第101話 ルナのドタバタ劇
翌朝、東の空が白み始めるころ、ルナがゆっくりと目を開けた。
まだ覚醒しきらない意識の中で、ぼんやりと視線を巡らせると、すぐ近くにソフィアの寝顔があった。
ルナのベッドのフチに、身を丸めるようにして眠っている。
そして、ジャンのベッドのフチには、シオンが静かに寝息を立てていた。
ルナは、そっと体を起こし、2人の寝顔を見つめる。
疲れているはずなのに、どこか安らかで、穏やかな寝息を立てている。
ルナは、2人を起こさないように、そっとベッドを抜け出した。
教会の医務室を出ると、廊下はまだ薄暗く、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
ルナは静かに扉を閉め、教会の外へと足を踏み出す。
街はまだ深い眠りの中にあった。
東の空が、ほんのりと薄紫色からオレンジ色へとグラデーションを描き始めていて、やがて来る朝の訪れを告げている。
建物はシルエットとなり、通りには誰もいない。
遠くで、時々鳥のさえずりが聞こえるだけの、静寂に包まれた時間だ。
石畳の道には夜露が光り、ひっそりと開店準備を始めているパン屋からは、焼きたてのパンの香りが微かに漂ってくる。
ルナは、大きく一つ深呼吸をした。
新鮮な朝の空気が、肺いっぱいに広がる。
シオンから悪魔を追い出すことができたという、大きな満足感がルナの心を満たしていた。
魔力が完全に回復するには時間がかかるかもしれないが、あの強敵を乗り越えたという事実は、ルナにとって大きな自信となっていた。
しばらくして、医務室に戻ると、ちょうどソフィアがゆっくりと目を開けたところだった。
ルナの姿を見つけると、ソフィアの瞳に瞬く間に涙が浮かび、ルナの胸へと飛び込んだ。
「ルナ!よかった・・・・・・本当に!」
ソフィアは、ルナの体に顔を埋めて、とめどなく泣き続けた。
その震える小さな体からは、どれほどの不安と心配を抱えていたかが伝わってくる。
ルナは、優しくソフィアの背中を撫でながら言った。
「もう大丈夫だよ、ソフィア。私、すっかり元気になったから。安心してよ!」
ルナの元気な声に、ソフィアは少しずつ落ち着きを取り戻し、顔を上げた。
その目元は赤くなっていたが、そこには安堵の光が宿っている。
その時、ジャンのベッドのフチで眠っていたシオンも、ゆっくりとまぶたを持ち上げた。
ルナとソフィアの姿を見つけると、柔らかな笑みを浮かべる。
「おはよう、ルナお姉ちゃん・・・・・・ソフィアも」
小さな声に気づいたソフィアは、シオンへ軽く会釈した。
「おはよう、シオン。ジャンのこと、見ててくれてありがとう」
それだけを伝えると、今度は待ちきれないようにルナの手を取ってぐいっと引いて出ていった。
シオンは、朝一番からのソフィアの勢いに、思わず小首をかしげていた。
ソフィアはなおも、ルナの手を引っ張る。
「さ、ルナ。ちょっと一緒に行こ!」
「えっ? な、なに? どうしたの、ソフィア?」
ぽかんとするルナをよそに、ソフィアはどうしても、今すぐルナに見せたいものがある。
ソフィアは胸の奥でこっそり笑みをこらえる。
「ルナに、外で見てほしいものがあるんです!」
外に出ると、朝日が、彼女たちの顔を優しく照らした。
ルナは、ソフィアの真剣な表情を見て、不思議そうに尋ねた。
「ソフィア、どうしたの?何かあったの?」
ソフィアは、ルナの問いかけに、何も言わずににっこりと笑った。
そして、空に向かって両手を掲げ、小さく魔法を唱える。
次の瞬間、ソフィアの手から、燃え盛る炎弾が放たれた。
それは尾を引く流星のように昇り、朝焼けの空を裂いて弧を描く。
炎は風を巻き込み螺旋を刻みながら膨れ上がり、瞬く間に大輪の火花を咲かせた。
眩い光は昇る太陽をもしばし覆い、薄明の大地を紅に染め上げる。
やがて残光は細かな火の粉となり、朝靄に吸い込まれるように消えていった。
