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王の名前を  作者: あまやどり
第六章 血戦! フライングシャークvs宇宙ヒトデ
28/60

ロバは馬にならない

 出宇多凡人(いでうだ・ぼんど)は念願の復讐を果たして、一種の虚脱状態だった。エナジードリンクを(さかな)に、スマートフォンで映画をぼーっと観る。画面では頭が2つある鮫が暴れていた。


「これでもう、あの夢を見ないで済む……」


 去年は凡人にとって地獄の1年だった。群羽新洋に目をつけられたのが運の尽き。2人に脅され、課題や提出物は全てやらされる。時には理由もなく殴られ、何度も奢らされた。

 

「足りないな……」


 喉が渇く。今度はカフェオレをリュックから引っ張り出してがぶ飲みする。

 声を上げて抗議すればここまで相手を増長させることもなかったのだろうが。大事に甘やかされて育った出宇多は、反抗する気概に欠けた。


 定期テストでカンニングの片棒を担がされていたことが露見し、ようやく学校が重い腰を上げた。以後2人には「接近禁止」が言い渡され、クラスも離された。

 幸いあの2人は引き際を心得ており、報復も粘着もされることはなかった。まずは平和裏に解決したと言って良い。

 

 だが。「こじれて学校の心証が悪くなれば、推薦に悪影響が出るかもしれない」と早めに終結させた両親の気持ちも分かるが、出宇多からすれば不満は残る。


 2年からは平穏な日常。のはずだったが、棒に振らされた1年間が忘れられない。2人の課題のために徹夜したこと、ストレス発散にボールをぶつけられたことなどが拭い難い悪夢となってフラッシュバックする。


 夢に何度、あの2人が現れたことか。

 そんなとき、フォルネウスに出会った。


「昔からサメ映画が好きだったけど、なにも堕天使まで鮫でなくっても……」


 出宇多はいわゆる、B級映画マニアだった。暇さえあればサメ映画のはしごをしている。スマホでは1本目のサメ映画が終わり、現在はメカに改造されたサメが映っている。


 貰った魔術は便利とは言い難かったが、直接相手に触れる必要がない。臆病な出宇多には似合っていた。



 あの日。出宇多はなんとなく2人の跡をつけていた。だが害する踏ん切りがついていたわけでなく、


『ブゥワーっと仕返ししちまえよ。魔術さえありゃ完全犯罪! だぜ!』


フォルネウスにけしかけられたことが大きな要因だった。

 そのとき、2人がクラスメイトらしき生徒を見つけ、絡み始めた。


「ぼくの代わりか、可哀そうに……」


 同情するばかりで、絶好の機会を見送った。見送りかけた。


『なんでえ、デカラビアじゃねーか。……おっと』


 フォルネウスが妙なことを口走った。

 2人がクラスメイトに殴りかかろうとした直後に、2人の姿が消えた。凡人は確かに見た。小さくなった2人が、踏み潰されるところを。


 クラスメイトは何事もなかったように去って行った。


「ぼくと同じ、契約者ってやつか?」


 出会うのは初めてだった。2人はすぐに元の大きさに戻った。かなりの衝撃だったようで、ぴくりとも動けない。


「……あ」


 気付いてしまった。自分がいま、幸運に見舞われていることに。いつもなら反撃が怖くて、結局手が出せないままで終わる。だが身動きもままならないいまなら、確実に復讐が達成できる。


 そう。出宇多凡人の背中を最後に押したのは、他でもなく居須磨蓮だった。


 知能犯気質の新洋を窒息状態にしたところで、粗暴犯気質の群羽が凡人に気付いた。


「テメー、ボンジン……!」


 2人が付けた悪意あるあだ名。ボンドは“絆”。良い絆に恵まれる人生を願って、両親がつけた名前だった。


「ぼ、ぼくはボンジンじゃない……ッ!」


 彼は漢字はともかく、“ぼんど”の名前と絆という語源は大いに気に入っていた。


凡人(ぼんど)だ!」


 最後の心のタガが外れた。


『あーあ、もう止まれねーぞ、テメー』


 冷ややかにフォルネウスが吐き捨てた。



 これで残りの高校生活を安らかに過ごすことができる。そう思っていた。


 

