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王の名前を  作者: あまやどり
第六章 血戦! フライングシャークvs宇宙ヒトデ
30/60

溺死する女

 ゲーセンで時間を潰していた白谷は、思わぬ人物に声をかけられた。


「おうおう、白谷クン。イスマっちとおデートしてたんだって~?」


 三船玲(みふね・れい)が白谷に絡む。相変わらずの地獄耳だった。脱衣麻雀を邪魔され、ファッション不良は露骨に嫌な顔をする。三船玲は目立つ存在であるが、人物評が難しい。そのときどきの必要に応じて人気者になったり嫌われ者を演じたり、立ち位置をカメレオンのように変える。

 顔のない女。なまじ美人であるだけに、無軌道さがいっそう際立つ。質の悪いことに、所見ではなかなかそれに気付けない。


「デートじゃねえ! くっちゃべっただけだ」


「この前ちょーっとケンアクだってってーのに、アタシに黙っていつ和平交渉したワケ?」


 交戦でも和平でもなく、無条件降伏したんだよ、などとはファッション不良のメンツにかけて言えない。


「で? で? なんのお話してたのよう?」


 不良にも臆せずずけずけと踏み込んでくる。ミニスカート、胸元の開いた服を着ているのも、計算のうちなのかも、と思い始めると全てが怪しく思えてくる。


「言わねーよ。カルく相談されただけだ」


 口を滑らせようものなら、蓮と交戦となる。




――コッチを見たままの返答。ホントね、きっと。


 同時に、三船は確信する。


――2人の格付けは済んだってワケ。


 白谷のようなタイプは、格下の頼まれ事など相手にしない。蓮の方が優位にある、と認めているようなものだった。


「ひょっとしてー、ヤバめの内容だったりするワケ?」


「……んなことあるわきゃねーだろ」


――目線が右上に泳いだ。ヤバめの相談だったワケね。


 三船は探偵社の経験から、我流で嘘の見分け方を身につけていた。「ヤバめの相談」であるなら、是が非でも聞き出したい。カードを切ることにする。


「おトボケはだーめ。アンタさー、校則で禁止されてるバイク通学してるワケよね?」


 白谷の耳元で囁く。顔色を変えた。


「な、なんでンなこと……」


 誰にもバレてないと思い込んでいた。


「50㏄のスクーターだっけ? 音があまり出ないヤツ。学校近くのスーパーの駐車場に、いつも勝手に停めてるワケ」


 猫がネズミをいたぶるように追い詰めてゆく。


「う……」


「お店が怒って、犯人探しが始まってるワケ。チクっちゃおうかしら。そしたらアンタ、生徒指導室(別室)行きじゃない?」


 素行不良が平常運転の白谷は生徒指導室の常連である。


「あ、あとホラ、先週中学生の子を恐喝してたとかも……」


 特に、「外」での素行不良に関して、学校の目は厳しい。


「や、やめてくれよ! 俺、先月も別室に吸い込まれてたんだから」


 あまりに度重なると進学や就職に支障をきたす。将来と引き換えにするほど突っ張る度胸を、ファッション不良は持ち合わせていなかった。


「だったらキリキリ白状なさい。だいじょぶ、誰にも漏らさないワケ」


 同じことを蓮にも言われたが、これまた同じぐらい信用ならない。だとしても、この空手形に(すが)る他はなかった。




「ほへー、去年のクラスのコトをねー」


 特に人間関係について重点的に聞き出したらしい。


「お、おい、何度も言うけどよ。このことは絶対……」


「言いふらすな、でしょ~? アタシを信用するワケ」


 信用しようのない実績の持ち主は、白谷の視線に見送られてその場を後にした。





 三船玲は「好奇心の化物」を自認している。彼女にあるのは「知りたい」という願望のみであり、知りえた優位性や利得は、次の「知りたい」に消費されてゆく。

 「なまじ金銭を目的としていないぶん、余計に質が悪い」と居須磨蓮ならば評するところであろう。


