第24話 失意のどん底で
翌日から、ギルドによる本格的な調査が始まった。
ギルド長の指揮のもと、熟練の魔術師やギルド職員が塔に派遣された。
カイラスたちもまた、その調査隊の一員として、再び19階へと向かった。
しかし、彼らが再び19階の行き止まりの壁の前に立ったとき、ある異変に気づいた。
「ボタンが・・・・・ない?」
ルナが驚きの声を上げた。
壁の真ん中に埋め込まれていたはずの、石板もボタンも跡形もなく消えており
そこにはただの、何の変哲もない石壁があるだけだった。
「どういうことだ・・・・・?俺たちがここを見た時、確かにここにボタンがあったはずだ」
カイラスが壁を触り、確認するが、何の反応もない。
「まるで、最初から何もなかったみたい・・・・・」
リリエルが震える声で言った。
ギルドの魔術師たちが、壁に様々な魔法をかけて調査する。
「やはり何も感じられません。普通の石壁です」
「結界のたぐいや、魔法陣なども、何の痕跡もありません」
先日調査をしに来た時、ギルドの職員も、ギルド長も確かに石板とボタンを確認していた。
だが、今は何もない。
只の壁になっている。
魔術師たちの報告に、ギルド長も眉をひそめた。
「一体、何が起こったのだ・・・・・」
それから、彼らは19階だけでなく、その下の18階、さらに下の17階までも調査範囲を広げた。
「もしかしたら、あのロボットは階層を移動したのかもしれない」
「いや、そもそもあれがロボットなのかどうかも分からん」
調査隊のメンバーは、様々な仮説を立てながら、塔の内部をくまなく調べていく。
道中、時折現れるモンスターを倒しながらの捜索だった。
「フレア!」
ルナの放った超高温のガスの炎の玉が、通路に現れたモンスターを焼き尽くす。
ルナはジャンのために、絶対に見つけようと、いつも以上に魔法に力を込めていた。
「ナイスだ、ルナ!」
カイラスがルナを褒めるが、ルナの表情は晴れない。
彼女の頭の中には、いつもジャンの笑顔があった。
(ジャン・・・・・、早く!早く帰ってきて!!)
ルナは心の中でそう祈りながら、モンスターの残骸を見つめていた。
捜索は毎日続いた。
朝からギルドに集まり、塔へ向かい、日が暮れるまで調査と捜索に明け暮れた。
そして夕方にはギルドへ戻り、その日の成果を報告する。
カイラスたち一行は報告後、再び塔へ戻り、夜遅くまでジャンの捜索に励んだ。
しかし、いくら調査をしても、ジャンの消息も、あのロボットやボタンも、何一つ手がかりは掴めなかった。
2日、3日、4日と、無為な日々が過ぎていった。
「くそっ、何の手がかりもないなんて・・・・・」
ライアスが、壁を叩きながら悔しさをあらわにする。
「落ち着いて、ライアス。こんなことでジャンが戻ってくるわけじゃないわ」
ルミアがなだめるように言うが、彼女の顔にも疲労の色が濃く出ていた。
5日目の夕方、ギルド長が深刻な表情でカイラスたちの元へやってきた。
「勇者カイラス、そして皆。すまない・・・・・」
ギルド長は、申し訳なさそうにそう言うと頭を下げた。
「本当に心苦しいが、今回の調査は・・・・・本日を以って終了とする」
その言葉に、全員が息をのんだ。
「・・・・・どうしてですか、ギルド長!?まだ、ジャンを見つけられていません!」
ルナが目に涙を浮かべながら、ギルド長に詰め寄る。
「ルナさん・・・・・。酷な事を言うが・・・・・これ以上は、無意味だ。それに・・・・・」
ルナは口元に手を当て、目を見開いている。
カイラスとライアスは、下を向いて歯を食いしばっている。
ルミアとエルミナは驚き、リリエルは悔しそうな顔をしながらもルナに近づき、背中をなでた。
ギルド長は言葉を詰まらせた。
「これだけの調査を行っても、何の手がかりも掴めない。あの場所からジャン君が消えてから、5日間も経過している。我々の能力では、これ以上捜索を続けることは不可能だ。ジャン君は・・・・・」
ここでリーザンはしばらく口を閉じた。
そして、声を絞り出すように告げた。
「死んだものとして、結論を出さざるを得ない」
その言葉は、まるで鋭い刃物のように、彼らの心を深く抉った。
「そんな・・・・・」
