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第13話  リリエルとルナ

(リリエル サイド)



ジャンが倒れると、ルナはすぐにジャンのソバに駆けつけ名前を呼んだが、返事はなかった。


ルミアはエルミナが呼吸していることに安堵し、ルナのそばに寄り、一緒にジャンの名前を呼び続けた。


ジャンの呼吸があることから、命に別状はないと判断した私は、すぐにギルドへ走り連絡を入れた。


また部屋の床に落ちている黒い棒には誰も触れないよう、注意も付け加えた。



やがてギルドの職員が私と一緒に部屋にやってきて、カイラスとライアスも手伝い、ジャンを慎重に教会へと運び、黒い棒もまた、慎重に回収されていった。


ベッドの下には、見覚えのある魔法陣が描かれた板が落ちていた。


ジャンが書いたもので間違いないだろう。


ルミアにこの板をもらってもいいかと尋ねると、快く承諾してくれた。


私はその板を手に、ルナと一緒に部屋を出た。


カイラスたちが泊まる宿を出る頃には、東の空から太陽が昇り始めていた。


街は徐々に明るくなり、新鮮な朝の空気が私たちを包んでいた。




私とルナは、言葉を交わすこともなく、宿へと戻った。


ルナに、眠れなくても目を閉じて横になるだけでも疲れが取れるから、少し休んだ方がいいと伝えると、ルナは「一緒に寝たい」と言ったので、2人で1つのベッドに横になることにした。


ベッドに横たわると、ルナが「板を貸してほしい」と言うので渡すと、彼女はそれを胸の前で抱きしめ、静かに目を閉じた。


しばらくしてルナの穏やかな寝息が聞こえてくると、私も知らぬ間に眠りに落ちていた。




雨の音で目が覚めた。


窓の外は、大雨で薄暗くなっていた。


ルナは板を抱えたまま、まだ眠っている。


私はそっとベッドを抜け出し、シャワーを浴びた。


部屋に戻ると、ルナがちょうど目を覚ましたところで、シャワーが気持ちよかったことを伝えた。


ルナは頷くと、自分の部屋に着替えを取りに行き、私の部屋でシャワーを浴びた。


聞こえてくるのは大雨の音、時折響く雷の音、風が窓を揺らす音、そしてルナがシャワーを浴びる水音だけ。私は何も考えられなかった。


ただただ過ぎてゆく時間・・・・・


やがてルナもシャワーを終えて出てきた。


そこには何の会話もないが、不思議な安心感があった。


暗くなった室内で電気もつけずに、2人でベッドに腰掛けた。



やがて、私の頬を伝う一筋の涙に気づいた。


拭いもせず、横を見ると、ルナもまた両目から大粒の涙をこぼしていた。


どちらからともなく、私たちは互いを抱きしめた。


声を出すこともなく、ただ2人で静かに泣いた。


そして、いつの間にか眠ってしまっていた。




目が覚めると、昨晩とは打って変わって晴れ渡っていた。


太陽の位置からしてお昼頃だろうか。


だが、食欲は全く湧かなかった。


ルナを見ると、夜中に1度起きたのだろうか?板を抱いて眠っていた。



私はベッドの横に座り込んだ。


心が壊れてしまったのだろうか。


何も感情が湧いてこない。


ただぼんやりと、ただ時間が過ぎていくのを感じる。


私は一体どうしてしまったのだろう。


そうしていると、ルナが身を起こした。


大きく背伸びをしながら、彼女は明るい声で言った。


「リリエル、今日はエルミナとジャンさん、フィリーネのお見舞いに行こうよ。着替えてくるねー」


そう言って、板を胸に抱えたまま部屋を出ていった。


私も着替えなきゃ。


着替えを終えても、心にぽっかりと穴が開いたような感覚は変わらなかった。


ルナが着替えを終えて戻ってきた。


「リリエル、大丈夫?ぼーっとしてるよ?今日はやめとく?」


私が反射的に首を横に振ると、まるで機械人形のように淡々と答えた。


「ごめんね。何か変なことは自分でも分かってるんだけど・・・・・分からない」


「本当に大丈夫?別の日でも私は大丈夫だよ」


私は再び首を横に振り、行くことを告げた。





(ルナ サイド)