ルナはその光景に目をまん丸にし、ぱぁっと顔を輝かせた。
「わぁぁっ!ソフィア、すごいすごいっ!フレアを覚えたんだね!」
まるで自分のことのように跳びはねながら大喜びし、勢いよくソフィアの肩をポンポン叩く。
「え、えっと・・・・・・」
ソフィアは頬を赤く染め、視線を落としながらも、どこか嬉しそうに微笑んだ。
「それは・・・・・・ルナのおかげだよ。ルナが教えてくれたから・・・・・・だから、できたの」
けれどルナは、力強く首を横に振る。
「ちがうよ!ソフィアが頑張ったからできたんだよ!私、『ファイアーストリーム』をちょっと教えただけだもん。『フレア』を自分のチカラで覚えたのはソフィアだよ!ほんとにすごいんだから!」
その無邪気な賞賛に、ソフィアの胸は熱く満たされた。
顔を真っ赤にしながらも、自然と笑みがこぼれる。
その瞳には、達成の喜びと、そしてルナへの深い感謝がやさしく宿っていた。
ルナとソフィアが医務室に戻ると、シオンがベッドから身を起こしていた。
「ルナお姉ちゃん、ソフィア。急に外へ出て、どうしたの?」
シオンが尋ねると、ルナは元気いっぱいにシオンの隣に座り、身を乗り出して話し始めた。
「聞いてよ、シオンちゃん!ソフィアがね、フレアを覚えたんだよ!すごいでしょう!」
ルナは、まるで自分のことのように興奮しながら説明した。
シオンは、ソフィアの方を見て優しく微笑む。
「うん、知ってるよ。フィリーネから聞いてる。それで慌てて飛び出したんだね・・・・・・」
その後、ふと疑問に思ったようにシオンに尋ねた。
「ねえ、シオンちゃん。私、何日寝てたの?」
シオンは指を数えながら答えた。
「今日でちょうど4日目だよ」
「ええーっ!そんなに!?」
ルナは驚きに声を上げた。
「そっかー、道理でお腹がすくわけだ!もう、お腹ペコペコだよー!」
ルナはそう言って、お腹をさすった。
ソフィアは、ルナの言葉に「あっ」と声を上げた。
「そういえば、今日はギルドのモーニングサービスの日ですよ!とっても美味しいパンが食べられるんです!」
ルナの目が、キラキラと輝き出した。
モーニングサービスという言葉に、ルナの食いしん坊な心が騒ぎ始める。
ルナは勢いよくジャンのベッドに駆け寄った。
「ジャン!起きて起きて!ギルドでモーニングサービスだよ!」
ルナは、ジャンの体を揺すりながら声をかけたが、ジャンはぴくりとも動かない。
穏やかな寝息を立てている。
ルナは何度かジャンを揺すったが、全く起きる気配がない。
悲しそうな顔でシオンを振り返った。
「シオンちゃん・・・・・・ジャン、起きないよ?」
シオンは、ジャンの寝顔を見て、少し寂しげに言った。
「お兄ちゃんは、レゾナンス・ディヴィーヌの反動で、まだ目が覚めないんだ。遅くてもあと2〜3日以内には起きるはずだよ」
ルナの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
ジャンがまだ目覚めないという事実に、大きな悲しみが込み上げてきた。
ルナは、潤んだ瞳でシオンを見つめた。
「でも、絶対に目が覚めるんだよね?ジャンは死んじゃったりしないよね?」
ルナの必死な問いかけに、シオンは優しく頷いた。
「うん、絶対に大丈夫。必ず目が覚めるよ」
シオンの言葉に、ルナは大きく安堵の息を漏らした。
悲しみの表情はすぐに消え去り、いつもの元気なルナに戻っていた。
「よーし!それなら、ジャンが起きた時にビックリするように、私がギルドのパン、いっぱい食べてきてあげるんだから!」
ルナはそう言うと、医務室を飛び出し、ギルドへ向かって駆け出した。
シオンとソフィアは、そんなルナの後ろ姿を見て、顔を見合わせる。
そして、フッと笑い合うと、ルナを追いかけるように医務室を出て行った。
ギルドの扉を開け放つように勢いよく飛び込んだルナは、食堂の一角に設けられたモーニングサービスのテーブルへ一直線に向かった。
