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王の名前を  作者: あまやどり
第六章 血戦! フライングシャークvs宇宙ヒトデ
29/60

「とんだB級映画だ」

出宇多周りの「奴隷くん」云々は実際に見聞きした出来事を参考にしています。実際はもっとえげつないです。

「フォルネウスってのは、ソロモン王と仲が悪かったのか?」


 多くの堕天使はソロモン王を恨んでいる、と聞いた蓮であるが、一応確認してみる。


『うむ。あ奴、短気でべらんめえで喧嘩っ早いだけで、悪性の堕天使ではないのである』


「悪性?」


 以前にも、デカラビアが言っていた言葉である。


『うむ。ソロモンの指輪は“真鍮の指輪”と“黒の指輪”が合わさって1つの指輪となっておる。真鍮の指輪は善性の堕天使を、黒の指輪は悪性の堕天使を使役するのである』


 ソロモン72柱と一括りに言っても、属性があるらしい。


「ふーん。じゃあデカラビアは?」


『いい人オーラ駄々洩れの余であるぞ、一目瞭然であろう。善性か悪性か?』


 質問に質問で返す単眼ヒトデ。


水棲(すいせい)


『ほほう、チンケなケンカ販売であるな。余に幽門胃などないのである!』


「前から思ってたけど、地味にヒトデに詳しいな、オマエ」


 「デカラビアヒトデ疑惑」は晴れないままだった。



* * * * *



 翌朝、蓮のスマートフォンに学校から緊急連絡が入っていた。


「臨時休校……?」


 緊急事態が発生したため、休校にするという旨の通達だった。



 クラスメイトの三船玲(みふね・れい)からもメールが届く。


【休日オメ】


 連絡してきた意図を察する。


【めでたいけど急だったな。何があったか知ってるか?】


――きっと三船は何か知ってる。言いたくて仕方ないんだ。


【昨日の夜、行長(ゆきなが)センセが学校の駐車場で死んじゃったんだってー。しかもまたもや溺死】


 カルい口調で物騒なことを話す。溺死の時点で、犯人は1人しか浮上しない。


【コッソリ見に行ったら、ケーサツが駐車場でガヤガヤしてたよん。側溝のフタまで引っぺがしてたワケ】


 わざわざ高校まで見物に行ったらしい。


【また怪死かよ】


 何も知らぬ風にはぐらかす。



――詠さんの危惧が現実になったか?


 ふと思いつく。


【あいつの電話番号、教えてもらってもいいか?】





 白谷(はくや)はファストフード店に来ていた。1人ではない。居須磨蓮(いすま・れん)に誘われたのだ。どうやら、三船玲経由で連絡先を手に入れたらしい。


「アイツの口車に乗って番号なんか教えんじゃなかったぜ」


 数日前までなら願ってもないシチュエーションだったが、今はまるっきり逆の気分だった。


「悪いね、呼び出しちゃって」


 “奴隷くん”候補にリストアップしていた対面の少年は、インスタントコーヒーを一口飲んだ。


「え、あ。いや」


 実際迷惑だったが、断る勇気がなかった。


「そ、それで、俺に訊きたいことってのは?」


 暇だったこともある。蓮で手痛い目に遭ってから、新たな“奴隷くん”探しをする意欲は吹き飛んでいた。


「白谷君さ、1年3組の生徒だったよね?」


 さすがに名前は憶えたらしい。


「あ、ああ」


 かくんと頷く。


「ちょっとそのときの状況、教えて欲しいんだ」




「担任だった行長先生はどんな人?」


行長是利(ゆきなが・これとし)50代。社会科教師。役職は主任だっけか。とにかく面倒事を嫌って、盗難とかもなあなあで済ませてたぜ」


 白谷が説明する。腰の重い人物だったようだ。


「去年は1年3組の担任だったんだけどよ」


 基本的に担任は、このまま2年3組、3年3組と持ち上がりになるはずである。


「ところが、今年は副担に配置換えされた」


 蓮が言葉を継ぐ。


「きっと、出宇多(いでうだ)の件で責任を問われたんだとと思うぜ」


 懲罰人事と言うよりは、示しをつけたことを学校が対外的にアピールしているのだろう。


「その先生さ。何かして出宇多くんに恨まれていた、とかある?」


 白谷は目を宙に漂わせる。


「何もしなかったから恨まれたんじゃねえかな。省エネな先生だからよ」


 イジメの報告があっても、即上へ報告せずに静観していたと言う。


「あとは?」


「んー、悪党ってほどじゃねえけど。鯖野(さばの)日土(ひづち)は掃除当番とか役割ブッチしまくってて嫌われてたかな。2人とも性格もツラもブスだしよ」


 以降、行長教師やクラスメイトの行状を聞き出したが、群羽と新洋以外度の外れたものはなかった。


――出宇多、大悪党には見えなかったのにな。気に入らないと、わざわざ遠くの石でも蹴りに行くタイプだったのかな?


