第98話 アステリア・ギルド騒動記
視界が白く染まり、そして再び開いた時、彼らの目の前には、見慣れた南の街アステリア。
人通りの少ない、ギルドの薄暗い裏路地が広がっていた。
ジャンは、シオンの転移魔法に改めて驚きを隠せない。
「シオン、この転移魔法は・・・・・・オレたちには使えないのか?」
ジャンの問いに、シオンは少し考え込むような仕草をした。
「うーん・・・・・・たぶん、お兄ちゃんとルナお姉ちゃんが一緒にやれば、できる・・・・・・と思うんだけど」
歯切れの悪いシオンの返事に、ジャンは思わず聞き返した。
「その歯切れの悪さは何だ?」
シオンは、へらっと笑ってごまかした。
「えへへ・・・・・・気にしないで。それより、ギルドに用事があるんでしょ?」
シオンの言葉に、ジャンは苦笑しながら頷いた。言われた通りだ。
3人は、ギルドの入口へと向かった。
ギルドに入った3人は、受付へと向かった。アーカスは、彼らの姿を認めると、驚きと喜びが混じった声を上げた。
「あ、ジャンさん!ルナさん!お帰りなさいませ!そして・・・・・・そちらがジャンさんの妹さんですね!」
アーカスは、目を輝かせながらシオンに視線を向けた。シオンは、落ち着いた様子で一歩前に出た。
「初めまして、ジャンの妹でシオンと言います。職業はホワイトマジシャンです」
簡単な自己紹介を終えると、アーカスは「まあ!」と感嘆の声を漏らし、すぐにギルド長のリーザンを呼んだ。
リーザンが奥から出てくると、ジャンは一礼した。
「戻りました。妹のシオンも一緒です」
リーザンの顔にも喜びの色が浮かんだ。
「おお、ジャン君!ルナさんも!それに、シオンさんか。無事に戻ってきてくれて本当に良かった!」
リーザンは温かく歓迎した。
だが、ルナは突然、待ちきれない様子でギルド長に話し始めた。
「ギルド長!私の偽物はあれからどうなりましたか?」
リーザンは横に首を振り、残念そうな表情を浮かべた。
「それが・・・・・・カイラス君たちに依頼しているのだが、あれから10日間、見つかっていないんだ」
「そうですか・・・・・・」
ジャンはそう呟くと、リーザンと少し話をすると一礼し、受付近くの空いているテーブルを囲んで3人で腰かけた。
椅子に座ったジャンは、改めて驚きを隠せない。
「ベルトランの所へ行って、シオンと戦闘をしただけなのに、こっちではもうそんなに時間が過ぎているのか・・・・・・」
ルナもジャンと同じことを考えていた。
「本当にびっくりだもん!ジャンが以前にロボットに触れて消えた時でも、ベルトランに会って6日間過ぎてたことを思うと、あの空間と、こちらでは、こんなに時間が違うんだね!」
2人は、時間の流れの差に改めて驚きの声を上げた。
シオンは、そんな2人の様子を穏やかに見守っている。
3人で雑談をしていると、ギルドの扉が開き、カイラスたち一行がギルドへと入ってきた。
彼らはジャンたちの姿を見つけると、すぐに寄ってきた。
「ジャン!ルナ!無事だったか!」
「10日間もどこに行ってたの?!心配したわよ!」
口々に安堵と喜びの声を上げるカイラスたち。ライアスが満面の笑みで言った。
「おう、妹が見つかったのか!よかったな!」
シオンは、ジャンとルナの隣に立ち、改めて自己紹介した。
「皆さま、初めまして。ジャンの妹で、ホワイトマジシャンをしておりますシオンです」
ライアスは何かを感じたのか、豪快に笑いながらシオンの肩を叩いた。
「ガハハハ!ジャンが規格外なら、妹も規格外なのか?流石は兄妹だな!」
ジャンの顔に苦笑いが浮かんだ。
「ライアスの基準なら、そうなるだろうな」
ルミアは呆れたように首を振り、ため息をついた。
「もう・・・・・・ライアスだけじゃないわよ。兄妹揃って変なの?私たちの常識が通用しないなんて」
シオンは、くすりと笑いながら答えた。
「この世界で言うホワイトマジシャンの常識からは、少し外れているかもしれませんね」
すかさずエルミナが突っ込む
「少しではないと思います」
その言葉に、カイラスたちは顔を見合わせ、再び笑い声が響いた。
久しぶりの再会は、和やかな雰囲気で包まれた。
カイラスたちがジャンたちに合流し、賑やかな会話が始まった。
ライアスが腕を組み、大声で笑った。
「まさか、妹を助けに行って帰ってきたと思ったら、こんなにカワイイ子を連れてくるとはな!がはははっ!」
「ライアス、お前な」
ジャンは苦笑いしながら、シオンの肩をポンと叩いた。
「シオン、こいつはライアス。口は悪いが仲間思いの良い奴だ」
