第20話 19階の秘密
城での一件を終え、ジャンはギルドへと戻ってきた。
城門をくぐり、見慣れた賑わいの通りを歩く。
冒険者たちの喧騒、行商人たちの活気あふれる声、子供たちの笑い声。
平和な日常がそこにはあった。
しかし、ジャンの王様と二人で話したことを考えてた。
(ヒルダロアか・・・知らなかったな、どんな生活だったんだろう?カロスタインで生まれ育ったオレは、たまにヒルダロアに両親が連れて行ってくれることがあったが、まさかな・・・・・ヒルダロア・・・・・、行くべきなんだろうな。だけど・・・)
ヒルダロアは今ジャンたちがいる南の街アステリアのほぼ真北にある町で、
もし道中に、全くモンスターが出なければ、馬車でギリギリ2日で到着できる距離だが、そんなことは絶対にないため日数がかかる。
モンスターの出る頻度や強さによって異なるが、通常はおよそ3~4日かかる。
徒歩の場合は10日前後だ。
ルナとリリエル、そしてカイラスたちとの関係。共に命を賭けて戦った仲間だ。
今は、彼らのパーティーに正式に所属していない。
それは、彼の胸に小さな、しかし無視できない引っかかりとして残っていた。
ギルドの扉を開けると、いつものように活気に満ちた大広間が目に飛び込んできた。
そして、その一角に見慣れた顔ぶれを見つけた。
カイラス、ライアス、ルミア、エルミナ、リリエル、ルナ。全員が揃ってテーブルを囲んでいる。
カイラスの明るい笑顔、ルナの楽しそうな声、そしてリリエルの落ち着いた佇まい。彼らの何気ない日常に、ジャンの心に安堵が広がった。
「みんな、ただいま」
ジャンが声をかけると、全員が一斉にこちらを向いた。
「ジャン、お帰りーーー!」
ルナがぱっと立ち上がり、笑顔でジャンに駆け寄ってくる。
リリエルもルナに続いて立ち上がり、微笑みながらジャンを見つめている。
「遅くなって悪い。城で少し話が長引いてな」
ジャンがそう言うと
「ああ、構わないさ。オレたちも、城から戻ってきて、少し休んでいたところだ」
こう言って、カイラスは笑う。
「うむ、少しばかり疲労が溜まっていたからな。もう戦闘は勘弁してほしい」
ライアスも冗談めかして笑う。
すかさずルミアが口を挟む
「あら、もっと戦いたいの間違いじゃない?」
そこで一行は大笑いした。
皆が席に戻ると、ルミアが真剣な表情で口を開いた。
「ジャン、今後のことについて、話したいことがあるの。リリエルたちと、私たちのパーティーのこと。それに、ジャンのことについても」
ジャンは静かに頷き、空いている席に着いた。
リリエルとルナも、真剣な面持ちで耳を傾けている。
「リリエルとルナ、そしてジャンは、まだ正式にはオレたちのパーティーの一員じゃない。もちろん特に問題はないが、一時的に行動を共にさせてもらっている状態だ」
カイラスがそう説明すると、リリエルは頷いて「分かってるわ」と答えた。
「そこで、改めて聞きたいんだ。リリエルとルナ、ジャンは今後もオレたちと一緒に冒険する仲間としてパーティーを組んでくれないか?」
カイラスの言葉に、リリエルは迷いなく答えた。
「お願いします!もちろん、パーティーの戦力になれるよう、努力するわ!」
その横で、ルナも力強く頷く。
「うん!リリエルと同じ気持ちだよ!みんなと一緒なら、怖い塔の探索だって頑張れるもん!」
ルナとリリエルの言葉に、カイラスたちは優しい笑顔を向ける。
「ありがとう、二人とも。心強いよ」
「わしも賛成じゃ。リリエルとルナ、ジャンが加われば、ルミアの負担が減るだけでなく、パーティー全体の戦闘力は飛躍的に上がるだろうしな」
ライアスが腕を組みながら、力強く後押しする。
「私も大歓迎よ。リリエルもルナも頼りになるし、それにジャンがいれば、もう怖いものなんてないわ。それに、賑やかになって楽しいもの」
ルミアが柔らかな笑顔で言う。
「うんうん!私も賛成だよ!パーティーに人数が増えると賑やかで楽しいし、それに私の強化魔法とジャンの強化魔法、両方体験!?、ワクワクしちゃう!」
エルミナが目を輝かせながらそう言った。
彼女の言葉は、場の緊張を少し和らげた。
そして、皆の視線がジャンに集まる。
「ジャンはどうする?君はエルミナの命を救ってくれた恩人だ。どうか、これからも一緒に旅を続けてほしい」
カイラスの真摯な眼差しに、ジャンはしばらく黙り込んだ。
「ありがたい話だ。カイラスたちのパーティーに加われることは、光栄なことだと分かっている」
ジャンはゆっくりと話し始めた。
「だが、今はまだ、正式にパーティーの一員になることはできない」
その言葉に、リリエルとルナは驚きを隠せない。
カイラスたちも、少し残念そうな表情を浮かべる。
「どうしてなの?」
ルナが悲しそうな顔で尋ねる。