宿を出て、まずエルミナがいる宿へと向かった。


お昼時だからか、街のあちこちから美味しそうな匂いが漂ってくる。


お腹が空いてきた。


考えてみれば、昨日から何も食べていないことに気づいた。


あっちゃー!お腹もすくわけだ。


通りかかったパン屋。


ここのパンも、とても美味しい♪


私はリリエルの手を引き、中に入ろうと誘った。


「いつもお世話になってるから、私が奢るよ」と言っても、彼女は首を横に振り


「食べたくない」と一言だけ。


普段は2つも食べればお腹がいっぱいになるのに、結局5つも買ってしまった!


お腹と背中がくっつきそうなくらい空腹だったので、イートインスペースで食べることにした。


一口食べると、パンの美味しさがじゅわーっと口いっぱいに広がるこの感じ。至福の時だ。


噛むごとにパンの美味しさがが溢れ出てくる。


一口噛むごとにやってくる幸せの瞬間の連続♪


自分の選択が間違っていなかったことに、心の中で小さくガッツポーズ!


結局2つ食べたところで満腹になってしまい、残りは持ち帰ることにした。




リリエルと一緒に歩いているけど、今日の彼女はいつものリリエルじゃない。


昨日は寂しくて、怖くて、何も話せなかった。


だからリリエルと一緒に寝たんだ。


会話がなくても、一緒に寝ただけで、まるで赤ちゃんがお母さんに抱っこされているときのような安心感があったなぁ。


今日は、昨日のような気持ちではない。


完全に元気になった・・・わけじゃないけど、いつもの自分に戻れた気がする。


リリエルは私にとって、目標とするお姉さんみたいな存在。



この間、私が教会で眠ってしまったときも、彼女は私を責めることなく、笑顔で神父さんに会わせてくれた。


教会からギルドに向かうときも、急に「ジャンさんが生きている」事を聞いた時、彼女は驚いた顔をしていたけれど


それは「どこかで聞いたはずなのに私が忘れていたからだ」と笑っていた。



その後にギルドの食事を奢ってくれた。


注文して奢ってくれたことも嬉しかったけど、食べ終わったお皿まで下げてくれた。


本当に頼りになるお姉さん♪。


そのあと、塔の近くで助けを求めてきた人には驚いた。


いつものリリエルなら、聞かれる前に助けに行こうと動き出すのに・・・・・。


たぶん、私と同じで驚いていたのかなぁ?


5階に着いてからは、真剣な顔で真っ先に走っていく姿は本当に格好よかった。


女同士なのに、惚れてまうやろー!



モンスターを倒した後、リリエルに怒られた。


ギルドの張り紙を見ていなかった私が悪いんだけどね。


そのあと、あの女の子のマジシャン、名前なんて言ったっけ?あれ?最後まで名前聞いてなかったかも・・・


お礼に、あの美味しいパフェ屋さん。


そこのパフェを奢ってくれるというので、ちょーーテンションが上がっちゃった。


そのマジシャンもパフェが好きで、話が盛り上がった。



パフェ屋さんでは、リリエルは飲み物だけを頼み、すぐに外に出てしまった。


女の子はみんなパフェが好きってわけじゃないけど、今度リリエルにパフェの美味しさを教えてあげなきゃ!


その時に食べたのは、白桃みかんプリンパフェだった。


一番上のみかんと生クリーム、これを見ているだけでも幸せなのに


みかんと生クリームを食べたら、分かってたけど!分かってたけど!!


プリンが出てきた。


もうこれを見たら、ビューンってリリエルに見せに行っちゃった。


そうしたら、リリエルとジャンさんが話していて、もっとびっくりした!


