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王の名前を  作者: あまやどり
終章 堕天大戦
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砕けた日常

 某日午前。

 数日が平和に過ぎた。イデアは料理が楽しいらしく、毎回新しい料理にチャレンジしている。成功とは言い難いものもあったが、腕前は上達してきた。現代の味覚に慣れてきているのだろう。腕まくりをして、野菜とあさりを用意する。


「さて、今日はきんぴらゴボウに挑戦……」


 言い差して、動きが止まる。血相を変えて窓に取り付いた。絞り出すように言う。


追い付かれ(・・・・・)ました」



* * * * *


 同日同時刻。

 蓮は読書に勤しんでいた。ソロモン王子とイデアが来てから早1月。イデアが予見した「悪霊の王」は未だ姿を見せない。


「案外、道にでも迷ってるんじゃないか?」


 などと呑気に考えつつ、竹本健治著「ウロボロスの純正音律」を読んでいた学校の昼休み。気付いたのは、窓側の席の生徒たちだった。


「お、おい、なんだあれ?」


 ざわつきが伝播する。窓に目をやると、空に大きな亀裂が入っていた。差し渡し何百メートル、いや、何キロメートルあるか見当もつかない。亀裂は蜘蛛の巣状に広がってゆく。


「ゆ、夢じゃねえよな? はは……」


 白谷が力なく笑うが、誰も答えることができない。


 (つい)には空が砕けた。その空洞から、黒い光、としか形容のしようのないものが放たれる。

 黒い閃光に目を焼かれながら、蓮は見た。光に吞まれた町が様相を変えてゆくのを。飽きるほど見慣れた町並みが、石造りの民家が立ち並ぶ景色に。校舎も、知らぬ間に教会のような建物に置き換わっていた。


 そして遥か彼方に、幽かに見える王宮。

 一変した異国の景色は決して麗らかなものではなく、炎と雷に取り巻かれている。


「うっひゃー、見るからに終末ってワケ」


 三船玲(みふね・れい)が窓から身を乗り出してはしゃいでいる。


 蓮は光景にではなく、現象に覚えがあった。不本意ながら数度、この異常世界に招待されている。


「アティルト界……!」


 星遊体(エーテル)を基に造られた仮初(かりそめ)の世界。


「だがこの広さは異様だ。どこまで続いてるんだ?」


 ハルファスやフォルネウスのアティルト界は、広さに限りがあった。だが展開されているものは地平線の彼方まで異界が広がっている。


『指輪の力だ』


 デカラビアが姿を見せる。


「やっぱりそうか。悪霊の王とやらが、ついにイデアを見つけて追い付いてきたんだな?」


 ソロモン王から指輪を奪った悪霊。エメラルドの翼もつ大天使ミカエルの貴慮でソロモン王は現代に逃れることができたが、執念深く居所を探っていた。ソロモン王ことイデアは「自分を恨んでおり、必ず見つけ出して襲ってくる」と予言したが、いよいよそれが現実のものとなった。