リリエルは口元を押さえ、目を見開き、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「ウソだウソだウソだ・・・・・。ジャンが・・・・・ジャンが死ぬなんて・・・・・だって死体はまだ・・・・・」
ルナは、その場にへたり込むと、瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
カイラスは、拳を強く握りしめた。
「そんな結論、認められるわけがない!オレは、オレたちは、諦めない!」
「カイラス君・・・・・。その気持ちは痛いほどわかる。だが、現実を見ろ。何か・・・・・たった一つでも何か見つかったか?」
ギルド長は、苦しそうにそう告げた。
「ただひとつ、ボタンは安全だと判断した私の判断は間違いだった」
再び、深々と頭を下げる。
失意の底に沈むカイラスたちに、ギルド長は続けて言った。
「今回の事件は、ギルドにとって前代未聞の出来事だ。ボタンを押しただけで通路が塞がれ、そして人が消える・・・・・。しかも、その痕跡が何もない。これは、我々がこれまで知っていた塔の常識を覆すものだ。もしかしたら、塔のもっと上の階層には、我々がまだ知らない謎が隠されているのかもしれない」
ギルド長は、カイラスたちの胸に湧き上がるであろう疑問と、憤りを代弁するように語った。
「これからは、君たちには塔の調査とは別の任務についてもらうことになるだろう。ジャン君のことは・・・・・、忘れろとは言わない。だが、いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかない。君たちには、塔の謎を解き明かし、再び同じような悲劇が起こらないようにする、という使命がある。だから、前を向いて歩いてほしい」
ギルド長の言葉は、彼らの心に深く突き刺さった。
ジャンを失った悲しみ、辛さ、無力感、怒り、失望・・・・・。
様々な感情が渦巻き、彼らの心を支配していた。
それでも、カイラスはギルド長の前で、精一杯の強がりを見せた。
「わかりました・・・・・。ギルド長の言う通り、前を向きます」
カイラスはそう言うと、歯を食いしばった。
その日の夜、カイラス、ライアス、エルミナ、ルミア、リリエル、そしてルナは、誰も言葉を発することなく、それぞれの部屋へと戻っていった。
カイラスは、自分の部屋に戻ると、ベッドに座り、窓の外をぼんやりと眺めた。
「ジャン・・・・・。一体、どこへ行ったんだ・・・・・。俺は、何もできなかった・・・・・」
悔しさと、無力感がカイラスの心を蝕んでいく。
ライアスは、自室で、斧を何度も何度も磨いていた。
「ワシは、ジャンを守ってやれんかった・・・・・。あのロボットを、ワシのこの斧で、粉々にできれば・・・・・!」
ルミアは、自室のベッドに横になり、天井を見つめていた。
「どうして・・・・・。どうしてあの時、もっと強力な魔法を試さなかったんだろう・・・・・。いや、あの半透明な体に、どんな魔法が効くっていうの・・・・・?」
エルミナは、自室で外の月を見上げていた。
「私の命を救ってくれた恩人。あの時、数日間寝込むほどやってくれたのに・・・・・何も・・・・・何も出来なかった。
エルミナは思い出していた。ジャンの手がロボットに触れた時に光った。あの光を
「もしあの時、私が触れていたら・・・・・?攻撃してこないのは分かっていたじゃない、どうして、どうして私がやらなかったの!?」
彼女は、ジャンの姿が消えた時のことを、何度も何度も思い出していた。
リリエルはルナの部屋へ向かい、ルナを抱きしめた。
「ルナ・・・・・。大丈夫よ。きっと、今回もジャンは戻ってくるわ」
リリエルはそう言いながらも、自分の胸が張り裂けそうだった。
ルナは首を振った
「だって、だって・・・・・あの時は寝ていただけだった!! ううう・・・・・だけど・・・・・グス・・・・・今回は・・・・・だけど今回は・・・・・ジャン・・・・・わああああーーーー!!!」
ルナは、リリエルの腕の中で、ただ泣き続けた。
「ジャン・・・・・。ジャン・・・・・」
リリエルの胸の中でルナは何度も何度もジャンの名前を呼び続けるのだった。
失意の底に沈んだ彼らの心に、希望の光はどこにも見当たらなかった。
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