ジャンさんを見たら、安心からか足の力が抜けちゃった・・・・・。


恥ずかしいところを見せちゃったなあ。反省反省。


ジャンさんは急いでいたみたいで、一緒にパフェを食べるのは断られちゃった。


リリエルが私を呼んでくれたとき、このプリンの衝撃を話すと、苦笑いをしていたなぁ。


白桃みかんプリンパフェは世界を救う!


リリエルにも、このパフェの魅力にどっぷりハマってもらうぞーー!




だけど、いつも私を支えてくれたリリエルが、今はまるでお人形さんのようになっている。


ジャンさんが倒れて今も意識が戻らない。


たぶん、それが原因だと思う。


私も昨日は今のリリエルみたいになっていたから・・・・・。


私がただ能天気なだけかもしれないけど、いつもリリエルが私を助けてくれた。


だから、今回は私がリリエルを助けることができたらいいな。


そんなことを考えているうちに、宿に着いた。


リリエルがいつもやっているように、今日は私がフロントで事情を説明する!


エルミナのお見舞いに来たことを告げると、快く部屋に通してくれた。




エルミナの部屋に着き、ノックをすると「空いてるよ」という声がした。


扉を開けると、エルミナがベッドに座っていた!


ベッドの周りには、彼女の仲間が全員いた。


私は「意識が戻ったんですね!おめでとうございます!」と言った。


ルミアがやや低いトーンで「ありがとう」と言ってくれた。


せっかくエルミナが目を覚ましたのに、何となく部屋の雰囲気が暗い。


きっとジャンの件で落ち込んでいるのだろうと察し、私は明るく言った。


「ジャンさんなら絶対大丈夫ですよ!」


そしてリリエルに振り向き


「エルミナさんの意識が戻ってるよ!」と伝えた。


リリエルの様子がいつもと違うことに気づいたルミアが、心配そうに尋ねた。


「リリエル?具合が悪いの?」


リリエルは首を横に振り、後ろを向いて抑揚のない声で言った。


「エルミナさん、おめでとう。ルナ、教会行くわよ」


そう言って部屋を出て行ったので、私は驚き、慌ててみんなに謝った。


「みなさん、ごめんなさい。今日のリリエルはまだジャンさんに会ってないからテンションが低くて・・・・・、えっと失礼します」


頭を下げて、私はリリエルの後を追った。




教会に着くまで、私はずっと考えていた。


記憶がすっぽり抜け落ちているような感覚。


ジャンさんが死んだと思った日、ルシウスが親指を立てて、作戦は上手くいったみたいなことを言ったあと、私の記憶では、気づいたら医務室で寝ていた。


でも、私は塔から帰ってきて自分の部屋で寝たんじゃなかったかなぁ?


寝ていたのに、疲れて教会に行ったのだろうか?


たしかに辻褄は合う・・・・・。


それとも、部屋で寝てから翌朝起きて・・・・・?


どこかに行ったのだろうか?


その日、何かをしたような、してないような・・・・・。


うーん・・・・・。




教会に着い・・・・・。


あーーーっ!リリエル!


考え事をしていたら、彼女のことをすっかり忘れていた!


よかったーー!ちゃんと後ろにいる。


教会に入ると、神父さんにお見舞いに来たことを告げて、医務室へ向かった。


フィリーネの隣には、パーティションを挟んでジャンが寝ている。


「ジャンさん、エルミナの目が覚めましたよ。ジャンさんも起きてください」


私は優しくジャンを揺すってみたが、返事はない。


ダメですね。


パーティションの隣へ行き、フィリーネに話しかけた。


「フィリーネ、起きてー。朝ですよー」


もうお昼を過ぎているけど・・・・・。



フィリーネはどこから落ちたんだろう?


何をしていたんだろう?


あれ?フィリーネって誰だっけ?


いや、知ってる。


私たちの仲間で、今ここに寝ている子。


それは分かっている。


でも・・・・・誰?


