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王の名前を  作者: あまやどり
第六章 血戦! フライングシャークvs宇宙ヒトデ
36/60

B級の世界

サメ(コーレシュ)の映画?」


 蓮に説明を求めるイデア。テレビには馴染んでも、映画というジャンルにはまだ触れたことがなかった。


「えっと、いわゆる“サメ映画”って娯楽のジャンルがあるんだよ。サメが人間を襲うっていう」


「人が襲われるのを娯楽、ですか? どこの暴君の思考ですの」


 字面だけ捕えれば、確かに異常なことに思えた。


「えーと、チープさを楽しむというか。特殊な楽しみ方があるんだ」


 説明の最初から(つまづ)く。


「とにかくこの場には、そのシチュエーションの定番キャストが揃ってるんだ」


 「まあ大半は“エサ枠”なんだけど」と続けることはしないでおいた。


 サメ映画は“ジョーズ”などの有名タイトル、傑作は稀で、一般的には低予算のマニア受けを狙ったニッチなジャンルと認識されている。今のような「故障して孤立した船」などはテンプレートとも言えるシチュエーションだった。



 一際大きなサメが水面から飛び上がった。自然の鮫と比べてヒレが大きい。が、なぜか上半身までしかなかった。


『ハッハー! ゴキゲンなアティルト界じゃねーか!』


 フォルネウスである。上半分だけの身体で、器用にエキサイトしている。


「いや、フィールドの99%が海ってどうなんだよ。そっちに有利すぎるだろ」


 文句を言いたくなる蓮だった。


『文句はイデウダに言いやがれ。地獄で再会してなあ!』


 海面で暴れている。


――そうか。この海も出宇多(いでうだ)の心象を表しているのか。


 幸い、すぐに突撃する気配はなさそうだった。


『ココは魔力(ケセム)が薄いんだよ! ぜんっぜんカラダができねえ!』


 ヒレを海面にぶつけて怒っている。


「なんだ、魔力貧乏か?」


 妙な造語を生産する蓮。


「契約者から少量の魔力しか奪えなかったのでしょう。“溺死者(ダウニング)の召喚”によって限界まで魔力を搾り取られていたようですから。フォルネウスはその残りカスを(かす)め取ったに過ぎません」


 イデアは出宇多の終着からそう結論付けた。



 フォルネウスばかりに都合が良いシチュエーションでもないようだ。とは言え、海を挟んで向かい合っている蓮に移動手段はない。


――猶予ができたと割り切ろう。核になってるものを探すのが先決だ。


『まー、しばらくテメーらが手下どもとじゃれあってるのを観劇しといてやらあ』


 サメが水しぶきを上げてクルーザーに襲い掛かってきた。

 襲ってきたのは変哲のないオグロメジロザメ。


「サメよ、レイ! サメが来たわ!」


 褐色美女のフィーが台本のような悲鳴を上げる。


「任せとけって! カマボコにしてやんよ!」


 水中銃片手に飛び出して行くヤンキー青年。


「お前にだけいいカッコはさせねえぞ!」


 ランもショットガンを担いで駆け出す。2人の青年は張り合っているらしい。


 蓮は彼らを尻目に、さっさと船内に引き返した。


「彼らではサメには勝てないのですか?」


「勝てたら映画が終わってしまうからね」


 べたなこと言う。この時点では、蓮は配役の生死を重要視していなかった。


「おっしゃー! どうだ!」

「キャー! ステキよレイ!」

「ボサッとすんな、次が来てるぞ!」


 甲板では戦いが繰り広げられている。



出宇多(あいつ)は殺意に溺れてた。海は殺意の形容かな」


 2回目ともなれば、蓮の把握も早かった。


「するとこの船は殺意に吞まれてない、理性の象徴……? だとすると、船を沈められるのはマズい!」


 優先順位を決めようと考えを巡らせる。


「あの方たち助けなくて良いのですか?」


「んー? 大丈夫だよ。本当に生きてるわけじゃなし。マネキンみたいなもんだから」


 船内を物色しつつ、気のない返事をする。


「ですが、レンも言っていたでしょう。“アティルト界に核がある”と」


 イデアはキャストが気にかかるようだった。


「言ったよ?」


「その核とやらが、あの方たちの誰か、ということも有り得るのでは?」


「……あ」


 少々の沈黙。「この世界に在る」という点で、ぱんだのぬいぐるみも星条旗ビキニの美女も差はない。


「そうか。核はモノとは限らないんだ! こりゃ出宇多を笑えない」


 ハルファスと戦った際の経験が、逆に先入観となっていた。「成功体験が足を引っ張る」と訳知り顔に言ってのけた蓮自身が、ハルファス戦での成功体験に足を引っ張られていた。


「危ない危ない。俺1人だったら平気で見捨てるところだ」


「……役職を“王の右腕”から“王の右足小指”に格下げいたします」


 半眼で告げられる。


「何階級降格されたんだ、それ」




 急いで甲板に戻ってみると、サメがレイの片足に噛みついて、木切れのように振り回していた。サメの腹部にはタコの足のような偽足が何本も生えていて、それの吸盤で船体に貼り付いている。


「えらいマニアックなサメだなあ。出宇多のヤツ、キワモノB級サメ映画のファンかよ」


 思わずぼやく蓮だが、キワモノ趣味で人のことは言えない。


「うああっ! チクショー!」


 ランがショットガンで応戦するが、鮫肌はびくともしない。蓮も鮫の至近距離まで近寄る。


「敵対者ロケル!」


 展開すると、魔方陣に顔を寄せる。


「わっ!」


 叫ぶ。拡声器替わりに10倍加された叫び声は音波の大砲とも呼べる威力で、サメは身体を痙攣させた。


 ロケルは、通過したものを拡大・縮小させる。それは物体に限らなかった。デカラビアにヒントをもらって気付いたことであるが、蓮が設定すれば音や光の増幅も可能である。



「お見事」


 イデアがロケルの使い方に感心する。


「サメに耳はないけど内耳が発達してる。今のは堪えたろ」


 「鮫の最も優れた器官は聴覚である」という学説もあるほどに優秀な耳が、却って仇になった。加えて、音の中心から外していたのでレイには大きな被害はないはずであった。


「……サメって、吸盤で登ってきたりしませんわよね?」


「B級映画のサメは無法地帯だぞ」


 以前思い浮かべた「フライングシャーク対宇宙ヒトデ」が現実のものとなり、蓮はげんなりする。


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