第12話 エルミナの治療
(リリエル サイド)
思考がグルグルと頭の中を駆け巡り。
ベッドに腰かけて、ふうとため息をつく。
迷っていても仕方がない。
行ってみよう。
何もやってなければ、『ごめんなさい』と帰って来ればいい。
何かやってたら・・・・・
いや、考えてても仕方ない!
行こう!
そうして扉を開けるとルナが立っていた。
お互いに声を上げて驚く。
聞くとルナは怖い夢を見て目が覚めてから、寝れなくなりここに来たと言う
寝ていたら悪いなとノックできなかった所、突然扉が開いたと話した。
私はルナにカイラスのパーティのエルミナが昏睡状態でジャンが治療しようとしている事
エルミナは今晩が山である事
今からエルミナのお見舞いに行こうと思っている事を話した。
『じゃあ、今から行こう』という話になり、2人はエルミナのいる宿へと足を向けた。
私はルナに尋ねた。
「ルナはルシウスがジャンを殺そうとした計画は覚えてるわよね?」
ルナがうんと頷くと私は続けた。
「この件、ジャンが生きて戻って来た事でルシウスとゼノンが主犯格だったと結論付けられたわ。それで二人は冒険者資格剥奪になって、この街を追い出されたそうよ」
私の言葉にルナは歩みを止め暗い顔になり
「私・・・どうなるの?リリエルは・・・」
ルナの声は震えていた。
私も歩みを止め、ルナの目を見つめた。
「私たち二人は塔の調査に加わる事を条件に、冒険者資格の取り上げはないって事みたいよ」
その言葉に、ルナは安堵したのか、再び歩き始めた。
「私たちはCクラスになっちゃうのかな?実際フィリーネはCクラスだし、ジャンがいないと私たちの能力は大幅に落ちちゃうし」
そう言えば、ルナの中ではフィリーネはまだ元気だったんだ。
ええっとどうしよう?
「フィリーネはね、何をやっていたか知らないんだけど高所作業中に落ちちゃって、教会で昏睡状態なの」
咄嗟にウソ言っちゃったけど、大丈夫かな?
昏睡状態はウソじゃないけど、ルシウスとゼノンの件でもウソ言っちゃってるし・・・・
「え!?私たちのパーティー、今は二人だけって事?それこそ私たちどうなるの?フィリーネは?」
ルナは、不安そうに私を見つめてきた。
「ギルド長が、Bクラスのパーティーで今度話し合うと良いって言ってたわ」
私がそう言うと、ルナは、少しだけ笑顔を見せた。
「うん、たぶんそれが良いよね」
「フィリーネのお見舞い、今度一緒に行きましょう?」
そんな話をしている内にカイラスたちの泊まる宿に着き、フロントに事情を説明して入れてもらった。
(ジャン サイド)
夜も更けてきたが、オレは魔法陣を板に焼いていた。
これで絶対にエルミナが助かる!!
そう確信していた。
正直、かなり疲れている。
昼間からずっと魔法陣の書き換え、膨大な魔力の移動、空っぽになるまで魔力消費からの、再度魔力を移動と蓄え。
出来る事なら今日は寝たいが、このままだとエルミナは今晩中に命を落としてしまう可能性が高い。
自分の疲れとエルミナの命、比較するまでもない。
「よし、焼き終わった!」
エルミナの部屋へ移動しよう。
オレは満足げに呟くと、エルミナの部屋へ向かった。部屋を出るとエルミナの部屋の前にいる2人の人物を見かけ、驚いて声をかけた。
「リリエル?ルナ?」
ルナは、申し訳なさそうに話す。
「あ、ジャンさん、こんな夜遅くにごめんなさい。」
リリエルは、不安そうに尋ねてきた。
「お見舞いは迷惑よね?」
オレは二人に近づきながら、安心させるように言った。
「今からエルミナを治すところだったんだ。カイラスたちは中にいるから、お見舞いを喜んでくれるよ」
そう言って扉をノックし、3人で入った。
ルミアは、驚きと喜びが入り混じった顔で二人を迎えた。
「え?リリエルとルナも? あなたたちも今は大変なのにわざわざありがとう」
「いえ、大変な状況だと聞いて、夜遅いのですが伺いました。」
リリエルが、丁寧に答えると、カイラスは「ちょっと待ってて」と言って部屋を出た。
そして、すぐに2つ椅子を持って戻って来ると、椅子を差し出し言った。
「この椅子に座ってくれればいいよ。これからジャンの治療が始まる。長くなるかもしれないから座って見てて」
「すいません、ライアスさんが立ってるので、これを使って下さい」
ルナは、自分が座る予定だった椅子をライアスに差し出した。
ライアスは、ルナの気持ちを汲み取りながら、優しく言った。
「ワシは立っていた方が楽なんだ。せっかくカイラスが持ってきたんだ。座りなよ」
そうしてルナもリリエルも椅子に腰かけ、ルミアはベッド横に移動し床に座るとエルミナの手を握った。
ジャンは先ほどのように、エルミナの左手側に立ち、板をエルミナの左手に置くとその板の上に左手を、エルミナの額には右手を当てた。
そしてオレは力強く言った。
「今度こそ!よし、やるぞ! 魔力開放!」
(言ってみれば、この板1枚がどれだけ耐えてくれるか?だな。耐えてくれよ!)
