第99話 覚悟の儀式
翌朝、ルナ、ジャン、シオンの3人がギルドへ行くと、既にカイラスたちが集まっていた。彼らは出発前の準備をしているようだった。
「ジャン、ルナ、シオン、おはよう」
カイラスが挨拶した。
「オレたちは今日も古代文明遺跡に行く。ルナの偽物を探すつもりだが、今日見つからなければ、ギルドとしては一度調査を中止するとギルド長から聞いた」
ジャンの顔に、僅かながらも焦りの色が浮かんだ。
しかし、彼はすぐに表情を引き締めた。
「そうか。分かった。数日以内にはオレたちが調査をするから、もし今日、何か分かったら、ギルドを通じて連絡をくれ」
カイラスたちは、力強く頷いた。
「ああ、任せろ!何かあればすぐに連絡する!」
ライアスが元気よく答えた。
カイラスたちは、遺跡へと向かうため、ギルドを後にした。
ジャンは、カイラスたちの背中を見送ると、ルナとシオンに視線を向けた。
「よし、オレたちも行こう。トルナージュへ戻るぞ」
3人はギルドの裏路地へと移動した。
周囲に人の気配がないことを確認すると、シオンはジャンとルナに向かって手を差し出した。
「じゃあ、はい」
ルナは、シオンの言葉にパッと顔を輝かせた。
「わーい!転送転送!」
ルナは、まるで楽しそうに歌うかのように、シオンの右手を取った。
ジャンは苦笑しながら、ルナの言葉を訂正する。
「ルナ、転送じゃなくて転移だ」
「おんなじ意味なんだから、何でも良いもーん!」
ルナはそう言い返すと、シオンの左手を取った。
3人が手をつなぐと、シオンは再び、小さく「転移」と唱えた。
アステリアのギルドの裏路地から、3人の姿は瞬時に消え去った。
一方、トルナージュの街外れでは、フィリーネとソフィア、リディアの3人が、休日の散歩を楽しんでいた。
穏やかな日差しが降り注ぎ、鳥のさえずりが心地よい。
「フィリーネ、いつも戦闘の時は私たちの、後ろで見ていてくれて、それだけでも本当に助かるんです。ありがとうございます」
ソフィアが、内気ながらも感謝の気持ちを伝えた。
フィリーネは、優しく微笑んだ。
「いいのよ、ソフィア。ジャンとルナにも、そう言われているから」
リディアは、遠くの空を眺めながら、寂しそうな声で呟いた。
「それにしても、ジャンとルナが帰ってきたら、いよいよ本当のお別れなんだよね」
フィリーネは、リディアの言葉に頷きながら、空を見上げた。
「そうね・・・・・・そろそろ2週間になるけれど、あの2人、いつ帰って・・・・・・」
フィリーネがそこまで言いかけた、その瞬間だった。
ソフィア、フィリーネ、リディアの目の前に、まるでフラッシュが焚かれたかのように、まばゆい光が閃いた。
次の瞬間、光が収まると、そこには3人の人影が立っていた。
リディアは、突然の出来事に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
ソフィアは「ふぇっ!?」と声にならないような悲鳴を上げ、恐怖に固まってしまっている。
しかし、フィリーネだけは違った。
彼女は、瞬時に状況を判断し、何の迷いもなく、戦闘態勢に入った。
その手には、既に魔法の光が宿っている。
光が収まり、フィリーネ、ソフィア、リディアの目の前に現れたのは、ジャン、ルナ、そしてシオンの3人だった。
「うわ、やっちゃった。人前に出ちゃったみたい」
シオンは、少し困ったような顔で呟いた。
その声を聞き、フィリーネは、3人の姿をしっかりと確認すると、すぐに戦闘態勢を解除した。
彼女の顔には、安堵と喜びが入り混じった表情が浮かぶ。
「ジャン!ルナ!それに、妹が見つかったのね!」
フィリーネの声には、抑えきれない喜びが込められていた。
ジャンは、「ああ」と短く答える。
その横で、シオンが一歩前へ出る。
「初めまして。シオンです。ジャンの妹です」
シオンの自己紹介に、リディアは驚きの声を上げた。
「え!?ジャンに妹がいたの!?」
ソフィアは、首をかしげて言った。
「妹・・・・・確か、どこかでちょっと聞いたような?」
ジャンは、2人の反応に少し笑って言った。
「覚えていないのも無理はない。少し前だったからな。話したのも一瞬だ。エヴァンとエレオスも記憶にないだろうから、後で伝えておくよ」
ジャンは、腰を抜かしたままのリディアの姿を見て、思わず笑みがこぼれた。
「ここで腰を抜かしたままでいるのがリディアで、一瞬戦闘態勢に入ったのがフィリーネ、そして・・・まだ固まっているのがソフィアだ」
軽口を叩きながら、シオンに三人を紹介した。
リディアは、嬉しそうに言いながら、よろよろと立ち上がった。
「帰って来た!・・・けど、いきなり目の前に現れるのは反則でしょ!心臓止まるかと思ったわ!」
リディアは文句を言いつつも、頬は緩みっぱなしだ。