「しまったな。分断された形になったか」


 イデアは蓮の自宅にいる。


――イデアは「今度は倒す方策がある」とか言ってたけど。


 その点も気にかかっていた。


* * * * *


 イデアは呆然と変貌した神無市を眺める。懐かしい日干しレンガ(アドべ)や石材でできた家並み。壁に塗られた石膏の臭い。そして何より、遥か先に見える王城。


「まさか、再び見ることができようとは……」


 炎に包まれ、雷に苛まれ、滅亡に瀕してこそいるが。


「ここは、わたくしの……古代イスラエル王国!」


* * * * *


 蓮は教会と化した教室の壁面に触れてみる。


「石を積んで、泥とかを塗ってるのか。木材がほとんど使われてないのは気候のせいかな」


 古代イスラエル期では木材が貴重だったため、庶民の家出はあまり使われていない。富裕層が輸入した木材を使う程度だった。


「つまりこのアティルト界は、乾燥帯……たぶん、古代イスラエル王国を模して造られている」


 結論を出す。だが、動機には辿り着けない。


愈々(いよいよ)始まってしまったであるな』


 デカラビアは相変わらずゲームをしている。だがいつもと違い、高慢な性格は鳴りを潜めていた。


『余がこのゲームというものを気に入ったのは、筋を追って進めてゆけば必ず攻略できるからである。その先にはエンディングがある』


「でなきゃクソゲー認定されるからな」


 なにか伝えたいことがあるのだろうと、会話を続ける。


『だが現実はこうは都合よくいかん』


 画面から目を離し、単眼で蓮を見つめた。


『よいか。イスマレン。キサマは決して勝てぬクソゲーに足を踏み入れようとしておる。待っておるのは破滅だ』


 居丈高でない、真に事実のみを述べるような口調。蓮に分かることはただ1つ。デカラビアはイデアの言っていた「悪霊を倒す方策」を信じていない。


『だが、王に協力せず、何もせず。どこかで震えて縮こまっていれば、或いは寿命を全うすることができるやも知れんぞ』


「で、2千年前から来た王様に丸投げか?」


 蓮は鼻を鳴らす。


「お前が“怯懦(きょうだ)である!”って一番嫌いそうなやり方じゃないか」


『キサマこそ、本さえあれば幸せなのであろう?』


 手にした奇書を見つめる。その考えは今でも変わったようには思えない。だが。


「本はいつでも読める。だが、伝記中の人物と行動を共にするなんて、今じゃないとできないからな」


 やはり蓮は変わりつつあった。




 生徒たちがこぞって外に出る。


「きゃー! 面白っ!」


 歓声を上げているのは三船玲(みふね・れい)だけ。


「はは、なんだよ、CGみてえ」


 大半は白谷のように、変化についていけない状態だった。蓮は冷静に観察する。建物や道こそ厳めしく昔の造りだが、車や自転車、そして人はそのままに残っている。


「全部昔に戻ったってコトはないのな」


 造り主の精神を反映しているのであって、昔に忠実に造らねばならないわけではない。


『存外、悪霊の王とやらも事情があって古代イスラエル王国の・・・・・・・・・・・ことを詳しく知っておらん(・・・・・・・・・)のではないか?』


「そんなわけないだろ」


 蓮は一考もなく否定したが、この台詞はデカラビアなりの助言であった。


『のんびりしておって良いのであるか?』


「お、そうだ。イデアに合流しないと!」


 スマホで通話を試みる。こういった事態のため、蓮はイデアに携帯電話を1台渡していた。が、やはり繋がらない。


「くっ、アティルト界だから携帯電話基地局がないのか」


『その通りだ。ここはアティルト界である』


「知ってるよ」


 学校外の様子を窺いながら、返事をする。


『そして造り主は、()のソロモンの指輪を持つ』


 悲鳴が上がった。金属製の獅子が校門を噛み破って侵入してきたのだ。


「なんだ?」


『イポスであるな』


 序列22位の堕天使イポス。別名アイぺロス。金属の獅子の身体にガチョウの脚、兎の尻尾を持つ。獰猛、迅速を司る。

 手近な生徒に襲い掛かり、剣のように長い牙で胴体を嚙み千切った。


「ぎゃー!」

「ひぃぃい!」


 恐懼(きょうく)する生徒たち。


『ここの若造どもは運がない。イポスは会話が通じぬ。“殺せば全て解決”が身上のヤツであるからな』


 イポスは獰猛で、戦いに物を言わせて会話等が通じないとされる。


「なぜ堕天使が……」


『先刻、悪霊とやらが堕天使(われわれ)に呼び掛けてきたのだ。“自分と契約すれば、仮初(かりそめ)の肉の器をくれてやる”とな』


 堕天使を支配できるソロモンの指輪ならば、それが可能である。


「じゃあ、イポスは悪霊と契約したのか!」


 生徒を食い散らかす鋼鉄の猛獣を眺める。


「デカラビアは?」


『撥ねつけてやった。どうやら悪霊王は指輪の力を完全に使い(こな)せておらんようであるな』


 真に指輪に認められていれば、堕天使の意志など置き去りに契約ができる。かつてソロモン王がそうであったように。


『だが、“悪性”の堕天使たちは大半が向こうについたであろうな。願ってもない好条件であるからして』


 実体が持てる。何より、ソロモン王に復讐ができる。


「つ、つまり……」


 蓮は唾を飲み込んだ。


「このアティルト界には実体化した悪性の堕天使たちが何十体もいて、そいつらは全部敵ってことか……?」

「1柱でも多くの堕天使を出す」を目的に書きました(笑)

今後も大量の堕天使が出てきます。

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