オレはそう思いながら治療を始めると、ルナに尋ねた。
「ルナ、もし知っていたら教えてくれないか?エルミナは体内から常に魔力があふれているんだ。通常魔力は外から回復させると、どんなに耐えられる人でも最大魔力量の5%程度多く入ったら死ぬ。だけどエルミナは、なぜこれだけの魔力を放出し続けても大丈夫なんだ?」
ルナは少し考えると、ゆっくりと話し始めた。
「正しいかどうかは分かりませんが、外から魔力が入ってくる場合は耐性がほとんどなありません。ですが自分の内側から湧いてくる魔力には結構耐性があったように思います。」
「なるほどな、内側から・・・・か」
オレは納得したように頷いた。
「へー、ルナ物知りじゃない」
ルミアは感心したようにルナに言った。
ルナは「えへへ」と笑い、オレは治療を続けた。
一体どれくらいの時間続けたのだろう?
かなりの時間やっている。
カイラスは何とか寝ないように頑張ってるようだが、みんな寝ているな。
ライアスは・・・・・壁にもたれかかって寝てる・・・器用だな。
だがこれだけの魔力、一体どこから供給されているんだ?
そう考えていたところで供給される魔力量が急激に減って来た。
ふう、ここまでが長かったなと思うと、エルミナが「うう」と呻き始めた。
マズイ、今目が覚めると苦痛を与える可能性が大きい
そこですぐに睡眠魔法をかけて眠らせた。
おそらくエルミナの魔力がゼロに近いのだろう。
魔力の供給がほぼ無くなった。
ここからどうなるか?
オレは様子を見ながら、そろそろ魔力閉鎖をしても大丈夫か?
だが、魔力供給の元凶は何だ?
そう思った時
ドン!
と一瞬魔力が来た。
またしばらく魔力の供給がほぼ無くなったと思ったら
ドン!
と供給される。
これは供給元が近いな、と思ってると
ドン!
と来る。
しっかり観察していると、ルミアが握っている右手、腕の辺りに一瞬黒い影が見えた気がした。
オレはカイラスを呼んだ。
その声で、部屋にいた全員が目を覚ました。
みんなは寝てしまった事を謝っていたが、オレは問題ないと伝え、ルミアにエルミナの右腕の袖を肩までめくってくれるように頼んだ。
カイラスには右腕を集中して見るように頼んだ。
魔力供給が、ドン!と来る一瞬前にエルミナの腕に黒い棒状の物が皮膚を突き破りそうな勢いで浮かび上がり、そして消えた。
しばらく落ち着いては、腕に黒い棒状の物が見えては消える。
それを繰り返していた。
ルミアは、恐怖に顔を歪ませながら尋ねた。
「あれは何なの?」
「オレにも分からない。だがおそらく、それが原因でエルミナが苦しんでいる。」
カイラスは、落ち着いた声でオレに尋ねる。
「何か出来る事はあるか?」
ジャンは黒い棒状の物について考えていた。
それを体外に出せれば、たぶんエルミナは助かる。
それをどうやって体外に出すか?