「つくづく外道だね、アタシは。マスゴミにでもなるしか生きる道はないかな?」


 いつか、「知ってはいけないこと」にまで首を突っ込み、自滅するだろう、と他ならぬ本人が予感している。


「将来はコンクリ詰めでトーキョー湾にドボン! いいねいいね。これから暑くなるし水葬も乙なワケ」


 やはり倫理観が破綻していた。彼女にとって「身の安全」は「知ること」より優先事項ではない。




「やっぱ本命はコレなワケ。群羽と新洋の溺死」


 学校で話したとき、明らかに蓮の反応は変だった。

そして、行長教師殺人事件。短いスパンで起きた事件であり、関連性は高そうだ。


「白谷に相談ってコトは、学校に関係あることだろーし」


 蓮と白谷は学校外で接点がありそうにない。


 群羽と新洋が蓮を第二の“奴隷くん”にしようとしていたことは、目端の利く者ならば察していた。だから当初は、蓮が2人を殺したのかと思って接近したのだが。会話してみて、容疑者から除外した。蓮は2人のことを鼻にも引っ掛けていない。


「で、行長センセは2人の元担任。3人を繋ぐのはぁ」


 前の“奴隷くん”である出宇多しかいない。蓮と行長教師には接点がまるでない。


「これはアプローチせねばなりますまい」


 探偵社でアルバイトしている玲は、他人の住所や電話番号を特定する方法を心得ていた。もっとも、出宇多凡人が群羽らの死亡事件と関わっていたとして、三船に強請(ゆす)ろうなどの目的があるわけではない。通報する気もない。ただ知りたい。


 最近の神無(かんな)市は、明らかにおかしい。不可解な犯罪が頻発し、警察は機能不全寸前に陥っている。その渦中とは言わぬまでも、渦を見渡せるあたりに蓮や出宇多がいるのではないか。


 蚊帳の外は三船の流儀ではない。結果、情報の渦に巻き込まれて溺死したとしても。



* * * * *



 出宇多凡人(いでうだ・ぼんど)は悪夢で目が覚めた。現実を変えても、夢の世界は変わらなかった。変えた現実も、悪化させたように思えてならない。枕元に置いておいたスポーツドリンクをラッパ飲みする。喉が渇いて仕方がなかった。


 行長をそれほど恨んでいたわけではなかった、はずだった。だが、あの2人を殺した直後から、強烈な怒りと嫌悪感が頭をもたげてくるようになったのだ。


 ムカムカして怒りが収まらない。眠ることを諦め、スマホでサメ映画を鑑賞する。実体のない幽霊のサメが、凝った趣向で犠牲者を食い散らかしている。


 気分が落ち着いてきたが、疑問に思う。


――昔の僕は、こんな怒りを抱え込む性格だったか?


 フォルネウスが何かしているのかと迫ったが、


『俺っちは何もしてねーよ。人間ってのは、大抵抑えがきかねくなんのよ。オメーみたいに』


言外に“ボンジン”と言われたような気がした。


 


* * * * *


 翌日。2日ぶりの学校では、滞りなく授業が行われた。


「次回のテストでは、感情を表す単語を出題するから憶えておくように。例えばfear(フィアー)(恐怖)、regret(リグレット)(後悔)は教科書にも……」


 英語の授業を聞くとはなしに聞き流す。


 出宇多は常に視線を感じた。疑われているのだろうか、と訝る。もっともそれは、後ろ暗さから出る過剰な思い込みに他ならない。


 行長が発見された駐車場は未だ立ち入り禁止の措置がとられている。担任の教師は、「事件が多発している。必ず複数で下校するように」としつこく念を押した。


 その警告は、出宇多にとって好都合でしかなかった。



忙しくなってきたので更新速度落とします。

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│°Д°) 好奇心は身を滅ぼす・・を心得ない者が真実に辿り着くと共に、いち早く果てる・・哲学です
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