのは、他でもない、この目の前にいる男。ベルトラン。
オレは、言葉を失ったまま、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「セレスはその紙を見つけた時・・・・・」
ベルトランの声が、悲しみに満ちていた。
オレは、ただ静かに耳を傾けるしかなかった。
「・・・・・子供の頃に受けたイジメ、周りの大人の恐れる目、すべてが頭をよぎったと、セレスはアシュレイに話しておった」
母さんの、つらい過去。
オレは、その話を聞いて胸が締め付けられるような思いだった。
しかし、ベルトランは話を続けた。
「それを聞いたアシュレイは、セレスに言ったんじゃ。世界中全てがセレスの敵になっても、自分だけはセレスを守る!とな」
その言葉を聞いて、母さんがどれほど嬉しかっただろう。
そして、どれほど救われただろうか。
オレは父親の、その言葉に胸を熱くした。
「アシュレイの言葉を聞いたセレスは、もしかしたら、子どもの頃には制御が難しかった魔力も、大人になった今ならコントロールできるかもしれない。そう言って、セレスは希望に胸を膨らませておった」
母さんが、自分の力を取り戻すことに、希望を抱いていた。
そう、希望を。
しかし、その希望は、あっけなく打ち砕かれてしまう。
「じゃが・・・・・その翌日、知っての通り、おぬしの故郷は悪魔に襲われてしもうた」
悪魔・・・
その言葉を聞いた瞬間、オレの全身が冷たくなった。
そうだ。
あの日・・・・・、運命の歯車が狂うのが早かった。
「もし、あの紙を見つけるのが早ければ・・・・・。もし、その時に制限魔法がかかっていなければ・・・・・。そして、もし、あの日セレスがリアーナの家に泊まりに行ってたら・・・・・別の未来があったのかも知れぬな」
ベルトランの言葉は、まるで千本のナイフとなってオレの心を抉った。
もし・・・・・もし・・・・・
そんな「もしも」を考えたところで、過去は変わらない。
だが、その言葉は、オレの胸に深く、深く突き刺さる。
「すべては・・・・・すべてはワシの責任じゃ」
ベルトランは、そう言うと、静かに頭を下げた。
「ワシが、不完全な制限魔法をセレスにかけたからじゃ。ワシが、もう少し早く、完全に制限魔法を完成させておれば・・・・・ワシのせいで、セレスは、そしてアシュレイは、そしておぬしの妹のシオンは・・・・・」
彼の声は、震えていた。その震えは、オレの心にも伝わってきた。
「ベルトラン・・・・・」
オレは、言葉を失った。
この男は、悪意があったわけではない。
ただ愛する孫娘のために、良かれと思ってやったことだ。
しかし、その結果、最愛の孫娘と孫の夫の命を奪う結果になってしまった。
そして曾孫娘、すなわち、オレの妹・・・・・今は消息不明・・・・・
それは、あまりにも酷な現実だった。
オレは、どうすることもできなかった。
次々語られる事に衝撃を受けてばかりだった。
「ジャン。ワシの残したものを、どうか見つけてくれぬか? それが…ワシの、そしてセレスの…願いじゃ」
ベルトランは、涙を流しながらそう言った。
その涙は、オレの心に深く響いた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
リアーナの服が今風なのは愛嬌って事で・・・(^-^;




