第17話 リリエルとルナの対立と、大きな1歩
リリエルは医務室を飛び出していったルナの後を追った。
ルナの足は速く、あっという間に人混みに紛れていく。
リリエルも必死に走るが、ルナの姿を見失いかけたその時、彼女は街の中心にある広場に入っていくのが見えた。
「ルナ!」
リリエルは広場の真ん中でルナに追いつき、その肩を掴んだ。
「ルナ、待って!」
ルナは振り返らず、掴まれた肩を振り払おうとする。そしてリリエルは叫ぶ。
「お願い!話を聞いて!」
ルナはそれでもリリエルの方を向かず、震える声で言った。
「話す気ないんでしょ?私の記憶がない日のこと」
リリエルは言葉に詰まる。
ルナの記憶の件は、まだ触れてはいけない、デリケートな問題だとリリエルは思っている。
「私には、ジャンさんが襲われた翌日の記憶だけがないの!疲れて教会で寝ていたなんて嘘なんでしょ!なんで教えてくれないの?何を隠してるの!?」
ルナがリリエルに詰め寄る。その瞳には涙が浮かんでいた。
「なんで私だけ忘れてるの?ジャンさんが生きてるって聞いた時は本当に嬉しかったのに、その日のことだけ、どうして全然思い出せないの?リリエルは全部知ってるんでしょ?」
リリエルは言葉を選びながら、ゆっくりと語りかける。
「ルナ、落ち着いて。私だって、全部知ってるわけじゃないの。あなたと私が一緒にいた時のこと、知ってることなら全部話したい。でも、そうじゃないことだってある。だから、一度落ち着いて、部屋に戻りましょう」
「そうやって逃げるんでしょ!?どうせ話してくれないんだから!私は知りたいの!知りたいの!!どうしてそうやって曖昧なことばっかり言うの!?ジャンさんが生きてて、しかも実際には会っていたなんて!」
ルナは更に興奮して、続ける。
「なんで、その時のこと覚えてないの!おかしいでしょ!?どうして私、拘束されなければならなかったの!?ねえ!私に何があったのか、全部話してよ!」
ルナは興奮して、リリエルを責め立てる。
その言葉は、リリエルの心の奥に刺さった。
ルナが記憶を失ったのは、発狂した事で心の防衛システムが働いたからだとリリエルは思っている。
リリエルはルナの心が壊れないのであれば、真実を話したい。
でも真実を話すことで、ルナがまた同じように苦しんで、発狂してしまうのではないかという恐怖から、リリエルの口を閉ざさせていた。
「ごめんなさい、ルナ。今の私には、まだ話せないの。でも、いつか必ず話すわ。だから、今は一緒に帰りましょう?」
リリエルの曖昧な返事に、ルナの表情が絶望に染まる。
「嘘つき・・・・・!リリエルの嘘つき!!大っ嫌い!」
ルナはそう叫ぶと、リリエルの手を振り払った。
リリエルは、ルナの手を掴み直そうとするが、ルナが走り出したタイミングが一瞬早く、その手は空を切った。
「ルナ!」
リリエルは追おうとするが、背後から追いついてくる声が聞こえてきた。
「リリエル、もういい。ここは私に任せなさい」
振り返ると、リーザンがルナを追いかけていた。
「ギルド長!」
リリエルの前を走る過ぎて行くギルド長が「ここからは私が話をしてくる」と言うと人ごみに消えて行った。
「でも・・・・・」
リリエルは心配そうにルナとギルド長が走っていった方を見つめる。
リリエルはギルド長が見えなくなると、ジャンの居る医務室へ引き返した。
ルナは夢中で走った。
どこへ向かっているのかも分からなかった。
ただ、リリエルのそばから離れたかった。
リリエルの曖昧な態度、真実を教えてくれないもどかしさが、ルナの心を蝕んでいった。
なんで?どうして?どうして私だけ?