皮膚を突き破ってそのまま出てくれれば問題ないのだが・・・・・
「カイラス、正確に黒い棒状の物を切れるか?」
カイラスは静かに答える。
「定期的に出てくるのであれば切れるが、不定期だからな。1秒あれば確実に出来る。」
1秒か・・・・長いな。
どうすれば出て来るか?
一瞬だけドン!と来る魔力
それだけじゃない、今のエルミナはおそらく魔力がゼロ、何かやろうにも命の危険がある。
何も手を打てずにいると、ルミアが聞いてきた。
「今このままやめると、数日後には今回のようになるのよね?そこで手を打たなければエルミナは死んでしまう。そうよね?」
「ああ、そうだな。生かすためにはまた、どこかで今日のような事をやる必要があるな」
オレがそう言うと、ルミアは、懇願するように言ってきた。
「もし何か手があるんだったら、やってちょうだい」
「いや、一か八かの賭けなんて出来ない。エルミナの命がかかってるんだ」
オレの言葉に、ルミアは冷静さを保とうとしながら言って来る。
「分かってる。分かってるけど何もしなければ死んでしまう。だからリスクはあっても今やるか、何もせずに死ぬのを待つか?その2択だったらやってみた方が良いと思うの」
そこでリリエルも言葉を重ねた。
「ジャンは私たちの新しい仲間は知ってる?」
「ああ、名前は知らないがホワイトマジシャンだったな」
「うん、彼女はフィリーネって言うんだけど、いま昏睡状態で何も打つ手がないの。」
暗い顔になって続けるリリエル
「もしかしたらそのまま死んじゃうかもしれない。いつか目を覚ますかもしれない。」
リリエルは懇願するような目つきに変わって
「でもフィリーネには・・・・・彼女には・・・・・私たち、何もできないの。だけどリスクはあってもエルミナには何か出来るのよね?」
ここでリリエルはギュッと目を瞑り
「だったらやってあげられないの?命がかかってるのは分かってる。でも出来る事はあるのよね?」
その言葉に、オレの心は揺らいだ。
「・・・・・だけど・・・・・」
ここでルナも言う。
「ジャンさんをルシウスの作戦から救えなかった私が言うのもおこがましいんだけど・・・・・」
ルナは少し間を置いてから続ける。
「一か八かの賭けだというのは分かってる。やった結果、エルミナが死んでしまうかもしれない。だけど、ジャンさんが明日生きてる補償もないんだよ」
オレを信頼してるような目で見つめて来る。
「もし・・・ジャンさんがこの先・・・・・いや、もし明日死んじゃったら、エルミナはもう誰にも救えないんだよ?」
みんなの視線がオレに集まる。
オレは決意を固めてから、みんなに告げる。
「・・・・・1回しかやらないぞ。エルミナの命がかかってるんだ。カイラス失敗するなよ!」
カイラス「ああ、1秒だ。1秒あればできる」
そう言うとカイラスは剣を抜いた。
ジャン「やる時には合図する。それまで待ってくれ」
再び腕に黒い棒状の物が皮膚を突き破りそうな勢いで浮かび上がり、消えた。
ジャン「次に浮かび出てきたら、その直後に仕掛ける!」
カイラス「ああ、次に出た後だな」
再度腕に黒い棒状の物が出て消えた。
ジャン「魔力強制吸入!」
眠っているエルミナが苦しそうに呻く。
エルミナが硬直し、足と肩で腰を浮かせている。表情も苦痛に満ちていた。
次の瞬間、力を失いベッドに落ち気を失う。
くそ!失敗か?と思った直後に腕に黒い棒状の物が浮かび上がる。今度は消えることがない。
その瞬間、カイラスは棒状の物に沿って皮膚を切り裂いた!
鮮血が飛び散る!
黒い棒状の物が床に落ちた。
すぐにルミアが右腕にヒールをかけると、傷口が塞がった。
「魔力ホール閉鎖!あと、その棒状の物には絶対に触れるな!エルミナと同じことが起こるかもしれない」
オレはそう叫ぶと、すぐに脈を確認した。
脈はあるが状態が分からない。
オレは立ち上がろうとした瞬間、突然意識を失い倒れた。
室内にひびく悲鳴をオレが聞くことはなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。