一方、ソフィアはルナの姿を見つけた瞬間、勢いよく駆け寄った。
「ルナ!無事で良かった!」
そのまま抱きつかれ、ルナは少しよろめきながらも笑顔で応えた。
フィリーネは、呆れたようにため息をついた。
「もう・・・・・・ジャンの周りには、本当にわけの分からない人ばかりいるわね」
ジャンは、フィリーネの言葉に反論した。
「わけが分からないことはない。転移魔法だ」
しかしフィリーネは肩をすくめ、やれやれと言わんばかりに答える。
「その“転移魔法”が、私たちには理解できないのよ」
シオンは、そんなやり取りを微笑ましく見つめていた。
こうして、ジャンたちの突然の帰還と、シオンとの初対面は、トルナージュの街外れで、賑やかな再会の場となった。
再会の喜びも束の間、突然ルナが「あっ!」と何かを思い出したように、ソフィアに尋ねた。
「ねえ、ソフィア!この先、山の方へ向かうと、砂地だったよね?」
ソフィアは、ルナの問いに「うん」と頷いた。
ジャンは、ルナの意図を察したかのように、皆に告げた。
その返事を聞くなり、ジャンはルナの意図を察したように皆へ向き直った。
「オレたち、ちょっとやることがあるんだ。砂地へ行く」
するとソフィアは、勢いよくルナに抱きついた。
「ルナ! わ、私も行きたいです!」
ソフィアの積極的な態度に、リディアは目を見張った。
「ソフィアは普段内気なのに、ルナが絡むと積極的になるわね」
リディアが笑いながら言うと、ソフィアは少し照れながらも答えた。
「ルナと一緒にいると、楽しいんです!」
ルナは、「えへへ」と嬉しそうに笑った。
ジャンは、フィリーネに視線を向けた。
「フィリーネは何か用事があるんじゃないか?」
フィリーネは首を横に振った。
「いいえ。今日は休みで、特に何もないから。ジャンたちが問題ないなら、行っても良いわ」
フィリーネの言葉に、ルナが速攻で食いついた。
「問題ないよ!フィリーネも一緒に行こうよ!」
シオンはそのやり取りを聞きながら
(やること?)
と一瞬だけ疑問を浮かべた。
だが、結局は特に予定もなかったため黙って同行することにした。
こうして、ジャン、ルナ、シオン、フィリーネ、ソフィア、リディアの6人は、トルナージュの街外れから山の方へと向かい、やがて広がる砂地へと到着した。
砂地に足を踏み入れると、ソフィアが小さく微笑んだ。
「ここ・・・・・・ルナに『ファイアーストリーム』を教えてもらった場所なんだよね。懐かしいな」
「そうだね! あの時よりもずっと上手になってると思うし、そろそろ『フレア』だって使えるはずだよ!」
ルナは期待に満ちた目で、ぐっと身を乗り出す。
ソフィアは視線を落とし、指先をいじりながら小さな声で答えた。
「ううん・・・・・・まだ、上手くいかなくて」
「そんなの気にしなくていいよ!」
ルナはぱっと明るく笑うと、力こぶを作って見せる。
「ソフィアなら絶対できるもん! もうすぐ、ぜーったいに!」
ソフィアの頬が少し赤くなり、恥ずかしそうに笑みを返した。
そこでフィリーネはジャンに尋ねた。
「ジャン。ここで一体何をするつもりなの?」
ジャンは、その問いにまっすぐ答えた。
「シオンの中にいる悪魔を追い出す」
ジャンの言葉に、ルナは力強く頷いた。
しかし、ソフィア、フィリーネ、リディアの3人は、驚愕に目を見開いた。
「「「悪魔!?」」」
彼女たちの驚きの声が重なったが、一番驚いていたのは、他ならぬシオンだった。
「だ、だから!まだ早いって言ってるじゃない!ほんとにやめて!!」
顔面を蒼白にし、今にも泣き出しそうな声でジャンにすがる。
しかし、ルナは胸を張って言った。
「大丈夫だよ、シオンちゃん!私、今日は全快だから!」
ジャンもまた、シオンの目をまっすぐ見据えて言った。
「ああ。オレも今なら大丈夫だ」
ソフィアは、驚きながらも、状況を理解しようとルナに問いかけた。
「ルナ、悪魔って・・・・・・一体どういうことなんですか?」
ルナは、ソフィアの問いに、再びジャンと同じ言葉を繰り返した。
「シオンちゃんの中にいる悪魔を追い出すんだよ!」
ソフィアは
「ジャンと同じことを言われても・・・」
と戸惑いの表情を浮かべている。
ジャンは、そんなソフィアに落ち着いた口調で言った。
「詳しくは、またゆっくり説明するが、ルナが言った通りだ。シオンの体内に、悪魔が寄生している」
ジャンの言葉に、シオンは再び懇願した。
「本当にやめて、お兄ちゃん!」
しかし、ジャンとルナは、既に悪魔を追い出すための構えに入っていた。
シオンは対抗しようと、一瞬魔力を集める。
だが、ジャンとルナが使おうとしている魔力の大きさに抵抗をやめた。
2人から逃げるにも、既に遅い。
(だめ!発動させると、確実に2人が死ぬ!)
