第25話 哀しみと絶望のはざまで
そして、6日目の朝が来た。
カイラスたちは、朝食も喉を通らないまま、重い足取りでギルドへと向かった。
ギルドの扉を開けると、そこにはもう、ジャンの姿はなかった。
ただ、憔悴しきった6人が、ぽつんと立っているだけだった。
「どうする? カイラス・・・・・」
ライアスが、どこか諦めたような声で呟く。
「・・・・・ギルド長に言われた通り、新しい任務をもらおう」
カイラスは、そう言ってカウンターへと向かっていった。
その背中は、いつも自信に満ち溢れていた勇者のものではなく、ただただ疲弊しきった一人の男のものだった。
新しい任務は、塔の11階~15階の調査だった。
ギルド長が疲れ切ったパーティーを慮り、今回の任務は比較的安全な階層に設定された。
ルミアは沈んだ声で言う
「待ってみない? ジャンが来るかもしれないじゃない?」
リリエルもルミアに同意して
「少しだけ、ほんの少しだけ、待ってみない?ほら、・・・・・ジャンは、最後に来ることが多かったじゃない?だから、あとちょっとだけ」、
カイラスたちはジャンが来ないであろう事はどこかで分かっていた。
だけど、あのジャンの事だ。
突然「ただいまー」と帰って来るかも知れない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
1時間が経過した。
「行こう」
カイラスは沈んだ声で、そう言って塔へと向かった。
塔の中は、いつもより静かに感じていた。
彼らは、モンスターと戦うときも、どこか上の空だった。
カイラスの剣の動きは鈍く、ライアスの斧の一撃には覇気がなく、ルミアの魔法もいつものような鋭さを欠いていた。
リリエルの回復魔法とエルミナの支援魔法は、彼らの心を癒すことができず
ルナの放つ魔法にも、かつてのような力強さはなかった。
モンスターを倒すたびに、彼らはジャンのことを思い出していた。
「ジャンだったら、もっと上手く戦えたのかな・・・・・?」
ルナが呟く。
その言葉に、誰も返事をすることができなかった。
昼食の時間になっても、誰も食欲が湧かなかった。
壁にもたれかかり、階段近くの結界内に、ただ黙って座っているだけだった。
「ジャンは・・・・・今、どこにいるの?」
リリエルが、小さな声で呟く。
「もう・・・・・どこにもいないのよ。ギルド長がそう言ってたでしょう?」
ルミアが、冷たい声で言った。
彼女は、悲しみを心の奥底に閉じ込めるように、冷徹な仮面をかぶっていた。
「でも・・・・・!」
ルナが反論しようとするが、言葉に詰まってしまう。
「ルナ、ルミアの言う通りだ。もう・・・・・諦めよう」
カイラスが、そう言って目を閉じ、続ける。
「あいつは街を出る。そう言ってた。そうさ、街を出ただけさ」
その言葉は、彼自身の心にも深く突き刺さっていた。
「そんな言い方・・・・・そんな・・・・・ジャンは・・・・・生きて・・・・・」
ルナは涙を浮かべながら言うが、カイラスを見て『はっ』とする。
カイラスは歯を食いしばっていた。
「ごめん・・・・・」
消え入るような声でルナは謝ると、カイラスは首を横に振る。
誰も何も言えないまま、重たい空気が流れた。
夕方、彼らは塔から戻り、ギルドへ向かう。
任務の報告を終え、ギルドを出ると、もう日が沈みかけていた。
空は、悲しみと絶望を表すかのように、赤く染まっていた。
「部屋に戻ろう」
カイラスが、そう言って歩き出す。
彼らの足取りは重く、まるで鉛をつけたかのように、一歩一歩が辛そうだった。
ルナは、ジャンの泊まっている宿へ行き、部屋の前で足を止めた。
コンコン
ノックをするが、返事はない。
コンコン
もう一度ノックする。
だが彼の部屋の扉は、堅く閉ざされたままだった。
「ジャン・・・・・」
ルナが、震える手で、扉に触れる。
そのとき扉の向こうから、何かが動くような音が聞こえたような気がした。
「え・・・・・?」
ルナの顔は明るくなり、勢いよく扉を開ける。
「ジャン!!」
しかし、そこには誰もいない。ただ、静寂だけがそこにあった。
「気のせい・・・・・だった・・・・・の?」
ルナは、そう呟き、ジャンの宿を出て、自分の宿へ向かい、自分の部屋へと戻っていった。
それぞれの部屋に戻った彼らは、食事もせずに、ただベッドに横たわっていた。
カイラスは、天井を見つめながら、ジャンのことを思い出していた。
彼の真剣な表情、時折見せる優しい笑顔。そして、あの日の出来事。
「俺は、お前を守れなかった……。すまない、ジャン」
悔しさと、無力感がカイラスの心を蝕んでいく。
ライアスは、斧を磨くことをやめ、ただじっと斧を見つめていた。
「ワシの斧は、お前を守るためにあるはずじゃったのに・・・・・。こんなに無力なものじゃったのか・・・・・」
ルミアは、目から涙がこぼれ落ちるのを必死に堪えていた。
「もう・・・・・泣かないって決めたのに・・・・・」
しかし無情にも涙が落ちる。
一滴、二滴・・・その涙は次から次へとこぼれて行く。
「エルミナを救ってくれて・・・・・せっかく目が覚めた・・・・・ばかりなのに・・・・・」
あふれる涙をふくこともせず、ただただ涙するのだった。
リリエルは、ルナの部屋で、ルナと一緒に横になっていた。
ルナは、もう泣き疲れたのか、静かに眠っていた。
「ルナ・・・・・。ジャンはきっと帰ってきてくれるわよ・・・・・ね?」
リリエルは、そう呟き、ルナの頭を優しく撫でた。
エルミナは、窓の外を眺めていた。空は、もうすっかり暗くなり、星が輝いている。
「ジャン・・・・・。あなたは一体どこに・・・・・」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ち、頬を伝った。
誰もが、ジャンのことを思い出し、悲しみに暮れていた。
そして、静寂がすべてを包み込んでいく。
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