知っているのに知らない。いつから仲間になったんだっけ?


「若年性健忘症だ」とリリエルには笑われたけれど、本当に覚えていない。


ルシウスがジャンさんをモンスターに襲わせた日、フィリーネはいた?


仲間だったっけ?


今いる医務室、ここで私が寝ていた日、隣にはフィリーネが寝ていた。


だってその時は仲間だと知っていた。


何か・・・・・おかしくない?


ジャンさんがモンスターに襲われた日は覚えている。


その日以降、今日まで塔に入ったのはパフェを食べた日だけ。


それなのにどうしてフィリーネを知っているの?


私、記憶喪失?


ふう、とため息をつく。


今考えても仕方ないなあ。こんな時は深呼吸。


スゥー、ハーーー、スゥー、ハーーー。


リラックス、リラックス。


スゥー、ハーーー、スゥー、ハーーー。


よし!エネルギー満タ・・・・・。




え!?


今一瞬見えた映像・・・・・何?


私には、そんな記憶ない!


・・・・・リリエルとフィリーネが壁に叩きつけられて意識を失った!?


そこに私がモンスターにフレアを!?


フレアを使ったって事は、何か強いモンスター・・・・・って事だよね?


ゼノン「ルナ!!お前だけでも逃げろ!このままじゃ全滅だ!!」


何か、私・・・・・必死にゼノンと話していた・・・・・の?


モンスターから攻撃を受けたゼノンが防御して、また私がフレアを・・・・・。


な、何なの!?この映像!


私は必死にその前後を思い出そうとする。


でも、まるでモヤがかかったようになっている。


ゼノンが私に「逃げろ」って?「全滅」?・・・・・いや、違う。


そうだ、たぶんこれは41階を攻略した日だ。


ジャンさんが引き返すことを提案したけど無理やり進んだ、あの日だ。


その日は本当に疲れたなー。


ん?


じゃあ、フィリーネってその時からいたんだっけ?・・・・・いや・・・・・。


やめやめやめ!


考えても分からないんだから、そろそろ帰ろう。


リリエル、今日はほとんどしゃべってないなぁ。


雰囲気も暗いし帰ろ!


「リリエルー、一緒に帰ろー」


ルナはそう言っても、リリエルは動かず、ただじっとジャンを見つめながら答えた。


「私はまだここにいるわ」


その声には何の抑揚もなく、まるで感情がないかのようだった。




私は、そんなリリエルの様子に首を傾げた。


あれ?リリエル、じっとジャンさんを見つめてる・・・・・。


もしかして、いや、もしかしなくても!?


ジャンさんの事が好きなのかな?


ジャンさんの目が覚めたら、2人が付き合っちゃったりしてー!!


キャーキャーキャー!


何かお祝いとかした方が・・・・・


そう考えた時、ルナの胸に突然、鋭い痛みが走った。


『ズキッ』


え!?今私・・・・・、心が痛んだ?何で?


ジャンさんとリリエルが付き合う事ってステキだと思っ・・・・・)


『ズキッ』


再び、同じ痛みが胸を貫く。



ん!?!?


ヤバイヤバイヤバイ!


ど、どうしよー!


応援したいのに、もしかして、もしかして?


私、ジャンさんの事が好きになり始めてる!?


ルナは思わず自分の胸を押さえた。


その事実に気づいて、私の心は激しく揺れ動いた。


いやいやいや、これは良くない兆候!


リリエルはいつだって私を助けてくれたお姉さん的存在の人。


その人の恋愛を邪魔する資格は私にはない!


私は決意を固め、リリエルの方を向いた。


「ごめんね、先に帰るね」


そう言い残し、ルナは一目散に教会を飛び出した。


外に出ると、頬を通り過ぎる風がひんやりと心地よかった。



色々考えすぎちゃったみたい。


お菓子食べたくなっちゃったなあ♪







最後までお読みいただきありがとうございました。

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