必死に、必死に“2人が死なずに済む方法”を探そうとする。
ジャンとルナの瞳には、シオンを救う固い意志が宿っていた。
ジャンとルナが構えに入った、その瞬間だった。
ルナ、ジャン、そしてシオンの3人の周りに、魔法陣が現れ、薄い膜のような結界が生成された。
その上から更に光の粒子が絡まり、重なり、まるで繭のように形を成す。
それは比べものにならないほど厳重で、堅牢だった。
悪魔を追い出すための、強制的な隔離。
「やめてーーーっ!!、お兄ちゃん!ルナお姉ちゃん!」
シオンは結界を見ると、必死に動こうとした。
しかし、その体はまるで目に見えない鎖に拘束されているかのように、ピクリとも動かない。
魔法を行使しようにも、魔力が湧き上がってこない。
ジャンとルナは、シオンの懇願に心を痛めながらも、その瞳には強い決意を宿していた。
2人は顔を見合わせ、深く頷くと、同時に高らかに唱えた。
「「レゾナンス・ディヴィーヌ!」」
ジャンとルナの口から紡ぎ出された言葉は、神聖な光となり、結界が完成しシオンを拘束するように、だが優しく包み込んだ。
2人の魔力が共鳴し、その光は次第に輝きを増していく。
シオンの全身を包み込む光は、温かくも、どこか厳粛な雰囲気を帯びていた。
その光の影響を受け、シオンの体がわずかに震え始めた。
しかし、彼女は依然として動くことも、魔法を使うこともできない。
苦痛に顔を歪ませながらも、シオンは必死に抵抗しようと藻掻いている。
「すごい魔力だわ!・・・・・・魔力共鳴ってこんなにも・・・」
フィリーネが驚きながらも分析する。
光がシオンの体内に深く浸透していくにつれて、彼女の体から、黒く淀んだモヤのようなものがゆっくりと分離され始めた。
それが、シオンの体内に潜んでいた悪魔だ。
モヤは、シオンの背中から滲み出るように現れ、次第にその形を成していく。
それは、どす黒く、禍々しいオーラを放つ、おぞましい姿だった。
「う、うぅ!」
悪魔が分離されるにつれて、シオンの顔はさらに苦痛に歪んだ。
しかし、ジャンとルナの魔法は、決して止まることはない。
2人は、固く手を繋ぎ、互いの魔力を共鳴させ続ける。
神聖な光は、悪魔をシオンの体から引き剥がし、結界の中に閉じ込めるように作用していた。
リディアとソフィアは、初めて目にする「悪魔」の姿に息を呑んだ。
「これが・・・・・・悪魔?」
ソフィアの喉は強張り、言葉は掠れるようにこぼれた。
「う、嘘でしょ・・・・・・な、なによあれ!」
リディアは恐怖に目を見開きながらも、悪魔のおぞましい姿を睨みつけた。
最初は順調だった。
悪魔のモヤは、着実にシオンの体から離れていく。
しかし、悪魔の力が想像以上に強いことが、次第に明らかになってきた。
「くっ!」
ジャンの額に、冷や汗が滲み始めた。
彼の魔力消費は激しく、体力がみるみるうちに削られていく。
ルナもまた、顔色が悪くなり、唇をきつく噛み締めている。
2人の体から、生命力が吸い取られるかのような感覚だ。
「ジャン・・・・・・」
ルナが、苦しげな声でジャンの名を呼んだ。
ジャンも、ルナのただならぬ様子に気づき、顔を歪ませる。
どちらか一方が倒れれば、この魔法は失敗に終わる。
シオンの中から完全に悪魔を追い出すためには、2人の魔力共鳴が不可欠なのだ。
「大丈夫・・・だ、ルナ!まだ・・・・・・いける!」
ジャンは、自分自身に、そしてルナに言い聞かせるように叫んだ。
再び、2人の魔力に力が込められる。
神聖な光は、悪魔をさらに引き剥がそうと、その輝きを増した。
悪魔は、結界の中で暴れ始めた。
分離されることを拒むかのように、全身から黒い瘴気を噴き出し、結界を内側から破壊しようと試みる。