すでに何人かの冒険者が、朝食を楽しんでいる。
「ふふーん!間に合ったもーん♪」
ルナが自慢げに胸を張っていると、少し遅れて、ソフィアとシオンが息を切らしてやって来た。
「ルナお姉ちゃん、足が早すぎだよ・・・・・・」
シオンは肩で息をしながら、少し呆れたように言った。
ソフィアも額の汗を拭いながら、心配そうにルナに尋ねた。
「ジャンが目覚めたら、私たちがいないって、心配しませんか?」
ルナは、ソフィアの言葉に首を傾げた。
「大丈夫だよ!ジャンはテレパシーで話せるから、問題ないんだもん!それより、ご飯ご飯!」
ルナはそう言うと、既に美味しそうなパンが並べられたカウンターに目を輝かせた。
シオンとソフィアは、そんなルナの様子を見て、目を合わせてくすっと笑った。
トルナージュのギルドが提供するモーニングサービスは、冒険者たちの間で密かに人気を博している。
この街は豊かな海が近いため、新鮮な魚介類が豊富に手に入る。
ここのモーニングサービスでは、その海の恵みをふんだんに使った特製のパンが提供されるのだ。
しばらくして、ルナは山盛りのパンを全て平らげ、ミルクも飲み干した。
満足そうにお腹をさすっている。
「ふぅー、食べた食べた!お腹いっぱい!」
ルナは満足げに言った。
「これで、ジャンが起きた時も、私、元気いっぱいだもん!」
ルナはそう言うと、立ち上がった。
シオンとソフィアも、それに続いて立ち上がると、シオンが元気に言う。
「よーし、それじゃあ教会に帰ろう!」
食べ終わった3人は、ギルドを後にし、教会に医務室へ帰路についた。
医務室の前に着くと、ルナが、ふと立ち止まった。
「ねえ、シオンちゃん、ソフィア。ちょっとここで待っててね!」
ルナはそう言い残すと、2人の返事を待つこともなく、勢いよく医務室の扉を押し開けて入っていった。
パタン、と音を立てて扉が閉まる。
シオンとソフィアは顔を見合わせ、小首をかしげる。
「ルナお姉ちゃん、何するつもりなんだろ?」
「さあ・・・・・・?でも、少し心配だね」
30秒ほど経った頃・・・・・・。
「きゃーーっ!どうしてなのーーっ!」
医務室の中から、甲高い悲鳴が響き渡った。
シオンとソフィアは同時に顔色を変え、慌てて扉を押し開けて中へ飛び込んだ。
ルナは、ジャンの眠るベッドの横で半泣きになりながら必死にジャンの肩を揺さぶっていた。
「ジャンが起きないよぉ!なんでなのーーっ!?」
泣きじゃくる声に、シオンは落ち着いた表情のままジャンの顔を覗き込む。
「ルナお姉ちゃん、だから言ったでしょ。お兄ちゃんはあと2、3日以内・・・・・・」
説明を続けようとしたその瞬間、ルナはぷくっと頬を膨らませ、勢いよく遮った。
「違うもん!だって私、ジャンにキスしたんだよ!?なのに起きないなんて変だもん!!」
あまりに突拍子のない発言に、ソフィアは「えっ・・・キス!?」と声を漏らし、顔を真っ赤に染めて俯いた。
シオンもまた一瞬きょとんとして、ぽかんと口を開ける。
だがルナは2人の反応などお構いなしに、子どものように手をぶんぶん振ってわめき散らす。
「だってジャンは私の恋人なんだもん!ドラゴンの時だって、キスで目を覚ましたんだから!絶対起きるはずなんだもん!」
さらに涙声を張り上げる。
「愛のパワーってすっごいんだよ!?絶ーーーっ対、大丈夫なはずなのにぃーー!おかしいよ!ジャンのこと大好きなのに!しかも、ご飯もいっぱい食べたんだよ?だから元気モリモリで起きるはずなのに!」
その姿は、まるで駄々をこねる小さな子供そのものだった。
「ルナ、数日ぶりに起きたのに、元気だね・・・・・・」
ソフィアが呆れながら呟く。
シオンとソフィアは、呆然としながら視線を交わす。
「ねえ、ソフィア・・・・・・ルナお姉ちゃんって、私より年上の・・・はずだよね?」
シオンが小声で問うと、ソフィアは困ったように微笑んで頷く。
「う、うん・・・・・・ルナは私と同い年だから、シオンより年上・・・」