シオンはにこやかに言った。
「お兄ちゃんからは、簡単に話を聞いてます」
「シオンね。まさかジャンにこんなしっかりした妹がいるとはね」
ルミアが冷静に観察するように言った。
「でも、ホワイトマジシャンとは珍しいわね。しかも、ジャンと並んでも遜色ない魔力を持っているように感じるわ」
「ルミアは相変わらずだな」
ジャンが呆れたように言った。
「シオンのことは、また改めて説明するよ」
「ねえねえ、リリエル!また会えたねー!」
ルナがリリエルに抱きつき、満面の笑みを浮かべた。
「最近、何か面白いことあった?」
リリエルは、ルナの突然の抱擁に少し驚きながらも、優しく抱きしめ返した。
「ルナも元気そうで良かったわ。面白いこと・・・・・・そうね」
リリエルは一瞬遠い目をし、それから吹き出すように笑った。
「ふふっ・・・・・・もう、大変だったのよ! 塔の中でね、ライアスとカイラスが」
そこで言葉を切ると、呆れ顔を浮かべる。
「とんでもない実験を始めてしまったの」
「おいおい、リリエル! そんな大げさに言うなって!」
ライアスが慌てて手を振るが、カイラスはニヤニヤして腕を組んでいる。
「最初は火花が散る程度だったのに、2人の得意分野を混ぜた途端、もう手がつけられなくなって!」
「話を盛りすぎだろ!」
ライアスが真っ赤になって抗議する。
「いえ、その通りよ!」
ルミアが割り込む。
声は弾んでいるが、内容は全力の愚痴だ。
「私とエルミナは突然、わけの分からない液体が飛んできて、私の杖が紫色に染まったのよ!」
「私は薬草をいくつか台無しにされただけで済んだけれど」
エルミナはため息まじりに肩をすくめる。
「そうそう!塔の内部が急に虹色に輝きだして、煙まで立ちこめて・・・・・・まるで遊園地みたいだったの!」
リリエルが身振りを交えて話すと、周りは大爆笑になった。
「しかも、その大騒ぎの最中に・・・・・・よりによってモンスターが襲ってきたのよ!」
「えっ、そんな状況で!?」
シオンが目を丸くする。
「そうなの。普段なら私1人で簡単に倒せる下級モンスターだったのに・・・・・・あの虹色の光と煙、妙な匂いのせいで全員大混乱!」
「そうだった、そうだった!」
カイラスが手を振り回して加勢する。
「煙で前が見えないし、匂いで頭がクラクラするし・・・・・・まともに戦える状況じゃなかった!」
「エルミナは必死に冷静さを保とうとしたんだけど・・・・・・私の杖からは変な泡が出るし!」
ルミアが言えば、リリエルの声が笑いで震える。
「ライアスは自分の副産物で出来た光るキノコに見事につまずいて転んだしね」
「がははは! あれは仕方なかったんだって!」
ライアスが腹を抱えて笑う。
「なんとか倒せたけど・・・・・・今でも不思議なのよ。なんで下級モンスター1匹に、あんな大騒ぎしたんだろうって」
リリエルが首を傾げる。
「いやぁ、一番面白かったのはリリエルだな! 完全に固まって動けてなかったもんな!」
ライアスが追い打ちをかけ、さらに大笑いする。
「ちょっ、言わないでよ!」
リリエルは頬を赤らめながらも、どこか楽しそうに叫ぶ。
「ほんっとに、酷い一日だったわ!」
呆れ声で締めくくるリリエルに、ジャンとルナも涙を浮かべて大爆笑した。
「それにしても、みんな元気そうで何よりだ」
ジャンが嬉しそうに目を細める。
「ジャンとルナは、相変わらず仲が良いですね」
エルミナが言った。
ルナはジャンの腕にしがみつき
「うん!仲良しだもん」
と嬉しそうに言う。
ライアスは豪快に笑い
「若いって良いなぁ!」
と言い、他のメンバーは温かく見守っていた。
再会の喜びも束の間、ここで話が途切れ、ルナの偽物の話題になった。
「ルナの偽物、見つからないの。ごめんなさい」
リリエルが、申し訳なさそうに視線を伏せた。
その言葉に、ルナは少し考え込むような表情を浮かべた。
「あのね、ひょっとして、ヒルダロアの5人組パーティーは、幻覚でも見せられたんじゃないかな?」
ルナの突拍子もない言葉に、カイラスは首を傾げた。
「幻覚!?ギルド長は2度も見たと報告を受けているし、あの似顔絵はどう見てもルナだったぞ」
カイラスの言葉に、ルミアが冷静な分析を加えた。
「でも、この10日間、私たちは偽物を見ていないのよね。もし本当にルナの偽物が遺跡にいるのなら、一度くらいは遭遇してもおかしくないはずだわ」
ルミアの言葉に、ジャンは深く頷いた。
「オレたちは明日、トルナージュへ戻る。フィリーネと合流してから、改めて調査を開始するつもりだ」
