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王の名前を  作者: あまやどり
第八章 賢王対最古の王
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「王の名前を」②

かなり間が空きましたが②です(/・ω・)/

「さて、どのように追い詰めていくかですが――」


 そこで、スマホが着信を告げた。警察関連ではない着信音に、伏木は顔色を曇らせる。


「……はい。伏木です。……ええ、先生にはいつもお世話になっております。運埜(うんの)君のことで何か――」


 やり取りする事暫し。


『どうした? 蒼白だぞ』


 通話を終えた伏木は紙よりも白い顔をしていた。


「…………いえ、こちらの都合です」


 言いながらも、諦観を色濃く漂わせている。


「ところでご老人、提案があるのですがね――」



 * * * * *


「すみませんねえ、何度も伺って」


 蓮が驚愕したのは、伏木の再訪問についてではない。


「僕の相棒が、話があるということでして」


 伏木の隣にいる、威厳のある老人の姿を認めたからだった。


「伏木さん、契約者……?」


 だとすると、堂々と堕天使を伴ってきた――しかも引き返してまで――思惑が皆目わからない。パニック寸前の脳みそをどうにか(なだ)める。


「はい。先程は言う機会に恵まれなかったので口を噤んでおりましたが」


 臆面もなく言ってのける。


――なんだ、この違和感は?


 だが、ついさっきの伏木とは何かが違っていた。怜悧(れいり)な刃物のような印象だったが、いまはどこかしら捨て鉢になっている気がする。


「契約者?」


 イデアが玄関に駆け付ける。老人を見て、目を見開く。


「アスモデウス!」


『おお、久しいな我が王ソロモン!』


 諸手(もろて)を挙げて再会を喜ぶ。だがイデアの方はその懐に飛び込んでいったりはしなかった。


「アスモデウス」


 何となく見覚えのある姿。しかも聞き覚えもあった。出会って間もないときに、イデアの口から聞いた記憶がある。


――この姿では押し出しが利かないので、普段はアスモデウスに代役を務めて貰っていたのです



「ああ、ソロモン王の影武者をしてたって堕天使か!」


 つまり後世での「ソロモン王」とはアスモデウスの姿のことを指す。威厳のある姿に蓄えた美髯(びぜん)は、蓮がいつぞやネットで見たソロモン王の肖像画に似ていた。余人が少女と老人を見比べれば、100人が100人とも老人の方をソロモン王と認識することだろう。


『国と運命を共にすると決めつけておったが、変節したのだな、我が王。いや、いずれにせよこれほど喜ばしいことはない!』


 堕天使は、ソロモン王が指輪によってこの時代に送り込まれたことを知る由もない。言葉だけならば慕っているようにも取れる。だが、老人の表情、雰囲気は、イデアに対する殺意で溢れていた。


「まさか、カークリノラースと戦ったのは」


『うむ、儂だ。あの駄犬には感謝せんねばな。こうしてソロモン王と引き合わせくれたのだ』


 カークリノラースが敗れたことも含めて、最悪の展開だった。



「随分と魔力を蓄えているようですけれど、ここで一戦交える気ですの?」


 イデアも、端から対話は諦めている。それほどの段階を踏んだ2人なのだろう。

 黄金の盾を出そうとする。蓮も伏木から距離を取って身構えた。デカラビアの証言によると、堕天使の殆どはソロモン王を恨んでいる。


『では往くぞ、ソロモン王よ!』


いいえ(ロー)。いまのわたくしはソロモン王ではありません」


 まさに土壇場、イデアが訂正してみせたのは単に律儀な性格故であり、何の思惑もない。


『―――――なに?』


 だが、アスモデウスは目に見えて動揺した。


「指輪を奪われ、国も喪ったこの身にソロモン(平和を満たすもの)が重荷でしかなく。名をイデアと改めました」


 敵である堕天使にとって、大した報告でもないだろう、と蓮は思い込んでいたが。


『……なんと』


 最古の王は動きを止め、絶句していた。


『ソロモン王の名前を(・・・・・)捨てただと? 大いなる神から授かった威名を……?』


 この時蓮は、堕天使も「天を仰ぐ」行為をするものなのだと益体のないことを考えていた。今にも飛び掛からんばかりだった老人から、見る間に闘志が(しぼ)んでゆく。


『……では、この小娘は既に残骸か? しかしそれではこの数千年ぶりに(たぎ)った戦意をどう鎮めればよいのだ』


 精神と現状の折り合いを模索しているらしい。


「それは貴方の内面の問題でしょう。“ソロモンの宴会”の失態だって、親族に挑発された貴方が……」


 過去の出来事を担ぎだしての口論が始まる。ややあって。


『興が削がれた。明日、決着をつけるわい』


 戦うことは否定しなかった。


「「え?」」


 半端な日延べに困惑の声が重なる。


『不本意極まりない部分もあるが。このような粋な奇跡は最早2度あるまい。精々納得の行く形で決着をつけたいものだ』


「なんか、随分と人間臭い堕天使だな」


 率直な感想を漏らす。


『うむ。年齢の割に気は若々しいと評判だ』


 最古の王が頷く。恐らくそれは悪口の類だろうと思ったが、言わないでおく。


『待つ以上、言い訳は通じぬ。譬え王、いやさ小娘の魔力が尽きておっても手は抜かん。はあ……』


 深いため息を吐き、幾分肩を落とした。

どうやら延期は、彼自身が気持ちを整理するためにも儲けたらしい。


――参ったな。イデアの魔力、ほとんど回復してないんだぞ。


 イデアは辰串を父親仕込みの格闘術で撃退した。それは取りも直さず、魔力が尽きている事の証左に他ならない。


『幸い、儂は大量の魔力を蓄えておる。アティルト界での実体化も造作もない』


 アスモデウスは、伏木が始末してきた契約者たちの魔力を得ていた。ただそれは習性のようなもので、使うことになるとは思ってもみなかったのだが。


「今回僕は傍観者です。乗り気なのは相棒でしてね」


 伏木は静かに告げた。アスモデウスの暴走とも取れる行動を野放しにしている。


「じゃあ、伏木さんは戦わない?」


「はい。舞台装置のようなものと認識していただければ。例えば、お2人が決闘をすっぽかして逃げようなどと考えれば、警察に手を回すことになります」


 権力を濫用すると、はっきり宣言された。冤罪、証拠の捏造、逮捕。状況を捏造しての射殺。

 警察が敵になる。それは、未成年の蓮や国籍すら持たないイデアにとって絶望的な事態である。もっとも、伏木の地震1つでこの家を瓦礫の山にすることもできたのだが。


「アスモデウスは契約者に強大な力を与えます。それも単純故に強力な暴力を。普通に戦ったらまず勝てません」


 イデアの耳打ちで、蓮は抵抗を諦めた。自分が僅かでも逆らう素振りを見せた瞬間、地獄に移住を余儀なくされていることだろう。


――無理だ。


 イデアの改名が妙なところで有余を得ることに繋がった。それでも、正々堂々戦ったところで勝ちの目はない。


「分かりましたわ」


 だが、承諾以外の選択肢がないことも事実だった。


 ソロモン王と「最古の王」アスモデウスの決闘。全く予期せぬ事態が勃発した。


問題:伏木京ふせぎ・きょうのアナグラム元はなんでしょうか?


正解:不行跡ふぎょうせきでした(/・ω・)/


ちなみに、息子の伏木運埜ふせぎ・うんの機能不全きのうふぜんです(/・ω・)/

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