表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の名前を  作者: あまやどり
第六章 血戦! フライングシャークvs宇宙ヒトデ
39/60

出宇多凡人(いでうだ・ぼんど)の核

これにて6章は終幕です(/・ω・)/

 新たなサメが、船長めがけて乱杭歯をギラつかせる。


「そいつは守ってくれ!」


 ランのときと違い、見捨てようとはしなかった。


「オル・フレヴネ!」


 黄金の盾をフリスビーのように飛ばす。サメに激突して軌道を僅かに反らすことに成功する。船長の足を齧り取って船底に落下していった。


「これで魔力(ケセム)が枯渇しましたわ。頑張ってもあと1回が限界です」


 傾き始めた船体共々、これ以上の籠城は不可能に思えた。


「うぬっ……」


 苦悶に顔を歪めるタグネイ船長。


 クルーザーは惨憺(さんたん)たる有り様だった。屋根は9割がた破壊され、穴も各所に空いている。浮いているだけでも僥倖(ぎょうこう)だが、浸水は既に始まっていた。


 グレット博士と褐色美女のフィーは傷だらけになりながらもどうにか生きている。タグネイ船長は片足を失う大怪我だった。

 ラン、レイ、ジョーの若者3人は既にサメの腹に引っ越している。


『ハッ、ありゃー5分もしねえうちに海の藻屑だなあ。ちっと物足りねえ』


 手を下すことなく勝利が転がり込んできそうなフォルネウスは、つまらなそうに舌打ちをした。




「“核”が分かったのですわね?」


「ああ」


 冷静に頷く。


「このB級サメ映画アティルト界は、出宇多の精神世界だ。キャストも、出宇多の心を反映している。気力(えねる)のときの、核となっていた欲望は“人を撃ちたい”だった」


「ずいぶんと物騒な欲望ですわね」


 眉を(ひそ)めるイデア。


「でも気力みたいな異常者と違って、普通はいろんな感情が複雑に絡まり合ってるもんだろ?」


「では、ここの皆が極端な性格だったのは、その影響でしょうか?」


 違和感に気付いていたらしい。


「ああ。ヒントは名前だ。いつも楽しそうで楽天的だったジョーはジョイ(喜び)。終始イライラしてたレイはレイジ(怒り)。恨み節ばっかのランはランカー(恨み)。感情の名前だったんだ。だがいなくなったこの3人の感情は、出宇多の核じゃない」


 英語の授業で習ったところである。恐らく出宇多も、それを憶えていたのだろう。

 群羽と新洋に対する、或いは救済してくれない教師への恨み。怒り。

 残ったものの中に、感情の核となるものがいる。


「嘆いたり悲鳴を上げてばかりのフィーはフィアー(恐怖)。後悔してばかりのグレット博士はリグレット(後悔)虚仮(こけ)脅しで何の行動も起こさないタグネイ船長はスタグネイション(停滞)


 群羽と新洋に利用された1年を棒に振った、停滞を強いられたを恨んでいた。また、凶行に走ったことを後悔していた。


「では、3人の誰かが?」


「いや」


 蓮は否定した。タグネイ船長を助けるようにわざわざ指示したことから、船長が核であるとイデアは予想したのだが。

 蓮は傾いたデッキを歩き、船長に近づく。


「俺が守って欲しかったのは、こっち」


 タグネイ船長がずっと睨めっこをしていた、BCSの前に立った。操船補助通信機器“エンカ”は変わらず雑音を流し続けている。


「つうしんきが?」


「ああ。出宇多凡人(いでうだ・ぼんど)が今わの際に言ってたんだ。名前の由来をさ」



――せっかく、絆の、ボント、名前つけてくれた、のに。じ、自分で人との絆を、断ち切って……。



 BCSに触れると、まるで生物のように脈動した。



「エンカ。“演歌”じゃなくて、エンカムブランス。訳は、妨げ、障害、負担。そして、()だ」




『ゲゲーイッ? アイツ、もう“核”を見つけやがったか!』


 フォルネウスも異変を察知した。核の場所はフォルネウスも知らなかった。アティルト界を造ったのはあくまでも出宇多であり、堕天使は人間の精神などに興味を持たないからだ。事前に知っていたなら、海の底にでも沈めていたはずであるが。