そんな思いが頭の中を巡り、ルナは走るのをやめ、息を切らしてその場にうずくまった。
「ルナさん、もういい。そこまでで良い」
聞き慣れた声が背後から聞こえてくる。
ギルド長のリーザンだった。
「ギルド長・・・・・どうしてここに・・・・・?」
「君を追ってきたんだよ。君はもう十分頑張った。一人で抱え込む必要はない。ちょっとそこのベンチで話そう」
ギルド長はそう言って、近くのベンチを指差すと、ベンチへ行きルナの隣に座り、優しい笑顔でルナを見る
ルナは顔を上げ、ギルド長を見つめながら話す。
「私は・・・・・私、どうしたらいいか分からないんです・・・・・。私にはある日の記憶がないんです。みんなは知ってるのに、私だけ・・・・・私だけ何も分からないんです・・・・・」
リーザンは同意しつつ答えた。
「その件はリリエルさんも苦しんでいる。君と同じように、いや、それ以上に苦しんでいるかもしれない」
「え?リリエルが・・・・・?」
ルナは驚く。そしてリーザンの目をまっすぐ見て、続けた。
「今ここで、1つだけ教えてください!」
リーザンは、ルナの真剣な表情を見て、頷いた。
「私、どうして拘束されたんですか?」
少し驚きながらリーザンはルナに聞く。
「そこの記憶は戻っているのか?」
ルナは目を瞑り、首を横に振る。
リーザンは一言だけ告げた。
「発狂したんだ」
ルナは、信じられない、という顔で目を見開き、呟いた。
「発・・・・・狂・・・・・!?」
リーザンはその日を思い出しながら話す。
「その日、ギルド内が騒がしくなって、受付から見ると異常な行動をしていたルナさんが見えた。私はすぐに職員に命じて君を拘束し、神父を呼んで保護してもらったんだ。塔で起きた事を受け入れることが出来なくて、心が壊れたのだろう。」
リーザンは空を見上げ、続けた。
「リリエルさんは、君が拘束されると、すぐにそばへ行って、何度も君の名前を叫んでいたよ。拘束されながらも抵抗を続け、教会に連れていかれる君の姿を歯を食いしばって見ていたよ」
ルナは俯き固く目を瞑ると、太ももに置いていた手をギュッと握りしめて呟いた。
「リリエル!!」
リーザンは静かに続ける。
「リリエルさんは君の心をを護ろうとしているんだ。だから、話せない。だが、それによってルナさんもリリエルさんも、そしてジャン君も苦しんでしまってる。だから、私に任せなさい」
ルナは、パッと顔を上げ、ギルド長はルナの顔をじっと見つめ、真剣な表情で言った。
「明日、改めて話す場を作ろう。君の記憶の件について、きちんと向き合って話をする場をな」
ルナは少し驚いた表情を浮かべる。
「話す場・・・・・ですか?」
ギルド長は続ける。
「そうだ。記憶がないのは心の防衛本能が働いたのだろう。だが君を救おうとして、リリエルは嘘をついてしまっている。それは君のためだ。そのリリエルの気持ちを、君にも分かってほしい。そして吐き出したい気持ちがあるなら、リリエルに伝えてあげなさい」
ルナは考えてから呟いた。
「私の気持ち・・・・・」
「そうだ。まずはその話から始めよう。君が話したいこと、聞きたいこと、全部ぶつけていい。その上で、話せないことは話せないと、正直に伝えよう。いつか、ルナさんが全ての記憶を取り戻した時、仲間に感謝できるよう、私も協力する」
ルナは、ギルド長の言葉に安堵を覚えた。一人で抱え込んでいたものが、少し軽くなったような気がした。
「分かりました・・・・・。明日・・・・・ですね」
「ああ。君は真実を聞く勇気を出したんだ。その勇気があれば、もう心が壊れる事は無いだろう」
ギルド長はルナの頭を優しく撫で、立ち上がった。
「まずは君を宿に送ろう。その後医務室にいるジャン君に、明日話す場を作ることになったと報告してあげないと」
ルナは立ち上がり、ギルド長の後ろを歩き出した。
その足取りは、先ほどまでとは違い、少し軽くなっていた。
広場に夕焼けが差し込み、二人の影を長く引き伸ばしていた。
明日、全てが解決するわけではないかもしれない。
だが前へ進むための、大切な一歩を踏み出した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(ひょこっ)
ルナ「んー? 何か、96話のあとがきで、私の話が出てるらしいけど、何だろ?」
(ひょこっ)
リリエル「くだらない事よ、ルナ行きましょう」
ルナ「わわっ!ビックリした。 くだらない事・・・うん。 でも私、記憶戻るのかなぁ?」