ジャンは言葉を選びながら答えた。
「さっき王様と話をして、オレには、やるべきことできたんだ。早かれ遅かれ、オレはこの街を出る事になる。せっかく迎え入れてくれても すぐに抜ける事になったら申し訳ないからな」
ジャンの言葉に、その場の空気が一瞬にして凍り付いた。
ルナの笑顔が消え、ルミアやエルミナも驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
ライアスが厳しげな顔つきで、その言葉の真意を探るようにジャンを見つめた。
「そうなの・・・・・?」
ルナが悲しそうに呟く。
「ルナ、心配しないでくれ。パーティーには入らなくても、塔の調査は手伝うよ。それに、カイラスたちのパーティーは、もう完成している。俺が入ることで、何かバランスを崩してしまうかもしれない。カイラスたちの戦闘スタイルは確立されているからな」
じゃんの言葉に、カイラスは少し考えた後、静かに頷いた。
「そうか。ジャンの気持ちは分かった。引き続き、力を貸して欲しい?」
「ああ、それはもちろん」
そうして、リリエルとルナはカイラスのパーティーに正式に加入することになった。
ルナの心はズキズキ痛んでいた。
記憶を取り戻したと同時に、ジャンへの想いも戻っていた。
早かれ遅かれ、ジャンはこの街から居なくなる。
そう思うだけで心が引き裂かれそうだった。
この街に来て、ルシウスたちとパーティーを組んだ頃、ジャンもこの街に来ることを偶然知ったルナは、ルシウスたちにジャンを推薦した。
ジャンはルナに対して恋愛感情が無いのは分かっている。
ルナは想像してみる。
「ジャン、大好き!」「実はオレもルナの事好きなんだ」
こうなったら、最高!
だけど・・・・・
「ジャン、大好き!」「オレは、ルナの事、仲間としか思えないんだ」
そして、これが原因で街を出ていく日が早まったら・・・・・
こんなのイヤ!
でも、これが原因で一切口をきいてもらえなくなったら・・・・・立ち直れない。
そんな届かない気持ちを抱えたまま、それでも手放すこともできないルナは、ジャンへの想いを押し込めて、仲間に笑顔を作るのだった。
「よし、それじゃあ早速だが、今日の調査は19階に行くぞ」
カイラスがそう告げると、皆が少し驚いた顔をした。19階は既に調査した場所だからだ。
「カイラス、19階はもう調査済みじゃないか?18階でもあるまいに何か見落としでもあったのか?」
ライアスが尋ねる。
「ああ。何か気になるところがあってな。今回は見落としがないか、念入りに調べる。18階が、何かの条件でモンスターが変わるんだ。もしかしたら、そういったものや例えば、行き止まりに20階に進むための隠された仕掛けがあるかもしれない」
カイラスが答える。
「なるほどな。確かに、過去に何度も訪れた場所だからこそ、油断しがちだし、そもそも行き止まりと分かってる場所には行かないしな」
ジャンもカイラスの意見に同意した。
全員が準備を整え、塔へと向かう。
塔の中はいつもと変わらず、不気味な雰囲気が漂っている。
転移装置を使って19階へと移動すると、そこには見慣れた風景が広がっている。
皆はそれぞれの持ち場で、探索を開始した。
カイラスとライアスが前衛として通路を進み
ルミア、エルミナ、リリエル、ルナが後方から支援する。
そしてジャンが全体、特に後方を観察し、何か不審な点がないか、後ろからモンスターが襲って来ないか確認する。
調査を始めると、何体かのモンスターと遭遇し、戦闘になった。
カイラスは剣技と「ファイアーボール」でモンスターを圧倒し
ライアスは斧を力強く振るって大打撃を与えていく。
ルミアは「ファイアーストリーム」や「アイスストリーム」で広範囲の敵を攻撃し
エルミナは皆に「パワーアップ」「ディフェンスアップ」「マジックアップアップ」「スピードアップ」「テクニカルアップ」をかけて支援する。
リリエルとルナも加わり、リリエルは「ウインドカッター」で敵の動きを止め
ルナは「ファイアーボール」を連射する。
ジャンは皆の動きを冷静に見ながら、危険な敵には「フレア」を放ったり
「マジックダウン」でルナやルミア、リリエルの魔力消費を抑えるなどして、パーティーをサポートした。
カイラス一行の連携は見事で、パーティーの誰もが安心して戦いに集中できた。
スムーズにモンスターを倒し、隅々まで調査を続けていると一行は、とあるの行き止まりに辿り着いた。
「みんな、少し休もうか」
カイラスが声をかける。
一行は、壁にもたれかかり、休憩を取ることにした。
その時、ジャンはふと、通路の行き止まりにある壁に目を向けた。
(あれ・・・・・こんなもの、前回来た時はなかったはずだが・・・・・?)