その度に、結界がミシミシと音を立て、ジャンとルナの体に衝撃が走った。
「ぐっ!」
ジャンが、片膝をついた。
視界がグラグラと揺れ、意識が遠のきそうになる。
全身の倦怠感が、彼を襲う。
「ジャン!しっかり・・・して!・・・ジャン!」
ルナの必死の呼びかけが、ジャンの耳に届いた。
その声に、ジャンの意識が辛うじて引き戻される。
ルナの瞳には、涙が浮かんでいた。
彼女もまた、限界に近い状態だ。
「オレは・・・・・・大丈夫だ・・・・・・ルナこそ!」
ジャンは、何とか声を絞り出した。
しかし、次の瞬間には、ルナの顔から血の気が引いた。
「うぅ・・・・・・わた・・・し・・・」
ルナの体が、大きく傾き膝をついた。
ルナの意識もまた、途切れそうになっている。
「ルナ!・・・しっかり・・・しろ!」
ジャンが叫ぶと同時に、最後の力を振り絞る。
シオンが苦しそうに呟く。
「2人を・・・・・・殺させ・・・ない」
2人の魔力が、再び共鳴し、神聖な光が悪魔へと集中された。
悪魔は、シオンの体から完全に分離された。
しかし、その力は依然として強大だ。
結界の中で、おぞましい姿の悪魔が、黒い瘴気を撒き散らしながら、咆哮を上げている。
「まだだ!まだ終わって・・・・・・ない!」
ジャンは、意識が朦朧とする中で、最後の力を振り絞った。
ルナもまた、ジャンの声に呼応するかのように、かろうじて意識を保ち、魔力を送り続ける。
フィリーネは叫ぶ。
「悪魔が最後の抵抗をしているわ!意識をしっかり!!」
苦しそうにジャンとルナは頷く。
レゾナンス・ディヴィーヌの神聖な光は、分離された悪魔へと集中された。
悪魔は、光に焼かれるかのように苦しみ、悲鳴を上げる。
黒い瘴気が、次第に薄まり、悪魔の姿も曖昧になっていく。
「消えろーーー!」
ジャンが、最後の力を振り絞って唱える。
ルナもまた、ジャンの言葉に合わせるかのように、必死に魔力を送り続ける。
「おね・・・・・・がい・・・・・・、もう・・・・・・消えてーーーっ!!」
2人の叫びが砂地に吸い込まれる。
フィリーネ「今回も読んでくれてありがとうございます」
リディア「で、今日は・・・・・・あれ? ルナは?」
ソフィア「今“とんでもない大魔法”使ってるって・・・・・・呼んだら危ないって言われました!」
ルミア「大魔法って・・・・・・あの子、また身体に負担かけてるんじゃないでしょうね? 苦しそうじゃなかった?」
エルミナ「苦しそうだったわよ。あれは完全に“がんばってる時の顔”だったもの」
リリエル「ルナ、ファイトね! ここに復帰してくれたら、女の子の登場人物が全員揃うのに」
フィリーネ「ちょっと待って。リリエル、それ本気で言ってる?」
リリエル「え? だって揃うでしょ?」
リディア「はいっ! 出た! シオンを忘れる病!!」
リリエル「あっ! そ・・・・・・そうだった・・・・・・忘れてた!」
ソフィア「でも、女の子全員揃うって言っても・・・・・・揃わないですよね。男の人が全員集まった時って、知らない人いましたし」
ルミア「そういえば・・・・・・このあとがき、少し前に“???”って名前の人がいたわよね。意味深すぎたんだけど」
エルミナ「話し方が完全に女だったわ。誰か心当たりある?」
フィリーネ「私はないわね」
リディア「私も」
ソフィア「私も・・・・・・」
リリエル「・・・(首を振る)」
ルミア「全員一致で“知らない”。これはこれで怖いわね」
エルミナ「近いうちに出てくるのかしら」
全員「・・・・・・・(沈黙)」
フィリーネ「まあ、そのうち分かるわよ。たぶん」
リディア「ええ。悩んでも仕方ないしね」
ソフィア「じゃ、今日はこのへんで!」
全員「次回お楽しみにっ!」