 蓮は首をひねる。




「俺が知ってるのは、これぐらいだ」


 蓮は特に、生徒間の人間関係について知りたがった。


「ん、ありがとう。助かったよ」


 収穫に満足したらしく、作りものではない本物の笑顔を向ける蓮。


「お、おい、この話……」


「大丈夫、悪用()しないから」


 白谷としては、この(はなは)だ頼りない証文を信じるしかない。


「じゃあこれ、バイト代」


 1万円札を白谷の胸ポケットにねじ込んだ。


「お、いいのかよ?」


 思わず緩みかけた頬を、「そんな場合じゃない」とこわばらせる。


「ああ。でも他言無用だよ」


――口止め料も込みってことな。


 もし破ったらどうなるか、白谷には考えたくもないことだった。同時に、悪用しない、という証文の価値が大幅に下落する。


「じゃあね」


 蓮はトレイを手に立ち去った。



 ポケットの中の1万円をしげしげと見つめる。


「ひょっとして、すっげえ厄介なヤツに関わり合っちまったんじゃねえか? しかも俺の方から」




「やー、いい買い物だった」


『わざわざあのような汗馬(名馬)か死馬か分からんヤツを値踏みするよりも、あの女かあの女に訊けば早かったのではないであるか?』


「もっと人間を使い分ける努力をしてくれ」


 三船玲と磯蔵詠のことを言っているのだろうと見当はついた。


『ゲームのキャラなら見分けられるのであるがな』


「こっちの方が難易度高いだろ」


 デカラビアの見せてきた画面は30年以上前のゲームで、蓮にはほとんど判別できなかった。


「三船なら色々知ってるだろうけどな。アイツは情報をばら撒いて反応を愉しんでる騒動屋だ。口に戸を立てることができない」


 特に今回は死人が3人も出ている。蓮がその周辺を穿鑿(せんさく)してることが広まれば、あらぬ憶測を招く。

 詠はそもそも学校が違う。


「元3組って聞いてダメ元で声かけてみたが。意外に掘り出し物だった」


 脅しが効いているうちは軽々に喋ったりしないだろう。1万円は、本人が満足して、かつ持っていて怪しまれない金額を設定したつもりだった。




「――だそうです」


 蓮は詠に報告した。


《報復相手のハードルが下がってるんだろうね》


 問題を棚上げした。積極的に助けてくれなかった。それらを悪意に熟成したのだろう。


『人は誰かを恨んでいることでココロの平穏を図るものであるからな』


 人間は“アイツさえいなければ最高なのに”を延々と繰り返すことで生きていく。


「悪役が退場したら、新しい悪役を創り出すってことか。因果なもんだなあ」


 蓮の未熟で短い経験則でも、デカラビアの言が正しいと感じられた。


《いずれにせよ、もう看過できないな》


 解決には勿論、学校で自由に動ける蓮が適任と言うことになる。


「正式に依頼ってことでいいですか?」


 既に脳内では、買いたい奇書が行列を作っている。


《ああ。ただし報酬は前の5分の1だ》


「ええっ?」


 大幅な減額に目を剥く。40万。命を張るには明らかに安い。だが金に鷹揚な詠が、意味もなく報酬を減らすとは思えない。


《なに、今回の出宇多氏の件、元々の発端は親友にあるのではないかと思ってね》


――あー、やっぱり俺が2人をやり込めたのを見たのか。


 未来予知のお墨付きである。出宇多の凶行は蓮が呼び水になったことを確信する。


《軽々に魔術など濫用すると、このような(ひずみ)が出るものだ。軽挙の埋め合わせをしてくれ給え》


 群羽と新洋を踏み潰したその日。詠は魔術の濫用を戒めた。そのときは言葉を濁して誤魔化した気でいたが、やはりばれていたようだ。


「ペナルティってわけか。了解」


 声音はいつもと同じく平静だが、腹を立てているように感じる。蓮に断る権限はなかった。



「出宇多は交友関係が狭かったみたいだから、次の標的は絞り込めそうだ。それにしても……」


 蓮は憂鬱そうな顔をした。同校生と戦わなければならなくなった悲劇を嘆いているのではなく、脳裏に浮かんだ字面の酷さに。



「フライングシャーク対宇宙ヒトデか。とんだB級映画だ」

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