近づいてみると壁には、何の変哲もない石板が嵌め込まれている。
だが、その石板の中央に、親指くらいの大きさの、ボタンのようなものがあった。
「みんな、ちょっと待ってくれ」
カイラスが立ち上がり、石板に近づいていく。
「どうしたの?」
リリエルが心配そうに尋ねる。
ジャンは石板に触れ、その感触を確かめる。
「これは・・・・・以前来た時にはなかった」
カイラスとリリエルが、ジャンの隣に立つ。
「確かに、こんなものはなかったな」
カイラスが頷く。
「これは・・・・・一体何かしら?」
リリエルが、ボタンを不思議そうに見つめる。
ボタンには、何の模様も文字も刻まれていない。
ただの石の塊のように見える。
「押してみるか?」
ライアスが面白がって言った。
「待って、ライアス。何が起こるかわからないわ。迂闊に触らないで」
ルミアがライアスを止める。
「そうだよ、ライアス。もし罠だったらどうするの!」
ルナも慌てて言う。
「冗談で言ったんだよ。本気にしないでくれ」
ライアスは苦笑いしながら反省しているようだった。
反省しているライアスを見てルナが
「押しちゃう?おしちゃう!?」
と無邪気に言う。
「ダメよ、ルナ!」
とリリエルがルナを叱る。
「こんな未知のものを、おいそれと押せるわけないだろう」
気を取り直したライアスが言う
ジャンは、20階や奥への通路へ続く何かではなく。直感的にこのボタンは、何かを起動させるためのものだと感じた。
「一度ギルドへ戻ろう。このことを報告して、ギルドの判断を仰ぐべきだ」
カイラスが冷静に判断した。
「ああ、それが賢明だろう」
ジャンも同意する。
一行は、ボタンには触れずに、ギルドへと戻ることにした。
ギルドに戻り、ギルド長に報告すると、ギルド長は驚きを隠せない様子だった。
「ボタン・・・だって?19階に、そんなものが?」
「はい。以前の調査では、全く見つけられませんでした」
カイラスが説明する。
ギルド長は神妙な面持ちになり
「それは・・・興味深い。そのボタンが何なのか、我々も早速明日調査しよう。だが、今日はもう日も暮れた。疲れただろうから。ゆっくり休んでくれ。」
ギルド長の言葉に、全員が同意した。
報告を終え、一行はギルドを出ようとする。
「お疲れさん。もう夜だ、明日からの調査に備えて、今日はもう休もう」
ライアスがそう言うと、皆が頷く。
「そうだ、皆に提案があるんだ」
カイラスが皆に向かって、満面の笑みで言った。
「明日は全員、休日にする!今日見つけたボタンの調査は、しばらくギルドに任せておこう。明日はみんなで好きなことをして、ゆっくりと過ごしてくれ」
カイラスの言葉に、皆が喜びの声を上げた。
「やったー!休みだーーー!」
ルナが再びぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「カイラス、ありがとう。ちょうど休みたいと思っていたところだわ」
ルミアも嬉しそうに微笑んだ。
「お前もな、ジャン。意識が戻ってすぐなんだ。ゆっくり休めよ」
ライアスがジャンの肩を力強く叩く。
「ああ、そうさせてもらう」
ギルドを出ると、カイラスたちが「それじゃあ、またな!」と言って、それぞれの宿へと帰っていく。
リリエルとルナも「またね、ジャン!」と手を振って、別の方向へと歩いていく。
ジャンは皆の笑顔を見て、自身の胸の内にある、少しの寂しさと、しかしそれ以上に温かい、仲間との絆を感じていた。
意識のない間に、宿をキャンセルしたと今日、ギルド職員に聞いていた。
間近に迫る別れを考えると、同じ宿に泊まって、これ以上絆を深めるのは酷だと感じ、彼らとは違う宿を選んだ。
その日の夜は、疲れからか、ぐっすりと眠ることができた。
翌朝、ジャンはスッキリとした目覚めで目を覚まし、窓から差し込む太陽の光を浴びた。
「今日は休み・・・・・か」
ジャンはベッドの上で大きく伸びをした。
「たまには、こんな日も良いか」
ジャンはそう呟き、ギルドへ向かう。
ギルドで、美味しい朝食を食べるために。
今日はいつもと違い、ギルドではモーニングサービスをする日なのだ。
そこには、すでにカイラスたちが揃っており、皆、楽しそうに食事をしていた。
「ジャン、おっはよーーー!」
ルナが手を振って、ジャンを呼ぶ。
「ああ、おはよう。今日は休みだというのに、みんな来ているのか?」
ジャンがそう尋ねるとカイラスが笑って答えた。
「せっかくのモーニングサービスの営業日だぜ。みんなで食事でもしようと思ってな」
「ああ、そうだな」とライアスが続ける。
「みんなでこうして顔を合わせるのも、楽しいからな」
ルミアも「そうね。なんだか、みんなで家族みたいだわ」と微笑んだ。
リリエルは「今日はモーニング食べたら一日、ゆっくり過ごしましょう」と優しく言った。
ジャンは、皆の笑顔を見て、暖かい気持ちになった。
「ああ、そうだな。・・・・・よし、オレも朝食を食べるか」
ジャンはそう言って、皆と一緒に朝食を食べ始めた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