シオンは改めてルナを見やり、ぽつりと呟いた。
「完全に、私より年下の子どもみたい」
シオンの呟きは小さかったが、ルナの耳にはしっかり届いていた。
「こ、子どもじゃないもんっ!私は立派なレディなんだからねっ!!」
ぷくっと頬を膨らませ、両手を腰に当てて胸を張るルナ。
そのあまりの必死さに、ソフィアは思わず口元を押さえきれず、くすっと笑ってしまった。
「ふふっ・・・・・・ごめん、でも・・・・・・ルナって、本当に・・・・・・」
ソフィアが言葉を探していると、シオンまで肩を揺らして「くすっ」と笑う。
「ルナお姉ちゃん、レディっていうより・・・・・・やっぱり元気な子どもにしか見えないよ」
2人の笑い声が重なり合う傍らで、ルナはますます大声を張り上げて騒ぎ立てる。
「ちょっとー!笑ってる場合じゃないんだよ!?ジャンが起きないんだよ!?ほんっとにおかしいんだからぁ!!」
涙目でわめくその姿は、必死さと子どもっぽさが入り混じっていた。
そんなルナを見ながら、ソフィアはふと、胸の奥の気持ちをこぼすように呟いた。
「でもね、私、ルナの気持ち・・・・・・少し分かる気がするの」
その言葉に、シオンが首をかしげる。
ソフィアは視線を落とし、小さく微笑んだ。
「大切な人が眠ったままだと・・・・・・どうしようもなく不安になるものだから。起きてほしいって、ただそれだけを願っちゃうの」
ルナの騒ぎ声は止まらない。
けれどその横で、ソフィアの言葉がそっと場に残り、3人の心をやわらかく包んでいった。
ルミア「いつも読んでくださって、本当にありがとうございます!」
エルミナ「ジャン・・・そろそろ目が覚めるといいのだけれど」
リリエル「目が覚めなくても、実質ルナが主人公だから問題ないと思うわ」
ルナ「なっ!? 私、主人公じゃないもん!!」
フィリーネ「でも最近“真の主人公はルナ”って空気があるのは事実よね」
リディア「うん、確かにそうなってるわね」
シオン「ルナお姉ちゃん、ついに出世したんだね!」
ソフィア「わ、私も・・・主人公になれるように・・・が、頑張ります!」
ルナ「ちょ、ちょっと!? 私いつ主人公になったの!? っていうかソフィアがライバルなの!?」
リディア「そういえば、ソフィア、リディア、ダブルでお疲れ様ー」
リディア「ふーっ、この間。二回戦なんて聞いてなかったんだけど?」
ソフィア「れ、れんきんの・・・話をしたからでしょうか?」
フィリーネ「それ、“あとがき”で話した内容よね?」
ルミア「まあ、貴重な経験ができてよかったと思うわよ」
エルミナ「でも、連勤とダブルは違うよ?」
リリエル「分からない人は“なろう”のあとがきと“カクヨム”の、99話の、あとがき両方読んでね?」
フィリーネ「じゃあ、そろそろ締めるわよ?」
ルナ「く、苦しい!」
シオン「えっ!? なんでルナお姉ちゃん、自分の首絞めてるの!?」
ルナ「だ、だって『しめる』って言ったからっ!」
リディア「はあ・・・・・・もう長くなるから終わっちゃうよ」
フィリーネ「じゃあ、いくわよ。せー・・・」
ソフィア「ま、待ってくださいっ!」
ルナ「ん? ソフィア、どうしたの?」
ルミア「ああ、あれのことね。 ソフィア、いいわよ」
ソフィア「えっと・・・、あの・・・読者の皆様・・・、あ、ありがとうございます!!」
エルミナ「それだけじゃ、何か伝わらないわよ?」
シオン「私が引き継ぐよ! 11月26日、小説家になろうの方で、ついに1日のPVが200を超えました!!」
リリエル「これもひとえに、皆様のおかげです。ありがとうございます!!」
リディア「へぇ、二百いくつだったの?」
フィリーネ「230だそうよ」
ソフィア「そ、そんなに!? 改めまして・・・、ありがとうございます!!」
ルナ「作者も喜んでるよー。 じゃあ、ここで終わりにしよっかー」
全員「次回もお楽しみに!! 本当にありがとうございます!!」