ジャンの言葉に、カイラスは申し訳なさそうに頭を下げた。
「チカラになれず、すまん・・・・・・」
「気にするな。それだけ調査しても見つからないのであれば、ルナが言ったように幻覚を見せられただけ、という可能性も十分に考えられる」
ジャンはそう言ってカイラスの肩をポンと叩いた。
こうしてジャンたちとカイラスたちは、ギルド内で別れの挨拶を交わした。
ギルドの外に出ると、空は既に夕暮れの色に染まっていた。
ジャンたちは、今日泊まる宿を探し始めた。
いくつかの宿を巡り、ようやく空いている部屋が見つかった。
宿の主から部屋の鍵を受け取ると、ルナがジャンの服の袖を掴んだ。
「ねえ、ジャン!私、3人で寝たいもん!」
ルナの無邪気な提案に、ジャンとシオンは顔を見合わせた。
「いや、さすがに兄妹で一緒というのは・・・・・・」
ジャンが難色を示した。
シオンもまた、少し困ったような表情で続いた。
「お兄ちゃんも私も、もう大人ですし・・・・・・」
ルナは不満そうに頬を膨らませた。
「ええー!イヤだもん!私、ジャンとも寝たいし、シオンちゃんとも寝たいのに!」
ルナは、真剣に悩んだ末、一つの提案をした。
「うーーーん・・・じゃあさ、シオンちゃんと私がダブルの部屋で寝て、ジャンがシングルの部屋にするのはどう?」
ルナの提案に、ジャンとシオンは互いの顔を見合った。
悪くない案だ。
「それでいいなら、オレは構わないぞ」
「私も、ルナお姉ちゃんと一緒なら安心だよ」
シオンも同意した。
ルナは、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「やったー!決まりだね!じゃあ、後でジャンの部屋に遊びに行くからね!」
ルナの言葉に、ジャンは苦笑した。
結局、一人でゆっくり休む時間はないようだ。
しかし、ルナと妹が楽しそうにしているのを見て、ジャンの心は温かい気持ちに包まれた。
宿に着き、ジャンはシングルの部屋へ、ルナとシオンはダブルの部屋へとそれぞれ入った。
ルナは、シオンと部屋に入ったのも束の間、すぐにジャンとの約束を思い出したかのように、はしゃいだ様子でジャンの部屋へと向かった。
コンコン、と軽くノックする音が聞こえ、ジャンの「どうぞ」という声に続いて、ルナが元気よく部屋に入ってきた。
「ジャン!来たよーーーっ!」
ルナはそう言うと、ベッドに腰かけていたジャンの隣に、躊躇なくストンと座り込んだ。
2人の間隔は、ほとんどない。
ジャンは、ルナの元気な声と、すぐ近くにある温かい気配に、ふわりと笑みをこぼした。
「ああ、待っていたよ。シオンは大丈夫だったか?」
「うん!シオンちゃん、シャワー浴びるって言ってたから、私、ジャンの所に来ちゃった!」
ルナは、いたずらっぽくジャンに寄り添う。
ジャンの腕に、ルナの柔らかい体が密着する。
「シャワーか。オレも後で浴びるかな」
ジャンはそう言いながら、ルナの頭を優しく撫でた。
ルナは気持ちよさそうに目を細め、さらにジャンの体に体重を預ける。
ルナの心臓が、トクン、と大きく鳴った。
ジャンもまた、ルナの背中に腕を回し、優しく抱きしめ返した。
ルナの体温が、じんわりとジャンに伝わっていく。
「ルナ。お前は世界で一番かわいいな」
ジャンの耳元で、ルナがくすくすと笑った。
「ふふ、ジャンったら、照れてるよー」
ルナが顔を上げると、ジャンの視線とぶつかった。
2人の距離は、限りなく近い。
ジャンの顔が、ゆっくりとルナに近づいていく。
ルナは、目を閉じて、その瞬間を待った。
柔らかな唇が、そっとルナの唇に触れる。
優しいキスだった。
長く、そして温かい。
ルナの体から、ふわりと力が抜けていくのが分かった。
キスが終わると、ルナは少し顔を赤くしながら、ジャンの胸に再び顔を埋めた。
「ジャン・・・・・・大好きだよ」
ルナの囁きに、ジャンは優しく微笑んだ。
「オレもだ、ルナ。スキだ!」
2人はしばらくの間、そうして抱きしめ合ったまま、互いの温もりを感じていた。
ギルドでの再会の喜びも、シオンとの激しい戦いも、今は遠い出来事のように感じられる。
この穏やかな時間が、2人の心を満たしていた。
しばらくして
「バイバイ。また後で来るかも?」
そう言い残し、ルナは軽やかに部屋を出ていった。
静けさが戻る。
ジャンはひとりベッドに横たわり、天井を見つめながら考えを巡らせた。
古代文明の遺跡か、そしてルナの偽物。
何の目的がある?