『のんびりしてるヒマはねーな!』


 核を破壊されれば、アティルト界は崩壊してしまう。


『破壊される間に殺ってやらぁ!』


 未だ身体は完全に出来上がっていなかったが、フォルネウスは突撃した。張力を操り、巨体ながら水面を滑るように移動する。


『よしよし、まだ壊してねーな!』


 蓮が核を破壊する前に奪い返せばいい。速度を緩めることなく船体に激突した。大穴を開ける。そこで蓮と目が合った。強襲にも狼狽(うろた)えていない。突き出た鼻先が、巨大な黄金の盾に激突して止まる。無論、ロケルによって巨大化させられた黄金の盾である。


「いらっしゃい。魔力不足(低予算)のヘボ監督」


 ニヤリと笑まれて、フォルネウスは悟る。


――誘い込みやがった!


 核を人質にされて、フォルネウスは短絡的に突っ込むことしか頭になかった。

 そこを待てば、小細工なしに距離を詰めてくれる相手を迎撃ができる。最初にして最高の好機。


 もっとも、迎撃に足る戦力がなければ、虎口に自ら首を差し出す行為と何ら変わりがない。

 蓮が左腕のクロスボウを構えた。


『ハッ! んなチンケなオモチャで、オレ様の鮫肌に傷1つつけられると――』


 装填されている矢が違う。今発射されようとしている矢は、今までのものと違って真っ赤な色をしていた。

 狩猟の堕天使ハルファスの最も好む、血の色に。


『そ、その矢はなんでえ?』


 矢から、尋常ではない魔力を感知する。


「見て分からないかい? 切り札だよ」


 ハルファスが与えた魔術は2つ。クロスボウとこの赤い矢“魔弾”であった。

 この矢は10メートルしか飛ばない。ただし、10メートル必ず飛ぶ(・・・・)。たとえ、その間にどのような壁や障壁、堅牢な堕天使の胴体があったとしても。


 狙いを、大きく開けたフォルネウスの口に定めた。


『テメー! よくも謀り……』


くたばれ(ラーザゼル)!」


 発射された赤矢はフォルネウスの口内を突き破り、分厚い脂肪、内臓を全て貫く。サメの巨体を貫通し、10メートルちょうどの距離で落下した。


『テメー、わざと……核を破壊するのを遅らせやがったな?』


「B級映画と安眠妨害のお礼をしとかなきゃ、って思ってさ」


 そのためだけに。命懸けの対決をした。赤い矢(切り札)があったからとは言え、相当の覚悟を要したに違いない。


『しゃーねー、今回はオレ様の負けにしといてやる』


 イデアが核を破壊し、アティルト界が崩れてゆく。



 世界が崩れるとそこは、いつものリビングだった。


魔力(ケセム)不足に助けられましたわね。本来であれば、フォルネウスは“すべての事象を凍結させる”恐ろしい魔術を行使できますもの」


 なぜかパジャマ姿のイデアが隣にいた。


「うへえ、けっこう薄氷の勝利だったのか。……で、なんでイデアがここで寝てるんだ? 寝室を明け渡しただろ」


 寝落ちしていたときに読んでいた本を探し始める。


「アティルト界に招待されるためです」


 大雑把なフォルネウスが蓮をアティルト界に引き込むならば、精々座標の指定ぐらいだろうと踏んだ。ならば蓮に接触していれば自分も“巻き込んでくれる”のではないかという目論見は図に当たった。



『お、生きて還ってきたであるな』


 テレビでゲームをしていたデカラビアが声をかけてくる。


「御挨拶だな、一発屋」


 怪光線一発でガス欠になったデカラビアを半眼で睨む。


『海洋冒険ロマンはどうであった?』


 訳知り顔で訊ねてくる。


「ドコが海洋冒険ロマンだ。秘宝じゃなくて悲報があっただけだ。夢とか財宝とかの代わりに、低予算と悪ノリ満載の、とんでもないB級サメ映画に付き合わされたって悲報が」


 布団に潜り込む。


「今日はもう店じまいだ。寝なおそう」


「はーい」


 当然のようにイデアが一緒に入ってきたが、追い出す気力もなかった。窓を勝手に開けて入ってきた黒猫バエルも、蓮の腕を枕に眠り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