* * * * *


「“奴隷君”か。あのバカ2人も、くたばる前にいいアイデア遺してくれたもんだぜ」


 白谷(はくや)群羽(ぐんはね)新洋(しんよう)の幻影に感謝した。先駆者の2人組がいなくなった現在、白谷はファッション不良の急先鋒に挙げられる。


――中途半端はいけねってコトな。表沙汰にできねーように、テッテ的に殴る蹴るして、裸でも撮っときゃいーんだ。


 だが、2人が“いなくなった原因”は自分に都合よく歪めていた。ちょうど教室に入ってきた“獲物”を目にして笑う。

 居須磨蓮(いすま・れん)。目立たない生徒で、素行も大人しい。


――あの2人も新しい“奴隷君”の候補にしていたみたいだけんど、俺が有効活用してやるさ。


 彼は2人の真似事をするつもりだった。


「なあなあ、イスマくん――」


 本人は威圧感があると思っている笑顔で近づく。


「ああ。……白谷くん」


 間があった。これまで関わりが薄く名前が思い出せなかったようだ。


――最初にガツンとかましておきゃあ、もう逆らえねーのさ。


「サイフ忘れちゃってさー。ワリーけど、3000円ばかし貸してくんねー?」


 群羽新洋と違い、白谷は匙加減が分かっていなかった。


「え、嫌だよ」


 予想通り、相手は嫌悪感を露にした。読書に戻りたがっている。


――ここだ。カマして、腹ァ1発殴ってやる。


「ああ? 俺に逆らうと、どう……な…‥」


 白谷は、考え抜いた割には月並みな脅し文句を最後まで言い切ることができなかった。


「――へえ?」


 居須磨蓮が何をしたというわけではない。ただ、気配が変わった。背筋が凍る。まるで、抜き身の刃物を首筋に当てられたような気分に陥る。

 鈍感な白谷も察せずにはおれなかった。相手は今、ごく自然に。“こいつを殺してもいいか”と決めた。そして、眼前のひ弱な少年相手に、なぜか勝つビジョンがまるで見えなかった。


――1秒後まで俺、生きてるか?


 眩暈(めまい)のするような沈黙。


「話は終わりかい?」


「……あ、ああ」


 いつの間にか、喉は干からびていた。


「仲良くしようよ。クラスメイトなんだし」


 その“仲良く”ができなくなったとき。命のやりとりをする宣言だった。


「ねえねえイスマっち~」


「おっと。じゃあね、……えっと、白谷君」


 三船玲に呼びかけられ、少年はそちらに向かった。


――ああ、ホントに殺る気のあるやつは、凄んだり強い言葉を使う必要ないのか。弱い犬ほどよく吠える、ってヤツさ。


 命とともに、得難い人生訓を拾った。水なしで砂漠を踏破した探検隊のような気分で、文字通り命からがら自分の席に辿り着く。


「こ、怖かった~……」


 イスに腰を落とし、口から魂の抜けるような声を出した。




「危なかったね~。だいじょぶ?」


 三船玲が声をかける。


「白谷クン、群羽新洋と同じく元3組なワケ。きっと2人にあやかって奴隷君を作りたかったのねー」


「まったく、はた迷惑な」


 白谷が元3組という話を密かに覚えておこうと決めた。


「もー少しで殴られるんじゃないかってヒヤヒヤしちったワケ」


「ワクワクしてた、の間違いだろ騒動屋」


 蓮が冷ややかに訂正する。ハルファスと命のやり取りをした今となっては、不良モドキの脅しなど涼風も同然だった。


「助けるつもりがあったなら、もうワンテンポ早く声かけてくれ。パンチで沈んだ後に助け舟出されても困る」


 三船が声をかけたのは、明らかに白谷が殴りかかろうとした後のタイミングだった。


「お前に“情報提供者”が多い理由が分かったよ」


 ピンチの後で無ければ恩は作れない。彼女は窮地を半分見過ごすことで、“ない恩”を売りつけているのだろう。


「んふふ~。もうちっとで恩に着せれたのに。白谷の根性なし」


 三船が薄笑う。蠱惑的な、と形容するには退廃的過ぎる笑みだった。


「ねーイスマっち。“ちきゅうはかいばくだん”って知ってるカナ~?」


 いきなり脈絡のない話を振る三船。


「なんだよその身とか蓋とか見当たらないネーミングセンスは?」


「出典は“ドラえもん”なワケ」


「ああ」


 子ども向けマンガなら、と納得する。


「まー何度か登場してても、実際に使われたことはないんだケドね」


 蓮の父親はのび太が嫌いで、ドラえもんを観ることは禁止されていたので疎い。


「んで? その地球と連載が終わりそうな秘密道具がどうだってんだよ?」


「やー、よく想像したワケよ。もし地球破壊爆弾なんて持ってたら、たいてーのコトは許せちゃうんじゃないかな? って」


「“許す”? “強請(ゆす)る”の言い間違いじゃないか?」


 強者ゆえの余裕と言いたいのだろうか。威力ではなく「所持することのメリット」を空想するあたりが三船らしい。


「で、いざとなったら皆殺しにすればいいってか? 刹那的だな。お前の前世、打ち上げ花火かダイナマイトだろ」


「でも、白谷にカラまれてるトキのイスマっち、そんなカオしてたワケ」


 指摘されて押し黙る。事実あのとき、蓮は白谷を殺してもいいかと“刹那的”だった。あの2人を撃退したときと同様に。


「ロバが旅に出たところで、馬になって帰ってくるわけじゃないんだよ、イスマっち」 


 海外のことわざを口にする。同様に、(たと)え弱く無害に見えても、その本質や毒性が消えるわけではない。


――白谷なんかより、コイツの方がよっぽど油断ならない。


 敵というわけではない。だが、玲の観察眼は油断ならない。彼女は情報に飢えており、手にしたその「武器」をどのように振るうつもりなのか予測ができないからだった。


三船玲みふねれいのアナグラム元はなんでしょう?

みふねれい⇒ふれねみい⇒フレネミー

でした(/・ω・)/

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