カイラスたちが探しても見つけられなかったというが、オレとルナなら、あの中で必ず見つけられる気がする。
いや、ルナが言っていたように、ただの幻覚を見せられただけなのかもしれない。
答えの出ない思索を続けるうち、まぶたが重くなり、気づけば深い眠りに落ちていた。
翌朝・・・。
隣に気配を感じて目を開けたジャンは、思わず息を呑む。
シオンと一緒に寝たはずのルナが、すぐ横で安らかに眠っていたのだった。
いつ、ルナが来たんだ?
ジャンが寝ぼけた頭でそんな疑問を抱いていると、勢いよく扉が開いた。
血相を変えて飛び込んできたシオン。
「ルナお姉ちゃんがいな・・・・・・い・・・・・・」
そこで言葉を詰まらせた。
ベッドで幸せそうに眠るルナを見つけると、ようやく安堵したのか、小さくため息をつく。
「朝起きて、ルナお姉ちゃんが消えてたと思ったら、こんなところで幸せそうに・・・・・・もう、人騒がせなんだから」
そう呟いて肩を落とし、シオンは部屋を出て行った。
そんな慌ただしい朝だったが、やがてルナも目を覚まし、朝食を済ませると、準備を整えて、3人は宿を出発した。
ルミア「まずは今回も読んでくれてありがとう。読んでもらえるって、本当にありがたいことだわ」
エルミナ「一時は、シオンがジャンとルナの敵になるんじゃないかって、本気で思ったもの。あの雰囲気は不穏すぎたでしょ」
リリエル「本当よね。でも実際は“ふたりの実力を確かめたかっただけ”って聞いて、私もほっとしたわ。あれで敵だったら、取り返しがつかないことになってたもの」
ルナ「だよね! シオンが“敵みたいに見えた”だけで、心臓ぎゅってなったんだよ!
私とジャンのことを急に試すなんて、びっくりするに決まってるもん!」
フィリーネ「シオンは極端な行動を取りがちだけれど・・・・・・まあ、あの子らしいわね」
リディア「ほんとよ。騒がせる子だよ。でも結局は何事もなくてよかったでしょ? ふたりが無事なら、それで十分だよ」
ソフィア「それでは・・・えっ?ま、待ってください・・・・・・ここで私の出番が終わる流れでしょうか?」
ルミア「えっ? 違うのかしら?」
エルミナ「まあ・・・、締めに入る空気は確かにあったわね」
リリエル「ソフィア、もっと喋りたいの?」
ソフィア「そ、そういうわけでは・・・・・・ないんですけど!
でも“一言だけで退場する人”みたいになるのは・・・・・・“空気のようにフェードアウトする女”みたいになるのは・・・ちょっと・・・」
ルナ「わかる! ソフィアってそういうとこ気にするよね!」
フィリーネ「意外と、じゃなくて。だいぶ気にする方よ。可愛いけどね」
ソフィア「ちょ、ちょっと! この場で私のキャラ診断しないでくださいっ!!」
リディア「まあまあ。じゃあソフィア、締める前に一言どうぞ。ね?」
ソフィア「は、はい・・・・・・えっと・・・・・・
こ、今回も皆さんが読んでくださったおかげで、私たちは元気です! 以上です!」
ルミア「うん、それで十分よ。あなたらしいわ」
エルミナ「じゃあ、そろそろ締めましょうか」
リリエル「ええ、いくわよ!」
全員「次回もお楽しみにっ!」




